僕は可愛い女の子たちと朝から遊んじゃうパリピ系ハーレム高校生。
しばらくすると、海が見えてきた。
綺麗な海である。浜辺には人がたくさんいた。
「あ、桜さん。海ですよ、海」
「みたらわかるわ。何をそんなに興奮しているの?」
「海って……なんかテンション上がったりしません? ロマンを感じるというか」
「海賊にでもなればいいわ」
よし、四皇を目指そう。
「おや、善一くん。アレをみてご覧なさい」
「はい?」
「半裸の女の子たちよ」
「??」
「半裸の女の子たちが液体を浴びせあっているわ」
「言い方が非常に悪いです……。水着を着用してますから」
「あんな姿で泳ぐだなんて下品。全裸になれないのかしら?」
「……下品の基準とは」
ここはヌーディストビーチじゃないんだぞ。
「布切れで胸やお尻を隠しているだなんてお下品よ。あそこまでいったのなら、逆に曝け出した方が女らしいでしょう」
「女らしいって……」
「そうね。今のは差別的発言だったわね。反省するわ。ごめんあそばせ」
「悪役令嬢みたいな語尾」
「『男らしい』とか『女らしい』とか旧世代の考え方よね。男女格差が未だになくならないワケ」
「……」
「もっと社会は女性を敬うべきね」
「……」
「私はフェミニストだからそんなことを思っちゃう」
「……政治的発言やめてくださいよ」
色々と怖いんです。
「でも善一くんだって、あの半裸の女の子たちをみて何か思うことがあるでしょう?」
「……え、いや、楽しそうだとしか」
「突起物が反応しているわよ?」
「してませんから!」
「潮の香りがする……」
「潮ですか!?」
「あら? あら?」
「あ、いや、これはその……」
桜さんが僕の隣でヘラヘラと笑い始めた。
「え? いま善一くん何を妄想したのかしら? 【潮】というフレーズから一体何を連想したのかしら? やだ、善一くんったら【潮】という言葉に良からぬ意味があると思ったの? 思っちゃったの? 貴方ったら、本当に……まったく……もうっ、ダメじゃない////」
「ノーコメントでいきますからね……」
「ふふ……。まるで、鼻ノ下 伸夫よ」
誰だよそいつ!!
※ ※ ※ ※ ※
バスを降りるや否や、日差しが容赦なく降り注いできていた。
冷房が効いていた車内との温度差に驚く。
頭がくらりとして、咄嗟にガードレールを掴んだ。
「がっきー、大丈夫?」
明希が声をかけてきた。明希はとても優しい。流石はウチのサッカー部のマネージャーを務めるだけある。普段からチームメイトに対する適切な声掛けを行えている。
「平気だよ」と笑いかけるが、全然平気ではなかった。頭がズキズキしてて、胃もキリキリする上に、なんか視界もクラクラするし、足元もフラフラしている。擬音にまみれて僕は死ぬ。
「酔い止め効かなかったのかなぁ……」
近くで渚が心配そうに両手をギュッと握っているのが見えた。渚はとても優しい。
バスに乗る前に「これ……!」とあらかじめ酔い止めを渡してくれていた。せっかく貰っていたのにも関わらず、逆に心配させるだなんて僕の身体のバカバカ!
「大丈夫だよ」と笑いかけるが、全然大丈夫ではなかった。頭がズキズキしてて、胃もキリキリする上に、なんか視界もクラクラするし、足元もフラフラしていた。擬音にまみれて僕は二度死ぬ。
「……情けないわねっ」
菜月が腰に手を当てて、僕を見下ろしている。菜月は時々優しい。あとお胸がややビックだ。
さっき桜さんから変な話を聞かされたせいで、菜月の顔をまともに見ることができなかった。それどころか、身体の方に視線が誘導されてしまう。でも、ここは紳士アラガキの出番。なんとか、堪える。
「ごえっ……」
「ちょっとアンタ、あたしの顔みて吐きそうにならなかった?」
大いなる誤解だ。
「善一くんのことだから大丈夫だと思うよ」
素っ気ない声の主は安穏である。安穏のどかである。安穏は優しいけど、今は厳しかった。たぶん他のみんながいるからである。僕と二人きりの時は優しいから気にしなくていい。
「安穏の言う通りだ。僕は……平気さ。うっぷ……」
「……平気そうに見えないんだけどっ」
平気である。ただ少し頭がズキズキしてて、胃もキリキリする上に、なんか視界もクラクラして、足元がフラフラしているだけだ。僕はそのうち擬音に殺される。
「……安穏、お茶をくれ」
「お茶? あったかな?」
「早く」
「もーー……」
頭がくらくらしているのをなんとか抑えながら安穏に頼み込むと、彼女はバッグの中からペットボトルを出してくる。
「はい。なかったからお水ね」
「……ありがとう」
ゴクリと喉に流し込み、瞬きをする。
ふぅと息を吐き、彼女にペットボトルを返す。関節KISSだとかそんなことはもう気にしてない。
周りの視線も、気にならない。
渚や明希が固まって立っているのを横目に、僕は立ち上がる。
安穏は今日も可愛かった。
「みんなありがとう。アラガキはもう大丈夫だ!! 完全復活したぞ!!」
グッと拳を掲げて、天高く笑う。
空には数匹のかもめが「くーくー」と泣いていた。
「……うふふ、見せつけてくれるわね」
ストローハットの隙間から顔を見せてくる。
「流石は、助平 好太郎じゃない」
だから誰だよそれ!!
※ ※ ※ ※ ※
海合宿の始まりである。ちなみに[海合宿]というネーミングは桜さんが勝手に付けたものであり、特に意味はない。
単にみんなで遊びに来ただけだ。
細かい予定などは特にない。
桜さんの別荘でお泊まりをして、明日には帰る。それだけだ。
一つ屋根の下で彼女らとお泊まりするとなると普通は緊張するが、もうなんか慣れてしまっている僕がいた。
宗がこの現場にいたら「どうせ、キャッキャッウフフするんだろ?」と煽ってきそうだが、そういうことにはならないだろう。
なったとしても安穏とだけである。
安穏。そう、安穏のどか。
僕は明日ーー彼女に告白する。
明日の夜に開かれる【夏祭り】にて僕は想いを告げることを決めたのだ。
彼女にも事前に約束をしてある。
つまり、今の僕には失うものがない。あとは安穏の選択次第。僕は行動を起こしたのだ。それならばこの波のように……流れに身を任せて、事の端末を見守るだけ。ただ楽しむだけでいい。
今を楽しむだけでいい。
×××
「うわー、広いなぁ」
視界に広がっているのはどこまでも続く雄大な海。
眩い日差しに包まれながら息を呑む。
地球の地表約七〇パーセントを占める限りある資源に触れていると、自分たちがどこまでちっぽけな存在なのかを再認識させられる。
全ての生物たちの原点はここだ。水の惑星と呼ばれるこの地球が、ここまでの自然を築き上げてこれたのは全て母なる海のお陰。
決して、菜月の広大な胸なんかではない。
「善一くん。ぼーっとしていないで、テント作るの手伝って」
「ごめん」
安穏に言われて早速作業を再開する。夫婦初の共同作業だ。
まだ午前中なので人が少なく、良い場所を確保できた。パラソルを組み立てて、シートを敷く。
桜さんは先に別荘に向かうと語っていた。荷物を置いてきてくれるらしい。
つまり、ここにいるのは僕と安穏だけ。
「浮き輪とかは海の家に頼んだ方が早いかな? 明希がかなりの量を持ってきてるみたいだし」
「あ、おっきなシャチもあるんだね。プールでしか見たことなかった」
「ほんとだな。これって実は意外と難しくて乗りこなせないんだよなあ」
「ビーチボールもあるし、後でビーチバレーしようね?」
「お、おう……」
会話がまったく噛み合っていない。
だが、それもいい。
安穏は今日も可愛かった。彼女にしたかった。いや、するのだ。必ずしてみせる。決定事項です。
白シャツに黒のショーパン。水色のパーカーに白のサンダル。日焼けした足がすらりと伸びている。
可愛い。可愛すぎる。Yシャツの胸のあたりのロゴも含めて全部が可愛い。今日は髪をくくってるらしい。長い髪が菜月みたいにポニーテールになっている。可愛さ満点。この子は可愛いを体現している。可愛すぎる。ナイスですねぇ〜。
もうぶっちゃけいうと、桜さんたちには帰ってもらってもよかった。戻ってきて欲しくない。
このままずっと二人でいたい。
今日一日海でデートをしたい。
うん。新婚旅行はハワイにしよう! そうしよう!
「ふ〜んふーん♪」
ノリノリの僕。ハメを外しつつ、鼻歌混じりにテントを組み立てていると、安穏と目が合う。
「……誰にも言ってないんだよね?」
彼女がボソッと声を漏らす。
僕は静かに頷く。
「ああ。バレてないと思う」
真面目トーンで答える。
安穏はペタペタとサンダルで砂浜を踏みつけた。
「……みんなで行く流れになったらどうするの?」
「その時はなんとかする」
「できるの?」
「誤魔化すだけだ」
「渚さんとか……」
「大丈夫だから」
「……ほんとに?」
「本当に。ほら、帰ってくるまでに終わらせよう」
作業を続行する。
彼女はそれ以上、夏祭りの話題を出してはこなかった。僕も触れさせなかった。




