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僕はハーレム高校生。  作者: 首領・アリマジュタローネ
【夏編─街デート②(下)】
153/279

僕は素直になれないハーレム高校生。


 パンケーキを喉の奥に流し込む。

 本当に甘くて、なんだか泣きそうになった。



「大丈夫?」


「……っ」



 コクリと頷く。

 涙目になったのはパンケーキのせいだと行動で訴えて、喉に詰まらせないようにお水を流し込む。

 ここのカフェのお水はとても美味しかった。



「お水がな、美味しいんだよ……」


「?」


「お水が大変うまい……」


「??」



 主観ではあるが、お水が美味しいお店は良いお店だ。



「うぅっ……」


「泣くほど美味しかったの?」


「あぁ……最高だった。パンケーキも……とても、美味しかったよ」



 掌で顔を覆い隠して、嗚咽をこぼす。

 女子の前で泣くなんて、恥ずかしいにもほどがある。


 傍からみれば別れ話をしているカップルのように思われているだろう。

 だが、それは違う。

 僕はただ感動していた。彼女の優しさに感動していた。


 安穏が暗い顔をしていたから元気になって欲しくて、わざと『パンケーキを食べたい』などと噓をついたのである。

 あぁ……もう! こんな説明をわざわざしてしまうのは野暮である。それは理解はしている。でも、どうしても彼女の温かさをなんらかの形で表現したかった。


 いや、ほんと……こんなにも彼女に気を遣わせてしまっていた自分が恥ずかしい。



「明希ちゃんから聞いたよ」


「……ぐすっ。えっ、なにを?」


「最近部活で色々あったんだよね? だから疲れていたんでしょ?」


「え? あぁ……うん……」



 明希にチクられていたらしい。

 アイツそういうこと言わないでいいよ、恥ずかしいなもう。



「明希ちゃんとか、部活の人たちのために、寝不足になるまで悩んでいたんだよね」


「……」



 そうなのかな?



「善一くん優しいからついつい考えすぎちゃうんだよね」


「そうかな……?」


「そうだよ」



 そうらしい。



「明希ちゃんたちのために色々と身体を張って頑張ってきたから、自分では気が付いてなかっただけで、きっとものすごく疲れていたんだよ。今日だって、なんだかちょっと様子がおかしかったもん」


「悪い……」



 すごい都合よく解釈してくれているよ……。

 安穏ちゃん、やっぱりいい子だな……。



「いつも以上におかしかった」


「…………」



 ……なんだよ。抱きしめるぞ、コノヤロー。



「安穏よく、聞いてくれ……」



 涙を拭いて、真っ直ぐに彼女と向き合う。

 ちゃんとお礼と謝罪をしてみたかった。



「僕は口下手だから、その……上手く話せるかわからないけど、いや、そんなことを言いたいじゃなくて、ええっと、ごめん。話がまとまらないや……。やっぱり疲れているのかもしれない……」



 言い訳を並び立てていると、また臆病さが滲み出ていく。

 違う! こんなことを言いたいんじゃなかったんだ。

 ハッキリと話すべきなのだ。

 ちゃんと彼女に、生身の新垣善一をぶつけるんだ。

 自分の言葉で。



「もしも、不快にさせていたりしたら本当にごめん。ごめんなさい。なんというか、じゃれあいたくてさ……。もっと仲良くなりたくて、変な行動ばっかり起こしてしまった」


「うん」


「いっぱい質問をしたのだって、面接ごっこをしたかったとかそんなのじゃなくて……」


「面接ごっこ?」



 安穏が笑う。張りつめた空気が怖くて、すぐにふざけてしまうのは僕の悪いクセだ。



「新垣ジョークだよ……。面接ごっこは冗談だ。で、でも、なんか面接っぽく思われていたらアレかなと思って……一応訂正しておいた」


「面接っぽくなんて思ってないよ。もー、ちゃんと聞いてるからちゃんと話して」


「ごめん……」


「すぐ謝らなくていいから。堂々としててよ」


「お、おう」



 難しい……。

 また怒られたよ。すごい尻に敷かれているよ。



「安穏のことを知りたかったんだ。だから、ちょっと暴走してしまいました。本当にごめんなさい! それと」


「……うん」



 安穏は気にしていないよ、という素振りを浮かべていた。

 本当にそう思っているかは知らない。



「知りたくて、知りたくて、なにを考えているのか不安になって、退屈なのかなと悩んでいた。だからその……部活のせいとかじゃないんだ。部活は関係ない」


「……」



 安穏は何も言わない。膝に手をついて、何かを待っている。


 部活のせいにしておきたかったのかもしれない。これだと彼女のせいだと言っているようなものだ。


 でも、自分にこれ以上は噓をつきたくなかった。



「いつも受け身で相手の顔色ばかり伺って、自分から積極的に行動することはないんだ……。動いているように見えているかもしれないけど、それは違う。無理やり奮い立たせているだけだ。本当の僕はいつだって臆病者だ……」



 僕はなにを必死になって伝えようとしているのだろうか。

 ただお礼を言えばいいだけなのに、どうしてこんなにも自分の弱さをさらけ出そうとしているのか。

 それを伝えたところで、果たしてなにが変わるというのか。


 ありのままの自分を受け入れて欲しいだなんて、思い上がっているのだろうか。理想の自分を演じることをやめて、素の己を見せたところで、彼女がそれを受け入れてくれるとでも思っているのだろうか。


 そんなものはただの傲慢だろう。


 やっぱり僕は変わることのできない、単なる小心者だ。



「だから、その……励ましてくれて、とても嬉しかった。本当にありがとう」



 話している最中に迷いが生じてしまう。

 頭がこんがらがってきて、支離滅裂になってしまった。


 本心を伝えることは勇気がいるし、まだまだ慣れていない。

 彼女には伝わっただろうか。



「聞いてほしいことって、それだけ?」



 ジッと見つめられる。



「あ、うん……いや、その」


「よくわかんなかった」



 安穏がバッサリと斬って、コーヒーを一口飲んだ。

 僕自身もなにを言いたかったのか、よくわからなかった。



「私のこと知りたいとか、仲良くなりたいとか、そんなのイチイチ言わなくていいと思う。それに今日はさ、なっちゃんの誕生日プレゼントを買いにきたんだよね? なんで、私が関係あるの?」


「ええっと……」


「さっきだってさ、思いつきで行動したりして、私だって全然善一くんのことよくわかんないよ……。私のこと知って、仲良くなって、なにになるの」



 安穏が俯く。僕の悪い予想は当たっていた。

 彼女はやっぱり不機嫌だった。

 我慢していただけだった。


 ……いや、これは不機嫌なのだろうか。


 至極当然のことを言われているだけな気もする。


 仲良くなってどうするって、そんなの……。



「…………」



 言えない。言えるハズがない。

 言ったところで何になるというのか。


 僕が彼女のために何をしてやれるというのか。


 デートの前、宗は言っていた。



『じゃあ、安穏と何がしたいんだ? デートをして、エロいこともせずに馴れ合いを続けて、このまま”友達でいましょうね”で終わりか?』



 確かにその通りだ。

 こんなもの、目標を設定せずに突き進んでいるだけである。

 上手くいくワケがない。


 ただ、だからといって、この状況で想いを打ち明けたところで何になるというのか。あっさり断られて終わりである。


 失敗が目に見えている。



 恋愛心理学を使って、質問リストを用いて、おふざけも卑屈も捨てて本心で彼女に向き合おうとすると途端に怖くなる。怖い怖い怖い怖い。

 どうしたらいいのか、わからない。

 難しい。難しすぎる。



「……喉、渇いてきちゃった」



 安穏がメニューを開く。

 僕から顔を背けるように、俯く。


 僕は有耶無耶にしようとしている。

 彼女から逃げようとしている。


 せっかくの空気を台無しにしたのは僕だった。


 元気出た? と優しい言葉を投げかけてくれたのだから、そのまま寝不足のせいにしていればいれば良かった。


 なんで、僕はいつも、器用に出来ないのか。


 誰か恋愛の正しいやり方というものを教えてほしい。ご教授してほしい。

 なあ、どうすればいいんだ? こんなとき、紳士はどうやってエスコートして、どんなカッコイイ言葉を発しているんだ?


 難しいよ……。こんなの、できっこない。

 ……ムリだ。本当にムリだ。絶対に不可能だ。


 

「紅茶にしよっかな。善一くんは何か飲む?」



 彼女がメニューから目を離す。

 何事もなかったかのように、話題を変えて、空気を戻そうとしている。

 たぶんそれに付き合っていた方が良かったのだろう。


 きっとその方が良かったのだろう。






『……元気、出た?』






あああああぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!





 ──おい? 新垣 善一。




 ──どこまでお前は情けない男なんだ。



 ──どこまでお前は臆病者なんだ。



 ──いい加減にしろよ。生殖器生えているんだろ。



 ──こんなに優しくて、素敵な女の子が他にいると思うのか?



 ──いるって? あ? うるせぇよ。いつまでも逆張りしてんじゃねーぞ。遠藤ちゃんねるじゃあるまいし、面白くもなんでもないんだっつーの。



 ──ムカつくんだよ。度胸のないヘタレ野郎が。



 ──そんなカスのくせに、サッカー部の副キャプテンを任されているのか?

 どーせ、できないだろ。お前なんかには。

 何が『夢は、叶う』だ。偉そうに語んな。



 ──恋愛心理学?(笑) ダッサ(笑)

 ──そんなもんに頼って、騙されて、好きな娘の前でビービー泣いて、恥ずかしくないの?(笑)

 ──おまけに質問リストって(笑)(笑)


 ──どれだけ自信がないんだよ(笑)

 ──ヘタレなチキンもここまでくると、もうネタだな(笑)



 ──つくづくお前は痛い男だな(笑)



 ──てめえのような男に彼女なんてできるわけがないんだよ。

 ──妄想に浸りながら枯れるのがオチなんだよ。

 ──わかったなら、とっとと諦めろ。



 ──あぁ、ほんと、可哀想だ……。



 ──ちなみに可哀想ってお前のことじゃないから。相手のことな。

 ──お前なんて可哀想でもなんでもないから。



 ──そのまま、枯れて、死ね。

 ──とっとと一生孤独でいろ。



 ──ほら、帰りたいんだろ? じゃあ、帰ればいいだろ?

 ──帰りたいんだよな!? 帰れよ! 迷惑なんだよ!! なぁ!?




 黙れ。



 静かにしろ。急になんだ。語りかけてくんな。



 誰だよ。お前、出てくんな。


 引っ込んでいろよ、ネガティブ・シンキング。



 腹立つなぁ……。



 不甲斐ない自分に苛立つなぁ……。



 殺したくてしょうがないなぁ……。



 まぁいいや。死んだっていい。

 どうせ上手くいかないんなら、全力を出してしまえばいい。



 せっかくのデートだしな。

 あぁ、いいよ。わかったよ。



 わかった。やるよ。

 もういいから、やってやるよ。

 やりゃいいんだろ?



 どうなっても知らないからな。




 ────覚悟を決めろ、新垣 善一。




 ありがとう、ポジティブ・シンキング。




 もう全部、壊れたっていいさ。




 “堂々”と言うからな。

 よく聞いてくれ。








「安穏」











  「僕は、君が好きだよ」








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