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僕はハーレム高校生。  作者: 首領・アリマジュタローネ
【夏編─街デート②(中)】
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僕は好きな女の子にちょっかいをかけるハーレム高校生。



【悲報】アラガキ、二メートル前方の墓穴に自分から飛び込んでしまう。



「うーむっ……」



 腕を組みながら、顎を掻く。

 家具のカタログをジッと見つめたまま、脳内ブラウザを立ち上げる。


 冷静になりきれていない。

 かなり焦ってしまっている。

 感情的にならないのが僕の長所だったはずなのに、感情の塊と化してきている。こんなのは全くセクシーではない。説明するのも野暮な行為だ。


 原因は自覚している。


 安穏が僕の提案を断ったからだ。それがなんだかとっても気に入らなかった。


 それに僕個人としては、安穏との時間が何より大切だと思っている。菜月のプレゼントを買うというのも重要事項ではあるけれど、だからといって寄り道すらも許さずに「さっさと買って(目的を果たして)帰ろうよ」という言い方をされるのは、非常に悲しい。

 確かに僕が彼女のことを考えずに、自分の行きたい欲をさらけ出し過ぎたのも悪いだろう。しかし、もちろん彼女にも楽しんで貰いたい気持ちはあるのだ。友達のプレゼントを買うというのが口実ではあるけれど、寄り道にも大きな価値があると思っている。マジシャンもライブペインディング(?)実際見てみたらそんなに面白いものではないのかもしれないけれど、それは見てみないと分からないことであろう。


 もし、そんなにも菜月のプレゼントを優先したいのであれば、それならば二人でいる意味なんてなくなる。

 このデートになんの価値もなくなってしまう。


 安穏が何を考えているのかなんて計り知れないし、実際何も考えていないのかもしれないけれど、以前に観覧車で言った『菜月に異性としての好意は抱いていない』という言葉をちゃんと覚えているのであれば「愛がある」だなんて言わないハズだ。それは僕に対しての皮肉のようにも聞こえる。


 

『まぁ、善一くんはなんだかんだ言って、なっちゃんのことが好きなんだよね? 私のことはついでだろうし、さっさとプレゼントを買って帰ろうよ』



 そのように言われている気がする。


 ……とっても気に食わない。


 僕のくだらない自尊心を傷つけられたことへの怒りではない。


 それもあるけれど、

 そんなことより、

 何よりも、

 とってもムカついたのは、



 ーー()()()()()()()()()()ような言葉を吐いたことに対してだ。そこに、僕は非常に苛立っている。



 ×××



「なんで【IKEYA(イケヤ)】?」


「なんとなくだ」


「なんとなくって……」


「もしかしたら菜月も新生活を始めたくてしょうがない気持ちになっているかもしれないだろ? 大体、アイツは陸上部のスターなんだぞ。きっと高校卒業後は県外の名門体育大学で活躍しているだろうしな。一人暮らしを視野に入れてるはず」


「それで家具をプレゼントするの……? えっ、本気で言ってる?」



 もちろん、マイケルジョーダンだ。ハハーン。



「念のためだよ。発想は柔軟にしておかないと」


「……はいはい。じゃあ、善一くんの好きにすればいいじゃん」



 拗ねたような態度で安穏がトボトボと後ろを付いてくる。

 三階建てビルの一番上。大型家具量販店内。

 店内には有線が流れている。



「~~♪ ~~♬」



「おっ!」



 背筋がピシッとする。



「安穏この歌知ってる? 最近話題沸騰中の若手アーティストのタイアップ曲なんだけど」


「あっ、なんか聴いたことあるよ。この人たち誰だっけ?」


「えっと、アレだ。……えーっ、なんたらかんたらリズム? 髭?」



 思い出そうと頭をひねる。



「髭……髭剃り男。米研ぎ導師? いや、違う! 髭……髭……ジョリジョリ、ブラザーズ……」



 あ、思い出したぞ!!



「official髭ジョリジョリ男バイオイズムだ!」


「そう、そんな感じだった!」



 正解に近づいたからか、安穏がピョンと跳ねた。僕も嬉しくなって、跳ねる。多分違うと思うけど、一緒に跳ねた。二人でピョンピョンした。



「この人たちいいよなぁ。なんかグッとくる。そうそう、確か【全高選】の主題歌も歌ってくれるんだよな!」


「あっ、そうなんだ! 今、すごく勢いがあるよね」


「安穏もこの人たちの音楽よく聴くのか?」


「たまにね。でも、一番好きなのはあいぴょーんだよ。なっちゃんとね、ライブ行きたいなーって話をしてたの」


「あいぴょーんかぁ……。人気だもんな。でも、チケット取るの難しくない?」


「うん、当たればラッキーかな」



 意外や意外。音楽の話で盛り上がれそうだ。

 カラオケに行くのもアリかも知れない。


 ちなみに”あいぴょーん”も大注目若手シンガーソングライターの一人である。スマホのフリック入力がとてつもなく早い、歌が上手い女性アーティストだ。



「あいぴょーんだったら、何を聴くんだ?」



 机やベットが立ち並ぶ空間を、全く別の話をしながら歩いている。



「色々だね」


「色々か」



 話を膨らませようとしたが、失敗した。

 安穏がテーブルを手で撫でる。



「この曲がすごく好き! って感じじゃなくて、なんとなーく全部が好きなの」


「ほう」


「雰囲気に惹かれたっていうのかな? 明確に一つの曲だけを好きだって決めちゃったら、なんかダメかなと思っちゃって」


「ダメ?」



 僕も彼女の隣に立って、テーブルを撫でる。



「いいなぁって思っても、ずっと聴いてたら飽きちゃうじゃん。せっかく好きだったのに、飽きちゃったりするのは、それはとても悲しいことだと思うから」


「ああ、なるほど……」


「だから、好きだけど『これが一番!』ってのは作らないようにしているよ。好きって感情を失いたくないから、全部を聞かないようにするの。知るってとっても怖いことだと思うから」



 安穏がふと目線をズラして、大型ベットへと向かった。

 ふかふかとした布団の上に座り込む。

 僕は立ったまま、その様子を見守っている。



「……でも、本当は一番好きな曲を見つけたいんだけどね」


「見つかるといいな」



 えへと笑う安穏に続いて、僕も静かに微笑を浮かべる。

 ふかふかベットに並んで着席する。



「休みの日にさ、こうやって大きなベットにガーっと寝転んで、だらけたりしない?」


「あっ、これ売り物だよ?」


「でも、ここに『ご自由に寝転んでみてください』って書いてあるぞ。安穏もおいでよ。一緒におねんねしようぞ」


「いやでーす」



 ぷいっと首を曲げて拒否する割には、中々立ち上がろうとはしなかった。

 歩き疲れたのかダラダラと休憩したい気分らしい。



「ほら、おねんねしようよ。なあ安穏」


「なにごっこ? 恥ずかしいからやだ」


「人居ないじゃないか」


「そういう問題じゃないから!」



 ちなみにではあるが、僕はムラムラしていた。

 下品な擬音なのであまり使いたくないが、やはりムラムラとしていた。


 当然である。好きな人と同じベットに座っているのである。こんなもの、擬似カップルだろう。


 知っているだろうか。

 僕も健全なる男子高校生なのである。

 それなりに性欲だってあるのだ。

 大きなイチモツも欲している。


 ああ、わかっている。僕はたぶんとても気持ちの悪い顔をしていることであろう。

 ニチャァ…という井口君がよくやるような、ほくそ笑む表情をしていることであろう。



「休日は家でゆっくり寝ているんだろ?」


「寝ているけどさ!」


「じゃあ、いいじゃないか。ほら、このベットふかふかで気持ちいいぞ。寝転んでみなって」


「……なんかヤダ」


「あっ、こら。逃すか」



 安穏が立ち上がろうとする。

 僕はついつい腕を伸ばしてしまう。


 ──刹那、「やっ」というか細い声が聴こえた。黒の半袖セーターを掴んでしまったからか、びょーんと服が伸びる。それと同時に彼女の肩肌を顔を出した。


 ほんのり焼けた逆放物線を描いたような肩が露わになる。息を呑んで眺めていると、ふと「白」を発見した。


 その「白」は細い紐のようだった。「白」の紐が肌を締め付けているのか、肩に巻きつけている。黒のセーターの内側には「白」が眠っていた。どうやら黒に黒を重ねるのではなく、敢えて異なる色をぶつけてきているらしい。




「……もうっ、引っ張らないでよ」



「申し訳ない」



「伸びるじゃんか」



「申し訳ない」




 セーターを直す彼女。僕の肩にチョップを食らわしてから、さっさとベットから立ち上がった。

 僕はしたり顔をなんとか抑えながら、目を瞑って、顔を振った。眉間に皺を寄せ、唇は内側に噛む。


 ダメダメダメダメ……良くないよ。僕。そこを掘り下げるのはあまりよろしくないよ。いやはや、需要に応えるという意味ではよろしいのかもしれないけれど、でも、よくないよ。モラルの問題だ。うん、良くない……良くないよ。



「……ふぅ」



 目を開ける。頭の中には未だに先ほどの光景が焼き付いている。



 なるほど……。安穏は「白」だったか。





[質問リスト]


・休日の過ごし方は?→おねんね。


・好きなアーティストは?→あいぴょーん。髭ジョリ男。


・今付けてる下着の色は?→白。

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