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僕はハーレム高校生。  作者: 首領・アリマジュタローネ
【夏編─街デート②(中)】
144/279

僕はいつだって世界への感謝を忘れていない心清らかなるハーレム高校生。


 朝。

 うなじの僅かな湿り気を二指で触れてから、僕は起床する。


 付けっ放しのクーラーのリモコンに手を伸ばして、急いで切る。布団を被らずに眠っていたせいで、身体が硬直して、お腹が冷えていた。

 ぎゅるぎゅるぎゅるると音を立てている。


 自分はどちらかといえば、冷え性だった。

 寒さを人より感じやすい体質だった。

 だから、冬よりはどちらかといえば夏派なんだけど、でも暑すぎるのも苦手だな……。



「……暑寒(あつざむ)っ」



 変な気温である。暑いのに寒い。矛盾している。

 腹は痛いし、やや頭痛はするし、喉には違和感があるし、四肢は冷えているし、身体はどちらかといえば体温が低下しているというのに、背中には汗を掻いている。やはり矛盾している。


 シャツをパタパタと仰ぎながら、ベッドから起き上がって、カーテンを開く。

 窓を開けると、夏風が吹いた。

 目を閉じて、それを浴びる。


 耳を澄ませると、BGMを奏でるのにはやや大きすぎるほどの音量で、セミが大合唱を始めていた。

 いつもは喧しいと思うのだが、今日はどこか居心地が良かった。


 セミ。ミンミン鳴くコンチュウ。

 ヒグラシ、クマゼミ、アブラゼミ。


 ずっと地中で生活をし続けて、僅か数日間しか地上に出てこない生命体。


 彼らについて思うことがある。

 少しだけ、聞いてほしい。


 さまざまな映画や物語上でセミは「短命で悲しい生き物」として揶揄されているだろう。

 しかし、自分はそうとは思わない。


 ずっと樹木の中でヒキニート生活をしていたくせに、最後はストレス発散のために地上でワーワーと鳴いて、疲れたら地面に横たわり“セミファイナル”たるドッキリを仕掛けてきて、すごく迷惑してる。だから思わない……ということではない。


 単純に「悲しくない」と思うのだ。



 セミがなぜ鳴くのか知っているだろうか?



 地上に出れることが嬉しくて、はしゃいでいる? ──いいや、違う。

 長い樹木生活に嫌気がさして、イタチの最後っ屁的な意味合いで、人間たちに復讐することも兼ねて喚きつつ、余生を謳歌している? ──たぶん、違う。


 群れ作り? ──そうだ。

 敵への威嚇? ──そうだ。



 求愛行動? ──そうだ。それが一番の理由だ。



 そう、彼らは子孫繁栄のために鳴いているのである。


 セミの中でも鳴いているのは「オス」だけという話は有名だろう。


 オスが未来の子供たちに向けて、自らの僅かな命を削ってでも、メスに注目して欲しいがために生存声明を発しているのだ。


 なんという、尊敬すべき生き様だろうか。


 僕にそれができているだろうか。

 ひとりのオスとして、たった一匹のメスのために声を張り上げて、命を削ってまで、アプローチをすることができているのだろうか。


 いいや、出来てはいない。


 どうせ時間があるからと言い訳をして、全力でアプローチをすることから逃げている。

 せっかく鳴く力があるのにそれを使わず、未来に可能性を残して、現状を甘んじている。


 こんなもの、セミ以下の生命体だろう。


 ならば、もっと頑張るしかない。

 オスゼミのように命を奮って、メスに振り向いてもらうように全力を出すしか道はない。

 セミガキ ゼンイチになるべきなのだ。



「……よし」



 目を開ける。

 太陽光を両手で受け止める。



 声高らかに。命短し彼らへ届くように。



 セミガキ ゼンイチはーー此処に轟く。




「今日も輝かしい世界だ。イマという日を生きられたことに、大いなる感謝をしよう!!」




 ──僕にとっての、素晴らしき一日が始まる。



 ※ ※ ※ ※ ※


 デートである。

 待ちに待った安穏とのデートである。

 緊張のあまり、既に手汗が出てきている。

 ハンカチを持ってきてよかった。



「……暑熱(あつあつ)っ」



 午後1時。少し早めの到着。

 噴水広場にて彼女を待つ。


 スマホを開く。LINEの通知はまだ届いていない。

 今朝の「おはよう」「うん、おはよう」「13時半だよね?」「うん」というやり取りのまま、未読状態になっていた。


 インカメのアプリを起動させる。

 髪型が崩れていないかをチェックする。

 うん、大丈夫! 完璧完璧っ! 鼻毛も出てない!


 もしウッカリ毛が出てきてしまっていたら、きっと自分は鼻毛真拳を使えるようになっていたことであろう。あんな下品な奥義は使いたくない。PTAから苦情が来るだけである。GO TO HELL!!



「さて、と」



 安穏が来る前に恋愛心理学のお勉強でもしておくか……。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【恋愛心理学~異性の心を丸裸〜。あの人のハートをハートフルにCatchしちゃおう♡】


・褒めの大切さについて。


基本的に人間というものは《褒め》られて、認めてもらいたい生き物です。特に女性は日頃の生活の中で我慢していることが多いです。周囲との調和と同調を図りながら、空気を読んで行動し、群れから排除されないように同性同士でコミュニケーションを取っております。表面上は優しく笑顔を見せているようにも思えますが、内面ではたくさんの不満や不安を抱えているものです。だからこそ優しく接してあげてください。《褒め》を嫌がる人はいません。全ての人間は《褒め》を望んでいると言っても過言ではないでしょう。過言では無いのです……過言では……。


 ・まとめ


 女子を相手にするときは積極的に褒めよう!


 イタリア人を意識すればいいかも♡


       ーp.98ー


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「……イタリア人」



 どうやらイタリア人を目指すのが良いらしい。イタリア人とな? イタリア人ってどんなだ……。


 イタリア人がどういう感じかは知らないが、ヨーロッパ系統ならば褒めるのが上手いのは事実だろう。彼らは何の恥ずかしげもなく、サラリとカッコいい台詞を告げたりする。たとえばこんな感じに。



『君の瞳は……まるでこの宇宙(そら)の星々みたいだ』

『ダイヤモンドかと思ったら君の瞳だったよ』

『おやおや? 君の瞳はブラックホールだね。すぐにでも吸い込まれそうだ!』

『もし君の瞳が海岸に落ちていたら、僕はそれを拾って、誰にも渡すことなく、一生の宝物にしていたところだったよ。もちろん家宝にしてね』

『君は泥棒だね。その美しい瞳で僕の心を盗んでいくつもりかい?』



 ……うむ。なかなかに難しい。



 しかもこれだと全ての台詞に『君の瞳』が被ってしまっている。僕にセンスがない証拠だ。


 でも、まあ褒めることが大事だということはわかった。

 よーーし、なら、今日は安穏を褒め殺しにするつもりでデートを楽しむぞ!



 えいえい!




「善一くん。何を読んでるの?」




 おぉぉーー…………?



 ※ ※ ※ ※ ※



 あわわわわわ!!!

 あわわわわわ……来ちゃったよ……。



「あぁ……ああああ……あ……あ……」



 目の前にいたのは安穏である。

 幻覚でも虚像でもない。実体のある紛うことなき本物の、あの、安穏 のどかである!


 あまりの急な登場により、僕は思わずカオナシのような声を出してしまっていた。



 ……どうやら待ち合わせ時間より少し早めに到着していたようで、僕を発見するなり即座に声をかけてきてくれたらしい。



 なにを言われたかわからなかったので、急いで聞き返す。



「えっ、えっ……な、なんて?」


「難しそうな顔をして、一体なんの本を読んでるの? 私にも読ませてー」



 彼女が顔を覗き込んでくる。



 本って? えっ、本? これのこと!? いや、これはダメだよ!!



「えっ? えっ? えぇ!? いや、これは……ダメだ! 絶対に読ませるわけにはいかない!」


「どうして?」


「恥ずかしいからだ!!」



 いきなりペースを崩されてしまう。急いで、本を閉じて胸の前でガードする。

 こんなの見られたら絶対にドン引きされるやつじゃん! お願いだから興味持たないで! ダメ!



「えー」



 全力で拒否すると、安穏はむっとしたような声を出した。




「そう言われると、なんだか気になるなぁ」




 鈴の音のような声が、真上を通過した。




「ヒントちょうだい」


「ひ、ひんとととと……?」


「うん、ヒント」


「あー……えー……うーん……」




 足元のブーツが右に動きはじめた。




「純文学?」





 次は左へと移動した。





「漫画じゃないよね?」





 手も一緒になって動いている。




「そんなに見られたら恥ずかしい本なの?」




 靴と靴がぶつかって、キュッと音を立てた。

 茶色のショートブーツが、大股開きした僕の股内に侵入してくる。黒い紐が、金のボタンに止められている。



 なんか、距離が近い。



 もしやこの女……僕を誘ってきてんのか……??




「ま、まぁ……とてもじゃないが見せられないな。ええっと、ほら、電車とかでさ!? ブックカバーをせずに本を読めないだろ? アレってさ! 心理的に《自分の趣味趣向を曝け出している》のと同じらしいんだ! よっぽどの度胸がないと……。なんというか、その、見知らぬ他人に内面を見られている感じ! しない!?」



 テンパってしまって、支離滅裂な言葉を使ってしまった。

 しかも[心理的に]とか、めちゃくちゃヒント出してしまった。

 もうダメだ……死のう。

 誰か埋葬してくれ……。


 早すぎた埋葬……カモン。あ、禁止カードか。




「どういうこと?」


「もうよくないか!? この話!」


「そうだね」



 本をカバンに入れると、安穏はあっさりと距離を戻した。

 離れてくれたお陰で心のドキマギアレコードが薄れてゆく。

 やれやれ……やっと落ち着いたぞ。

 ちゃんと切り替えよう。



「それにしても、安穏! 久しぶりだな!」



 心機一転、挨拶を交わす。

 じわじわと顔を上げる。



「久しぶりー。善一くんは元気にしてた?」


「僕はいつだって元気だ! 安穏こそ、体調状態はどうなんだ?」


「え? 体調状態?」


「うん。良好かなと思って……」


「体調は良いほうだと思うけど。どうして?」


「あ、それは、その……」



 と、ここでようやく僕は安穏の全体像を見ることに成功した。


 長らく拝めていなかったのである。

 なんというか久々の再会なのである。

 そして、今日は日曜日。休日なのである。


 学校がない日。制服は着ていない。

 つまり、どういうことか……。




 SI・FU・KU・DA!!




「おぉ……マジか!! えっ、いや、ちょっと待ってくれ! ダメだ……それは流石に、最高すぎる」


「??」




 鼻血をなんとか抑えて(出ていないけど)、眼孔を開く。


 そして、僕はとても驚いた!


 ビックリした! 驚きを隠せずにいた!




 「………………ゴクリ」




 一目で僕は釘付けになってしまっていた。




 とにかく私服が可愛いのだ。


 可愛すぎるのだ。


 可愛くて、可愛くて、逆に怖かったのだ。




 説明し難いッッ!! いや、この美しさを説明すること自体、美学に反するッ! これぞ表現を超えた芸術の域ッッ!! 清楚ッ! 可憐ッ! 甘美ッ! 無垢ッ! 無垢無垢無垢ッッ!! 無垢なりッ!! 神はここにいたぞッッ!!




 うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!女神様じゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!これは現代に甦りし、エンジェル様じゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!人生サイコーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーぅぅぅううううううううううううううううううううううううう!!!!!!!!!ホントに生きてて!!生きていて!!良かったぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! OHー! jesus!




 ありがとう(ゴッド)よ……!



 僕はこのときのために産まれてきたんだね……!!








「……ぐすっ」






 ──愛は、世界を救う。







[質問リスト]


・体調状態は?→良好。

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