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僕は悩み多しハーレム高校生。



「……はぁ」


「……」


「……上手くいかないことばかりだ」


「おい、イッチー」



 西田先生が帰ってくるまでの最後の休憩時間、僕は宗と雑談を交わしていた。ただあちらは少し機嫌が悪いようで、かなりめんどくさそうな顔をしていた。

 


「なにお前。なんなの? メンヘラかまってちゃんなの? 『私って生きてていいのかなぁ、、、』とか深夜に呟いちゃう痛い子なの? お前人がせっかく力になってやろうとしたのに、窒息させようとしやがって。俺はそんな性癖持ってないっての」



 首で喉ぼとけの辺りを掻きながら親友は語る。確かにアレは少しやりすぎてしまった。ついカッとなってやった。誰でもよかった。反省はしている。



「本当にすまん! まだ怒ってるか?」


「あぁブチ切れてる。これはコンサル料高くつくぞ」



 根に持つタイプのようで、笑いながら片手の指で円を作って見せる。結局は何事もお金で解決か。現実的でいい。



「コンビニの幕の内弁当でいいか? 菓子パン付きでどうだ」


「いーや、炭火焼牛カルビ丼だ。炭酸飲料も頼む」


「わかった。報酬は後払いで」


「よし、ノった。相談内容は?」



 こう言ったやり取りを僕らは時々遊びとしてやっている。


 何かを頼む時は必ず対価を要求する。ただし余りにも高価なモノは金銭トラブルに発展しやすいので、主にコンビニで買える食品限定としているが。



「また後日改めて。大きなヤマになると思うから」


「なんだそりゃ」



 ここで例の柳葉さんの部活見学の話を持ち掛けることにした。



「宗。そういや放課後サッカー部の見学にいかないか? ほらチラシ渡されただろ」


「あぁ、話は聞いてた。俺はパス。部活には入らない」


「……え?」



 そう聞き返してしまう。部活に入らない? 一体どうして。



「何かやりたいことでもあるのか?」


「ヤりたいことなら沢山あるな」



 ふざけた口調ではぐらかしてくる。彼はあまり自分のことを話したがらない。秘密主義なのだ。


 しかし宗ならどんな部活に入部しても成功できるスペックは秘めているのに、それを捨てるのは流石に勿体ないだろう。



「どうした? 悩みでもあるのか? 相談になら乗る。報酬だっていらないぞ」


「違ぇーよ。バイトして金稼ぎたいだけ。めんどくせぇじゃねーか、部活動」


「でも華の学園生活だから、部活に入部していた方が進学にも有利になるし……」


「知ったこっちゃねぇ、俺の自由だ。お前だって姉貴に『生徒会に入部しろ』と言われたら嫌だろ」



 想像してみる。確かに……あの人なら言いかねないな。これもまたデリカシーのない発言だったと言うことだろうか。


 さっき調べてみたら[思いやり・気遣いや配慮に欠ける人のサマ]らしい。


 不本意ながら海島を怒らせてしまっているのも、僕が相手の気持ちを考えずに一方的な発言をしてしまったからであろう。


 

「気持ちは嬉しい、ありがとな。でも自分の事くらい自分で責任取れる。だから口出しすんな。ほら、先生帰ってきたから席に戻れよ」

 


 ぶっきらぼうにそう告げる宗に、それ以上何も追求することは出来なかった。



 ※ ※ ※ ※ ※



「渚はどの部活に入るか決めたのか?」



 休み時間。渚に興味本位で尋ねてみる。



「えっと……わ、わたしはソフトテニス部に入ろうかなと」



 渚は中学時代テニスをやっていたらしい。てっきり文化系の部活に入っていると思っていたから、意外だった。



「そうか、そりゃいいな。運動って大事だもんな」


「う、うん。ありがとっ……! ぜ、善一くんは何か決めた? あ、柳葉さんにサッカー部誘われていたよねっ……! 宗くんとやるのっ……?」



「うん。それなんだけど……宗はサッカー部に入らないんだって」



 渚に相談してみる。



「そう、なんだ。善一くんはサッカーはしないの……?」


「……迷っているんだ。サッカーはしたいんだけど、また三年間やるのは本当にいいのかって、他にやるべきことがあるんじゃないかって」



 別に部活だけが全てではない。バイトなどで社会経験を積むことだって、将来の為にはなる。



「そっか……。で、でもわたしはっ……! 善一くんが、サッカーしてる姿は、とてもカッコいいと思うよ……?」



 え? 僕がサッカーをやっているのカッコいい?



「 そ、それは本当か?」


「えっ、本当だよ? わ、わたしだけかもしれないけど……。ご、ごめんねっ……! こんな変なことを言っちゃって」



 いつものようにうなだれる渚。いいや、これは良いことを聞いたぞ。



「いいんだ。そうか……。カッコいい。サッカーをやる僕が……」



 不思議そうにこっちを見つめる渚に、僕は続ける。



「ありがとう、そりゃいいことを聞いたぞ! 感謝する。僕も渚がテニスをする姿は、可愛いと思うよ」



「あ、ありにゃ……とう」



 なんか猫みたいになってた。


 ※ ※ ※ ※ ※



「柳葉さん、サッカー部の見学いくよ」



 放課後、チャイムの音と共に生徒たちは教室から出ていく中、僕はそのように声をかける。彼女は鞄に荷物を詰め込みながら笑顔でそれに応じる。



「ホント!? 流石はガッキーだ! クッシーくんも一緒かなー?」


「いや、アイツは来ない。僕一人で行く」



 さりげなく尋ねられたが、首を振って否定する。柳葉さんは案外気にしてないようで「りょうかーい!」と笑っていた。



「あ、そうそう! 言ってなかったけど、あたし実はもう部員なんだ。マネージャーやってるの! だからね、チラシ作ってお仲間を探し中ってワケなのさー」


「なるほど。決意が早いんだな」



 やる気が違う。しかも、チラシ作りまでしてるって部活ガチ勢じゃないか。



「合格決まってから冬の間に部活見学してたからねー。先輩たちとも仲良いし、良い人いっぱいいるよ! でも無理に入ってとは言わないから、ゆっくり考えればいいのだよ。クラス委員長さん!」


「その呼び方は慣れていないからなんだか恥ずかしいな……」


「慣れてくる慣れてくるって! あたしは適任だと思うよ」



 正直自分ではそうは思っていない。宗の方がよっぽど人を束ねる力を持っていると感じる。僕では力不足だ。



「そうかな?」


「絶対そうだよー! あたしはガッキー応援してるよ。じゃあ、先に行って待っているね」


「お、おう」



 優しい彼女は僕にエールを送って一足先に教室を飛び出して行った。



「帰るわよ。のどか」


「あ、待って。なっちゃん」



 近くでそんな会話が聞こえた。


 そちらの方に目を向けると、海島と安穏さん二人と目が合った。今日のことを二人に謝ろうと近づくと、先に牽制される。



「いいから早く行くわよ。アンタのストーカーがまだ近くにうろついているんだから」



 聞こえるような声でそう皮肉を告げられる。ダメだ、完全に嫌われてるらしい。


 海島に強引に手を引かれて教室から去っていく安穏さん。出ていく直前、彼女が少し困った顔で声にならない言葉を発していたのがどこか印象的であった。



 ーーさて、部活見学に行くか。急いでグラウンドに向わないと。



 ※ ※ ※ ※ ※


 夕暮れどきのグラウンドでは、決起溢れる戦いが繰り広げられていた。


 誰もがそこらじゅうを駆け巡りながら、額の汗を拭っている。砂埃をかき分けて、気迫に満ちた男たちが激しく身体を擦り付け合っている。イヤらしい意味ではない。



「痛っ! 今のファールだろ!? 西」



 見ると白組のDFが激しいプレスをかけたようでボールを持っていた赤ユニフォームの先輩が激しく転倒している。


 すぐさま笛が鳴り、紅白戦が一時中断した。どうやら膝を痛めたらしい。



「やりすぎだぞ〜西。一年生も見学しているんだからしっかりしろ〜」



 もじゃもじゃ髪の監督もそれに気付いたようでメガホン越しにDFの方に注意を促している。


 僕はその様子をただ黙って、大きな階段のベンチの上から座りながら眺めていた。



「……うっす」



 目つきの悪い白組の先輩は小声で謝罪していたが、反省した素振りは全く見せていなかった。それもそのハズだ。アレはボールを持っていた人が自分の足に勝手につまずいただけ。DFの方のせいではない。



「柳葉さん、救急箱持ってきて」


「合点承知の助でありんす!」



 柳葉 明希さんが登場する。


 まだ入部したてだというのに、もうすっかり馴染んでいるようだった。



 ピーと笛が鳴り、試合は再開される。ファールを取られたので赤組のフリーキックから再開。


 先ほどのFWの方とは違う図体の大きなMFが助走をつけて、足を振り上げる。


 ボールは奇妙な動きをしてそのままゴールキーパーの頭上を飛び越えてゆく。ナイスゴールだ。



「おおーー!! (あずま)ナイスキック!」


「キャプテン流石カッコいいです!」


「なーに、たまたまだよ! はっは!!」



 テンションが高いその人はどうやらキャプテンのようで大きくガッツポーズをしている。



「すまんな、西! 副キャプテンのお前にいい所を見せてやれなくて」


「……うるせェですよ」



 どうやら白組のDFの方が副キャプテンで、赤組のMFがサッカー部のキャプテンらしい。二人共ずば抜けて上手い。


 紅白戦は終了し、皆がベンチへと帰ってゆく。



「お疲れ様ですー! カッコよかったですよ~! 東さんのシュート!」



 そんなときでも真っ先に柳葉さんは先輩方に声をかけていた。



「お? そうか!? よく見ててくれたな、柳葉。はっは!!」


「えへへ~。そうでしょ」



 お茶を手渡しながら一人一人に声をかけてゆく柳葉さん。なんだあのサポート精神。僕も見習わナイト・シャマラン。



「やっぱりすごいな……柳葉さんは」



 自虐的に笑いたくなった。自分なんかとは比べ物にならない。


 人間関係を円滑に進める潤滑油の役割を果たしているとはこの事なんだろう。縁の下の力持ちで協調性の塊、仕事をすぐに覚える吸収力の高いスポンジのような存在。


 一方の僕は悩んで凹んでばかりである。いいなと思った女の子には変なことを告げるし、その親友には酷く嫌われて「ストーカー」扱い。デリカシーのないお飾り委員長。僕は所詮姉貴の劣化品である。



 ……帰ろうかな。



 あんなキラキラした場所に自分はふさわしくない。


 柳葉さんに申し訳ないけど後からきちんと謝罪しよう。きっと彼女だって本心で誘っていない。ただのお世辞さ。



 ごめん、せっかく誘ってくれたのに。



 辺りを見回している柳葉さんに、心の中で小さく謝って静かに立ち去ろうとする。今の自分には相応しくないと勝手に決めつけて。


 

「夢中で見てたね。もう帰っちゃうの?」


 

 と、振り返って人がいる事に気付いた。目を丸くして、口をカバみたいに開けて、そこに立っていた女性の名前を呟く。


 

「安穏……さん」



 夕陽と共に彼女───安穏のどかが僕の前へと降臨する。

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