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僕はハーレム高校生。  作者: 首領・アリマジュタローネ
【晴空。ーsunny daysー】
134/279

曇りのち、時々晴れ。



「おはようさん」


「おお、おはよう」



 部室で着替えていると、安田くんが入ってきた。

 相変わらず、小坊主頭がよく似合っている。



「今朝は早いんだな」



 ソックスを履き変えながら、尋ねてみる。

 彼は一つ、欠伸をした。



「せやねん。ウチで飼うてるニワトリがな。『コケッコッコー朝ですよー』と4時頃から喚きよるから、嫌でも目ぇ覚めてしまうんや」


「へー、ニワトリを飼っているんだな」


「おう。もしものときの為に、オカンが『非常食用や』言うて買ってきてくれたんや」


「缶詰みたいに言うんだな」


「命の大切さを学んどる」



 食育ってやつだろうか。

 人間のエゴだな。



「学びは大切だよな」


「ほんまそれ。どんなことでも、学んでいかないと人は退化する一方やしな。日々、学びあるのみや!」



 LINEのプロフィール欄にある一言みたいなことを言って、安田くんが上着を脱いだ。

 鍛えているらしく、腹筋が漢字の「井」っぽくなっていた。



 着替えを終える。

 服を鞄に詰めて、立て掛けておいたバケツと箒を手に取った。早く掃除を終わらせないと。


 明希が休みを取っているので、マネージャー業務は僕が代わりを務めていた。

 業務内容を知っているというのもある。


 道具を持って部室を後にしようとすると、安田くんがひょいと腕を伸ばした。



「あ。ワイもなんか手伝おか?」


「いいのか?」


「ええに決まってるやん。逆になんでアカンねん」


「それもそうだな……。ありがとう!」



 バケツを手渡す。

 監督の言った通りなのかもしれない。


 なにかが、少しずつ変わり始めてきていた。


 ※ ※ ※ ※ ※



「明日から、柳葉ちゃん復帰するんやて」



 そう言って、安田くんはたまごサンドを口に運んだ。

 汚れた指先を自身のユニフォームで拭き取る。



「新ちゃん的には嬉しいか? 最愛の彼女が戻ってきてくれて」


「もちろんだ。嬉しくて身震いが止まらない」


「今日はやけに素直やんか!」


「僕はいつも素直だぞ」



 煎じすぎて出がらし状態になった恒例の弄りネタを、否定することもなく肯定する。

 右から来たものを左へと受け流す。

 完璧なスルースキルだ。



「驚くのはまだ早いで?」



 今度はレタスとハムのサンドを飲み込んだ。



「聞いて驚くんや」



 見て笑おう。



「なんと、千尋先輩も部活に戻ってくるそうや!!」



「おお」



 パチパチパチパチパチパチ、と心中拍手。


 どうやら斎藤二年マネージャーも部活に復帰するようだった。

 熱中症で倒れた柳葉と違って、斎藤さんは西主将や荒木さんたちと色々あったと聞いている。

 戻ってきて、気まずくならないのだろうか。

 それだけが心配だ。



「なんでか知らんけど、戻ってこようってなったんやて。監督が自慢げに語ってはったわ!」


「そうなのか」


「……もうちょい、リアクションせぇや」


「おお! そうなのか!?」


「わざとらしっ。演技大根マンやん」



 すまない……それは精励する。



「まあ、これで千尋マネが戻ってきはるんやったら、柳葉ちゃんの負担も少しは軽くなるな」


「そうだな」


「それに監督・マネージャーという西を見張る二大抑止力もできた! ええこっちゃ、ええこっちゃ」


「うん」



 頷く、僕の隣で安田くんはまた指を拭いていた。

 タオルを貸してやればよかった。

 服で拭きすぎだ。



「さて、ぼちぼち飯も食うたし、行きましょか。(きた)先輩と新しい練習メニューについての相談もしたいし」



 モグモグしてから立ち上がる。


 先輩らとのコミュニケーションは大事だ。

 サッカーは個人種目ではない。集団競技だ。連携が必要不可欠である。パスを繋いで、相手のDFを崩し、FWがシュートを決める。

 僕ばかりが自己中心的になって、プレイするのは良くない。

 いくら点を決められてもだ。


 全国、という夢を見るためにちゃんと心に留めておこう。



「よーーーし、新ちゃん!! あの夕陽までダッシュや!」


「まだお昼だから夕陽は出てないぞ」


「つべこべ言わんでええねん! そんなノリ悪いヤツやったか? ええから走るぞ! レギュラーのクセにバテてるとちゃうぞ! はようこんかい!!」


「やれやれ……」



 スポ根のノリを押し付けてくる安田くんに苦笑しながら、僕も立ち上がる。

 コンビニで購入した冷凍ざる蕎麦はとても美味しかった。

 こんな暑い日には丁度いい。



「新ちゃん、覚えときや!? いつかアンタを蹴落として、レギュラーの座を奪ってやるからな! 覚悟しとき!!」


「わかった。楽しみにしているよ」


「よっしゃーーー!!」



 ポジションは違うけどな。



「わしゃやったるでー! 今度は試合に出てやるでー! ワイはやれば出来る子! 頑張れる子! 目指せ甲子園やーーーーーー!!」


「よっ、元久! 応援しているぞ!」


「いや、だからなんで急に下の名前で呼ぶねん!! おまっ、お前、それ……照れるやろっ!?」



 相変わらずいい反応を見せてくれる安田くん。



 やっぱり好きだ。



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