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僕はハーレム高校生。  作者: 首領・アリマジュタローネ
【夏編─全高選(下)】
118/279

僕はマネージャーの身体をお触りしたくてたまらないハーレムサッカー部員。


 次の日。


 重い足取りで部室まで向かうと、既に明希が到着していた。

 青いペットボトルを水飲み場に並べている。



「おはよう」



 東の空の日差しを手で隠しながら、右肩に背負っていた鞄を下ろす。

 イヤホンを外して挨拶をすると、ピンクのリボンを首元につけた彼女が、こちらに振り向いた。



「おっはー! ガッキー。眠そうだねー」


「ああ、うん。昨日は夜更かししちゃって……」


「今日も暑くなるみたいだよ。スポドリいっぱい作っておくから、足りなくなったらまた言ってね!」


「……サンキュー」



 まだ朝早くてボソボソ声でハッキリとは喋れない僕と違って、彼女はいつもみたいに元気いっぱいだった。優しい彼女は相も変わらず、僕ら部員たちのために仕事をこなしてくれている。



「あれ、安田くんはまだ来てないのか?」


「やっすん? んー、そうだねー」


「おかしいな。LINEしてみるか」



 あの関西男、寝坊でもしたのか?



「手伝うよ」


「ん」



 腕をまくって、水のみ場へ。

 以前の明希なら「全部、自分でできます! 子供じゃないもん」と僕のお手伝い依頼を、申し訳なさそうに拒否するところではあったが、最近は慣れてきたのか様々な業務を任されるようになっていた。


 明希センパイ、営業ガンガンとってきますんで、令和もよろしくお願いいたしますッ!!



「あ、でも、ちょっとお仕事多めかも」


「というと?」


「洗濯とかやらなきゃなの」


「おお、マジか。そりゃ大変だな」


「手伝ってくれてありがとね。なら、早速ガッキーにはなにをお手伝いしてもらおっかなー」


「なんでもいいぞ」



 そう答えると、明希は「んーと」と唸りながら、パタパタとジャージの上着を扇いだ。




「えっと、じゃあね! まずはビブスをあっちのカゴに置いてあるから取ってきてほしい。で、そこに洗濯機が二つあるじゃん? 手前側の方にもう水を溜めてあるから、洗剤を入れてスイッチ押しといてー。洗剤は下のところにあるよ。終わったら干すんだけど、洗濯バサミが部室の戸棚の二番目の引き出しの奥にあるから、先に取っておいた方がいいかも。あ! 忘れてた! 備品の片付けもしておかないといけないんだった! それじゃ、洗濯バサミはあたしが取っておくから、部室の掃除を頼んでもいいー? ごめん。箒とちりとりは準備しておくから、おねがいー。やってくれるとすっごく助かる! それからそれから……」




「り、りょうかい」




 So Many!!!!!!!!!!!!!!!



 ※ ※ ※ ※ ※



「ボール拾い?」


「そうそう、西先輩がさ。『僕らは基礎ができていない』って言って、もしかしたら練習をさせてもらえないかもしれないんだ。安田くんたちも結構文句を言ってたみたいだし」



 洗濯機がぐるぐる回っている。



「えー、でもボール拾いなんて、あたし一人でもできるよー? 西先輩に伝えておこっか?」


「あー……それはいいよ。明希に迷惑をかける訳にはいかない。基礎が足りていないってのは事実だし、練習に身が入っていないという西先輩の言い分もわかるしな。ただ、なんというか、お互いのコミュニケーション不足だと思うんだよ。西先輩だって本気で言っているとは思えないし。それに、ほら」



 その後の言葉は出てこなかった。

 全校選であっけなく惨敗したことを、今になって蒸し返したくはない。



「やっすんから連絡は来てないのー?」


「うーん、来ていないな……。寝坊ならいいんだけど」



 取り巻きの部員たちがいないのも、少し気掛かりだ。



「は! もしやズル休み!?」


「……あり得る」



 先日の【Mr.&Mrsドーナツ】で語っていたことを思い出してしまう。

 不安要素は確かにある。


 俄かには信じたくはないけれど……。



「えええええ! やっすんたち部活辞めちゃうのかなー!? それは絶対にいやだよー!」


「僕だってイヤだよ。そうなればちゃんと説得する」



 流石にそこまでいくとは思わないが、可能性は高い。あの調子だと、半年も持つかだ。


 安田くんたちは西先輩を嫌っていたけれど、僕はどちらかというあの人の肩を持ちたいと思った。それは感覚的な話であり、説得なんてできないけれど、どうしてか直感ではそう感じた。


 あの人を擁護するのであれば、きっと本気で言っているのではないと思う。「ボール拾いからやり直せ」というのは実際にボール拾いだけをさせるのではなくて「本気でやらないのなら、ボール拾いからやらせるぞ」という意味の忠告だろう。


 個人的には安田くん側に問題があると思っている。

 大体、先輩が嫌だからといって、練習をズル休みするのはどうなんだろうか。先輩に刃向かうのが怖い気持ちはわかるし、本音でぶつかりあうのはできないかもしれないけど、陰口を叩き、行動で復讐するのは違うと思う。


 ボール拾いという地味な仕事を何度も繰り返して行うことで、いずれは重要な仕事を頼まれるようになっていく。


 それをキツいからといって、逃げてしまえば、楽しいところまで到達できずに終わってしまう。せっかく入ってきたのだから、三年間続けたほうがいい。一緒に頑張ろうと伝えたいものだ。



「……よし」



 時計を見る。まだ時間は充分にあった。




「少し、休憩しないか?」




 ※ ※ ※ ※ ※



「うへぇー」


「……」


「およー」


「……」


「ぐへへー」


「……」


「おろろー」



 ……漫画かよ。



 ベンチに座った明希の肩を揉む。やっぱり随分と凝り固まっているようだった。ここ最近は荷物を片手に、よく走り回っている姿を見かけていたしな。


 マネージャーは朝早くから来て、僕らよりも遅くまで残って仕事をしている。

 ブラックですね。



「身体熱いぞ。ここもカチカチだし」



 小さな出っ張りに優しく力を込める。マッサージのコツは姉貴に教えてもらっていたから、結構知っていた。新垣家のマッサージチェアと呼ばれていたしな。いや、それはウソだ。呼ばれたことない。なんだチェアって。椅子なのか。僕は椅子だったのか。おい!



「うへへ〜。触り方えっちだね、ガッキー」


「そんなことをいうなら、もうやらないぞ」


「うそうそー。気持ちいいですよー」



 肩を揉み終えると、トントンと叩くことにした。拳を二つ固めて、上下に振る。力の加減が難しい。



「ちょっとくらい休んだっていいんだぞ。明希がムリする必要はない」



 言ったものの、返事はない。

 んー、とマッサージに身体を委ねたまま、恍惚な表情を浮かべている。


 僕らしかいない部室前。

 セミの声だけが、そこら中をこだましている。



「ムリしなくちゃだめなの。あたしがいないとさ、みんなピリピリして楽しくなさそうだから、頑張らないとだめなの」


「どうして」


「……マネージャーあたしだけなんだよ? そんなの、あんまり休んではいられないって。自分は見ているだけなんだからさ」


「それだと、疲れちゃうだろ」


「慣れっこだよ。我慢するのは得意よー」



 それはもしかしたら、中学の頃のこともあるのかもしれない。

 あんまり深く聞けないので、憶測になるが。



「せっかくみんなで今からがんばろうーって時期なのに、このままじゃダメな気がする。だから、あたしががんばるの。休んじゃおけませんよ! ダンナ!」


「そうか。じゃあいっぱいマッサージしておくよ、マイハニー」



 トントンとリズムよく肩を叩く。

 叩き終えると、今度は寝転ぶように言った。

 腰のあたりをグリグリと押さえる。



「ガッキーにおーそーわーれーてーる」


「本当に襲ってやろうか」


「そんな度胸あるのー?」


「ないとは言わない。くらえ」



 背中のツボを押すと、アッキーはニヤニヤと笑い出した。なんだかとても楽しそうだった。

 はたからみるとカップルがイチャイチャしているだけなので、安田くんが来ていないことに、そのときばかりは安堵した。

 また弄られると面倒だしな。



「暗い話やめよーよ。別のお話しよ!」


「たとえば」


「最近のニュースとか?」


「ノートルダム大聖堂が大火事になったんだって」


「それも暗い話じゃん!もーーー」



 再建まで十年かかるらしい。

 頑張ってもらいたいものだ。



 僕らのチームも再建することができるのだろうか。いや、やるしかないのは理解しているし、このままだといけないことも知っているがーーなにからやればいいかはわからない。


 現状のままだと、チームは崩壊する。


 西先輩と安田くんも自らの信念に従って行動をしている。二人が分かり合えることは難しい。先輩は高圧的な態度を振りかざして話を聞こうともしないし、安田くんも安田くんで相手を一方的に決めつけるばかりで、耳を傾けようとする気がない。歩み寄りが足りていない。状況は最悪だ。


 だが、諦めるわけにはいかない。


 マネージャーが苦悩しているのに、選手がなにもしないだなんて馬鹿げた話である。



「ん、そろそろ動き出そうか。管理人さんがこっちを見てる」


「……お恥ずかしい限りですな」



 管理人さんの視線を感じながら、明希が立ち上がる。

 彼女は立派だ。小さな身体で、誰よりも一番頑張っている。


 だからーー背後から、そっと肩を抱いた。

 耳元で囁く。




「……大丈夫だよ、明希。僕がきっとなんとかしてみせるから」




 そんな言葉も、きちんと寄り添えて。

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