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7話「……バカなの? お姫さま」



 さて、ではここで問題です!(デデンッ)

 道行く人に場所をたずね、無事に冒険者ギルドなる組織にたどりついたオレと緒見坂がぶち当たってしまった新たな壁とはなんでしょ~~~~うか?(制限時間:三行)




 答え:ギルドに加入、登録するためには初回手数料として一万ペルシャ必要と告げられたからでした☆




 思わずこれまでのあらすじをハイテンションクイズ形式にしてみたがホントこれからどうすればいいかわからなくて困る。

 市役所にいそうなメガネが似合うギルド職員のお姉さんが言うには、なんでも冒険者ギルドは国営ゆえルーキー冒険者はデビュー時に手厚い支援を受けられるらしいが、その反面、誰でも簡単に冒険者になれるわけではないという。


 マジかよ。ここに来て(マネー)の問題かよ。


 夢溢れるファンタジー世界で味わうにはあまりにリアリティ溢れるつらい展開すぎる。

 そりゃオレだって変なテンションにもなるし、緒見坂も鏡の前で何度も「がんばれ…がんばれわたし……」って自分を励ますわ。


 おかしい……自称冒険者ギルドマエストラの緒見坂が言うにはこういう時は普通、すんなり登録して魔力検査でとんでもな数値叩きだしてギルド職員さんを驚かせたり、チンピラ先輩冒険者に絡まれて決闘したりして物語が動き出すらしい。らしい。


 じゃあなんのイベントも始まらなかった今のオレらの状況ってなんなの……? バグ?

 こっちは性別縛りプレイで頑張ってるってのにこれはあまりにもムゴい。

 強くてニューゲームどころか弱くてニューハーフ状態。しかもハードモード。


 やっぱ世の中は理不尽でクソだな。




「……どうしましょう」


「……どうするか」


 ギルドに登録できないとはいえ、他に行くところもないのでオレたちはギルド内に設けられた食事スペースのテーブルに突っ伏して死にそうな声を出していた。

 頬に当たるウッドテーブルの冷たい感触が心地よい。

 気のせいかつい30分くらい前もこうやって机に突っ伏してた気がする。



「……バイトでもします?」


「……異世界にきてまで地道に働きたくねぇなぁ」


「……それ以前に、身元不明のわたしたち雇ってくれるとこってありますかね……」


「……ギルドが意外なほどキッチリしてるの見るに、他のとこも書類審査とか面接とか厳しそうだな……」


「……大体、ペルシャってなんなんですかね」


「……この世界の金の単位だろう多分」


「……日本円じゃダメなんですかね」


「……ダメなんじゃねぇかな」


「……センパイ、わたし異世界料理食べてみたいです」


「……お前さっきまでサンドイッチとか食ってたじゃん」


「…………服や下着でも売ります?」


「……それは最終手段なんじゃねぇかなぁ」


「……わたし、今日ちょうど二枚履いてますよ」


「……なんなの? オレが知らないだけで女子の間じゃパンツ二枚履きってポピュラーなの?」


「……ていうかセンパイってブラとかしてるんですか?」


「……してるわけねーじゃん。持ってないんだから」


 持ってたらドン引きされるどころかしょっ引かれる可能性すらある。


「……どおりで揺れてるなぁと思いましたよ」


「……そんなにか」


「……はい。あまりもぷるんぷるん揺らしてるから誘ってるのかなって」


「……だって下着一式揃えるのも金かかるじゃん」


「……言っときますけどノーブラとかすぐバレますからね?」


「……マジ?」


「……マジですよ。男たちの妄想のメインキャストになりたくないなら早く買ったほうがいいですよ」


「……でも思春期の男子がランジェリーショップ行くのはきっついなぁ」


「……ご飯おごってくれるならわたしもついて行ってあげますよ?」


「……お前良いやつだな。頼むわ」


「……いえいえ、センパイのお嫁さんとして当然ですよとーぜん」


「……んじゃ帰るか」


「……うぃー」


 脱力感にまみれた会話を終わらせ、オレと緒見坂はゾンビのように席を立つ。

 絶望に打ちひしがられるオレたちとは対象的に、周囲にはガタイの良いオッサン達が陽気に酒盛りしたり、勇者パーティのような格好した鎧イケメンやぶかぶかローブ少女が和気藹々と会話している。


 はぁ、なぜオレたちは“ああ”なれなかったのか……。


 異世界にきてまでやりきれない気持ちを味わいつつ、ギルド後にしようとしたその時だった。


「? なんだ?」


 フォン、フォン、と短い電子音がギルド内の至るところから聴こえてくる。

 次いで急にギルド内が慌ただしくなる。


「おいマジかよ!?」


「こりゃ良い儲けになるぜ」


「こうしちゃいられねぇ! すぐ行くぞ!」


 周りで騒いでた冒険者たちが我先にと身支度を済ませ外へと駆け出していく。

 テーブルには飲みかけの酒や食べかけの料理。まだ手付かずのものまであった。


「なんだなんだ。自然災害か国民的アイドルでも来るのか」


「ふ~む、なんでしょうね。わたし、ちょっと聞いてきますよ。センパイは座って待っててください」


 オレが返事をするより早くギルド職員のもとへとトテトテ走りだす緒見坂。

 こんな時でも情報を引き出しやすいよう、異性慣れしてなさそうな男性職員を選ぶあたり歪みねぇなアイツ。


 そんなことを考えながらボーッとしてるうちに緒見坂が帰ってくる。

 セーラー服姿のままの緒見坂はテーブルに座るオレの横に立つと、ちらりと先ほど男性職員の方を見て口を開いた。


「えーと、なんでも緊急クエストのお知らせがきたらしいですよ」


「緊急クエスト?」


「はい。ギルドに登録すると“電子魔導書”っていうのが貰えるらしくて、それにクエストの依頼やギルドからのお知らせがメールみたいに来るらしいんですよ」


 電子魔導書っていう響きに少しだけ心動かされる。

 なんだよそれ。

 夢断たれたあとにそんなワクワクする厨ニワード聞きたくなかったよ……。


「ふぁ……それで? その緊急クエストってのはどういう内容だったんだ?」


「お姫さまの護衛です」


「お姫様ぁ?」


 あくびによる涙を黒色のセーラー服の袖でぬぐいながらオレは尋ねた。

 しかしさっきから質問してばっかだな。

 こいつと一緒に異世界にきたはずなのにいつの間にかオレだけ異世界に関して情報弱者すぎる。

 やだ、もしかして私のアンテナ低すぎ……?


「なんかこのスコティッシュフォールドの街を治めるリュートリア家の第三王女様が本国に一時帰国するので、その護衛をギルドから募った、とか」


 話はわかったがそれってギルドに関係ない人に話しちゃダメな内容なんじゃないかな……。


 どんな手使ってここまでペラペラ喋らせたんだコイツ。


 遠目で見てた分には別段変わったことはしてなかったみたいだが、あの短い間にコイツとギルド職員の間で激しい攻防戦があったに違いない。


 まぁ、攻防戦と言ってもギルド職員が一方的に緒見坂にラブアタックされてたんだろうけど。


「ふぅん……しかし変な話だな」


「何がですか?」


 オレが覚えた違和感を口にすると、緒見坂が聞き返してくる。


「深町流護身術免許皆伝のオレから言わせれば、その護衛クエストはやってることがチグハグだってことだよ」


「えーと、あんまりツッコミたくないんですけどまずその深町流護身術ってなんですか……?」


「限られた時間と金を有効的に使い、人生を安息平和に生きるための処世術のことだ。オレが編み出した最強の護身術と言っても過言ではない」



 深町流護身術の基本は次の五つの教えだ。


 ひとつ、見ているのに見ていないフリ。


 ふたつ、知っているのに知らないフリ。


 みっつ、わかっているのにわからないフリ。


 よっつ、聞こえているのに聞こえていないフリ。


 いつつ、できるのにできないフリ。



 とりあえずこの五つを守っているだけで大概の面倒事やトラブルや人間関係は避けられる。

 こんなに便利なのになんでみんなやっていないのか不思議でならない。

 道徳の授業とかで教えた方が良いんじゃないの?



「今更ですけど、なんでヒロイック・ヒロインさんがセンパイを美少女にしたのかすごく納得がいきました……」


「うるせ。人付き合いなんてリスク高すぎるし必要最低限でいいんだよ。そうすりゃ金と時間を自分のためだけにつぎ込めて無駄がない。実に合理的だ」


「センパイってほんと進化しないたまごっちみたいなつまんない人生観してますよね」


「おいちょっと待て訂正しろ。進化しないたまごっちの何が悪いんだよ。たとえ進化成長しなくたってオレたちは日々懸命に生きているんだよ」


「じゃあ具体的にはなにをして過ごしてるんですか?」


「そりゃあ飯食ったり、部屋でごろごろしながらゲームしたり、ネットで動画見たり……あとは、ほら、昼寝したり……とか……」


 ……やっべ、ただのニートだなこれ。


 言い終わると同時に自分の発言が最低だと気づくも、緒見坂はすでに“何か”から完全に興味を失ったかのような瞳でオレを見ていた。

 心折れそうだからその真顔やめろ。



「つ、つまりだな。護衛が必要な人物が動くってのに、緊急クエストみたいな形でおおっぴらに召集かけちゃ余計に狙われるだろって話だ」


 緒見坂の沈黙が怖かったので無理矢理話を戻す。


「……確かにそうですね。バレないようにこそっとやれば良いのに」


「ああ。オレたちが知ってるくらいだ。躍起になって動き出したギルド冒険者によってもう街中に広まってるだろうよ」


「あれだけの人を護衛に雇えば、わざわざ自分はここにいますよーって教えてるようなもんですよね。……バカなの? お姫さま」


 口元に手を当て、珍しく神妙な顔をする緒見坂。


「――――あるいはかなりのキレ者、だな」


「どういうことですか?」


「もしオレが姫なら、緊急クエストで雇った大量の冒険者に自分の影武者や替え玉を護衛させ、注目を集め、自分はその裏で目立たないよう街を出る」


 募集文面で出発の日付を明日とでも告知し、自分は今日出発すればなおさら周囲を欺けるだろう。


「だからもし、姫かその参謀が馬鹿じゃないなら今頃―――」



 バンッ!



 冒険者ギルドの扉がやや強めに開かれる。



「……へぇ、意外だわ。まさかあの召集にひっかからず、ここに残っている人がいるなんて」



 扉を開き、オレたちを見据えた人物は金色の髪が印象的な見目麗しい少女だった。




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