表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/74

64 激突! まさかの魔王戦5

 俺は魔王にひのきの棒を向けた。

 俺の手には、魔王が大切に保管していた宝石がある。

 さらにもうひとつ。

 腹心だったフロイダは、こちらに寝返っているのだ。


 フロイダ――

 腐っても勇者を目指した男だけはある。

 俺に視線だけでうなずくと、素早く転移魔法を詠唱して、リディス王女をさらい、魔王との距離をとった。

 これでリディス王女は安全だ。



 完全に運はこちらに傾いた。



 そう思えた。



 なのに、

 なのにだ!



 魔王は澄ました顔で笑っている。

 あの余裕はどこからやってくるのだ!?



「ふふふ。クソニートのエリック君。どうやら君は、あたくしのタクティクス――快適勇者ライフタクティクスの真髄を知らないようね」



「何が勇者だ! てめぇなんて勇者じぇねぇ! ありとあらゆる卑怯な手をとり、己の快適に変える。それがお前のタクティクスなんだろ! そういった自己満足なちゃちなタクティイクスなどくだらない!」



「うふふ。そう、ご名答。ありとあらゆる卑怯な手を取るのが、快適勇者ライフタクティクスの根底的な考え。どうしてか、分かる?」


「知るか!」


「やはりあなたはこのタクティクスの真髄を知らなかった。それがあなたの敗因。ここに伊藤でもいれば違ったかもしれないけど、あなたは運からも見捨てられた。

 あたくしは戦いの中で開眼したの。

 人の不幸がうれしかった。

 無茶苦茶うれしかったの」



「くだらない。なんて寂しい奴なんだ」



「次の台詞を聞いて、果たしてその余裕な表情はどうなるのかしら。

 あたくしは他人の不幸がうれしい。

 すなわち快適勇者ライフとは、他人の不幸を己の喜びに転移することが可能。

 考えてみてよ。

 つまりね、他人が不幸になれば、あたくしはハッピーになれるのよ。

 分かりやすく言うと付け加えると、あたくしは他人を不幸にすることで、その分、己の力を増幅できる、それが我がタクティクスの真髄。どう? すばらしいタクティクスでしょう」



 他人の不幸を己の力に還元……

 なんて愚劣な……

 だが、確かにやっかいなタクティクスだ。


 

 つまり、俺、もしくは俺の仲間のHPが削られれば、その分、魔王は更に強大になるということなのか。

 苦戦を強いられると、その力量差は放されていく一方って訳か。



「だが、俺には史上最強のニートタクティクスがある! 負けるものか!」



「ふふ、ニートタクティクスなど弱点だらけ」



「何を証拠にそのような事が言い切れる!」




「これでもあたくしは社長をしているの。ニート上がりのダメ社員だって使ったことがある。だから知っている。ありとあらゆるニートの弱点を!」



「俺は並のニートでない! ちょっとやそっとの脅威になどには屈しない」



「そうね。あなたはニートの中のニート。キングオブニートだったわね。だったら尚更、ニート属性は強いってこと。

 つまりこの弱点をつけば、あなたにとって致命的な打撃を与えることができる。

 ところで今、何時か知っている?」



 ふと、懐中時計をみた。


 くぅ。

 そ、そんなバカな。



「ここは異次元。時と時のはざま。時間の調整は、ここを創造したあたくしの意のまま」



 現在、午前7時25分。

 あと5分で押し入れに隠れないと、母さんが起こしにくる。

 ……くそ、この時刻になると、どうしても嫌なトラウマを思い出してしまう。


 起きたくない。

 学校をさぼりたい。

 押し入れに逃げ込みたい。


 俺は午前7時25分が……こ、怖い……



 

 ニートパワーが最も弱まる時刻。

 それが、午前7時25分なのだ。



「うふふ。全身に倦怠感が現れているようね。

 そう、ニートは朝になると、恐怖する。

 学校に行きたくない。仕事をしたくない。部屋から出たくない。布団から出たくない。起きたくない。逃げたい。逃げたい。逃げる場所なんてないのに、とにかく逃げたい。

 それがニート。

 だけど、そろそろ誰かが叩き起こしにくる。怖い。どうしよう。

 だからこの時刻になると、ニートの体には異変が起こる。

 これこそ、ニート特有の自己防衛反応。

 それがニートの道を選んだもの定め。

 ニートなど、戦闘能力皆無の雑魚中の雑魚」



 

 胃袋に強烈なダメージが蓄積してくる。

 激しい痛みで、思わず片膝をつく。



「ふふ。

 やはりね。

 通常のニートならただの腹痛くらいで済むけど、あなたはキングオブニート。

 最強のニート属性。

 一般的なニートの100倍、いや、1000倍以上の超絶な腹痛に襲われている。

 そしてその苦しみは、あたくしの喜びへと変わる。

 あなたの、痛み、よく分かるわ。

 だって、あなたの苦しみが、わたくしの幸せへと変わっているのだから。

 ほら、どんどん魔力が増えていくわ。

 それにしてもすごいわね。

 このダメージ量、常人ならとっくに気を失い絶命しているでしょう。

 この苦しみから逃れるには、布団をかぶって寝たふりをするか、押し入れなんかに逃げ込むしかない。ここには布団も押し入れもない。

 逃げ場など皆無。

 完全に終わり。

 あははははははははははは!!!

 見てよ。

 我が魔力が猛烈な速度で増幅しているわ」

 

 

 魔王の両肩から、青白い炎が巻き上がる。



「じゃぁ、遠慮なくいくわよ。キングオブニート!」



 そして魔剣をギラリと抜いた。



 立つことすら厳しい激痛が、俺の腹を襲う。


 

 されど俺は、ニートを極めし者。

 キングオブニートの名に懸けて、絶対負ける訳にはいかない。

 そうだ、目の前の敵は、ニートの宿敵、ブラック企業の社長でもある。

 たくさんの可哀そうなニートを生み出したのは、従業員に精神的打撃を与え、働く気力を奪ってきた極悪非道なブラック企業の親玉達だ。



 この戦いは全ニートの意地をかけた聖戦でもある!


 

 もうろうとする意識の中――

 気力だけで奮い立った。

 


 頼む、世界中のニート、そしてひのきの棒よ、俺に力を貸してくれ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ