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63 激突! まさかの魔王戦4

 ニートの腕輪は、かつて共に、生死ギリギリのサバイバルバトルを乗り越えた戦友だった。彼女の名はコロア。

 そのサバイバルの名は天下一ニート選手権。

 

 俺には、その記憶がない。

 ニート選手権とは、ただ単にニートをかき集め、駄目さ具合を競うだけの戦いくらいにしか思っていなかった。

 果たしてそうだったのだろうか。

 俺の手には、連射機能の付加された銃があったのだ。

 そんな物騒な凶器を握って戦っていた。

 

 

 

 誰と?

 もしかして敵はニートを恐れる闇の集団なのか……

 そんな奴なんているのだろうか。

 ニートとは社会の底辺。

 

 

 だけど伊藤さんは言っていた。

 ニートとは、伝説の兵法術を使いこなせるニードに最も近づける存在なのだと。

 

 

 

 まったく思い出せない。

 だがひとつ分かることがある。コロアは俺を守るために自らの意志で腕輪になり、そしてたった今も俺を守るために、見えざる敵と戦っている。そんな彼女の今の姿を見た。装飾の施された腕輪。かつて金色に輝いていた表面はボロボロに剥げ、幾本もの亀裂が入っている。

 



 どこまでも続く無機質な白い異空間で、俺は魔王と対峙している。




 ここにはリディス王女。フロイダ。そして偽勇者の連中と魔王。伊藤さんはいない。伊藤さんのアドバイスを聞くことはできない。

 

 偽勇者達は不安を隠しきれない表情で、魔王に話しかけている。



 その中の一人。

 大柄で四角い顔の――名前は確かガーリアンだったか。青ざめた表情で苦笑いを浮かべて、それでも必死に話しかけていた。熱心にしゃべるなんて、奴の心理は決まっている。安心という言葉が欲しい、ただそれだけ。まるで自室を追い出されたニートがブルブル震えながらハロワで求人票に視線を突き刺すかの如く、奴もガクガク震えながら魔王に食らいついている。


「しゃ、社長……。本当に魔王だったのですか?」


「そうよ。勇者組織のリーダーが魔王で悪い?」


「い、いえ……。あ、あのですね。俺達、どこまでも社長について行きますから。だから……」


「だから?」


「殺さないでください」


「うふふふ。あはははは」


「はは……。あははは……」


 魔王の低い笑いに同調するかのように、ガーリアンも引きつった頬を持ち上げ苦笑いを浮かべた。数人の偽勇者も釣られるように顔を見合わせて笑う。

 なんとも固いあははは。

 その笑いの空気を断ち切るかのごとく、魔王は鋭く口角を釣り上げた。


「どうしてそのようなことを聞くの?」


「それは、あのですね……」


「あなたは私が怖い。それは私が人外だったから。それは私も同じよ。私達はあなたが怖いの」


「ど、どうしてですか?」


「あなた達は私の正体を知った。これでか弱き私は、あなた達に怯えながら生きていかなくてはならない」


「……言いません。言いませんから! 俺はカルディア社長が魔王だなんて口が裂けても言いません。神に誓います。だから――」


「ほら、言った。今、言ったじゃない。神様とやらにチクッた。

 私、神様、嫌い。

 それに、そう。人はふとした瞬間、無意識と言う名の意識の中で心の内を話してしまう。それが人。だから私にとってあなたは恐怖なの」



 一瞬だった。

 魔王はさっきまで腹心だった男に指を向けたのだ。

 同時にガーリアンは弾け飛ぶ。



 そして俺に視線を流し、ほくそ笑む。



「ふふふ、私は小心者なの。だから小さな障害でも容赦しない。さぁ、次は誰が消滅して私にささやかな安堵を与えてくれるのかな?」


 魔王はひとりひとり、視線をぶつけていく。

 散々意地悪をしてきたフロイダは、ようやく自分に置かれた立場を飲み込めたのだろう。ごくりと喉が鳴り、それでも必死に口を開けようとする。だが、恐怖からか、全身が震え、まともに喋れていない。


 俺は小さく口を開き、フロイダに教えてやった。


「フロイダよ。分かったか。

 お前は言ったよな。バカを誑かせて、夢を見させてやった、それは正義だと。カッコいい自分が他人に夢を見させ、騙し、奪う行為は当然の権利だと。

 だが今のお前は、果たしてそれを言えるのか? 

 お前は、お姫様を騙し宝石を奪い、それを当然の権利だとのたまった。それはまさに魔王が今やっていることと同じ。

 お前に弁解する権利などない。

 てめぇがやってきた悪事の再現が、今お前に振りかかっているに過ぎないからだ。

 それでも、そんなどうしようもないお前の為に、リディス王女は立ち上がってくれた。

 どうして俺が、このゴミしかいねぇクソオフィスを蹴り破って突入してきたと思う?」



 フロイダは固まったまま、目だけこちらに向けている。



「俺は言ってやったんだぜ?

 こんなクズ共、ほっておけばいいとな。

 だけどリディス王女は、黙って首を横に振った。

 彼女はあんたを改心させるために、この世界にやってきたんだとさ」



「俺を改心……? この世界?」



「お前は忘れちまったか。

 俺には分かる。かつてお前は主役に憧れていた」



「だ、黙れ! 俺は誰もが羨む超主役だ」



「違うね。お前は脇役。それも下の下」



「クソニート。てめぇに俺の何が分かる?」



「何も分からねぇよ。分かるのはあんたがどうしようもないクズってことだけだ」



「黙れ! 黙れ!」


「黙るのはあんたの方だ。

 静かに聞いてろ!

 そんなお前は、ある漫画を読んだ。そして感動した。そこには自分のようなサブサブサブヒロインが必死に頑張っていたからだ。それを読んで、あんたは何かを感じた。そして気づいたら応援していた。彼女は自分と同じ、誰にも見向きもされない脇役だったから」



「……ま、まさか……。そのサブサブサブヒロインって……」



「そうさ。ようやく思い出したか、この間抜け。

 あんたが騙したつもりで宝石を引っ張った、この少女。彼女こそ、スタイリッシュ悪役令嬢の逆襲でたったの3コマしか登場できなかった脇役の一人だ。だがフロイダという名の青年は、必死に彼女を応援していた。幾度となくファンレターを送っていた。俺も読者コーナーであんたの名をみたことがある。そんな青年が、まさかこんなクズにまで降格していたとはな」



「……そ、そんなこと……」



 リディス王女が叫んだ。



「フロイダ様。私も主役になりたかった。だからフロイダ様の気持ちはよく分かるわ」



「……だ、だけど、俺は……君の心をもてあそんだ……」



「私はエリックに無茶を言ってお願いしました。フロイダ様を助けて欲しいと。だってフロイダ様は呪われているだけなのですから」



「そうさ。俺は呪われている。そう思われても仕方がないことをしてきた。表舞台に出たいが為に、俺は君にひどいことをしてきた……。これで主役になれると思っていた。

 だけどそうさ。

 こんなクズい事をしていたら、いつかしっぺ返しを食らう。

 今の今になって、ようやく俺がしてきた事の愚かさに気付けた。俺の主は魔王だった。いや、主なんかではない。ただ俺らのようなバカを利用していただけだ。こうやってされてみて初めて分かったよ。俺がやってきた事、それは目の前にいる恐ろしい悪魔と同じだ。

 俺なんて殺されて当然だ。俺は非道な男だ。主役になる為に人を蹴落とすなんて当然と思っていた。何人も不幸にしてきた。それが快感だと教えられてきた」


 魔王はニカリと笑う。


「フロイダ君。君は恐怖で頭がおかしくなったようだね」


「いいえ、ここにきてようやく俺は正常に戻れました……。

 魔王、殺すなら、殺してください。

 だけど、この二人は関係ない。

 殺すなら、俺を――俺だけを殺せ!」


「フロイダ君、アホなの? どっちにしても君は殺すんだよ。

 ははぁん。

 なるほど、そういう手ね?

 どうせ死ぬから、死ぬ前にちょっとばかし良い事染みた事をやって、死後の世界でちょっぴりマシなスタートダッシュをかけるつもりなのね。

 そういうのを無駄な努力っていうのよ。

 それよか、泣けよ。叫べよ。私は恐怖で慄いている奴を殺したいの。そうしないと殺す楽しみが興ざめじゃない」



 リディス王女は、フロイダに告げる。



「大丈夫だよ。きっとエリックが守ってくれるから。なんたってエリックはキングオブニート。知っている? 真のニートは、如何なる悪をも働かずして勝つことができるのよ!」


 フロイダは叫んだ。


「ど、どうして俺なんかクズを、エリックが……」


「それは、今、フロイダ様の呪いが解けたから。あなたの今、流している涙が、その証拠。私には見えるわ。あなたの心が、その綺麗な滴で洗われていくのが」



 魔王は笑いながら手の平を俺達に向け、魔法を増幅させていく。


「ゴミ共の漫才はいつ聞いても笑える。何、そのダサい友情ごっこは? だけどね、最後に笑うのは、圧倒的強くて優雅で他人の不幸が大好きな私。あんたなんかゴミには夢も希望も明るい未来も何もないの。さようなら、おバカさん」



 俺はひのきの棒を魔王に向けた。



「魔王よ。

 ひとつ教えてやる。

 失った二つの心を取り戻せば、ニートは史上最強の存在となるんだ。

 その一つが夢。

 今、リディス王女の夢が叶った。

 俺は、今、夢という名の熱き心を取り戻した!」

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