54 ニート VS 勇者軍団 1
アークデーモンは、消え去る前に言った。
俺を抹殺する為に勇者が立ち上がる、と。
長屋のみんなも、それを聞いて不安そうに顔を見合わせている。
そんな中、カミル姉は「エリック。大丈夫だよ、今度は私たちがあなたを守る番だから。私達は借金取りから逃げてきた。だから、街の地下は熟知している。みんなも協力するから、ね!」
強引に笑顔を作り、そう言うカミル姉に視線を合わせる者はいない。
母さん……
また不安にしちゃってごめん。
だから言ってあげた。
「カミル姉。
みんな。
心配しなくても大丈夫だよ。
俺はニートを極めし者、キングオブニート。
如何なる敵も、ニートをつかまえることはできない。
何故なら、ニートは常に働くことから逃げてきたから。
ニートの道とは、すなわち逃げ続けること。
逃げることから目を背けると、もはやニートではない。
つまりニートとは、逃走のプロだ」
「し、しかし……」
心配そうに俺を見るカミル姉をよそに、リュックから金塊の山を取り出して見せた。
ざっと3500ゴールドはあるだろう。
アークデーモン8体の金塊と足すと、ざっと4000ゴールドを超える。
俺達スラム街の連中には到底拝めない大金だ。
これだけあれば何だってできる。
普通の暮らしは当然のこと、勉強をして技術を身に付け職に就くことも、アイデアを出し合い商売をすることだってできるだろう。
これは今まで迷惑をかけてきたお礼だよ。
そんな気持ちで差し出した。
「エリック、どうしたのよ? こんな大金」
「さっき言っただろ。
俺は勝ったんだよ。
最強の龍族さえも、働かずして勝つ術を手にいれたんだ。
私利私欲にまみれる勇者集団にだって勝てるさ。
ここにいたら、みんなに迷惑をかけそうだから、俺、行くわ」
「エリック。行くってどこに行くつもりなのよ! いつまで逃げ続ける気?」
「カミル姉はいつも心配性だな。
それよか、もう今まで苦しめてきた借金はないんだ。悪い奴は全員、金塊になった。
彼氏でも作って幸せになれよ」
「は??
何言ってんのよ!」
「ツンツンしない。
俺、思っていたんだ。
カミル姉は、ちょっと化粧でも覚えておしゃれをしたら、そんじょそこらの貴族のバカ娘なんかより遥かに美人だって」
「な、な、何言ってんのよ! バカッ!
……エリック、あ、あなただって彼女、作ればいいじゃん。
もうただ単に逃げ回っていた弱いエリックじゃないんだから。
でもね、例え強くなれたとしても、一人ぼっちで逃げていたら辛いわよ。
エリックの心を分かってくれる人、見つけたらいいじゃん。
な、なんなら、わ、わた……し……」
「実は見つけたんだよ!」
「え!?」
「なんだよ。
そんなに驚くなよ。
カミル姉が彼女を作れとか言うから、教えてあげただけなのに」
「そ、その人、ど、どんな人なの……?」
「すごい人だよ。
あ、もちろんカミル姉も、いつもすごいと尊敬しているけど……」
「大丈夫なの?
……その人に騙されていない?
さっきのアークデーモンのように、もしかして正体は悪魔ってオチかもしれないよ?」
「何をそんなに心配しているんだよ?
カノンさんが悪魔な訳ないじゃん」
「エリックの好きな人、カノンって言うの……」
「うん、目が見えないのに、弱い人を守っているんだ。そんな天使のような女の子が、俺なんかの事を好きって言ってくれたんだ……」
「……そう。
その子、目が見えないの……」
「え? カミル姉、どうして泣いているの?」
「バカ!
こっち、見るんじゃない!
駄目駄目ニートのエリックが……
何もできなかったエリックが……
いつも心配ばかりかけていたエリックが……
……エリックがちゃんと一人前になれて嬉しいのよ……。
私、あなた達の事、応援しているから」
……ありがとう。
そう心で返して、俺はみんなと別れた。




