31 戦術指南上級編 魔神アモンをひのきの棒で倒せ4
シュバルツァーさんのお話に感動したのは、あたしだけではありませんでした。
ダンさんも「シュバルツァー、おめぇ、口調やノリから軽く薄っぺらい奴とばかり思っていたが、信念を持った熱い男だったんだな。マジで気に入ったぜ」と握手を求めてきました。
シュバルツァーさんはダンさんの手をとると「なぁに。まだ大したことはできていない。俺が活躍するのはこれからだ」と返します。
ダンさんは続けます。
「二人の力を借りれば、なんかアモンを倒せそうな気がしてきたぜ。具体的な作戦を考えていきたいんだが、なんつーか、アモンは、HP、守備力はもちろんのこと、魔法防御だってデタラメに高い。あんたには致死系魔法を始め、いろんな魔法があるみてぇだが、果たしてアモンに効くのか?」
「あれ程強力なボスクラスを、心臓麻痺させることはできないだろう。
せいぜい心臓をドキドキさせるくらいで精いっぱいだ。
火炎等の攻撃魔法を魔力全開でぶっ放しても、薄皮一枚をちょっぴり火傷させるくらいが限界だ。
だが絶対に通じる、効果てき面の魔法がある」
「それはなんだ?」
「回復系魔法、それと防御力や攻撃力を上げる支援系魔法だ。
それは魔法防御関係なしに100%通じる」
「え、通じるも何も、そんなことをしたら圧倒的不利になるだけじゃねぇか。アンデッドなら回復系が攻撃に転じると聞いたことがあるが、アモンはアンデッド系じゃねぇんだぞ!
もしかして聖属性の魔法のことを言っているのか?
確かに聖属性や光属性の魔法なら通用しそうだが……」
「悪いが、そういった魔法は、あまり得意じゃないんだ。
今回俺が使用する魔法は、アモンの戦闘能力を2倍近く引き上げる魔法だ。
そういった後方支援の魔法は絶対に通じる」
「お、おい! 何を言っている!? そんなことをしたら俺たち終わっちまうじゃねぇか!」
「なぁに。
薬も酒も体にいいのは適量まで。
まぁ見てな。
野郎の平衡感覚は、俺が確実に奪ってやる。
おっさんをアモンにぶつけてやりたいが、相性が悪すぎる。
パワー系とパワー系がぶつかった場合、どうしてもパワーが勝る方が有利になってしまうからな。
悪いが雑魚どもを頼めないか。
雑魚といえど、それはアモンに比べての話。ハイオークやゴーレムといった高レベルモンスターばかりだ。
大丈夫か?」
「分かった。
例え何十匹、いや何百匹いようが、俺が確実におさえる。
お前らの背中は俺が守ってやる。
それにいらぬ気遣いは結構だ。
俺の目的はアモンとの腕比べではないんだ。
アモン討伐が俺の祈願だ。
野郎を沈められるのなら、俺は何だってするぜ」
ダンさんは、ニィと唇の端を上げて見せました。
シュバルツァーさんはひとつうなずくと、今度はあたしに作戦を告げます。
あたしは「分かった。頑張る!」と返すと、シュバルツァーさんは両手を胸の前に掲げて指で三角形を作り、その中心に魔力を集中させる。
「さぁ、行くぞ。
心の準備はいいか?
移動先は暗闇だ。
片目を閉じておけ。
そうすることで目は早く慣れる。
分かっているだろうが、いきなりアモンの後ろ付けだからな。
勝負は一瞬。
気を緩めたらすぐに死ぬぞ。
誰か一人でも死んだら、この作戦はパーになっちまう!」
シュバルツァーさんは片目で、あたし、そしてダンさんに目配せをする。
みんなが首を縦に振ったと同時に、周りの景色は変わる。
巨大な赤い背中が見える。
こいつがアモン。
薄暗い空間を、部屋の隅にあるたいまつの炎がぼんやり照らしている。
最初のターンが始まる。
まず動いたのは、シュバルツァーさんだ。
シュバルツァーさんの指先から紫の閃光が生まれ、アモンの後頭部へ直撃した。
彼が使用した魔法はバーサーク。
相手を興奮状態にして圧倒的な戦闘能力を付加する魔法です。
興奮状態になると、血流は活発になります。
アモンは仲間たちと酒の飲み比べをしていました。
大樽がたくさん転がっており、おそらく相当の量を飲んでいます。
そんな状態で更に血流がよくなると、一気に酔いが回り、立つこともままならないとシュバルツァーさんは言っていました。
シュバルツァーさんは、クールに一言付け加えます。
「限界まで飲んだ状態で、頭をガンガンシェイクされたのと同じだ。立てるものなら立ってみろ! 後はおっさん、ノエル。
一気にフィニッシュだ!」
ダンさんは両手に斧を握り、モンスターに向かって一括する。
「ここから先には行かせない! お前らは覚えているか! 小さな女の子……我が娘を容赦なく切り殺した事を! 今こそその復讐だ! さぁかかってこい、モンスター共」
次々にオークの群れを切り伏せていく戦士ダンさん。
あたしも準備OK。
「魔法剣。セイクリッドソードミサイル!」
ひのきの棒に聖属性を付加して、アモンの後頭部に向けて、振りをつけて力いっぱい投げつけた。
アモンの化け物染みた敏捷性や回避力を考えると、命中させることは困難だったかもしれない。
それどころかずば抜けたその反射神経で、打ち返してくる可能性だってあった。
だけど今は完全に平衡感覚を失い、立ち上がることすらままならない状態。膝の上に右手を置いて、必死に戦闘態勢を取ろうとしているが、思うように動けないようだ。
一度45分割してジョイントさせたひのきの棒が、アモンの後頭部にヒットした。
ぶつかった同時に、ひのきの棒の先端から連鎖的に崩れていく。
あたしの攻撃力は123。
それにひのきの棒の攻撃力が加算されて、124。
聖属性のクリティカルヒットにより、248のダメージ。
それが45連鎖繰り返す。
1回目248
2回目595
3回目1,012
4回目1,512
5回目2,112
6回目2,832
7回目3,696
8回目4,732
9回目5,976
10回目7,469
11回目9,261
中略
40回目2,124,782
41回目2,550,035
42回目3,060,340
43回目3,672,706
44回目4,407,545
45回目5,289,351
アモンは一瞬で消し飛んだ。
転移魔法を詠唱しかけていたシュバルツァーさんは、「ふ、環境破壊せずに済んだぜ」とこの場を締めくくりました。
ノエル
レベル:71
クラス:ソードマスター
H P:2280
M P:1480
攻撃力:457
防御力:381
武 器:ひのきの棒
防 具:エルフのマント
スキル:魔法剣レベル70
次話はついにゴンザとの正面対決です。
圧倒的な力を手に入れたノエルとその仲間達。
だが、ゴンザは持っているのです。
相手からスキルを略奪する恐ろしい秘術を。
いよいよ物語は大きな山場を迎えようとしています。
ゴンザの卑怯な魔の手が、ノエルたちを襲う!?
何卒よろしくお願いします<(_ _)>




