3 パーティを組もう
ひのきの棒があるとないとでは、大きく違う。
素手で戦うヤツをたまに見かけるが、私からしたらそいつらはどうかしている。
籠手とか装備しているのならまだいいが、敵に直接触ることになるんだぞ。
毒に感染する確率も高まるし、わりと固い鱗を持つモンスターだっている。
武器を損傷したらまた買えばいいが、こぶしを怪我したら替えが利かない。
素手での攻撃なんて自殺行為だ。
ひのきの棒は、腐っても武器。
最低限のリーチだってある。
ぶつぶつ自分を正当化しながらギルドへ向かった。
礼拝堂を根城にするアルディギルド。
会費もやすく初心者の冒険者にとってやさしいと噂されている。
まぁその安い会費すら、支払いが困難になっているのだが。
さてパーティを募るか。
と言っても、ひよっこしか仲間になってくれない。
アルディギルドのルールで、一度パーティ申請したら半年は解約できないし、途中でパーティメンバーが死ぬと履歴に仲間を見殺しにした傷が残る。
だからみんなパーティを組む時は慎重になる。
特に成長に金のかかる戦士や魔道士は、みな熟考になる。
安く済む格闘家や、王様から声がかかりやすい勇者はわりと人気者だ。
武道家と組む気にはならんが、なんとしても勇者とは組みたい。
イベント発生率が違うし、そもそも世間体や待遇が良くなる。
この際仕方ない。
今日、ギルドへ入会したというピカピカの新米に声をかけた。
カノン
職業、勇者
Level:1
性別:女
「よぉ、私は戦士ヴァルナ。私と一緒に冒険に行かないか?」
「嫌ですわ」
なに。
この子、ちょっと生意気。
でも私は笑顔を作り、話しかけた。
「どうしてさ? 私はレベル4あるぞ。それに戦士だ。強力な敵の攻撃からあんたを守ってやる」
「ふふふ、みすぼらしいひのきの棒しかお持ちでないのに、どうやってわたくしを守れるというのですか?」
クソッタレ。
でもそりゃそうだ。
私だって、こんな棒っきれしか持っていない奴とはパーティ組まないもんな。
それでも「……えーとだな……」と話しを繋ごうとしていた。
隣で聞き耳を立てていたシーフのカイルが、
「やめとけ。こいつ、貧乏な癖にカッコばかり気にするから、金欠パーティまっしぐらだぞ。それよか、俺はシーフ。敵から金品アイテムをぶんどれる。俺とパーティを組んだ方が快適に冒険を進められる」
「うふ。そうですね。よろしくお願いします」
……いつものように誰にも相手にされない。
今日は一段と酷い。
まぁ私の武器はひのきの棒だ。
誰が相手にするってんだ。
「あのぉ~」と、誰かが声をかけてきた。
私の視界に、私よりもみすぼらしい少年が飛び込んできた。
古びた袈裟衣に素足だ。
見習い僧侶か。
西洋風僧侶は人気があるが、和風僧侶は不人気なんだよな。
西洋風僧侶は、回復魔法や聖なる魔法を詠唱できるのに対し、和風僧侶は『とんち』というハッタリスキルで敵と戦うマイナー職だ。
こいつも誰も相手にされなかったのか。
「ぼくとパーティ組んでくれませんか?」
「お前、今までの実績は?」
「えーとですね。托鉢でなんとか日銭をかせいで生活しています」
「モンスターを倒した事はないのか?」
「どうやらぼくには『とんち』というスキルがあるようなのですが……」
「あぁ、聞いたことがある。橋を渡るなとか言われたら、橋ではなく真ん中を渡るという屁理屈を武器に戦うんだろ? おまえ。で、それ、モンスターに通用するのか?」
「いえ……。まったく。どうしたらいいでしょう、ぼく」
「人の悩みを聞くのが僧侶の仕事だろ?」
涙ぐんでいる少年を見ると、溜息しかでない。
しかし私とパーティを組んでくれるのは、こいつしかいないみたいだ。
やっぱ、ソロで行った方がよさそうだな。
そもそもモンスター相手に口八丁で戦うのには無理があるだろ?
せめてひのきの棒くらい装備した方がいい。
パーティを組む気にはなれんが、あまりにも哀れだ。
「おい、お前、安い武器屋を紹介してやるからついてこい」
「あ、はい」
僧侶:珍念
Level:1
スキル:とんち