28 戦術指南上級編 魔神アモンをひのきの棒で倒せ1
改めて営業妨害タクティクスひのきの棒編、強化合宿パンフレットを見た。
ここでルートが条件分岐しています。
【Aコース】
難易度:約★★★★★★★★★★★★★★★
成長率:約★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
イベント発生条件:エルファランディルの洋館で友達ができた場合。
補足説明:圧倒的に強くなれますので、お勧めです。
【Bコース】
難易度:★★
成長率:★★★
イベント発生条件:友達ができなかった場合。
補足説明:Aコースより非効率なので、あまりお勧めはしません。
……えーと。
難易度は圧倒的に高いですが、補足説明を読む限り、なんかAコースの方が良さげです。
とりあえずお話をした人ならいました。
ダンさんやシュバルツァーさんは、お友達に該当するのかな?
【解説】と書かれた欄を確認しました。
イフリート戦に挑戦する者は、大きく次の2パターンに分類されるそうです。
・単に力を手にしたい者、名声が欲しい者、一か八かに賭けようとする者。
つまり自分の欲求を満たす為に挑戦した者。
・力を手にして、何かを守ろうとする者。もしくは何かを成し遂げようとする者。
それは自分以外の誰かの為に戦っている者。
挑戦者に後者がいた場合、かなりの確率でノエル様を気にかけると思います。
もしそういった方がいらっしゃれば同行してください。
その方の目的は、イフリートの次にあるのですから、ほぼ100%、イフリートより強力な敵と戦えるはずです。
これを踏まえて考えると、なんか戦士ダンさんがそれっぽい気もします。
熊のように大柄で、一見さっぱりした性格のように見受けられる優しそうなおじさんですが、時折寂しそうな顔をしていました。
ダンさんから貰ったオルゴールを開いてみました。
女の子をかたどった小さな人形がゆっくりと回り、綺麗な旋律が流れ始めました。
でも、やっぱり悲しい曲に感じます。
ダンさんは「嬢ちゃん、あんたは強かったんだな。それじゃぁ俺は行くわ。達者でな」と言って立ち去ろうとしたので、あたしは「あ、待ってください」と呼びとめました。
呼び止めたものの何て言えば良いのしょう。
Aコースに進みたいから、お友達になって……は、ちょっとおかしいですよね。
とりあえず解説に書かれてあった事項を聞いてみました。
「ダンさん。
もしかしてあなたはイフリートよりも強い敵と戦おうとしているんですか?」
「ど、どうしてそれを?」
「イフリートを倒して力を手にし、そしてそれ以上の敵に挑むって解説に出ていたから……」
「そっか、顔に出ちまっていたか」
いえ、解説です。
それまでほがらかな表情をしていたダンさんは、だんだんと険しい顔つきに変わっていきました。
「……実は俺の村は滅ぼされちまったんだ……」
あたしと同じ……
エルフの村も滅ぼされた……
「俺が出稼ぎに行っている間、アモンっていうとんでもない化け物がやってきて村を焦土と化してしまった。
俺さえいれば、こんなことには……。
いや俺がいても同じだ。
娘に土産を渡してやるのを本当に楽しみにしていたのによ。
それを奴は、ぶち壊してくれた。
だから娘と村のみんなの仇をとるために、俺は戦っている。
奴はとんでもなく強ぇ。
今の俺では、歯が立たないだろう。
だからこうやって武者修行を積んでいたんだ」
「そうでしたか。
それがきっとAコースです。
良かったら、アモンを倒す旅にあたしも連れて行ってください」
「……嬉しいが、俺の旅はあまりにも長く険しいんだぞ」
あまり長いのは困ります。
伊藤さんが処刑されてしまいます。
「1日くらいでちゃちゃっとやっつけられないでしょうか?」
「バカ言え!
アモンは神出鬼没の怪物だ。
どこにいるのかすら、よく分からねぇんだぞ!」
伊藤さんを助けた後、ダンさんと合流したいとも思いましたが、それだとAコース未達の状態で最終試験に挑まなくてはなりません。
とにかくアモンの生体を調べる為に、伊藤さんに持っていくように言われた怪獣図鑑をアイテムボックスから取り出して確認しました。
これか。
写真を見ただけで、ゾッとします。
【アモン】
H P:829415
M P:981255
攻撃力:912311
防御力:123441
生息地:不明
はい、デタラメに強いということは認識できました。
図鑑を調べても、住んでいる場所を特定することはできませんでした。
「ふ、こいつがアモンか」
「シュバルツァーさん?」
「ふ、忘れたのか?
俺は世界の果てまで追いかけていくプロのストーカーだ。
プロのストーカーってのは、顔さえ分かればターゲットがどこにいるのか瞬時に分かる。
例え地底深くに隠れようが、俺から逃げる事はできない。
ふ、アモンの写真を見せてみな」
魔道士さんは図鑑を手にすると、眼球は黒から赤へ変色させ写真を睨めつけます。
「見せてやろう。
ストーカーの奇跡ってやつを。
偉大なる尾行が得意な精霊達よ。
我に力を与えたまえ。
はあああああ……
魔力全開、秘儀、ストーキングディスティネーション!!」
魔道士さんの体から、無数の黒い粒子が大空に駆け昇って行く。
ムムムと念じる事、30秒少々。
「ふ、なるほど、特定したぜ。
アモンは世界で1体しかいない。
ここから南に721キロ南下したところに奴はいる。
村か町を襲って戦利品でも手にしたのだろう。
アムールの洞窟、地底42層の北からみっつめの部屋で奴は手下共と宴会をしている。
ふ、見たか。
これがストーカーの力よ。
どうする?
行くか?」
え、行くって。
わりと遠そうですよ。
それに42層ってかなり長い道のりの予感がします。
「行くんなら、一瞬で連れて行ってやることも可能だが。
俺は世界の果てまで追いかけていくプロのストーカーだ。
一度狙った相手は、どこへいようが逃がさないぜ。
到着場所は、後ろ30cmづけでも問題ない。
ふ、これがプロのストーカーの力だ。
転移魔法など、ストーカーにとって基本中の基本よ」
節々に変な事を言わなければ、かなりカッコいい部類に入ると思うのですが。
あ。
でもこのスキルはすごいです。
伊藤さん救出も、一瞬でできちゃいます。
残念なことに、顔が特定できないと無理だと言われました。
あ、でも、それなら――
あたしはペンダントを開いて、シュバルツァーさんに見てもらいました。
「この人、どこにいるか分かりますか?」
あいつは、お母さんが死んだと断言しました。
でも伊藤さんは、ペンダントに認められたらお母さんに会えると言ってくれたのです。
だから勇気を出して聞いてみることにしたのです。
「ふ、写真さえあれば、俺に特定できない者はいない。
ふおおおおおあああああああああああああ!!
……
………………
…………………………」
「どうですか? 分かりましたか?」
しばらく黙り込んでいたシュバルツァーさんでしたが、あたしの方をじっと見つめてこう言いました。
「……
この人、ノエルの母さんか?」
「……うん」
「すまない。
頑張ってみたのだが、どこにいるのか分からない。
なんと言えばいいのか……
……俺が言えることは、このスキルで特定できなかった者はいなかった。
……生きてさえいれば……」
「ありがとう。
大丈夫だよ。
伊藤さんは、ペンダントに認められたらお母さんに会えるって言ってくれたんだ。
だから、いつかきっと」
「そうだな。
お前の先生のタクティクスは最強だもんな」
「うん。行こう!
仇討の旅に。
その前にちょっと作戦を考えてね」
まただ。
またあの時と同じ現象が起きている。
お母さんのペンダントが、ほんのり青く輝いています。




