2 女戦士ヴァルナ
武器屋に訪れた女戦士、ヴァルナ視点です。
ちくちょー。
どいつもこいつもパーティに入れてくれない。
戦士っつたら、冒険者の花形だろ!
ソロだと割ときついんだよな。
複数の敵に囲まれたら、すぐに背後を取られてしまうし、戦闘中に回復していたら後手になっちまう。
まぁレベルもまだ4しかないし、仕方ないか。
とりあえず、外へ出てもうちょいレベル上げでもするか。
その前に鞘から剣身を抜いてチェックをした。
どうもここのところよく斬れない。
刃がボロボロだな。
ここまできたら、研いだところでどうにもならんな。
新しい武器でも買って冒険にでるか……。
手持ち、あといくらあったけか?
荷袋から財布を取り出して開いてみた。
なんだと!
10ゴールドしかないではないか。
そっか。昨日、ギルドの月会費払ったんだっけか。あのギルドは詐欺だな。パーティを紹介してくれるとか言っていたのに、ちっとも紹介してくれないじゃないか!
いや、たまにしてくれるんだけど、レベル1のひよっこばかり。
私のレベルは4だ。
馬鹿にするな。
くそったれ。
これじゃぁひのきの棒くらいしか買えない。
これでもレベル4ある。
今更ひのきの棒なんて買えるわけない。
だけど素手で戦うのに不安を覚えた私は、しばらくの間、武器屋が並ぶストリートをうろうろ歩いていた。
……ひのきの棒……
そういや、ギルドで聞いたんだけど、この先にひのきの棒しか売っていない妙な武器屋があるらしい。
みんな笑っていたけど……
この際行ってみるか。
*
「伊藤です」
カウンター越しに、黒いスーツ姿を着たシャープな男がいる。
そしてここ、マジでひのきの棒しか売っていない。
ショーケースの中に、よく手入れされたひのきの棒がある。
どれもこれも5ゴールドだ。
私の手持ちなら二本買えるな。
どうしたものか。
それにしても暇そうだな、ここ。
客は私しかいないではないか。
まぁ、こんな店、流行る訳がない。
そうだ! 値切って三本売ってもらうか。
どうせ棒っきれなんて、すぐ折れるだろうし。
「私はヴァルナだ。武器を買いに来た」
「左様ですか」
「だけど、暇そうだね!」
「私はお客様としっかりとお話をして最高の商品をご提供するのが仕事です。新規のお客様は一日3名様のみとさせてもらっております。そしてヴァルナ様。あなたは丁度三人目になります。さて、どういった商品をご購入されますか?」
ニッコリとさわやかに笑っている伊藤氏。
だけど、ここ、ひのきの棒しかないじゃん!
それに新規三名って、どれだけ殿様商売なんだよ。
単に客がいないだけなんだろ?
まぁいっか。
どうせ値切るつもりだし。
「私は戦士だ。強力な武器も装備できるだけどなぁ~。ここにはひのきの棒しか無いようだしなぁ~」
違う店に行っちゃうよぉ~とにおわせておいて、ちらりと伊藤氏を見た。
「左様ですか。お隣のお店には鋼の斧が1250ゴールドで売られております。強力な武器をお求めでしたらそちらに行かれた方がよろしいかと」
商売っ気ないな、こいつ。
「いいさ。買ってやるわよ。ひのきの棒は1本5ゴールドね。2本まとめ買いしてやるから1本まけてくれ」
「三本でしたら15ゴールドになりますが?
もしかしてヴァルナ様、お金に困っているのですか?」
メガネをクイと上げ、さわやかに言う伊藤氏。
客にそういうこと聞くなよ。
「な訳ないだろ! 失礼な奴だな!」
されど伊藤氏はメガネをクイと上げ、ズケズケと話し出した。
「ヴァルナ様、あなたは店に入られたと同時に、ホッと息をはき笑顔を約二秒間作りましたね。
つまりあなたは、ここに高額な商品がないことに安心された。例えば宝石店に入り、手持ちの金額で足りる事が分かったときなどに見せる表情です。ですがあなたは内心、ひのきの棒を買うことを恥ずかしいと思われている。
そして強力な武器を手にして戦いとも考えている。
多少錆びてはいますが、鉄の鎧をしている。鉄の鎧は782ゴールド。錆び方からして購入時期は約三ヶ月前。
それは、それなりの実績を積んでいらっしゃるという証拠。
おそらくレベルは3~5の間。
ほころびたところをそのままにしているのは、おそらくあなたはソロ。身なりを気にしなくても良いから。
ですが、あなたはそれなりに身なりを気にしている。
女戦士特有のざっくばらんな話し方をするのに、髪は綺麗にとかれていらっしゃる。口紅はマリーゴールドですか? ナチュラルの色合いがとてもマッチしていて、よくお似合いです。
話はそれましたが、つまりあなたは、本当はソロではいたくない。
それに肩にしてある白い布は、アルディギルドのメンバーの証。
つまりギルドにも所属している。
それなのにソロ。
つまりパーティを組んでもらえない。
だから更にレベルを上げて、仲間を見つけたいと望んでいらっしゃる」
ど、どうして、こいつ。
固まっている私に、伊藤氏は話し続ける。
「ヴァルナ様は、10ゴールドで3本のひのきの棒を買おうとされた。
つまりあなたの全財産は10ゴールド。
財布の中身まで計算させてもらうのはあまりにも不躾ですが、このまま行くとあなたは冒険中に命を落とします。
失礼とは存じますが、私があなたの冒険設計を描いて差し上げます」
な、なんなんだよ、こいつ。
ざけんな!
帰ろうとしたけど、でも……。
確かにそうだ。
伊藤氏の言う通りだ。
このままだと、のたれ死んでしまう。
来月、ギルドに払う会費もない。
モンスター狩りに出かけるしかないが、こんな最弱装備のソロだと、すぐに殺されちまう。だけどモンスター狩りをしないと晩飯代だって稼げない。
悔しいが伊藤氏に頭をさげるしかなかった。
「まず、手持ちの5ゴールドで、ひのきの棒を1本のみご購入してください。そしてギルド内の最弱な者に声をかけるのです」
「は?
一度パーティを組んだら、ギルドの規定で半年は解約できない。
私はレベル4だ。
もっと強い奴とだな!」
「だからあなたは今まで誰とも組んでもらえなかった。
それは、あなたが弱いからではありません
戦士は何かとお金が必要と思われております。あなたが見栄を張ろうとすれば、同レベルの者は懸念します。
だからあなたは最弱の者に声をかけるのです。
そして、あなたは金がかからない戦士だと名乗りなさい」
「なんだと!
私だって強力な剣やカッコいい鎧が欲しいし、いつまでもこんなチンケな棒なんかで戦いたくないぞ!」
「いえ、あなたはひのきの棒を愛用する剛剣使いになるでしょう」
「ふざけるな! 一応、武器がないと困るから一時的に買うだけだ。誰が来るものか! こんな店!」
それでも伊藤氏はニッコリと笑ってひのきの棒をショーケースから出してくれた。私は渋々ひのきの棒を受け取った。