終章
つらいとき。
悲しいとき。
いつも文章にぶつけている自分がいた。
コトバは、玉手箱。
つらい気持ちも悲しい気持ちも、ぜんぶ詰め込んで保存できる。
思い通りにならない歯車の中で。
負の感情は何もかも二次元に置き換えて、後は我慢。
それがいいと思っていた。
だけど人間、どんなに表現が巧みでも誤魔化し通せない事はある。
ある日、そこに込められた魂を自分以外の人に見つけられて。
周囲への詐り、己への欺瞞、
全てが融け落ちて床に染み込んだ。
「苦しみをコトバに換えるのは、大切な事。
でも、それを隠し持つ必要はないんだよ。
怖がらないで、見せてごらん。読んでごらん。託してごらん」
そう言って、彼は咲った。
もう、逃げるのは嫌だった。
本当はずっと、吐き出す先が欲しかった。
無機物でない相手が。
溢れた泪を受け止めてくれる、手が。
今はそれが……傍にいる。
いや、本当はもっと前から、目の前にあったのだ。
そう気づいた時、世界がまた少し、拓けたような気がした。
キモチを伝えるのは、難しい。
時には跳ね返され、
時にはかき消される。
どんなことをしても、無駄に終わることだってある。
それでも、
例え声が届かなくても、
彼方の誰かに伝えたい、強い思いがある。
そんな時のために、文章がある。物語がある。
伝えたい思いも感情も、聢かにここにある。
書くための手も、言うための口も揃っている。
誰かに自分を識られる覚悟も、もう大丈夫だ。
再び、
筆を取る。
冷たくて優しい感覚が、戻ってきた。
『某月某日
今日、嫌な事があった。────』
──おかえり。
自分で書いたその文字が、
私に咲いかけていた。
fin
……これにて、「テガミ」は完結となります。
総字数、99946。作者史上第三位、「東京愛徒」シリーズとしては第二位の長さとなりました。想定では八万だったので、二万字近くもオーバーしてしまったことになります。作者の悪い癖です←
しかしおかげで、拙い文章ながらも書きたかったモノは書ききったように感じています。執筆開始から一ヶ月間、ほとんどいつもこの作品の事を考えていたような気さえします。終わってみれば何とも微妙な作品でしたが。明らかにジャンルミスだし、推理だろこれw
本作「テガミ」は、短編集「テガミ」完結記念の長編版として書いたモノです。
また、昨年十二月に投稿した拙作「冽空の刹那」のリメイクでもあります。ちなみに舞台となった市町村は隣り合っています。狙いました←
そして本作は、作者蒼旗悠自身に対する皮肉もたっぷりと込めたつもりです。関前咲良、御殿山拓磨、もしくはその他の中に、作者をモデルとしたキャラクターがいます。いえ、もしかしたら複数かもしれません。
ここまで長い物語に付き合って頂き、本当にありがとうございました。
読んで下さった皆様の、心の中の「伝えたい思い」が。
どうか届きますように。
2014.11.30
蒼旗悠
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本作は、短編集「テガミ──The short tales of LETTERs──」を元に書かれている…………訳ではありませんが←、そちらもぜひよろしくお願いいたします!
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