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テガミ  作者: 蒼原悠
二〇一五年十一月二十七日。
18/23

Re:dialogue Deathbed




『Dialogue September-22ー2015 at the MUSASHINO Red Cross Hospital.』





 ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ……。


「──こちらです先生! 御殿山さん、先生到着なされましたよ!」

「……ああ、先生……ですか……?」

「大丈夫ですか、御殿山さん!? おい君たち、一体何があった? 疼痛かね!?」

「昨日の抗がん剤投与以来落ち着いておられたのですが、つい二時間ほど前に容体が急変しまして……!」

「急変……! 君たち、緊急時マニュアルに書いてあった最低限の措置は施したかだろうな!?」

「はい! しかし、改善の兆しが……!」


 ピッ、……ピッ、……ピッ、……ピッ、……ピッ、……。


「先生……、ゎ……たし、もう駄目です……」

「何を弱気になられますか! あなたはきっと救ってみせます!」

「いえ、お気持ちは……ごほっ、ありがた……いんです。けれど私もう……自分の身体に限界が来ているのが、分かるんです……」

「ここで踏ん張って生き延びた方もいらっしゃるんです! 御殿山さん、あなたが気を強く持てば、あなたはまだ助かります!」

「そうですよ! 御殿山さん……しっかり、してくださいっ……!」


 ピッ、…………ピッ、…………ピッ、…………ピッ、…………ピッ、…………。


「……もう、いいんです。思えばあの事故から、今日で……九年になるんですね。子宮頸癌にかかっておきながら、よくここまで生きて来られたものです……。私自身、あまりにも多くを……失い過ぎた、九年でしたから……」

「無理に喋らないでもいいんですよ!?」

「そうです、安静になさってください!」

「昨日出した手紙、もう届いているかな……。あの子、読んで……くれて……っう、げほぉあっ……!」

「きゃあっ! 御殿山さん、大丈夫ですか!?」

「だい……じょ、ごほげほおっ!」

「至急、輸血用の点滴台を用意しなさい! それと……酸素マスク、外しましょう。苦しいだろう」

「え、ですがしかし……」

「いいから。もう……きっと、延命治療をする意思はないだろう……」

「…………」


ピッ、………………ピッ、………………ピッ、………………ピッ、………………ピッ、………………。


「……せめて、もう一度、もう一度だけで良かったから、あの子に会いたかった……。ちゃんと生きていれば……今年で……十三歳になってるんだなぁ……。……でも、わた……私の事、たとえ会えても母親だとは思ってもらえない……かも、なぁ……」

「まずい、心電図(カーディオグラム)が弱まってきてる……」

「息子さん、どちらにいらっしゃるんでしたっけ!」

「確か市内の児童福祉施設です! 私、連絡しておきます!」

「……いえ、おやめください……。私が選んだ、決めた……道ですから……」

「でも……!」


ピッ、……………………ピッ、……………………ピッ、……………………ピッ、……………………ピッ、……………………。


「……これで、良かったんです。私があの子の……そばにいたら、あの子は…………きっと傷ついたでしょ……う、から……。

嗚呼…………でも、せめて……あの子の成長を……この目で、見守ってあげたかったな…………」


「御殿山さん……」


「……あの子と私はきっと、……同じ空の下で繋がっているんだろうなぁ……。だったら、、、私に、翼があったなら……飛んで行けたら……会える、か……な…………」




ピ───────────────………………




「……四時五十分、死亡確認。ご臨終です…………」





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