序章
※本小説の更新は、十一月三十日午前零時までの毎日零時、七時、十九時に行います。
本小説は、フィクションです。
つらいとき。
悲しいとき。
いつも溜め込んでる自分がいた。
つらい気持ちも、悲しい気持ちも。
何もかも自分の内に閉じ込めて、気丈に振る舞ってる自分がいた。
怖かった。
本当の自分はとても弱くて、脆くて、儚い。
その事実を周りに知られるのが、怖かった。
本当の自分は、仮面の裏に隠し通して。
いつでもいい人の顔をして、キャラクターを作って生きてきた。
どんな場所でも、それは変わらなかった。自分が、いる限りは。
だけど人間、限界は何にだってある。
ある日、我慢の堤防が唐突に決壊して。
見せたくない、隠しておきたかった嫌な自分が、みんなに露呈した。
周りはみんな、驚いたように目を丸くした。
やがて、言った。「やっぱり、そうだったんだ」って。
嫌われてしまえば、一瞬だ。
みんなはあっという間に離れて行った。
独り暗闇の中に座り込んで、関係の崩壊を見ていることしか出来なかった。
そんな中からもまた、暗い感情が沸き上がってくる。
このままではまた、悪循環だ。直感で、そう思った。
また、生きる場所を変えるのか。
また、逃げるのか。
そんなの嫌だ。
自分のままで、ありのままで生きられる場所が欲しい。
この荒れ狂う心を鎮める方法が、欲しい。
心の奥深く、見えない自分が泣き叫んだ。
その時視界に入ったのは。
一本の鉛筆。
一枚の白紙。
それだけだった。
それはケータイのように誰かと繋がるモノでもなければ。
聖書や啓蒙書のように、疲れた心を癒せるモノでもない。
何の変哲もない、ただの紙と鉛筆。
鉛筆を手に取り、ふと考える。
これは、どう使うものなんだろう。
なぜ、人はこんなものを開発したのだろう。
世界中でたくさんの人たちがこれを使っているのは、なぜだろう。
そう疑問に思ったとき。
初めて少し、未来が開けた気がした。
今、自分にできること。
それは、心の奥に溜まったその気持ちをこの紙に吐き出しぶつけ、形にすること。
カッコ悪くていい。
きれいじゃなくていい。
最悪、読めなくたっていい。
溜まり続けたこの思いを、少しでいい。解して、溶かして、流すことが出来るなら。
誰も傷付かずに、笑って暮らしていけるなら。
そのために、この紙と鉛筆があるのなら。
五十通りの平仮名と片仮名と、何万もの漢字。アルファベット。
この世に生まれた言語の全てが、今は味方になってくれるんだ。
才能なんて要らない。思いの丈を、ただ真っ直ぐに────
「9月23日
今日、嫌なことがあった。」──────