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魔女のクリスマス

作者: 珠城 綵

みんなにメリークリスマス。

深い深い森の奥。

雪に閉ざされた人っ子一人いないそんな場所に小さな家がありました。


その家のある森の名はミラーシの森。

通称、魔女の住む森。願いを言えば姿を現す蜃気楼(ミラーシ)の森。


「いやぁ、今朝も随分と雪が積もったわねぇ」


重い扉を開けて家から出てきたのは小さな小さな少女です。

真っ黒な流れる髪に同じく黒曜石のような黒い瞳が印象的で、その小さな体は暖かそうな白いコートにすっぽりと包まれ、手には大きなスコップが握られています。


「そろそろアレだ、どっかの異国のクリスマスとか言う祭りだかなんだかの日だろ?」


「あら、そういえばそうねぇ。だからこんなに雪だらけなのねぇ」


コートの襟のあたりからちょこんと顔を出したのは緑の瞳がきれいな黒猫です。

彼は寒いのはいやだとぶつぶつ言いながら少女を見上げました。


「それなら、そろそろプレゼントを配るあの赤い服の子たちが来るのねぇ。準備、終わってないわぁ」


困った、という風には見えませんが、ちょこんと小首をかしげた少女は、雪かきもしないといけないのに…と言いながら黒猫の頭をじぃーっと見つめます。


「俺は嫌だからな。なんでこんな寒い中…」


「鶏の足3本~」


「そんなんで俺が動くと…」


「サーモンの燻製5匹分もつけちゃうわぁ」


「…や、やらないことはない」


嫌だといった割にはあっさりと買収された黒猫は、地面にもふっと降り立ちました。

赤い首輪についた鈴がりぃんと鳴ります。


「じゃあ、お願いねぇ。ニフリート」


黒猫(ニフリート)を抱き上げて鼻にキスを贈ると、辺りが光に包まれました。

その光が納まったときには少女が見上げるほどの背丈の青年が立っていました。


さっきまでいた黒猫と同じ、無造作に切られた黒髪に切れ目の緑の瞳。

黒のロングコートを着たその姿は真っ黒です。さっきの猫と同じ。

頭の上の三角耳と長いしなやかな尻尾もさっきの猫と同じです。


かったるいなぁ、と言いつつも少女からスコップを奪うと、彼女をしっしと追いやります。


「さっさと準備してこい、チビ魔女。終わったらこっちも手伝えよな」


「はいはーい。泉のあたりまでの道を作ってねぇ」


にこりと笑いながらそういうと、ニフリートはピキリと固まりました。

泉はここから少し離れたところにあるのですが、如何せん30cm以上の新雪です。

なかなか終わりの見えない作業に彼は、盛大にため息をつきました。


「じゃあ、よろしくねぇ」


るんるんと帰っていく彼女は悪びれもなく家の扉を閉めてしまいました。




家の中に入った少女は自室へ戻るとごそごそと棚に並べられた瓶を漁り始めました。


さらさらとした粉の入ったもの、キラキラしたガラス玉の入ったもの、どろりとした液体の入ったもの…いろいろなものがありますが、どれもよく言えば鮮やか、悪く言えば気味の悪い色のものばかりです。

その中の二つ三つを取り出すと調合台で何やら混ぜはじめました。

ときおり紫の煙をぼふんと吐き出していますが、大丈夫なのでしょうか?


「よーし、これで完成よぉ!」


銀のプレートの上には何をどう混ぜればそうなるのかわからない、空色の透き通った飴玉のようなものがたくさん転がっています。

それを小さな瓶に小分けにすると、きゅっと蓋を閉めていきます。


「さて、次のものを…えっと、なんだったかしらぁ…」


少女は次から次へと薬なのかよくわからないものを作っていきます。

数刻経つ頃には色とりどりの薬が大量に並べられました。


「おい、チビ魔女! 客だぞ!」


ふぅ、と一息ついた頃、ニフリートが大声で言いながらドアを開けました。


「煩いわねぇニフリート、人の姿なんだからそんな大声をあげなくても聞こえるわよぉ」


そう文句を言いながらも扉のほうを見ると、長身の黒猫だったものの後ろに小さな赤い服の少年が緊張の面持ちで立っていました。

栗色の巻き毛とヘーゼルナッツ色の瞳が印象的なその、まだ11、2歳くらいの子供は少年自身より年下に見える少女を見ると、勢いよく頭を下げました。


「ミラーシの森の主である偉大なる原始の魔女様、リエース様でしょうか。ぼ、わたしはアウリスが息子、クラウスと申します。魔女様のお力をお借りしたく、この森へと参りました」


「おぉ、アウリスの息子か。よくここへ参った、歓迎しよう。頭をあげなさい」


年齢に見合わないが妙に貫録がある返事をすると、チビ魔女(リエース)は赤服の少年(クラウス)を部屋の中へと招き入れました。

さっきまでの間延びした口調を改めると、本当に偉大な魔女のようになるから不思議です。


「クラウス、そなたが欲しいものはいつものものだな?」


そう言って机の上にあるものを示しました。


「はい。トナカイが空を飛べるようになる丸薬、姿を消す事が出来る飴玉に疲れや寒さを忘れられる飲み薬…です」


「いつもの年と同じだけ準備をした。持っていきなさい」


「ありがとうございます。これで今年も世界中の子供たちに夢を届けに行く事が出来ます」


そう言って、クラウス少年はぺこりと頭を下げます。

彼の世界のサンタクロースと呼ばれる人々は人の身でありながらトナカイにそりをひかせ、世界中の夜空を駆り、一夜で世界廻ります。

はるか昔、世界の子供たちの幸せを願った一人の男が魔女に願い、それからというもの、魔女は夢を届けるための薬を作り続けていました。


「よい。そなたらの志は素晴らしいからの。それを違わぬうちは協力しよう」


ニコリとリエースが笑ってそういっているうちにニフリートが薬をひとまとめにしてしまいました。

それを手渡されると、クラウス少年はまた深々と頭を下げました。


「それでは、わたしはこれで失礼いたします。来年も、よろしくお願いします」


「頑張るのだぞ」


退出の言葉を述べるとクラウス少年は帰っていきました。

それを見送ると、リエースはふぅ、と一息つきます。


「やれやれ、堅苦しい言葉を使うのは疲れるねぇ」


年相応な雰囲気に戻ると、彼女はうーんと伸びをして突っ立ってたニフリートを見ました。


「だってそんな言葉づかいだと本当にただのガキだろ。もう何千年も生きてるのに」


「見かけと同じで若い、と言えないの? ニフリートは~」


「…どっちもどっちだろ」


「まぁ、いいわぁ。疲れたし、お茶にしましょう」


夕暮れの近づいた森の中、小さい偉大な魔女とその使い魔は、人知れずお茶会を開いたのでした。

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