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07

 『Training Complete!!』という文字と花火のようなエフェクトが目の前の空中に浮かび、辺りの景色が回転しているかのように収縮していき、やがて一瞬光ったかと思うと元の無機質な部屋に戻った。

 すると、虚空からキラキラと輝くカードが1枚出現し、俺の目の前でフワフワと浮かぶ。手を伸ばし、バックパックに放り込むとポコンッ、という音が鳴った。インベントリに収納された証だ。


「……よし!」


 なんだよ、やっぱあったじゃんか報酬。期待してなかっただけ喜びが大きい。

 俺は(はや)る気持ちを抑え、かつ最高速度でシステムウィンドウを開いて手に入れたカードを確認する。

 何だ? 武器か? 防具か? それとも特別なスキルか?


『30000G』


 …………。


「金かよっ!」


 いや、金も重要だけどさ。意外と金額あるし、先立つものがあると無いではやっぱり全然違う。……けどさ、こう……なんての? 何だこのやりきれない気持ち。


「……はぁ」


 テンションはかなり下がったが30000G を所持金に統合して、気を取り直してこれで何を買おうか考えることにした。



 ◆ ◆ ◆



「いらっしゃいいらっしゃい!」

「最前線の『クロムシリーズ』入荷したよ!」

「スキル最安価多数ありますよー!」

「お、そこの人! 『ガードリングⅡ』あるけどどうですか!?」


 そこはまさに戦場だった

 政務機関を出て大通りを右に行き、さらに橋を越えると広場にたどり着く。この広場では様々な人が自分の求めるものを少しでも安く仕入れようと闊歩(かっぽ)し、売り手も売り手で自分の利益を少しでも上げようと必死である。あえて言うなら昔懐かしの夏祭りのような光景だ。この量の人を目にすることは現実(リアル)ではもうないかもしれない。それくらいの活気だ。

 ここでは3か所の出入り口にいるNPCに話しかけ、いくらかのG(ゴールド)を支払うことによって誰でも数時間の間出店を出すことができるのだ。現実では絶滅寸前となっているフリーマーケットのようなものだ。

 さて、どうしようか。人と店が多すぎてどこがいい店なのかわからん。やっぱ大通りのプレイヤーショップに適当に入ろうかな。


「ちょいちょい、そこのお兄さん」

「……ん?」


 ぶらぶらと歩いていたら座り込んでいる着物を着た小さな少女に話しかけられた。見ればマットを敷いて武器を展示している。鍛冶屋なのだろう。

 少女は黒髪黒目で、身長は恐らく150もない。赤を基調とした着物を着た姿は、まるで日本人形のようだ。

 てか、こんなちびっこが武器広げてても違和感しかない。


「お兄さん始めたばっか? てことはスキルとか何も選んでないよね?」

「……まあ、選んじゃいないな」


 始めたばっかとは言えないかもしれないが。


「じゃあ、これなんかどうかな? ちょっと変わってるけど面白い武器だと思うよ」


 そう言って、ちびっこは出品ウィンドウを開いて見せてくる。そこにはオーソドックスな物から見たことのないマイナーな武器までさまざまな種類の武器が載っていた。

 戦闘用の武器スキルを使うにはその武器に対応したスキルを入手しなくてはならないため、まだ他のものに手を出しているようには見えない初期装備の俺ならなんか買ってくれると思ったのかね。面白い武器は大歓迎だけどね。

 ただ、『ククリ』とか『チャクラム』とか『鎖鎌』なんて見たことねぇぞ。マイナー過ぎる気がするんだけど……。


「んー」

「どう? 何かいいのはあった?」

「考え中。そういやすげー種類あるけどさ、こんなに最初から作れるもんなのか?」

「ううん。『ランダム作成』っていうのがあってね、それのおかげ」


 イウではすべてのカードに『グレード』という所謂レア度のようなものがついているのだが、なんでもイウの鍛冶などの生産システムに存在する『ランダム作成』というものを使うと、選択したアイテムで作れるグレードの物より低ランクの物が種類関係なくランダムでできるらしい。

 しかし、このランダム作成というシステム、とんでもなくハズレなんだそうだ。同じ物ができる可能性もあるし、遥か下のグレードの物ができる可能性もある。さらに、武器を作ってもレシピを手に入れることはできないのだ。

 レシピというのは全ての生産活動で必要な物で、スキルレベルを上げたりイベントをこなしていかないと基本的に手に入らない。中には店で売ってたりアイテムとしてドロップするものもあるそうだが。

 しかも、このランダム作成にはダメな点がまだあって、素材を入れても失敗する可能性が普通に鍛冶で作るよりも高いのだ。もちろん、失敗したら素材は消失(ロスト)。これは普通に鍛冶をした時も同じだが。

 あと、特殊なクエストをこなさなければ入手できない物はできないらしい。これは当然か。

 というわけで、このランダム作成は「運営のお遊び」とまで言われるようなハズレシステムなんだそうだ。


「なのにあんたはそれをやり続けたと」

「いやだって何が出てくるかわからないなんて面白かったから」

「あらら、随分とまぁギャンブラーだな」


 で、このちびっこはそんなこと知らずに面白がってランダム作成を片っ端からやりまくったらしく、気付けばインベントリがカオスとなっていたんだとさ。全然売れないし、かといって捨てるのもどうかなーって思っていた時に初期装備の俺が通りかかったんだと。てか、それ言っていいのか?


「で、どうかな? 自分で言うのもあれだけどすっごい安いと思うよ?」

「うーん……」


 その分性能がアレな物も多いけどな。

 そうしてウィンドウをスクロールしていると、あるものが目に入った。

 名前は『黒鉄棍』。俺がラグナでよく使っていた武器『棍棒』である。イウでの名称は『両手棍』と言うらしいが。

 気になったのでウィンドウに触れることでホログラムを出す。外見は両端にシンプルな金の装飾がされた漆黒の長い棒だ。長さは1メートル半くらいで、ラグナで使っていたものとあまり大差ない。

 棍棒———両手棍の良い点は色々あるが、あえてゲーム的な面から言うと、どこで攻撃してもダメージを与えられることである。武器にはダメージを与えられる場所が決まっていて、例えば刀剣は刃の部分、槍なら槍頭といった具合だ。もちろん、他の部分でもダメージを与えることはできるのだが、そのダメージ量には大きく差が出る。一方、両手棍はどこで攻撃しても与えるダメージが低下したりはしないのだ。大剣や槍などに比べると威力不足は否めないが、他の武器に比べて有効となる攻撃方法が多いのだ。

 さらに、他の武器と比べて敵の攻撃を弾くことが容易だということも利点の一つだ。イウでもそうだとは限らないが、その時はその時だ。何だかんだ言ったが、俺はこの武器が好きなのだ。……ラグナをやっていた当時に見たカンフー映画に影響されたことは否定しない。

 というわけで。


「なあちびっこ、これ買うよ」

「ちびっこ言うなし! ……確かに小さいけど」

「失礼。お嬢さん、これ買うよ」

「むー。……ってこれ? これ結構いい出来だから20000Gするけど……」

「ああ、金ならあるよ」


 ほれ、と20000Gを実体化させてぶら下げる。


「あれ、初心者じゃなかったの? ひょっとしてβテスターだったり?」

「いや、ちょっとね。トレーニングで手に入れたんだ」

「え、トレーニングなんてやったの? 物好きだねー」

「うるさいやい」


 話しつつも、ウィンドウを開いて商談を進める。


「でも、トレーニングじゃカードは手に入らないんじゃないの?」

「いや、戦闘訓練制覇の報酬だよ。割に合わないとは思ってるけどな」

「うわー。……はい、商談成立。ありがとうね!」


 こうして念願の武器ゲット。結構金使ったけど。他にも武器は欲しいが、先に防具を買っておいた方がいいかもしれない。


「あ、そうだ。フレンド登録しておこうよ」

「ん? ああ、いいぜー」


 フレンドに登録した人には、ショートメールを送ったり、テレパシーのようなもので遠くにいても会話ができるのだ。あとは名前とかの簡単な情報が見れるだけだな。

 このちびっこは『Kureha(クレハ)』というらしい。

 なんか古風な名前だな。


「ふーん、アサヒさんか。よろしくね」

「ああ、よろしく。あと、別に呼び捨てでも構わないぞ? 仮想世界(ここ)じゃ現実世界(リアル)の身分なんて関係ないしな」

「そう? じゃあアサヒ、これからもどうかご贔屓に!」

「おうよ、気が向いたらな」

「……そこは嘘でも『そうするよ』って言うところじゃない?」


 生憎、嘘は苦手なもんでね。

 ついでに防具も買えないか聞いてみたが、武器作りに熱中し過ぎて全く手をつけてないらしい。

 というわけでクレハと別れて、次は防具を買うために放浪することにした。



 ◆ ◆ ◆



「よっ」

「おう」


 政務機関の転送ポート前でユキムラと合流した。

 昨日の夜に約束していたのだ。


「リンと姫様は?」

「ヒメは今日は出かけてる。昨日も来れるかわからないって言ってたろ? リンは知らんけど、クランの方じゃないか? メールしても返事無いし、置いてっていいだろ」

「まぁあいつが約束守んないのはいつものことか」

「だな」


 『クラン』というのは、2人以上のプレイヤーがいることで作ることができる一種のチームのようなものだ。大抵は友達同士や同じ志を持つ者同士が結成する。他のゲームでよくあるギルドとほぼ同じものだ。

 同じクランに所属していると『クランシステム』が適応され、パーティを組んだ時にモンスターを倒して手に入る経験値やアイテムドロップ率に若干のボーナスが入るようになるのだ。他にも、『ホーム』と呼ばれるクラン所属者しか入れない家に入れるようになる。ホームはお金を振り込んでいくことによって大きくすることができ、詳しいことは知らないが家具とかも設置できるらしい。

 で、リンは他のゲームからの仲間とクランを作っていて、そこで副リーダーをやっているらしい。ちなみに主要メンバーにβテスターが何人かいるってこともあってかなりの有力クランなのだそうだ。


「今日はどうするんだ?」

「ああ、アサヒとは1回も探索出てないしな。今日はクラン休んできたから一緒に行こうぜ」

「いいのか? 休んで」

「うちはそこらへん比較的自由だからな。縛っても意味ないし」


 ユキムラが入っている『星屑の船団』もまた有力クランの1つで、姫様もそこに所属しているらしい。

 ついでに言うと今んとこ俺はソロ。ユキムラやリンには誘われたんだが、しばらくはこのまま行こうと思ってる。


「で、どこ行くんだ?」

「ああ、まずはオーシャンの『海上遺跡』だな。そこをクリアしないと他の星に行けないんだ」

「そりゃまた面倒だな」

「まあ、基本そこで戦い方を覚えるからな。その先は自由に行けるようになるぜ。クエストをこなさないと行けないところもあるけどな」


 正直、装備揃えたから最初のエリアくらいは楽勝な気がする。

 今の俺の装備は手に黒い棍棒、防具は赤地に白のラインの入ったパーカーに白いシャツ、黒いズボンだ。正直敵の攻撃なんて喰らったら一撃でお陀仏しそうなんだが、最初のエリアで死ぬほど弱くはないだろう。もっといい性能のものが欲しかったのだが、金が尽きたので仕方がない。

 あとは武器がもう1つと、使えそうなスキルがいくつか。ホルダーにはまだ空きがあるが、そこは追々と言ったところだ。

 まあ、棍棒に関しては最前線には届かなくても、その少し下あたりの人たちが使っている物と同じくらいの性能の物を買ったんだし、金が尽きるのは当たり前か。

 ちなみにユキムラは無骨な槍を持ち、その身は白を基調とした服で包んでいる。所々に金属の装飾が施されてあり、ユキムラの顔が中々なこともあって非常に様になっている。見かけは普通の服を着ている俺とは違って強そうだ。


「じゃあ行くか。あ、俺は基本手を出さないから。まあ、身体の動かし方はラグナと大差ないし、お前なら余裕だろ。トレーニングもやってたんだし」

「ま、そうかね」


 というわけで、俺はイウ開始9日目にして、ようやく最初の街から出ることになった。

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