06
その日のうちにトレーニングをレベル14と15を、次の日を丸一日使って19までクリアした。20もクリアしたかったが、3回死んでその日は諦めた。夜も遅かったし。
ちなみに苦労した14は片手剣と銃で広場まで走り抜け、広場では大剣と槍を振り回すことでクリアした。この2つは攻撃範囲が広く威力も高いため、広い場所での一対多に便利なのだ。こんな感じで19までは武器ごとに存在する特性を上手く使い分けることによって楽に進めた。
ただ、ホルダーに入れられるのは武器のサイズに関わらず1か所に1つのみで、例えばそれぞれ片手用の片手剣と銃を一纏めにして収納、といったことは出来なかった。
しかも、武器を出す場合はその武器を装備する場所に何か既に装備している場合は成功しない。スキルを持ってない今ならともかく、スキルを使うとなるとやり繰りが大変になるな。
ん? スキル? 19でも配られなかったから未だに見たこともありませんが何か?
あと武器も増えないし、何とかクリアしたけど大変だったなぁ。
「さて、と」
というわけでトレーニングのレベル20。絶賛挑戦中です。
ミッションは『目標の撃破』で、ターゲットは巨大モンスター一体だ。
鋭い鉤爪に巨大な体躯、そして、それを覆う真紅の鱗。鋭く光る双眸は敵を威圧せんと爛々と輝いている。大きな翼から生み出される途方もないエネルギーはすべてを吹き飛ばし、強靭な身体は振り回すだけで凶器となる。また、口元からチロチロと漏れる炎は触れただけですべてを消し炭に変え、それを向けられたら最後、弱き者は飛んでくる炎の中に今までの一生の光景を見つめるしかない。
GAAAAAAAAAAAAA!!! と赤い悪魔が天に吼える。
「…………」
どう見てもドラゴンです。本当にありがとうございました。帰ってくれると嬉しいです、至急。
冗談はともかく、敵の名前はシンプルに『レッドドラゴン』。とんでもなく迫力があって怖いんだが。ラグナじゃこれ以上の敵とも何度も戦ってきたが、あっちはクオリティの問題でゲームと実感できた。だが、進化した演算機能によって生み出されたこっちのはリアルすぎてビビる。たぶん実在したらこんな感じなんだろうなーって現実逃避してみたり。
場所は古代ローマのコロセウムのような場所。最初はただ広い広場なだけだったのだが、いまでは身を隠せる遮蔽物として機能する瓦礫がたくさんある。控室のような場所で準備を終え、スタートラインを切って闘技場の中に入ると空中からドラゴンが現れたのだが、そういう仕様なのか何なのかドラゴンは最初にこちらを無視して暴れまくり、歴史的に価値のありそうな闘技場を破壊しまくったのだ。
コロセウムは円状で目測で直径100mくらい。で、ドラゴンは尻尾まで含めてその3分の1くらいだから全長30mってとこか。これで少しは俺の感じている恐怖がわかるだろう。
だが、例え見た目がヤバいといってもクリアできないように設定されているわけでもなく、攻撃の威力はヤバいが動きは遅めで、HPだって削れないわけじゃない。
ただ、HPが一定値を下回ると放ってくる炎のブレスが厳しい。75%を下回った時のはこちらのHPが半分以上あれば耐え切れるのだが、50%の時のものはHPが8割くらいあっても喰らうと即死した。もしかしたら一発目は「これを喰らうと死ぬぜ? 次は避けろよ」という最終警告なのかもしれない。
今までの数回では相手のHPが50%を下回った時に放たれた炎のブレスによって瞬殺されたので、今回は取りあえずヒットアンドアウェイでとにかくダメージを喰らわないように逃げ回っている。何せこちらには回復アイテムがないのだ。まさに鬼畜の極みだ。
だが、実は既に二桁近く挑戦しているため攻撃パターンは見切っている。
「ここだっ!」
瓦礫に隠れてドラゴンの腹の下に向かって走り、同時に持っていた片手剣を放り捨てるイメージで消し、手に持った槍で目の前を切り払うイメージで『バトルランスⅡ』を出現させる。
練習の成果もあって出現させるのに時間はかからない。右手を前に出して右に振ると、振り終わった時には槍が出現している。
武器をホルダーから出すのにはとにかくイメージが重要となるらしく、そのためにも武器の見た目や重さ、あとはどのくらいの威力かといった、その武器に関するあらゆる情報を知っておく必要があるのだ。
また、俺はそれに加えてモーションも加えることによって一瞬で呼び出すことに成功している。例えば、大剣だったら両手で上から斬り下すイメージで、武器を思い浮かべてその動作を行うと動作の終了時には手の中に大剣が出現している。これは実際に武器を使ってその動作を何度も行っていると成功しやすい。
まだやったことはないけど、これってPvPだと相当強力なんじゃないか?
「うりゃあああ!!」
弱点部位である腹に槍を突き刺し、そのまま抉るように力を込めて後方に走り抜ける。血が出たりはしないが、赤いエフェクトとともにドラゴンのHPがガリガリと削れていく。
腹の下から出た時点でドラゴンは後ろ2本の足で立ち上がり、体を若干捻る。強靭な尾での薙ぎ払いの事前動作だ。
これは範囲がとんでもなく広く、今から走ってたんじゃ攻撃から逃れることはできない。かといって、この攻撃には安全に躱せる場所がかなり少ないのだ。
1つは言うまでもなく攻撃の届かない距離まで離れることである。そして、もう1つは———
「うらぁ!!」
俺はドラゴンの尾の付け根に槍を力いっぱい突き刺し、そこを基点にしてドラゴンに飛び乗り、槍を足場にして背中へと跳ぶ。
尾で辺りを薙ぎ払う攻撃なのだ。当然背中にまで登ってしまえば当たるわけがない。振り落とされないようにさえ注意すれば。
そのまま思考操作でもって槍を消し、代わりに大剣を出して何度もドラゴンの背を斬りつける。ドラゴンが急速回転をした時は、大剣を突き刺して掴まることで落ちることを防ぎ、止まったら再び斬りつける。
「GUWAAAAAAAAAAAA!!!」
「ッ!?」
何度も斬りつけたことでHPが50%を下回ったようで、ドラゴンは咆哮を上げる。背中の上という至近距離で聞いたせいで、『硬直』のバッドステータスを貰ってしまい、その隙に振り落とされてしまった。
まずい、そうすると待っているのはブレスによる死だ。
ブレスはドラゴンの口から直線状に放出されるのだが、その距離に制限はない。しかも、ドラゴンはブレスの放出中にも首を動かすため、躱すのが非常に困難なのだ。
75%を下回ったときはブレスの時間があまり長くなかったので躱すことができたのだが、50%の時のブレスはそれよりも長い。少なくとも今まで躱せたことはない。
「でも、負けてらんねぇ!!」
震える身体を叱咤し、横に振り落とされた俺をブレスの射程圏内に入れようと動くドラゴンの前に一瞬姿を現し、すぐさま身体の下へと飛び込む。
「GOAAAAAAAAAAAA!!!」
俺を視認したことでブレスは誘発され、ドラゴンの口から灼熱の劫火が噴出した。ドラゴンの身体の下に潜りこんだ俺はまだ喰らってはいないが、油断は出来ない。恐らくこいつには「火属性ダメージ軽減」的なものが付いているはずなので、いつ自分諸共俺にブレスを吐き出してもおかしくはない。
幸い今回は身体の下にいることでブレスを喰らうことはなく、そのままガスガスとHPを削っていく。
50%を下回って行動パターンが劇的に変化するということもなく、そのまま難なく(何度か危ないところはあったが)25%までHPを減らすことに成功する。
このまま行けるかも? と思った俺は多分普通の感性の持ち主だろう。だが、待っていたのは絶望だった。
「GRRRRUAAAAAAAA!!!」
「んなっ!? って……は?」
HPが25%を下回った瞬間、上に乗っていた俺を振り落とし、ドラゴンはその今まで活用されてなかった翼でもって飛び上がった。
そう、飛んでいるのである。銃を撃ってみるが、現実の物より性能がダウンしているため、当たるはずもない。
「これ、どうしろってんだよ!!」
そのままドラゴンはこちらに急降下してきた。見ると、口の中から赤い焔が溢れ出そうとしている。
慌てて横に駆け出し、懸命に距離を取ることで何とか炎のブレスからギリギリのところで逃れる。しかし、掠ったのかHPが2割近く削れてしまう。先程までのブレスと比べたら驚くほど良心的だが、今回のブレスは恐らく終わるまで続く。とんでもない心折設計だ。
「ってか、これじゃ攻撃できねぇじゃん。マジでどうしようか……ん?」
打開の方法を求めて辺りを見回していると、先程のブレスの影響か、最初は閉まっていた控室と反対側の扉、というか檻が壊れている。
数々のゲームをやってきた経験から、確信に近いレベルでその先に打開策があると感じ取り、上空を旋回するドラゴンに気を付けながら檻に向かって走る。
檻を越えた先は薄暗い通路で、柵に塞がれた真っ直ぐ進む道と、上に行ける階段があった。階段を昇ると再び通路で、一回曲がった先に外への出口があった。あまり時間をかけているとドラゴンが何をしてくるかわからないため、慎重かつ大胆な精神で走っていくと、途中で出口に影が差した。
何かが外から顔を突っ込み、口の中に炎を溜めているようだ。
要するに、ドラゴンだった。
「勘弁してくれ!!」
慌てて少し前に通り過ぎた部屋の中に飛び込んだところで、後ろをブレスが通過する。HPは既にギリギリで、もう少しでレッドゾーンに入ろうとしている。
「つぁー、痛くないけど心がつらい!」
こうね、温度とかも再現されてるから、ブレス掠ると熱いんですよ。そりゃ死ぬほど熱くはないんだけど、心労は蓄積していくばかりだ。
飛び込んだ部屋の中は、会議室のような場所で、真ん中に大きなテーブルがあり、その上にはコロセウムの地図が広げられていた。壁には棚が取り付けてあり、いくつかの小瓶が置いてある。
って回復アイテムじゃん! マジか!!
慌てて駆け寄り、手に取って身体にぶつける。すると、身体が緑の光に包まれてHPが少し回復する。回復アイテムはどう見ても液体なのだが、別に飲まなくても身体に振り掛けるだけで効果はある。
そのまま見つけた回復アイテムをすべて使い、HPを7割まで回復させることができた。ブレスを一発喰らえば即瀕死か死か(Red or Dead)なのだが、それでも無いよりはましだ。
「さて、行くか!」
何度目になるかわからない鼓舞をして、通路に向かう。ドラゴンはいないようなので、様子を窺いつつも通路を進み、出口から顔を出す。
出口の外は客席のような構造となっており、最初にドラゴンに破壊されたこともあって足場は悪いが戦えないこともないだろう。辺りを見回すと客席の一番外周の部分に、均等にいくつもの大型弩砲が設置してある。あれを使えばドラゴンも倒せそうだ。
で、問題のドラゴンはというと、空中を旋回していた。どうせもう発見されてそうだし、事を行うなら急いだ方が良いだろう。
逸る気持ちを抑え、かつ最速でバリスタに駆け寄る。構造は簡単なもので、弦を引いて置いてある矢をセットし、スイッチのようなものを押せば矢が飛ぶようだ。
狙いを定めて、第1射。ビュンッ! という空気を切り裂く音とともにドラゴンに向かって飛翔するが、わずかに狙いが逸れて落下していく。そして、当然のごとくこちらに気付いたドラゴンが、竦んでしまいそうになる鋭い眼光でこちらを睨み、急降下してくる。
続けて矢を放ってすぐセットした第2射を放つ。ドラゴンが一直線にこちらに向かっていることもあり無事命中し、そのHPを1割ほど削る。つまり、後2発で勝てるということだ。
「ヤバいッ!」
しかし、ドラゴンがブレスの予兆を見せたので、すぐにバリスタから離れる。当らないことを祈って次のバリスタへと向かう。
後ろで劫火が弾けたのを感じたが無視し、次の矢をセットして狙いも定めずに放つ。距離が近いこともあって命中し、再びHPバーがガクンと減少する。
「GUWAAAAAAAAAAA!!!」
しかし、残り1割を切ったことでか、ドラゴンは今まで以上の咆哮をあげ、こちらにブレスを放ってくる。
硬直から立ち直ってすぐに横に跳ぶことで回避には成功できたが、バリスタが破壊されてしまった。見ると、ドラゴンはそのままこっちに突っ込んできている。
「う、うおおおおおお!!!」
恐怖に押しつぶされそうになる心を懸命に叱咤し、ドラゴンと逆方向———バリスタの方に駆け、そのままバリスタを踏み台にして後ろの壁に跳ぶ。
突っ込んできたドラゴンを跳んだことで回避し、壁を蹴って再びドラゴンの元に舞い戻る。
そして、空中で槍を取り出して投げつけ、続けて槍を消して大剣を取り出し、体当たりでもするかのようにドラゴンの頭蓋に大剣を叩きつける。
大きく咆哮するドラゴンに負けぬように叫び、ドラゴンの頭から背中に向かって跳び、空中で取り出した銃で乱射をしながら、着地と同時に片手剣を突き刺す。
一瞬の静寂の後。
ドラゴンは、その身体を無数のポリゴンへと変えて爆散した。
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