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2話同時投稿です!前の話からお読みください。
そして、突然ですが最終話です!
日が暮れ、中世ヴェネツィアを模した近代的な都市には夜の帳が訪れるも、その活気は止むことが無く、むしろこれからが本番とばかりに騒々しい賑わいを見せている。
街では光で彩られた神輿でのパレードが行われており、この『Infinite Universe』の主題歌を担当している某有名アイドル歌手の三惑星同時ライブなんて物も行われている。
さらに、お祭りということで日本風の縁日のような物もあり、限定アイテムが手に入るということで純粋にお祭りを楽しむ者からアイテム目当ての廃ゲーマーまで街を練り歩き、オーシャンの街は騒がしい祭りの形相を見せていた。
そんな光景を街から少し離れた丘で、青々をした芝生に腰かけて眺める。
「ようアサヒ、お疲れか?」
「ああ、ユキムラか。姫様はどうした?」
「途中で会ったリンとかエルフィニアの面々と浴衣型の外装に合う小物を見に行ったな」
「逃げてきたのか」
「戦略的撤退さ」
いつの間にか現れた藍色の浴衣姿のユキムラが「よっこらせ」と隣に腰を下ろす。流石のこいつも女性陣に1人混じっての買い物は回避したいイベントのようだ。
ちなみに現在浴衣姿のユキムラだが、俺や、今ここにいないリンと姫様も同じく浴衣を着ている。少し前に揃って手に入れたのだ。
手渡されたホットドッグのような食べ物を礼を言って受け取り、一口かぶりつく。
雑な味付けのされた味の濃いジャンクフードだが、祭りの雰囲気も相まって何故かとても美味しく感じた。
座ったことで人心地ついたのか、ふう、と一息ついてユキムラが独り言を言う様に呟いた。
「祭りってのも楽しいもんだなぁ」
「もう現実じゃ伝統的なやつ以外はあんま無いしな」
有名な青森のねぶた祭りや東京の三社祭り、京都の祇園祭りとかならともかく、悲しいことに夏祭りなどの縁日といった物は昔と比べて減少傾向にあるらしい。現に、俺は生まれてからこういった祭りに参加したことは片手で数える程度にしか無い。
いつかやっていたテレビによると、「祭り」という物を体験したことが無い、という人も珍しくなくなってきているらしい。
「お前は行かないのか?」
「さっきまで散々騒いでたじゃんかよ」
「まあな」
ついさっきまでは俺たち4人で縁日を荒らし回っていたのだが、リンがエルフィニアの方に合流したことで、空気の読めるアサヒさんはユキムラたちを残してその場を離れたのだった。まあ、結果としてぼっちとなったのだが。
いやー、これまで何だかんだで4人で行動してたから、俺個人の知り合いがほぼいないことに気付いて愕然としてしまった。最初に出会った鍛冶屋のクレハの店を冷やかした後、行くところもなく街から少し離れた丘に来た次第だ。
それから少し話をしたところで、よいしょ、とユキムラが立ち上がる。
「さて、じゃあ俺は船団の方に行くよ。お前はどうする?」
「俺も行っていいか? イリスになら世間話できるし」
「現状ぼっちだしな、お前」
「うるさいよ」
カラカラと笑うユキムラの脛を蹴っ飛ばし、俺は喧騒止まぬ街へと丘を下って行った。
◆ ◆ ◆
スティグマに最後の一撃を加えた後、タイムリミットギリギリで間に合ったのか、俺たちは何とかイベントをクリアしてコロニー最深部から転送された。
その後はストーリーイベントだったのだが、面倒なので省略する。
ざっと言うと、転送された先はコロニーの中にあるらしい隠し部屋のような場所で、出口も何もない真っ白な部屋だった。
そこには『ステラ』と名乗るNPCの女性がおり、簡潔に言うと「このコロニーは実は元々は宇宙平和機構の物で、長い時を彷徨ったことで暴走してしまった私たちを止めてくれたことを見込んで頼みがあります」とのことだった。ちなみにこのステラはコロニーの管理人格とやららしい。
それで、そのお願いというのが「衰退した宇宙平和機構には原因となったある宇宙生命体がおり、それは歴史の闇に葬り去られている。それは大変危険なため、何とかして封印してほしい」とのことだった。何ともまあ、陰謀暗躍飛び交う宇宙ならではの出来事である。
そして始まったのが『メインクエスト:宇宙平和機構衰退の謎を暴け!』である。まさかのグランドクエストが開始したのだった。
とはいえ、現状取っ掛かりすらない状況なのでどうしようもないのだが。グランドクエストということは深層に辿り着くまで1年2年は掛かるだろう。気長にやっていくしかないな。
「このイベントをクリアしなかったとか、これからイウを始める人はどうするのかな?」
という姫様の至極当然な疑問は、
「他のイベントで補填するか、それとも別ルートがあるのか。どっちにしろ運営も馬鹿じゃないんだ。問題ないだろ」
というユキムラの言葉で取りあえずの答えを得た。
その後はイベントが終了してオーシャンに転送され、一旦落ちて少し遅い昼食を各自取り、再びコロニーへと強襲を仕掛けた。俺のスキルが上がったことやエリアや敵の情報を得たことによって対策を取ることが出来たため、結局この日1日で3周することになった。
そして、肝心のイベント終了後のランキングだが。
「まあ、こんなもんか」
「そうですね」
「……えーと、十分凄いと思うんだけど」
結果はオーシャンはアースに次ぐ2位。あと、俺たちのパーティは戦績として上から5番目の順位にいた。
ちなみに1位は『紅蓮の騎士団』の『剣聖(仮)』アルファのパーティだった。どうやら最後の『アーマードギア』戦で強いのやデカいのを狙わず、小さいのを数多く倒すことでポイントを稼いだらしい。
俺たちは3周でスティグマ2体、ラムダ2体、イプシロン1体、デルタを1体の計6体倒したのだが、後で聞いた話によると、アルファのパーティはすべて合わせて何と30を超える数を倒しているらしい。
これは1回に出てくる『アーマードギア』の数とほぼ同じだ。何ともまぁ無茶苦茶な数である。そりゃ勝てないわ。
ちなみに勢力ランキングは1位がアース、2位がオーシャン、3位がパラディアとなった。1位のアースは総パーティランキングで2位をぶっちぎりで突き放した1位のアルファパーティを有するため、当然っちゃ当然ではある。
そして、3位のパラディアだが、一番の有力パーティが敵味方構わず殺しに掛かっていくような死神がいるパーティだったので、味方殺しはペナルティがあったこともあり、順位が伸びなかったと考えられている。また、当然の帰結として死神のパーティはランク外である。……あいつ、どんだけ味方を殺しまくったんだ?
総パーティランキング5位の景品は衣装アイテムだった。ステータスの上昇は無いが普通の装備とは別に装備することが出来て、装備を上書きする形で外装にすることが出来る物だ。
つまり、例え鎧を着ていようが、水着の衣装をセットすれば外装は水着になるのである。それも鎧のステータスを適用したままで。
ただし、重量なども適用されるので、あくまで変化するのは外装だけである。
上の例で行くと、やたら固くやたら重い水着、という謎の物体が出現するのである。
ユキムラ曰く、こういうお楽しみアイテムは基本課金である上に、ゲームバランスを崩壊させる危険もないため、景品としては普通に予想内であるらしい。確かにそう言われてみれば、変な性能の装備を渡すよりも安全なのは明らかだった。
で、俺たちに渡されたのはシンプルなスタイルの浴衣型の衣装だった。早速それを着て縁日を練り歩いたのは言うまでもないだろう。
「あ、センパイ! おーい!!」
「ゆきくん! アサヒくん!」
丘から縁日をやっているところまで歩いてきたところで、偶然通りがかった姫様とリンに発見される。近くには『エルフィニア』の面々や、イリスたち『星屑の船団』の面々もいるようだ。
2人が手に持っているりんご飴やら水風船やらから楽しんでいるのがありありと想像でき、なんともまあ微笑ましい気持ちになる。言ったらリン辺りはむくれるだろうが。
大きく手を振る2人にユキムラと顔を見合わせて苦笑し、俺たちもまた手を振りかえす。
そんなこんなで、俺の初めてのイベントは騒がしいままに終わりを告げた。
◆ ◆ ◆
8月も半ばに入り、世間一般の高校生はそろそろ宿題に危機感を覚える始める頃。俺は1時間ほどかけて東京の神保町にある『chat noir tigré』という普段来ないようなお洒落なカフェを目指して駅から歩いていた。
まだまだこれからが本領発揮だとでも言っているのか、太陽は無駄にやる気を出して気温は着々と上がり続けているようだ。世間は温暖化温暖化言っているのだが、実際のところどうなっているのやら。最近石油に代わるエコなエネルギーの量産の目途が立ったとかニュースでやっていたが、所詮ゲームに夢中の一般的な高校生の俺には詳しい話は分からない。
少し気になる本屋があって約束の時間はギリギリの上に、目当てのカフェは見当たらず、更には日差しが熱いと精神的に三重苦だが、それでもめげずに携帯端末の見難い地図を頼りに歩き続ける。
そして、地図を頼りに大通りから道を一本入ったところに、それらしい店を発見する。
「ん……ここか」
散々通り過ぎてた小道に入ってすぐのところに『chat noir tigré』と書かれた猫の形をした看板を発見する。
特別選択外国語講座で周りに流されてフランス語を選んだので、これくらいは読める。テストは無いが、授業は一応きちんと受けているのだ。もっとも、そのあまりの難しさに心は半ば折れているが。
カランカラン、と小気味良い音を立てて『open』という札をぶら下げた扉は開き、一歩店の中に入ると冷房の効いた心地よい空気が火照った身体を冷やしてくれる。
店内は欧州風の内装が落ち着きのある空間を作り出していた。どうにも、こういうところに入ることは滅多にないので少々緊張する。
「……いらっしゃいませ」
前を見ると、ゴシック調のエプロンドレスを着た長い髪の少女が無表情のまま歓迎の言葉をくれた。中学生くらいなので、この店の子だろうか?
少し疑問に思うも、まあどうでもいいかと横に流す。
「おひとりですか?」
「いや、待ち合わせ―――」
「あ、来た来た! 遅いですよ、センパイ!!」
続けられた言葉に返したところで、店の奥から落ち着いた雰囲気をぶち壊すやかましい声が店の中を響き渡った。
その「いつも通り」な声の調子に、思わず頭に手をやって溜息をついた。
「あー、あれの連れです。ごめんね、騒がしくて」
「……あの子は常連だから慣れてる。度が過ぎたらあの子だけ追い出す」
「そりゃまた心強いね」
喫茶店の気苦労の一端を感じ取って申し訳なくなるも、ついて来て、とばかりにずんずん進んで行く少女を追って歩き出した。
そして、奥のボックス席にいる3人の男女の席に案内される。
「よう」
「ああ、『初めまして』」
ウェイトレスの少女に取りあえずアイスコーヒーを注文し、ごゆっくり、と去っていく少女を見届けて、改めて3人を見直す。
隣にいるのは若干明るめの髪をツインテールにした少女。
対面に座るのは少し焼けた肌のすらっとしつつも体格のいい青年。
そして、その隣が艶のある長い髪を流した、まさに現世に偶然現れた天使、いや女神ともいうべき美少女。その美貌はまさに天照でも羨んで岩の奥底から出てくるかのような美しさで、俺の横にいる少女とは比べるのも失礼となる。隣に座る者はその幸運に咽び泣くだろう。
そして、その幼馴染ともなれば、いつ死んでも我が生涯に悔いなし、と往生できるだろう。
「「おいこら」」
とまで考えたところで、隣と前からストップがかかった。
「思考ダダ漏れなんだよふざけんな。てかヒメのだけやけに仰々しいんだよ!」
「てか比べるのも失礼ってなんですか! ヒメセンパイは確かに可愛いですけど、流石にあたしも見られて失礼な顔してませんよ!」
「つーか往生ってなんだよ! そんな簡単に悔い流せねぇよ!」
「おいおい、そんなに叫ぶと店の迷惑だろ?」
「「誰のせいだよ(ですか)!!」」
はぁはぁ、と息をついて手元のドリンクを飲む2人。
と、ここでさっきとは別の活発そうなショートヘアの少女がアイスコーヒーを持って現れる。
「はい、アイスコーヒー」
「ん? ああ、ありがとうございます……?」
やけにフレンドリーな少女に若干疑問を覚えたが、取りあえずお礼を言って受け取る。もしかしたらこれが東京の基本なのかもしれないし。東京すげぇ。
冷たいコーヒーを飲んで人心地付いたところで、さて、と目の前の青年が話し出す。
「どっかの馬鹿が遅れたうえに場を引っ掻き回してくれたが、水に流して始めようか」
「いや、ギリギリ遅れてないだろ」
「一番遅ければギルティですよ」
「何それ理不尽」
「まあまあ……ほら、仲良くね?」
にこにことした笑顔を浮かべて、斜め前に座る美少女が仲裁に入る。流石は女神である。
「ところでここの店の店員、やけにフレンドリーなんだけど」
「ああ、それはですね―――」
ふと感じた疑問に隣の少女が答えようとしたとき、突如通路側から声が割り込んできた。
「そりゃ、知ってる仲だからだよ」
横を見ると、エプロンドレスに身を包んだショートヘアの少女と、その奥に先程の髪の長い少女が立っていた。よく見ると顔が似ている。双子だろうか?
「里奈、仕事はいいの?」
「お客さん少ないし、大丈夫っしょ!」
そう言って、少女―――里奈はコロコロと笑う。店員としてはどうかと思うが、カウンターの奥にいるらしき店のマスターが何も言わないってことはこの店ではこれでいいのだろう。
それよりも、俺はさっきの言葉が気にかかった。
「『知らない仲じゃない』?」
「…………忘れたの?」
その呟きに、今度はもう1人の少女が反応する。
「……あんなに尽くしてあげたのに……」
「泣かないで陽菜っち、この男がクズってだけだよ!」
「うわー、女の子泣かせるとかセンパイ鬼畜ー」
何故か知らんが、気が付いたら周りが敵しかいない。あと泣かしたも何も、件の少女は無表情でこっちを見ているんだが。
それとなく女神に助けを求めるが、彼女は苦笑いしてアハハ、と笑うばかりだ。目の前の男はどうせニヤニヤしてるだけだし、此れまさに四面楚歌である。
周りが果てしなくうざいが考えを巡らす。そもそもこの店を提案したのはこの隣に座る少女だ。ってことは、この2人は彼女の知り合いである。そんな2人が俺と知り合いってことは―――
「どう考えても仮想世界関連じゃん」
誰だろ? そう考えるとどうも見覚えがあるんだけど。
うーん、と考えていると、満足したとばかりに店員2人は去って行く。
「ま、うちらのことは後でいいでしょ。先にそっちで自己紹介しちゃいなよー」
「……では、ごゆっくり」
そう言って、ひらひらと手を振って少女たちは店の奥へと行ってしまった。
「ま、それじゃあ取りあえず自己紹介か」
そう言って、青年が今回の趣旨をようやく実行する。
何か色々あって無駄に遠回りしたが、今回俺が太陽の熱烈なアプローチの中ここまで来たのはこのためである。
「遠回りの半分以上はお前のせいだけどな」
「うるさい進めろよ」
どうも最近心の声が読み取られて過ぎていて困る。
「ったく、じゃあ俺からな。俺は浅賀幸村。HNはユキムラ。『初めまして』、だな」
そう、目の前の青年が言い、
「じゃあ次は私ね。私は相川姫子。HNはヒメコです。よろしくね」
続けて斜め前の少女が言い、
「あたしですね。あたしの名前は天音美鈴です。HNはリン。よろしくお願いします!」
そして、隣に座る少女が言い、
「最後か。トリは緊張するな」
「はよやれ」
「はやくー」
「うっさい! ……コホン、新堂旭だ。HNはアサヒ。みんな、『初めまして』」
俺たちは、ようやく初めて出会ったのだった。
最終話「初めまして」
何と、そんなこんなで終わってしまいました!
これを機に活動報告を書こうと思っているので、少し遅れるとは思いますが、詳しくはそちらで!
とにかく、初めての物書きだったのですが、こんな作品に今までお付き合いいただき、ありがとうございました!
……里奈と陽菜? えー誰だろー(棒)




