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お待たせしました!
お詫びと言う訳ではないですが、2話同時投稿です!
いつの間にかすぐ傍にまでやって来ていたフィナとリーベに驚くが、2人と、そしてリンと顔を見合わせ、大きく頷く。ここに来たら意図することは皆同じだ。
「…………パンダ」
「あれそっち!? ああいや、これには深い訳が……」
フィナはラムダやスティグマとの戦闘を通して無残にもボロボロになった俺のフードに目をやった後、責めるようにしてジト目で見てくる。それが今言うことなのかどうかは知らないが、確かに自分が自信とこだわりを持って作った作品をほんの数十分でボロボロにされたら嫌な気分になるだろう。
「そうじゃなくて! フィナっち!」
「………………サポートする」
「その間は何さ……。ちなみにうちも後衛ね。あんなの喰らったらひとたまりもないし」
「分かった。リン」
「あいさー、いい加減終わらせますか!」
リンに合図をして、同時に走り出す。空中で佇むスティグマはフィナのトラップに掛かったのか魔法陣に纏わりつかれているが、動きは止めてはいてもダメージは無い。もしかしたら下級の魔法ではダメージが無いのかもしれない。
そして、煩わしいとでも言うかのように、スティグマは剣を一閃することで周囲の魔方陣を両断し、発動していないトラップごと爆破した。
「フランベ! ストーム!」
だが、そこでスティグマに余計な行動をされないように、すかさず後方からリーベが援護に入る。
リーベの指示を聞き、身の丈ほどの火竜は大きく一鳴きし、自身の何倍もの大きさの炎の渦をスティグマ目掛けて吐き出した。
炎の渦はスティグマに迫るが、その身体に当たる直前、半球状の半透明なバリアのような物に弾かれて後方へと流れていった。
「フレイムストームですね。ダメージは無いみたいですけど」
「もしかして魔法全部効かないんじゃねぇの?」
「もしそうなら無茶苦茶ですけど、有り得そうのが怖いですね」
すると、突如スティグマの後方に流れていった炎が蹴散らされ、その中から巨大な大鎌を持ち、白い髪を靡かせた男が現れる。
言わずもがな、『死神』パンドラだ。
「イヤハハハァ! 楽しそうなことになってるじゃねェか!」
だが、炎に隠され、しかも背を向けていたため明らかに姿は見えなかったはずなのにも関わらず、スティグマはパンドラへと向けて巨大な剣を薙ぎ払った。
「おっと、危ねえなァ!!」
しかし、スティグマが人が生み出した怪物なのだとしたら、パンドラは人智を越えた化け物なのだろう。あろうことにか、パンドラは高速で振るわれる剣に大鎌を突き立て、身体を上へと逃がすことでその攻撃を回避した。てかあれダメージ判定的にどうなってるんだ?
そのまま剣を振い続けるスティグマに対し、パンドラは獰猛な笑みを凄めながら回避し続け、信じがたいことに振るわれる剣を足場にして空中でスティグマと渡り合う。
「もうあいつ1人でいいんじゃないか?」
「でもあと30秒! 行きますよ!」
スティグマがパンドラに気を取られている間も走り続け、その足元にまで辿り着いた。
そして、アイコンタクトで呼吸を合わせ、リンを両手棍に乗せてそのまま跳ね上げる。
俺が棍を跳ね上げるのと同時に宙へと跳んだリンは、合わさったエネルギーによって易々とスティグマとパンドラの戦闘空域にまで辿り着き、パンドラが剣を抑えた隙を見計らってスティグマへ踵落としを叩き込んだ。
「テメェ! 俺様の獲物を何奪ってくれてんだァ!!」
「あいつは元々あたしたちの獲物です!」
「あのデカブツも奪ってくれてるしよォ……覚悟はいいかァ?」
「話聞いてって! イプシロンなら倒したのはあたしたちじゃなくてスティグマうひゃあ!?」
何故か空中で戦闘が再開されたが、今はそれよりもスティグマだ。硬直無効ではあるものの衝撃を受ければ吹き飛びはするようで、リンに蹴飛ばされたスティグマは地表近くにまで落ちてくる。
翼を広げて制止し、地面に足を付けるスティグマだが、足をつけた瞬間に罠が発動し、その周囲、前後左右全てを大量の魔方陣が隙間なく覆う。
だがしかし、スティグマは意にも留めずに光球を作り出して無数のレーザーを操って魔方陣を斬り裂き、その全てを破壊した。
「うっわー。フィナっちの努力とお金の結晶が……」
「…………知らない」
後ろで引き気味に言うリーベにフィナは少し不貞腐れたように言う。
「……時間は稼いだ、あとは任せる」
「了解、だ!!」
爆発に紛れて近づいた俺は、思いっきり棍を振りかぶる。
しかし、その程度でスティグマを欺けるはずが無く、向こうもその巨大な剣を振りかぶるが―――
「よっと! フィナの頼みじゃなきゃお前なんか助けねぇのにな!」
「頼むから平和に行こうぜ、おい」
「ハッ、ほざけ」
―――横から飛び出したトーヤが、手に持った光り輝く二振りの槍で剣を地面に縫いとめた。
流石に質量に覆せないほどの絶対的な差が存在しているため長くはもたないだろうが、一瞬もあれば十分だ。阻む物が無くなったことで、俺の放った渾身の一撃はスティグマの顔面にクリーンヒットした。
「喰らえ!」
両手棍スキル重単発技『覇咢衝』。光を帯びた両手棍を目にも止まらぬ速さですれ違いざまに一閃し、敵を吹き飛ばす技だ。
硬質な音を響かせて決まった両手棍の一撃はスティグマを縦回転させて大きく吹き飛ばし、スティグマはそのまま剣を手放して倒壊した柱の残骸へと突っ込んだ。
「おいバカ! やり過ぎだこのアホ! 時間ねぇのに面倒なことすんなクズ!」
「うるさいな、流れるように罵倒するなよ!」
遠くから罵ってくるトーヤに内心やっちまったと思いつつも言い返し、追撃を仕掛けるべく柱の残骸へと駆ける。
だが、俺が辿り着くその前に、残骸の隙間から突如光が溢れ爆発した。
「今度は何だよ!」
爆発の影響で吹き飛んだ残骸の中から、光を纏ったスティグマが現れる。
その左腕は既に手首から先が切断されて存在せず、翼もボロボロになっている。武器も失って満身創痍のはずなのだが、全身から放たれる白と赤黒い二色の光は、圧倒的な強さのプレッシャーとなって俺たちに襲い掛かる。
「おいおい、あんなの1人で相手に出来ねぇだろ」
スティグマの残りHPは既にあと僅かのはずだが、注視すると現れるはずのHPゲージは姿を見せない。どうやら情報にロックが掛かったらしい。
「あ、このやろ! ちょっと!」
「ヒャッハァーッ!! ガキは家で寝てな! 俺様の相手は相応な奴でないと務まんねぇンだよォ!!」
俺が躊躇して立ち止まった瞬間、空中でリンが悲鳴を上げ、同時にパンドラが凄まじい勢いで降ってきた。どうやらリンを蹴飛ばして足場としたらしい。
そのままパンドラは滑るように走り出し、身動きしないスティグマへと大鎌を振りかぶる。
しかし、
「―――ちッ」
一瞬で閃いた右腕が、片腕で大鎌を白羽取りすることで動きを止める。
そのままスティグマはゼロ距離でレーザーを撃ち出すが、そこは流石は「死神」の名を轟かせているパンドラと言うべきか、掴まれた大鎌を起点にして空中へと逃れる。
そして、今度は1回の跳躍から身を捻るだけで無数のレーザーを躱し続けるパンドラを見て、俺は思わず呆然としてしまう。正直、人間やめてるとしか思えない。
「おい、ボサッとしてんな!」
「センパイ、ここはチャンスですよ!」
そんな俺の背中を叩いて通り過ぎたトーヤに続き、何時の間にか地上に戻ってきていたパンドラの踏み台……もとい、リンも俺を追い抜いて行き、俺も負けじとスティグマへと駆け出す。
「む、何か邪気を感じました」
「ニュータイプかお前は」
追いついた俺にジト目を送ってくるリンは無視し、残り時間を確認する。
既にタイムリミットは10秒も残っていない。これが正真正銘のラストチャンスだ。
「大技を一撃決めろ! それで勝ちだ!」
トーヤが叫び、そのまま光り輝く槍を構えてスティグマへと突進する。
「うおおおおお! スーパーライジング!!」
スティグマへと突っ込むトーヤはそのまま雷を身に纏い、バチバチと鳴り響く白い稲光を放出しながらスティグマへと一瞬で距離を縮めて突撃する。
だが、流石のトーヤも残り僅かなタイムリミットに焦ったのか、少し考えれば分かることなのだが、あのスティグマに一直線の突進なんていう短絡的な攻撃が通用するはずがない。
それは例え、こちらが強力なスキルを発動して向こうがパンドラという化け物を相手にしている片手間であっても、変わらない事実なのだ。
<アサヒ!>
「ッ!? ユキムラか!」
今までの30分弱をスティグマと戦い続けている経験から、トーヤが防がれて投げ飛ばされる光景がありありと想像出来たところで、ユキムラからの通信が入る。
<時間が無い! 俺たちで残り1秒、決めるぞ!>
「……おーけい、リン!」
「分かってますよ、センパイ!」
今空にいるお前らがどうやってだよ、などとはもちろん言わない。こんな状況でユキムラが嘘を言う訳ないし、ユキムラが「決める」と言うならば俺たちはそれを信じて動くまでだ。
そして、俺とリンはすぐに次の一手のために動き出す。
目の前に迫った戦場では、ちょうど一歩引いてパンドラの斬撃を躱したスティグマがトーヤの槍を右手でごく自然なことのように掴み取り、そのままパンドラに向けて投げ飛ばしたところだ。
だが、そこは流石はパンドラと言うべきか。そんなことには動じず、逆に空中に出来た「足場」を利用してスティグマへと突っ込む。
もちろんその影響でトーヤは地面へと叩きつけられるが、彼には些細な問題なのだろう。
蹴りと大鎌の連続攻撃は流石に躱すのが難しいと判断したのか、スティグマはまたもや振り下ろされた大鎌を白羽取りにする。
「はぁぁぁあああああッ!!!」
そこに弾丸の如き勢いで両手棍の上から射出されたリンが突っ込んだ。
「チッ、邪魔すんなよクソガキ!」
さらに、リンに獲物を取られるとでも思ったのだろうか。パンドラはスティグマに掴まれたままの大鎌から手を離し、大鎌を掴んでいるスティグマの右腕を足場に空へと跳ぶ。
そして、空中で一瞬虚空へと指を這わせたかと思ったら、今度は大鎌の柄の上へと脅威のバランス感覚で着地し、続けて空中をタップするように指を動かす。すると、スティグマが掴んでいたが掴んでいた大鎌は消え去り、代わりにパンドラの手に大鎌が出現した。
「喰らいやがれよオラァァァアアアア!!!」
現れた大鎌を掴み取ったパンドラは、そのままスティグマへと振り下ろす。同時に、背後からリンが双剣を構えて突っ込んだ。
だが、それでもスティグマは怯まない。スティグマは躊躇うことなく大鎌に手首から先が無い左腕を喰わせ、パンドラの動きを止めると同時に右腕で背後から襲いかかるリンの頭を掴み取り、掬い上げるようにしてパンドラ諸共空の彼方へと吹っ飛ばした。
大鎌に斬られた左腕は肩付近から斬り落とされて消滅したが、それでもまだスティグマは倒れなかった。
そして、リンたちが吹っ飛んだ方向を見たまま、つまり俺に背を向けたままスティグマは半歩だけ横へとずれる。だが、それだけで後ろから飛来したワイヤー付きの剣身を躱した。
「うっわ、そりゃないわ」
背中に目でもついているんじゃないかと疑うほど、いとも容易く躱されたことに軽く絶望しながらも引き金を引き込む。
スティグマは最早吹き飛ばした2人には興味を失ったのか、機巧剣での攻撃を仕掛けた俺へと向き直る。
だが、それは悪手だ。
「まだまだ! ここからですよ!」
俺の手元へと引き戻されるワイヤーを伝い、首を刈るようにしてリンが空中から舞い戻る。
そう、全てはこのため。死角からの最短距離での特攻。このためにリンはわざと吹き飛ばされ、俺はスティグマが躱すことを信じて機巧剣をリンへと放った。もちろん、それまでに仕留められたらそれで良いとも思ってはいたし、こちらを全く見ずに剣身を躱したことは内心絶望しかけたが。
しかし、これまでの戦いから分かるように、これだけではスティグマを欺く事は出来ない。
スティグマの武器は強力な攻撃方法や全身眼が付いてるんじゃないかと疑いたくなるほどの空間把握能力もさることながら、その高度な思考パターンが一番厄介だ。どんな攻撃をしても最低限のダメージで抑えるように思考が練られ、自らの持つ能力をフルに発揮して対処する。
だが、それならそれで対処法はある。つまり、スティグマにも逆らえない力を逆手に取り、その動きを封じてもらうのだ。
<今だ!>
ウィンドウからユキムラの声が響き、その瞬間、俺の身体が陽だまりのような柔らかなライトエフェクトに包まれる。
これは光属性の回復魔法『サンライトヒール』だ。絶賛落下中の姫様がギリギリ魔法射程圏内に入った俺へと向かって回復魔法を放ったのだ。
そして、スティグマは回復魔法使いに異常に反応する。
ラムダを倒した後にリンの救援に向かった姫様が狙われたように、スティグマは回復魔法を使った者への憎悪値がとんでもなく上昇する。恐らくは製作者の意図なのだろう。
確かにヒーラーから倒すのは鉄則中の鉄則だが、今回ばかりは裏目に出た。これがまだスティグマのHPが沢山残っている状態なら、多少の攻撃は硬直無効の恩恵で振り切ってヒーラーを退場させるのだろうが、うちの走って跳べるアイドルこと姫様は今までスティグマから逃げることに成功しており、未だ健在だ。
姫様とてそう何度も逃げられるとは限らないため温存していた切り札だが、残り僅かなHPのスティグマに使わない手は無い。切り札とは使うべき時に使えるからこそ切り札なのだ。
発動した回復魔法に反応し、スティグマは迫るリンではなく上空の姫様をターゲッティングする。
そして、リンはその無防備な首筋に双剣を叩き込んだ。
「いっけぇぇぇえええええッ!!!」
双剣スキル五連撃技『メテオアクセル』。流星が煌めくかのような目にも止まらぬ連続攻撃が、一撃一撃確実にスティグマへと吸い込まれていく。
まあ、正直今回の俺の役目は躱される前提の機巧剣ぶっぱして、突っ立って回復魔法を掛けられる、という非常に地味なものだが、致し方ない。装備とスキルを整えて、次は俺が決められるようになろう。
と言う訳で、まあ俺が言うことでもないんだが。
「俺たちの勝ちだ、スティグマ」
視界端のタイムリミットがゼロを示すのと同時に、光り輝く双剣が機械仕掛けの天使をついに両断し、そのHPを1ドットも残さずに吹き飛ばした。
時間「空気読んだ」




