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————check……Complete
————Game start. Welcome to Infinite Universe!!
真っ暗なログイン画面を抜け、転送ポートの前に降り立つ。
今の俺はリアルの色白で鋭い目つきの新堂旭ではなく、赤髪に少々日に焼けた肌をした『Asahi』という仮想体の姿だ。まぁ目つきは変わってないのだが。
仮想体は通称スキャナーと呼ばれる生体データ測定器によって身体をスキャンし、そのデータを基にして作る。もちろん、何も弄らなければ現実の自分の姿のままだし、やろうと思えば超イケメンやらガチムチやらバリエーション広く設定できる。ちなみに俺は面倒だったため髪と眼と肌しか変えてない。まぁユキムラたちみたいな現実の俺の容姿を知ってる奴らがいるってのもあるけどな。
転送ポートは広いロビーのど真ん中にあり、周囲を見渡すと上に上がるエスカレーターやインフォメーションセンターらしきもの。さらに、各種ショップのようなものまで揃っているようだ。このフロアは2、3階分を吹き抜けのようにしているようで、天井がかなり遠くにある。壁はガラス張りになっていて、青い空から眩しい日差しが差している。
どうやらここは巨大なビルの中のようだ。公式サイトにあった『政務機関』という場所なのだろう。
それよりも、目に見える物、そして見えない物も全てが凄まじい。文字通り「与えられる情報量が違う」のだ。夏のような日差しは肌をジリジリと撫で、冷房のような機械から生まれる冷たい風が温くなった空気を一掃して快適な空間を作っている。目で見れる、触ることができるだけじゃ分からない「雰囲気」のようなものまで存在する。今まででは考えられなかったほど鮮明で圧倒的なこの世界は、とてつもなく「リアル」だった。
今までのものだと若干のラグやオプジェクトの乱れは仕方がなかったからなぁ。
「さて、取りあえずはトレーニングかな」
このゲームで使える武器は種類が豊富で、それを装備するために必要な条件も特にない。手に入れないと始まらないんだけどな。
で、初期状態で武器も持ってない俺は手持ちも少ないため取り合えず買ってみる、といったことが出来ないのだ。
そこで役立つのが『トレーニング』だ。政務機関の地下にあるトレーニングルームでは武器の試しや戦闘訓練が行えるのだ。そして、トレーニングでは武器や防具、アイテムの持ち込みは禁止で、すべて支給される。ちなみに持ち出しも不可だ。
つまり、何も持っていなくても武器を試し放題なのだ。公式ブログによると結構難易度高めのトレーニングもあるらしくてすごく燃える。
というわけで、地下へはどうやって行けばいいのかなーっと。
◆ ◆ ◆
若干残っていた冬の気配はすっかり消え去り、そのまま桜の季節に突入した。
半分以上の見慣れたメンツと今年から加わった新しい顔ぶれとともに、俺は高校に進学した。
新しい友達もまぁそれなりにでき、新しい生活が始まったのだった。と言ってもやってることはあんま変わんないんだけどな。中高一貫校だから校舎も変わらないこともあって新鮮な気分なんて全くないし。
ちなみに、アルティメットは挫けた時もあったが何とかクリアした。まさか最後に覚醒した神様とバトることになるなんて思いもしなかったけど。何度も死んだわ。
だがしかし、クリアした後も何回もチャレンジしてついにリンとユキムラに先んじてSランクでクリアすることに成功した。もう、俺SUGEEEEEだよね。思わず叫んだもん。まあ、2人より早かったのはあいつらがイウやってたってのが一番の要因なんだが。それに、この話をしたら「ちくしょー!」「あたしだって!」と燃え上がり、イウのβが終わって一週間ほどでSランククリアしやがったし。さよなら、俺の優位性。
あと、イウのβも色々あったらしいが無事終わったようだ。やってた奴らはどいつもこいつも「すごいすごい!」としか言わない。取りあえず落ちつけ。そして情報プリーズ。
で、四苦八苦して聞き出した話によるとイウ———『Infinite Universe』はとんでもなく自由度が高く、また、プレイヤースキル準拠となっているところも結構あるようだ。おそらくプレイ時間による絶望的な差が発生するのをある程度抑えるのと同時に、いずれ起きるパワーインフレの予防のためだろう。ただ、こういったMMOは調整が難しいため今後に注目と言ったところだ。
また、ゲームをプレイすることによってある程度は運動神経やバランス感覚といったものを鍛えることが出来るようなので、普段体を動かさない人でも大丈夫だそうだ。まぁ真に平等なようにしてたらゲームになんないし、多少の差は仕方ないだろうが。
イウには既存の『レベル』というものは存在せず、『装備』と『スキル』によって強さが決まる。また、イウでは基本的にステータスは成長しないため、始めからある程度高めに設定されていて死に難くなっているようだ。だが、もちろんこのままだとちょっと強い敵には瞬殺される。
では、どうすればいいかというと、そのために武器や防具がある。武器や防具には『攻
撃』や『防御』といったものを上げる他に『HP』や『SP』その他を上げる効果もあるのだ。
また、詳しくはわからないが『スキル』で上げるという手もあるそうだ。装備やスキルの種類もかなりあるらしく、結構やり込めそうなゲームのようだ。
そして、月日が経つのは早いもので、何だかんだのうちに春は過ぎ去り夏が来た。ちょうど夏休みという名の長期休暇開始直後に発売が決まったイウ公式版を、俺はユキムラ様のお力添えもあってVRSごと手に入れることに成功したのだが、最初の二週間弱を「補習」という監獄に捕えられたことによって無駄にしてしまったのだった。
いや、成績が悪いわけじゃないんだよ。総合では中の中の下くらいだし。ただ、英語が中間、期末と二連続でワァオ!! ってな感じだったため補習が決定してしまったのだった。
中学のノリで行ったら大変なことになったわ。日本人なんだからよくね? って言ったら「今や英語が出来ないと就職できないぞ?」って補修中の課題が増やされて夜もイウやる暇無かったし。携帯端末の自動翻訳ソフトがあれば何とかなる気がするんだけどなぁ。
ともかく、そうしてようやく俺は無限の宇宙へ一歩踏み出したのだった。
◆ ◆ ◆
遥か未来、太陽系エネルギーの枯渇によって滅亡の危機を迎えた人類は、現状を打破すべく長距離航海技術を開発し、遥かなる宇宙に楽園を求めて飛び立った。
そして、それから時は流れ、あるところに1つの太陽と3つの惑星を中心に構成されている銀河系あった。
3つの惑星は各々が勢力の拡大、人類の統一、そして銀河の制覇を目論み争っていた。
しかし、争いの最中に幾万もの罪なき人々が犠牲となってしまい、それを嘆いき立ち上がった人々———後の英雄たちが争いを鎮め、彼らの仲介によって初の三惑星間協定が結ばれた。
その後、英雄たちは永久中立を掲げる『宇宙平和機構』を設立し、永遠の平和を願うのだった。
しかし、近年になってエネルギー問題が明確となり、再び三惑星間が不穏な空気に包まれる。
現状を打破するために三惑星は進んでいなかった周辺惑星の開拓を進めるのだが、周辺惑星では各勢力の小競り合いが続き、弱体化しつつある『宇宙平和機構』ではそれを止められない。
そして、時代は再び群雄割拠の流転の時期を迎えるのであった。
———Infinite Universe 公式サイトより
「とまぁ要するに、周辺惑星を探索したり小規模の戦争みたいのに参加したりするわけだ」
「まだ先だけど、惑星の探索権利を争って戦ったりとかもあるんだよ」
「へぇー」
イウ公式オープンから16日目。それぞれ忙しかったらしいユキムラたちとようやく合流し、色々と話をしているのだった。
肩までの金髪に碧眼で150ちょいのリン。濃い茶髪に琥珀色の瞳で180弱のユキムラ。白く長い髪に翡翠の瞳、160くらいの姫様。で、朱の混じったオレンジの髪に緋色の瞳、170ちょっとの俺。
俺も含めてだけどさ、みんな髪と眼と肌の色くらいしか外見弄ってないのね。分かりやすくて良いけどさ。
「そういやユニバースに入ったりとかは出来ないのか?」
「うーん、入れるっぽいけど条件は不明だな。βでは無理だったし、結構後の方になるのかもしれないな」
「まだ行けないけどユニバースのコロニーもあるらしいし、そこが解放されてからなんじゃないですか?」
場所は惑星『オーシャン』の首都にある政務機関3階のカフェテリア。
三惑星の名前はそれぞれ『アース』、『パラディア』、そして『オーシャン』。
アースは科学技術の進んだ惑星で、街が多層構造だったり動く歩道やガラス張りのエレベーターが至る所にあってすごいらしい。パラディアはファンタジーチックな惑星で、城があったり城壁が街を囲っていたりするらしい。ただし、よくある中世の世界観ではなく、科学技術も発展したよくわからん星のようだ。
で、我らがオーシャンは、惑星の90%以上が海で構成されていて、街のイメージは近未来と自然が調和した感じ。あと海が近いのと、街のあちこちに水路が存在しているのが特徴。近未来的ヴェネツィアといった感じだ。
ちなみに、現在の人数比は大体4:3:3。ちょうどいい感じだな。
「で、センパイはトレーニングに籠っていた、と」
「いやー、つい楽しくて」
「……だからまだ初期装備だったんですね。武器も持ってないし」
「普通トレーニングなんか見向きもしねぇのに」
「まぁ、アサヒ君だから」
姫様さらっと毒吐いてね?
トレーニングは武器に関しては今のところ全部終わっていて、戦闘訓練は半分くらいで止まっている。武器は新たな物を手に入れるにつれてトレーニングが増えていくらしく、現在出来るのは政務機関のNPCショップで買える物、つまり最初に選択できる物のみとなっている。戦闘訓練は……ちょっとあれは無理だわ。
ちなみに、トレーニングが見向きもされないのはスキルを持ち込めないためだ。スキルには『熟練度』というものが存在するのだが、スキルを持ち込めないトレーニングでは熟練度を育てることが出来ないのだ。
「で、どうすんの? このままトレーニング続けるのか?」
「そうだなぁ、最後までクリアしたら何か貰えるかもしれないし」
良くあるよね。「みんな無視してるけど実は結構重要なんです」みたいな展開。
結構レアアイテムが手に入ったりしてね。戦闘訓練はマジで難しいし。
「それなんですけどね、今のところ何も貰えない可能性が高めですよ?」
「……え?」
俺が捕らぬ狸の皮算用をしている時にリンがそう言った。
「スタッフの人も公式で『暇な時にやってください』とか言ってるくらいで、やることがない人以外は別にやらなくてもいいって明言されてますし」
「あと、βの時はクリアしてもお金だけだったらしいよ?」
「ああ。しかもさ、βでクリアできたのは武器が限られてたからで、今は武器全部出てきてないからトレーニング制覇とか無理だし」
「……マジか」
リンに続けて姫様とユキムラが言い、俺はテーブルに突っ伏した。
でもこのまま諦めるのもなぁ。
「えっと……じゃあ今は無理でもまた時間が経ったらやればいいんじゃない?」
「うーん、それもそうなんだけど……」
「……まだやるんですか?」
姫様の言葉に口を濁すと、リンがジト目で見てくる。
いやだってさ、このままだとなんか負けた気になるしさ。
「そう言ってやるな、リン。きっと俺らの中で最初にアルティメットをSクリアしたことで変なプライドが出来たんだよ」
「……うわー」
「おいこら」
ユキムラもリンも好き勝手言いやがって。
……思い当たる節がありすぎるから言い返せないんだがな!
「ともかく、今日はこれからどうするの?」
「センパイも今日くらいは地下に篭るの自重してくださいね」
「へいへい。わかってますよ」
「うーん、近くのフィールドはまだ人が一杯いそうだしなぁ。かといって前線だとアサヒが死ぬし」
「あ、昨日第2陣が来たんだっけ」
「……悪かったな。初期装備で」
「じゃあ、街の探検でもする?」
「おおっ、ナイスアイデアです!」
「「えぇー」」
不平の声を上げるも、戦闘狂の男勢の発言はことごとく無視され、街の探検に行くことになった。男女平等という名の女尊男卑が進んだ現代では、男子は数で上回らない限り勢いからして負けてしまうものなのだ。
裏通りを探索したり、隠れた名店的な物を探したり。最終的に海辺で遊んでその日は終了。
……なんかすげぇ平和。楽しかったけどさ。