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「はあああああ!!!」
前を行くユキムラがライトエフェクトを纏った長槍を構えて突っ込む。
だが、ラムダはそのまま棒立ちしているほど馬鹿ではなく、ダダン! と銃声が鳴り響き、そのままユキムラに黒いエネルギー弾が着弾した。
本来技能は成功し難いものだ。ガードされたり、初撃を躱されたりするだけで硬直する羽目になる。その上、カウンターで攻撃を受けた時なんかは洒落にならない。カウンターボーナスでクリティカル率やその他諸々が上昇する上に、絶望的な隙を相手に見せることになるのだ。
よって、上級者になればなるほど、「如何に相手の隙をつくか」という一種の詰将棋のような世界に足を踏み入れることになる。
それは計算された罠であったり、装備で絶対的な差をつけたりと様々だが、行き着く所は同じである。
その点からみると、「銃」という射程距離チートの武器に対して技能を発動して突っ込むというユキムラの行動は愚の骨頂なのだが……。
「―――喰らえ!」
ユキムラはそんな馬鹿ではない。
黒煙を振り切ったユキムラは技能の発動を保った状態のまま、システムに補助されて物凄いスピードで距離を詰め、一息で4回もの刺突を繰り出す。
長槍スキル五連撃突進技『ゲイルスピア』。4連続の突きで拘束し、止めに風を纏った上からの一撃で相手を押しつぶす技能だ。
相手の攻撃を喰らっても技能が中断されなかったのは『気迫』のスキルの自動発動技能『獅子の魂』のお蔭だ。何でも「HPが8割以上の時は仰け反らない」という効果を持つらしい。
そして、ユキムラの連続突きは見事に決まり、止めの一撃が振り下ろされようとするが―――
「んなっ!?」
明らかに速すぎるタイミングで硬直から回復したラムダはバックステップで一歩下がり、長槍の一撃を回避する。
さらに、追いついた俺が追撃に入ろうとしたのに気が付いたのか、そのまま後方へ大きく跳び、同時にエネルギー弾を数発足場へと放つ。
すると、エネルギー弾は足場に着弾した瞬間、黒い焔へと姿を変えて燃え広がり、巨大な壁として立ち塞がった。
「ちっ、アサヒ!」
「分かってる!」
何が起こるか分からないのでこっちは黒炎の壁を越えられない上に向こうを視認できない。しかし、向こうは長距離広範囲を制圧できる遠距離武器を持っている。
つまり、この状況は非常にまずい。
俺たちの考えは伝え合うまでもなく一致し、すぐさまその場から遠ざかるために、近場の穴から外に飛び出し、外面にへばり付く。
そして、次の瞬間には壁を蹴散らして無数のエネルギー弾が飛来し、ズドドドドドドドッ!! と嵐のような勢いで辺り一帯へと突き刺さり、蹂躙した。
「おいおい、なんつー技だ。喰らったら死ぬんじゃねぇか?」
「見ろよアサヒ。足場に傷がついてる!」
絶え間なく続く轟音の中、ユキムラの示す方向を見ると、運悪く飛来する弾数が多かったのか、ひびが入って若干ボロボロになった足場があった。
つまり、この足場は破壊不能オブジェクトではないのだ。
「最悪足場が無くなるか」
「どっちにしろ、タイムリミットがあるのは今更だろ?」
「はっ、違いねぇ」
ユキムラと2人で笑みを浮かべる。
そうしている間にもエネルギー弾は降り注ぎ続けており、周囲の足場は何か所か崩れ始めていて身動きが取れない。
「攻撃が止んだ瞬間に戻るぞ」
「あいさー」
次の瞬間、内側から強烈な白い閃光が漏れ、エネルギー弾の掃射が止まる。恐らく姫様の魔法が一旦ラムダの動きを阻害したのだろう。
「ヒメか。良い仕事するな」
「よし、行くぞ!」
その隙を逃さず、伏せていた状態から飛び込むようにして内側へと舞い戻る。
着地するまでの間に周囲を確認すると、少し離れたところに姫様、そして、そこから直線状に焼け跡が延びており、白煙を上げるラムダに行きついた。
「取りあえず合流だ」
「おっけ」
銃弾が飛んできてもいい様に、若干距離を開けて姫様の元へと駆け出す。
しかし、ラムダは許してはくれないようで、しゃがんでいた状態から大きく跳び上がり、上空で両手の銃に黒いエフェクトを纏わせる。
飛び上がったラムダはそのまま横にくるりと回り、同時に双銃からエネルギー弾を無造作にばら撒いた。
「あれは……!」
「『イーグルファング』だ。気を付けろ、加速するぞ!」
ばら撒かれたエネルギー弾は目に見える程度の速さで落ち始めるが、やがて加速していき、獲物を狙う鷲の爪を想像させる鋭さで俺たちに迫る。
だが、鷲の爪が俺たちを引き裂く寸前、何とか姫様の元へと到達する。
「下がってろ!」
そう言ってユキムラは輝く長槍を真一文字に振るう。
長槍スキル重単発範囲技『ゼロ・スラッシュ』。槍を振るった軌跡に沿って貫通性能の高い真空刃を発生させる技だ。
振るわれた槍は唸りを上げて迫りくるエネルギー弾を斬り裂き、そのまま真空刃を発生させて後続の弾丸も次々と消滅させていく。
「ヒメ、俺ら突っ込むから攻撃集中で」
「えっ、回復とかは?」
「全部躱せば問題ないだろ。行けるなアサヒ?」
「とーぜん」
体を解しながらユキムラの問いに即答する。正直躱せる確信があるわけではないのだが、ここでラムダを意地でも沈めないと後々面倒だ。リンの尊き犠牲に敬意を払って、俺も多少の無茶くらいして見せよう。
「行くぞ。ヒメは遅延詠唱、合わせろよ」
「うん、頑張る!」
姫様の力強い返事を聞きながら、俺とユキムラは同時に飛び出す。足元に空いている穴を避け、飛ぶようにしてジグザグに駆ける。
それに反応してラムダは俺とユキムラに一丁ずつ銃口を向け、黒いエネルギーを充填する。だが、それを見た瞬間に斜め前方に浮かぶ『アーマードコア・ランペイジ』の残骸に跳び、思いっきり蹴っ飛ばす。
機械の駆動音のような物が唸り、黒いエネルギー弾が発射されるが、途中で残骸に衝突して爆発を起こした。
しかし、それは俺に対して放たれたもののみであり、ユキムラに向かって放たれたものに遮るものは無い。
「ユキムラッ! 仕掛けるぞ!」
爆炎に包まれたせいで見えないが、あいつがこの程度でやられるはずがない。意思疎通が出来ない以上、向こうが勝手に合わせてくれることを祈って一直線にラムダの方向へと向かう。
「喰らえ!」
爆炎から飛び出し、飛来するエネルギー弾を躱しながらも残骸を利用して上空へと跳び、技能を発動させる。
両手棍スキル重単発技『虎砲・轟』。虎の顔を模した衝撃波が空中に波紋を描いて棍から放たれ、ラムダを襲う。
しかし、そこらのモブとは違い、ラムダはボス用の複雑な行動ルーチンが設定されている強敵である。当然対応してくる。
ガシャン、と両手の銃器が薬莢を吐き出し、「何か」が装填される。
そして、ラムダは迫る虎の咆哮に向けて無造作に左の銃を向け、引き金を引く。
すると、即座に銃口部に漆黒の魔法陣が展開され、そこから蛇のような姿をした漆黒の竜が飛び出した。
「げっ!?」
大きさで勝る漆黒の竜は虎を蹴散らし、そのまま一直線に俺へと向かってくる。
いくらなんでもあれを喰らったら相当のダメージを負うだろう。だが、技を使っている反動か、ラムダは身動きを取っていない。
このチャンスに、竜を迂回してラムダへと迫るべく、俺は『二段ジャンプ』を使って近くの残骸へと跳ぶ。
そのまま残骸を足場にして再び跳び、すぐ近くに迫っていた黒い竜をギリギリのところで回避する。脇を竜が通り抜けた瞬間、物理的な衝撃を伴った波動に吹き飛ばされるが、何とか持ち直して残骸を蹴り飛ばした。
「アサヒ! 回り込め!」
残骸を蹴った瞬間、ユキムラからの声が聞こえる。相変わらず姿は見えないが。
恐らく、あの漆黒の竜を放っているせいでラムダは銃をひとつ消費しているため、挟み撃ちにしようということだろう。銃が片方しかないのなら対処も容易だし。
竜から黒い波動が放たれているせいで視界は悪いが、既に銃を使っている左側に回り込む。
『RAGNAROK』で身に付けたスタイリッシュ(と信じている)三次元立体動作で以て地上にいる時よりも素早く移動し、間違っても竜に当たらないように注意しながらも最高速でラムダの死角から棍を振りかぶって襲い掛かる。
だがその時、俺より小さい上に全身黒尽くめのせいで気付くのが遅れたが、背を向けているラムダが左脇から右腕を出し、隠し持っていた右の銃をこちらに向けているのが目に入った。
「ちょ……」
―――そんなことまでするのかよ!
そんな俺の心の声が外に放出される前に、ラムダの銃が黒く瞬く。
てかユキムラあのやろ! あいつ俺を囮に使いやがった!
思考が加速しているのかゆっくりと動く世界で、俺は物凄く遅い自分の身体が棍を振り下ろすよりも先に、銃の引き金にかけられたラムダの人差し指が動くのを見た。
そして―――
「させない!!」
銃の引き金が完全に引き込まれるよりも先に、遠くから綺麗なソプラノの声が響き渡るのと同時に四方から光の槍が飛んできて、ラムダの身体を刺し貫いた。
さらに、咄嗟に俺が後ろに跳んだ瞬間、上空から十字架を模した聖なる輝きが圧倒的な圧力を振り撒いて出現し、身動きの取れないラムダへと降り注ぐ。
「おまけ!!」
再び声が響き、白の輝きに包まれて見えないラムダを中心として魔法陣が展開され、輝く十字の柱が消えた瞬間に発動する。光から解放されたラムダを無数の光の刃が追い打ちとばかりに容赦なく襲い、宙へと吹き飛ばす。まさにオーバーキルという物を体現するかの如き光景だ。
「ゆきくん!!」
「任せろ!」
しかも、それでまだ終わりではない。どこに行っていたのか姿を見せていなかった卑怯者のユキムラは何故か空中の大きめな残骸にへばり付いており、宙に吹き飛んだラムダに槍の穂先を合わせる。
というか、何故ラムダが飛んでくる場所が分かったのだろうか。あれか、幼馴染プァワーか。
「さあ喰らえ、エリアスレイジ!」
両手で構えた長槍が黄色く輝き、閃光を纏う。一筋の彗星と化したユキムラはラムダへと必殺の一撃を放った。
だが、ラムダにも意地があるのか、空中で身動きがほとんど取れないはずなのにも関わらず、身体を捻って直撃を避ける。
「アサヒ!」
「後で覚えてろよ!」
結果、左腕を吹き飛ばされたラムダはちょうど俺目掛けて落ちてくる。ここまで来るとラムダの小さな外見もあって正直少々同情するが、こちとら宇宙の藻屑にはなりたくないし、容赦はしない。
ユキムラへの恨み言は飲み込みつつも右の銃から放たれたエネルギー弾を躱し、技能を発動。
両手棍スキル三連撃範囲技『虎爪乱衝』。虎の爪の如き強靭な連撃が既にボロボロなラムダを切り裂いていく。
「とどめだ!」
『虎爪乱衝』は技後の体勢上連携には向かない技なのだが、今の俺には1つだけ繋げる方法がある。
最後の一撃を放つとともに両手棍を投げ捨てるイメージで消えるように念じ、同時に腰の透明な鞘から剣を抜き放つイメージで腕を振り抜く。
そのまま一瞬で手の中に出現した機巧剣を吹き飛んでいるラムダへと向け、引き金を引いた。
ドン! という力強い音と共に柄から解き放たれた剣身は、吸い込まれるように真っ直ぐラムダへと突き進む。
しかし、死なば諸共ということなのか、バイザーを鈍く光らせたラムダはこちらに禍々しい光を放つ銃口を向けた。
「アサヒ!!」
ユキムラの焦ったような声がどこからか聞こえるが、何か行動を起こすには何もかも遅かった。
柄から解き放たれた剣身はラムダの胸部へと突き刺さるが、指の先まで全ての動きを止めるには至らない。
そして、それと同時に引き金が引かれた拳銃から小さなブラックホールのような漆黒の「何か」が発射され、俺の視界を黒く塗りつぶした。
◆ ◆ ◆
「…………う、うん?」
誰かに呼ばれたように気がして、いつの間にか閉じていた眼を開く
少し気を失っていたようで、重い身体を起こした時には目の前の光景は少し前とは全然違っていた。
気を失うと言っても、VRSにはバイタルチェック機能が付いている。脳や身体に問題が起こる可能性があれば即座に接続が遮断されてプレイヤーを保護するため、ログアウトしていないということはイコール問題ないということだ。
「お、起きたか」
「……ユキムラ、これは?」
「ラムダの最後の一撃だよ。まったく、無茶苦茶な……」
そう言って溜息をつくユキムラ。
その言葉に改めて前方を見やる。そこは先程までとは違い、座っている俺の足元からすぐ先がきれいさっぱり消滅していたのだ。
さっきまであった足場は見る影もなく消え去っており、直径十数メートルの大きな円状にくり抜かれていた。
大穴を覗き込んでみると、遥か下にて『アーマードギア』の一種らしき機械人形とプレイヤーが戦っているのが微かに確認できる。
「……俺、よく生き残れたな」
「流石に一撃じゃ死なんだろ。いつの間にやら結構良さげな防具着てるし。穴から落ちて行ったときは焦ったけどな」
ラムダの最後の一撃を喰らった俺はそのまま下へと落下していき、慌てて姫様が魔法で回収したそうだ。流石は姫様。何でもござれだ。
「……で、ラムダは? 倒したのか?」
「ああ、跡形もなく消滅したよ。結果呆気なかったが、最後は少し焦ったな」
考えてみれば、今の状況だと何体もいる『アーマードギア』を30分で倒さなくてはいけないのだ。ラムダは普通に強かったのだが、流石に理不尽なほどの性能ではなかったことからも、敵はあくまで倒せる範囲内に設定されているのだろう。
そして、ユキムラと姫様はトップクラスの強さを持ち、コンビネーションも完璧なのだ。倒せない道理が無い。
まあ、最後は多少あっさりし過ぎだった感は否めないが。
「そもそもサポート役だったのかもしれないね」
後ろから聞こえた声に顔を向けると、そこには姿が見えなかった姫様が立っていた。
「おかえり、終わったか?」
「うん。これ便利だねぇ」
そう言って、姫様は1枚のカードをユキムラに渡す。
「何それ?」
「憎悪値清算アイテム『森シルトの外套』。通称透明マント」
憎悪値とは、敵であるモンスターなどがプレイヤーに向ける敵対心のことで、これの高さによって敵の攻撃優先順位が決定するのだ。
で、ユキムラ曰く『森シルトの外套』は30秒かぶってじっとしていることで、自分に溜まった憎悪値をリセットすることが出来るらしい。ただ、その間は無防備な上に攻撃されるとやり直しであるため戦闘中は基本使えないらしいが。
ちなみに森シルトとは樹海フィールドに出現するアザラシみたいなモンスターのことで、場所によって色が変化する迷彩肌による高い隠密性が特徴のモンスターらしい。
それで、この状況でそのようなアイテムを使う理由はひとつだ。「あと何回使えるかな」と手元のカードを覗き込んでいるユキムラに話しかける。
「スティグマに絡まれたのか?」
「ん? ああ、リンのHPがヤバめだったからな。範囲ギリギリまで近づいて回復させたら、な」
「魔法をかけた瞬間スティグマがこっちに向かってきたからびっくりしたよ」
のほほん、とした感じで姫様が言う。
「そりゃやっかいだな」
「ああ。いくらなんでも回復によるヘイトの上昇幅がでか過ぎる。リンが阻害しなかったらこっちに向かって来てただろうな」
「リンも焦っただろうな。それでそのリンは?」
「死んではないみたいだからまだ戦っているんだろ。あれ相手にサシで戦うなんて、リンもなかなかやるな」
まるで他人事である。まあ、今のリンの状況はあいつの運が悪かった以外の何物でもないし、これも一種の信頼だ。少なくとも俺たちの間では。
さて、と残骸に腰かけていたユキムラは立ち上がる。
「お前も起きたし、そろそろ応援に向かうか」
その瞬間だった。
地滑り、もしくは雪崩のような言葉に表せない轟音が真上から響き渡った。
反射的に揃って上を見上げると、球状になっている足場の俺たちから見て頭上に当たる部分、そこに広い範囲に亘っていくつもの白く輝く亀裂が入ったのが分かる。
「おいおい、今のって」
「もしかしなくても……」
「……スティグマだろうな」
3人で顔を見合わせる。ユキムラも姫様も若干顔が強張っているが特に指摘はしない。きっと俺も同じようなものだから。
そして、亀裂が入るだけで終わるはずもなく、地響きのような物を出しながら頭上の足場が崩壊していく。
崩壊していく足場を注視していると、その中心で何やら輝く物体がゆっくりと下降しているのが分かった。
「……リンのやつ、何したんだ?」
それは、何時の間にか背に純白の機械の翼を得て明らかに手の付けられない状態になっている機械人形、『アーマードギア・スティグマ』だった。




