33
「忍法―――!」
「させるか!」
開始早々印を結んだ忍者レッドに対して棍を投げつける。
武器を投げるとは思っていなかったのだろう。目を剥いて驚いた様子の忍者に棍が飛来する。1対多の時は如何に流れを掴めるかが重要だ。驚かせるくらいがちょうど良い。
魔法を中断したのか小太刀で叩き落とされるが、周りの忍者が跳んで避けたため空いたスペースに飛び込み、その勢いのまま飛び蹴りを放つ。
両手を交差して受けた忍者レッドのHPは若干減少するが、流石にこれだけでは既定の数値に達しない。
そのまま腰を落として倒立。地面に落ちた棍を掴むと同時に腰を使って回し蹴りを放ち、忍者レッドを遠ざける。
「レッド!」
先制を取ったことで俺有利で進めていたが、他の忍者が黙っているはずがない。レッドを蹴った勢いで立ち上がり、そのまま両手棍スキル重単発突撃技『岩砕棍』を発動。一瞬で数メートルを移動する戦闘技能によって、迫っていたいくつかの魔法を潜り抜けて回避する。
そして、対象を取っていないため動いただけで終了した技能に繋げ、両手棍スキル二連撃範囲技『旋風打棍』を発動。
下位技能では少ない属性持ちのこの技能は、周囲を棍で薙ぎ、続けて旋風で相手を吹き飛ばして追撃するという間を置くのに便利な技能だ。
旋風は感触からして2人にヒットしたようだが、棍は避けられたため退場にはなっていないだろう。連携されるとまずいので、そのまま3人の忍者が固まっている箇所に突撃する。
「いざ尋常に!」
「覚悟!」
白黒忍者が左右で挟むように突っ込んできたのを見て、右手の忍者ブラックの短刀を棍で受け、すかさず右腕を掴んで別の方向から飛んで来たナイフの盾にする。そして、そのまま振り回して忍者ホワイトの方に追いやるが、それを飛び越えて忍者ホワイトが強襲してくる。
「ちっ」
同時に再び視界に映る複数の飛来する物。ナイフだ。
上段から振り下ろされた短刀を棍でガードし、押されているように姿勢を屈めることでナイフを避ける。
そのまま短刀を押し付けてくる忍者ホワイトに内心ニヤリとして、その下に潜りこみ、顔が短刀の柄にまで来たところで『換装』を発動。棍が消えてつんのめる忍者ホワイトの腹部に、一瞬で現れた機巧剣を突き刺した。
ザクッ、という音と共に突き刺さる機巧剣。「ホワイト!」という複数の叫び声が聞こえたが考えるのは後だ。数のアドバンテージで大きく負けるこちらは、手早くやらないとすぐ死ぬことになる。
転がるように起き上がり、忍者ホワイトを突き刺したまま駆け寄って来る忍者の足音に向けて引き金を引く。
「なっ!?」
忍者ホワイトを壁にして強襲しようとしていたのだろう。その判断は正しいのだろうが、生憎こちらの剣は飛び道具付きだ。
忍者ホワイトの背から飛び出した剣身を避けることは敵わず、駆け寄ってきていた忍者―――忍者グリーンは機巧剣の直撃を受けて吹っ飛んだ。
同時に駆け寄ってきていた忍者ブラックの顔を刈るように上段回し蹴り。身体を引いて躱されるが、足を止めることには成功する。すぐさま水月を狙って蹴り飛ばす。
ガードされてまともにダメージは入っていないが距離は取れた。周囲を確認すると、忍者ホワイトと忍者グリーンはもう退場したようだ。だが、一種の初見殺しであるこちらの機巧剣のタネはもうバレた。これからは警戒されるだろう。
作戦会議なのか、一旦集まった残りの忍者たちに目を向けながら柄だけ剣を振る。ジャキンッ、という音を発して剣身が補填された剣を構え、忍者たちを見据える。
作戦会議は終わったのか、忍者たちが散開して俺を囲むようにゆっくりと動き出す。
さて、誰から狙うかだが、一番厄介なのは投剣使いの忍者ブルーだな。投げているところを見たわけではないが、両手で短いナイフを構えているので確定だろう。
残り2人は小太刀と短刀だが、全員に共通する魔法が面倒だ。姫様と同じように『詠唱省略』スキルを取っているようだし、少なくても今のHPが一撃で吹き飛ぶ第二攻撃魔法も使えるようだ。脅威以外の何物でもない。
無詠唱で魔法を行使することにこだわりを持っているのか、第三攻撃魔法以降に出現する範囲攻撃魔法を使ってこないのは不幸中の幸いだろう。この狭いエリアでは忍者5人の初手範囲魔法によって一瞬で勝負がついていた。
さて、どうするか、と睨み合っている状況を良いことにひたすら考えていたが、特に何も思いつかない。そうしている内に、しびれを切らした忍者レッドが声を上げる。
「行くぞ!」
それに呼応し、三方向から迫る忍者たち。取りあえず右手から迫る忍者ブラックに剣身を射出し、ダッシュで左手の忍者ブルーへと駆ける。
途中で放たれた幾本ものナイフが放たれるが、全てを剣で弾いて迫る。
投剣スキルは投擲スキルがナイフなどの刃物専用のスキルとして発展したものだ。だが、そういった種類のアイテムは『チャクラム』や『ブーメラン』などの固定スキルがある物を除いて装備アイテムではなく消費アイテムだ。つまり、攻撃をガードしてもダメージは透過する。
「もらった!!」
機巧剣を忍者ブルーに向けて突き出す。技能を使わなくても、急所に当たれば退場には十分なほどのダメージを与えられる。ガードされても、ダメージは透過するので数回の攻撃で同じく退場だ。
剣先が忍者ブルーへと迫る。だが、覆面に隠された口元は何故か笑っているような気がした。
内心嫌な予感がするが時は既に遅く、忍者ブルーは手の平を突き出した剣に添えるように受ける。
その瞬間、忍者ブルーの手がライトエフェクトを纏い、剣先が不自然な軌跡を描いて逸らされた。
「―――なっ!?」
そして、同時に剣を持つ右手を掴まれ、思い切り引かれて体勢を崩される。
むやみに剣を出したことを後悔するが既に後の祭り。生き残るために、頭を必死に働かせる。
恐らく今のは体術系の技能。ということは、やはり格闘技だろう。
ノーガードで受けるよりはと判断し、右腕を掴まれたまま反転し、足を刈るように絡める。
そのまま身体ごとぶつかりに行って体勢を崩そうとするがそんなに上手く行くわけもなく、逆に足を刈られて仰向けに倒される。
「やばっ……!」
そのまま足を振り下ろされたら敗北は必至だ。無我夢中で相手の蹴りを阻害するようにこちらも足を出す。
蹴りと蹴りがぶつかり、双方のHPゲージが1ドット減少する。だが、こちらは倒されている上に剣を持つ右腕を掴まれていて、しかも相手は恐らく格闘系派生スキルの『体術』と『受け流し』を持っている。ちょっと例を見ないくらいの不利な状況だ。
『体術』はその名の通りだから良いとして、問題は『受け流し』だ。『受け流し』は格闘系スキルと『ガード』スキルを育てていると出現するスキルで、両手が空いていないと効果が発揮されない変わったスキルだ。
だが、その効果は強力で、近接格闘では無敵に近い力を持つとユキムラから聞いたことがある。両手を開けなければいけないので与ダメージはどうしても下がる上に、消費SPが結構高めなので取る人はなかなかいないらしいが。まさかこんなところで出会うとは……。
そうすると相手のスキル構成に疑問が出てくる。予想では『投剣』『水属性魔法』『詠唱省略』『体術』『受け流し』『隠密』『ジャンプ』だが、これだと7つでオーバーだ。
「このっ!」
手首を回して相手の左腕を斬りつけようとするが、その前に腕を捻られて不発で終わる。そのまま左足を相手の足に絡ませ、倒立する勢いで倒れるように体当たりを仕掛けるも、右腕を離されて距離を取られて失敗した。
拘束が外れてよし、と思うがそんな暇もなく、忍者ブルーが左手を突き出して来る。
「忍法、水流槍の術」
忍者ブルーがそう呟くとともに、その左手に魔力が収縮しているかのように青いエフェクトが集い、一瞬で槍の形を成して発射される。
もちろん、そんな忍術があるわけじゃなく、『水属性魔法』の第二攻撃魔法『アクアランス』をそれっぽく見せているだけだ。
とは言え、それでも現在の俺のHPを刈り取るには十分すぎる威力がある。
「のわっ!?」
それを見た瞬間、ほぼ反射でしゃがんでいた姿勢から思いっきり後ろに跳躍。そのままバク天のように手をついてさらに後方へと逃げようとするが、手をつくのと同時にすぐ近くに水の槍が着弾、爆発し、アクロバットに決めることも出来ずに無残に吹き飛ばされた。
水煙が立ち込める中、忍者ブルーらしき影がこちらに飛びかかって来るが、こちらも爆発の勢いに押されて転ぶように距離を取りながらも、空を舞う忍者ブルーに向けて剣先を構える。
剣身が飛んでくると思ったのか、煙から姿を現した青い忍者は空中ジャンプで地面へと急降下し、横に跳んで射線から脱出する。
まあ、こちらとしては残り一発の機巧剣を牽制なんかに使う気はないので、撃つ気はあまりなかったのだが。
「……今ので確証が取れた。あんた、投剣スキル持ってないだろ」
「…………黙秘するでござる」
空中ジャンプをしたということは『ジャンプ』スキルは確定。魔法を使っているところを見たので『水属性魔法』と『詠唱省略』も確定。『体術』と『受け流し』は確認済みだし、ロールプレイにあれだけ凝っているのだから『隠密』も確実に取っているだろう。
つまり、投げナイフはフェイク。そもそも両手を開けなければならない『受け流し』を持っている時点で格闘系以外のスキルは無駄になる可能性が高い。
投げナイフと魔法で中遠距離と見せかけ、近寄ってきたところを得意の格闘技で封殺する、といった感じか。何故生き残れたのか分からないくらいえげつないな。
恐らくだが残りのSPが少ないのだろう。あの時格闘技能を使っていれば俺は死んでいたかもしれないが、万が一を考えて温存したのかね。
どうやら忍者ブルーは結構慎重な性格のようだ。
そして、それから間を開けずに残りの忍者が襲来する。
「作戦は瓦解したが、ここで決めるぞ!」
「「承知!!」」
駆けつけた忍者レッドと忍者ブラックが忍者ブルーの横に並び、3対1の形が出来上がる。
どんな作戦だったのかはまったく分からないが、失敗したようだし良しとしよう。
ふぅ、と1つ息を吐く。
ブルーは1対多で相手にしたら確実に殺される。何せ相手はこっちの攻撃を問答無用で防げて、拘束することが出来るのだ。SPという制限はあっても、流石にキツ過ぎる。
要するに、如何に攪乱して手早く他の忍者を沈めるか。もしくは不意打ちでブルーを倒すかに掛かっている。
気合を入れなおして機巧剣を握りなおしたところで、ふとある作戦を思いつく。
成功するにはある条件をクリアする必要があるが、他の要因も考えて、
「行けるかも……?」
やってみる価値はあるだろう。ある条件とは俺の行動ではなくシステム的な物なので失敗する時は失敗するが、それでも成功すれば結構な確率で不意はつけるはずだ。
「じゃあ、行くぜ!」
「来い!!」
叫び返してきた忍者レッドを見据えて、技能は使わずに走る。
ダッシュの技能は一定距離を問答無用で走るため、正直な話使いにくい場面が多々ある。
待ち構える忍者レッドの射程距離に入ったと判断した瞬間、ブレーキをかけて止まり、ライトエフェクトを纏って閃いた小太刀をギリギリのところでやり過ごす。
「なっ!?」
この躱し方は意外だったのか、目を見開く忍者レッド。
そして、そんな忍者レッドの陰から跳んだ忍者ブラックの短刀を剣で滑らせ、回し蹴りを放って大きく吹き飛ばす。
ガードされたことで碌にダメージは入っていないだろうが、距離を取らせたのでどうでもいい。
蹴りを放つと同時に手首を回し、向かってきた忍者ブルーに向けて剣身を射出する。
「むっ」
距離が近かったので避けられないと判断したのか、超高速で飛来する剣身にブルーは手を当て、剣身は地面に叩き落とされ突き刺さった。
「チート過ぎだろ! 何だそれ!」
「む、心外な。修行の成果でござる」
「修行で高速で飛ぶ剣を素手で弾けたら苦労しねぇよ!」
顔面を薙ぐように換装した両手棍を振り回し、忍者ブルーを下がらせる。『受け流し』を使わなかったということは、やはりSPに余裕がないのか、それとも再行使制限に引っかかったのか……。
「拙者もいるぞ! 覚悟ッ!」
飛び掛かってきた忍者レッドの小太刀を棍で打ち合い、カカカンッ! と金属音を何度も響かせる。しかし、このままでは他の忍者が攻めてくるため、ダメージを与えることは考えずに隙を見て受け流し、そのまま位置を交換するように棍と小太刀を中心に勢い良く回り、忍者レッドを弾き飛ばすとともに忍者ブルーの方へと駆ける。
そしてすかさず技能を発動。両手棍スキル三連撃技『鐘鳴連撃』。『鐘鳴撃』の上位互換技で、振りおろし、横薙ぎ、突きと素早く連携する中威力技能である。
「甘いぞッ!」
だが、忍者ブルーの両手が輝き、棍を受け止めるかのような構えを取る。
躱すことも出来るとは思うが、俺の目論見としてはそれでは困る。向こうも、技能を発動しているところを受け流せばカウンターを決めることが出来るので、そこまで分が悪い賭けではなかったが。
現時点では最高に近い威力の一撃はHPを軽く吹き飛ばすだろうが、忍者ブルーは臆することなく手を添える。
そして、その手は棍ではなく、割り込んできた機巧剣の剣身を弾き飛ばした。
「なっ―――!?」
あらぬ方向へと飛んでいく機巧剣の剣身をよそに、ライトエフェクトを纏った両手棍は忍者ブルーへと滑り込んでいく。
何故機巧剣の剣身が割り込んできたか。答えは簡単。先程地面に突き刺さった物を俺が蹴り飛ばしたのだ。
どうやらこの機巧剣のギミックは、射出された後も一定時間残り続けるらしい。確証はなく、あらゆるところに凝っているイウならすぐには消えないかなぁとは思っていただけだったので、成功して何よりだ。
そして、機巧剣を弾いたばかりの状態では『受け流し』は発動できず、例えSPが残っていても、両手棍の三連撃技能を防ぐ術は無い。
「これで終わりだっ!」
そのまま棍は忍者ブルーへと十分なダメージを与え、ポリゴン状にして爆散させ、バトルロワイアルから退場させた。
戦闘描写が上手くなりたい(切実)




