31
「ヒャッハァーッ!! 面白いことになってるじゃねェか!」
「げっ」
「あーあ、だからあいつに教えるの止めようって言ったのに」
「……馬鹿の極み」
韋駄天と、続けてカオルを(ほぼ全てリンの活躍で)降すも、休む間もなく待機していた赤のメンバーが動き出す。しかし、それよりも早く何者かが戦場の真ん中に飛び込んできた。
肩まである白い髪を靡かせ、黒よりも濃い闇色の外套を羽織り、手には身の丈もある巨大な大鎌を持つ姿はまるで死神のようだ。乱入してきた男は周囲の事、自分の仲間の事すら考えずにぶんぶんと大鎌を振り回している。
何だか危なそうな奴だなぁ、と思いながら見ていたが、よく見ると彼のプレイヤーアイコンは赤色、つまりは犯罪者だった。
そして、その死神を彷彿させる男に遅れて、彼の仲間らしきプレイヤーものんびりと緊張感を感じさせない足取りでやって来る。赤ネームではないようだが、現時点では判断できないな。
男が1人に女が2人。死神風の男を合わせて4人か。
あれ、確かリンが見つけたのは5人だったはず。1人足りない。
「あー、あれは……」
「リン、知ってるか?」
「あんな特徴的な奴は嫌でも覚えますよ……」
はぁ、と疲れたようにリンは溜息をつく。
「あの黒いのが緑で多分一番有名な人で、パンドラって言います。強い人がいればPKになろうと取りあえず斬りかかるって聞いてます」
「はぁ、こりゃまた面倒なのが……」
「大会では予選で敗退してましたが、大会上位者が彼にPKされたって情報もありますね。『死神』と呼ばれて親しまれてます」
「それ親しまれてないだろ」
場に現れた『死神』は早速アルファの方へと駆けていき、サクラを含めて三つ巴の戦いを始める。
まったく、随分と強そうなのが登場したもんだ。何かどんどん強い人たちが集まってきているんだが。
溜息をついて三つ巴の戦いや乱入者たちを観察するが、後ろから物音がしたのに気付き、慌てて振り返る。
特徴的な『死神』たちに気を取られて気付くのが遅れた自分を叱咤し、どんなのが来ていてもいい様に瞬時に身構える。
すると、そこには―――
「さらに、センパイにとって問題なのは、彼らが先程の5人組ではないということですかね」
「……何あれ?」
リンの声が聞こえるが、それに反応できないほど俺は視線の先の「彼ら」に釘付けになった。
何故か後ろから照らされている「彼ら」は、シルエット状態のままザッ、と横並びになって歩いてくる。
「人世の陰に潜みし下郎、陰からお命頂戴いたす!」
一番右端のシルエットが解かれ、真っ黒の忍び装束を全身に纏った忍者が現れる。
思わず「は?」と呟いてしまうが、当然それだけで終わるはずもない。
「我らが正義たぁ言わないが、笑顔守りたい者がいる!」
続いて、左端のシルエットが解かれ、白色の忍び装束という「お前それもう忍んでねぇよ」と言いたくなる派手な格好の忍者が現れる。
「宇宙に来てもやること変わらず、世のため人のため忍び往く!」
次に、右から二番目のシルエットが解かれ、同じくまったく忍んでいない派手な緑色の忍者が現れる。
「悪に堕ちても関係ない、拙者は拙者の道を往く!」
そして、左から二番目のシルエットが解かれ、こっちが真っ青になるほど青い装束の忍者が現れる。
「我ら、忍者戦隊シノビンジャー……いざ」
最後に、真ん中のシルエットが解かれて赤装束の忍者が現れ、
『推して参る!!!』
ドンッ!! という効果音とともに、忍者たちの背後で爆発が起こった。
ポージングを決める彼らを傍目に、俺は既にげんなりとした気分になりながらもリンの方を向く。
「……で、何だあれ?」
「『忍者戦隊』。ある意味『死神』よりも知名度は高いかもですね。陰から人助けをするという独特のロールプレイで、結構人気があるらしいです。ロールプレイに全てを賭けているため個人の強さはそれほどでもないみたいですが、5人の連携とトリッキーな戦い方はかなり強力らしいですよ」
「どこ情報?」
「ネットです」
知名度高い時点で忍び切れてないじゃん、とか思うが、それはまあ別にいいとして。
俺はある嫌な予感を感じてリンに問いかける。
「あのさ、リン」
「はい?」
「あいつらってさ、所謂『正義の味方』なんだよな」
「そうですね。PKからプレイヤーを助けたりとかしてるって聞いたこともありますね」
「……俺、今韋駄天を嵌めて殺したんだけど」
「あー、そうなるとついでにあたしもですかね」
リンと2人で嫌な予感に頭を悩ませる。元々生き残るために、俺たちから目を逸らさせようと乱戦を企んだのだ。それがこっちを集中して攻撃してくる敵が増えただけって結果に終わるのは本末転倒もいいところだ。
頭を抱えていると、俺たちの前にスタッ、とサクラが降り立つ。
後ろを振り返ると戦闘は中断されており、俺たち、クラン『紅蓮の騎士団』、『死神』たち、『忍者戦隊』の4つのグループがすぐ近くに固まる結果となった。どうしてここまで入り組んだのか分からないくらいの混戦模様だ。
ちなみに、俺たちは3つのグループに囲まれるような場所に位置している。いくら『忍者戦隊』に気を取られてたとはいっても、これはマズ過ぎる。
ちっ、と舌打ちをひとつして、今日は舌打ちが多いなぁと苦い気持ちになる。
「わぁ、やっぱり忍者だ! 一度会ってみたかったんだよねぇ」
「知ってるのか?」
「うん、有名だもん。緑で5人組って言ったら忍者だからねー」
ちなみに5人である理由は、メンバーが集まらなかったのでは、という説が有力だそうだ。
「やいやいやい! 先程から忍んで見させてもらっていたが、そこの赤髪の少年と金髪の少女よ! 騙し討ちとは、随分と姑息ではないか!!」
「義理も何もありはしないが、我らの信条と故人の無念に従い、貴様らを討たせていただく!」
いや、騙し討ちとかってどっちかというと忍者の専売特許のような気もするんだが。しかも忍んでたって、遠方からリンや『紅蓮の騎士団』に発見されてたし。あと故人って言っても、今頃街で復活してるからな。
やっぱりあたしもか、と項垂れるリンを傍目にどう対処するか考えていると、何者かが俺たちの頭上を大きく飛び越えて、忍者たちの前に降り立った。
「いやいやいやいやオイオイオイオイ!! 何だお前ェら、随分と面白そうな格好してるじゃねェか!!」
「ム、貴様は……!」
「『死神』か! 相対したのは初めてだが、その悪行、拙者たちも聞き及んでおる! これ以上許しはしないぞ!!」
『忍者戦隊』の前に降り立った『死神』パンドラは、その巨大な大鎌を忍者たちに突きつける。
対して、忍者たちも身構え、臨戦態勢となる。
「あー、あいつは……」
「まったく、また勝手に飛び出して……」
「……馬鹿だから」
溜息をつくのはパンドラの仲間たちだった。どうやら仲間ですら彼に振り回されているようだ。
「あれ?」
「リンちゃんどうしたの?」
そんなパンドラの仲間たちを見たリンは首を傾げ、何かを思い出せないのか頭に手をやる。
「うーん、あの人たち……どっかで見たことがあるんだけどなぁ」
「どっかって……大会かネットじゃないの?」
「どっちにしろ強者にしか興味がなさそうなパンドラが仲間に加えてるんだ。全員強いんだろうな」
さて、味方陣営にすら襲い掛かる超自由人のパンドラが参戦したことでよく分からないことになっているが、依然俺たちは劣勢だ。混乱に乗じて逃げ出せないかな?
「さぁ、俺様を楽しませろやッ!!」
「貴様はここで葬る!」
「参るぞ!!」
背後では緑同士であるはずの『死神』と『忍者戦隊』がぶつかり合う。いくらなんでも1対5じゃ無理だろとは思っていたが、その大きな鎌を振り回すパンドラは意外と技巧派で、ガンガン攻めていきながらも細かく鎌を操作して忍者たちを寄せ付けない。
「さて、じゃあ再戦と行こうか」
一方、前方でも動きがある。
アルファを先頭にして『紅蓮の騎士団』は戦闘態勢に入り、それを受けて『死神』の仲間たちも動き出す。
「ま、緑じゃないし、戦うか」
「あいつにフォローは?」
「……必要ない」
「それはしなくても十分だから? それともしたくないから?」
「……勿論両方」
やはりどこか緊張を感じさせない様子でそれぞれの武器を取り出す3人。
1人は短槍を二刀流で両手に持ち、1人は何も持たず、1人は……あれはなんだ?
「うーん、試験管ですかね?」
「『死神』に負けず劣らず個性的な奴らだな」
「それより、戦うんでしょ? 何のんびりしてるの!」
サクラにどやされてリンの方に目をやるが、リンは既にこれからの戦いにわくわくしているのか笑顔で双剣を構えていた。
どうやら現実逃避しているのは俺だけらしい。
さて、といい加減俺も腹を決め、ぶらりと下げていた両手棍を構える。
「よし、やるか」
気合を入れ直し、生き残りをかけた戦いに対する心構えをするが、
「ちょっと、待ったぁぁぁああああ!!!!」
横から文字通り飛んで来た人影が俺たちのすぐ近くに突き刺さるかのような勢いで着地し、そのままズサーと地を両足で滑って戦場の真ん中あたりで止まる。
横を通過した時は突然で分からなかったが、どうやら新たな乱入者は女性のようだ。身長はリンよりは高いが姫様には届かないかな。顔は分からないが、それなりの長さの青髪であることはわかった。
「今度は何だよ……」
「味方みたいですけどね」
「ん?」
「ほら、あの人のアイコン、青ですよ」
乱入してきた人物はふぅ、と息をついて立った後、こっちを向いて笑顔で言った。
「助けに来たよっ!」
親指をグッと立てる青髪の女性。
だが、俺たちの反応はいまいちだった。
「……リン、知り合いか?」
「一応は。ただそんなに親しい覚えはないですかね」
「私の方がリンちゃんよりは親しいと思うけど、助太刀かぁ」
「え、なんでそんな微妙な反応なの!?」
こちらの反応にショックを受けたのか、大げさに仰け反って驚愕した様子を表す。
てか、助けに来た?
「お前ら、救援なんていつ呼んでたんだ?」
「え、あたしは呼んでないですよ。さっきキキョウさんには連絡しましたが、あの人うちのクランじゃないですし。キキョウさんから聞いたんですかね?」
「私はさっきこっちに来たばっかだからねー」
「な、何でそんなこそこそ話し合ってるの! 助けに来たんだよ!? もっと喜んだり驚いたりしてもいいと思うんだけどっ!!」
青髪の女性―――いや、よく見ると外見は少女と言ってもいいかもしれない。あくまで外見は、だが。
とにかく、青髪の少女は俺たちが背を向けて話し合っていることに抗議するべく、こちらに向かって歩いてくる。
「で、誰から聞いたんだ? てかあんた誰?」
「ちょ、それは酷くない!? 一応わたしが助けに来たのはキミなんだけど!」
「……俺?」
見覚えの無いはずの少女から「助けに来た」と指差されたのは、何故か俺だった。
といっても、見覚えが無いんだから疑問符しか浮かばなく、
「……誰?」
「ひどっ! あの時あんなに仲良くしたのに……」
ううっ、と言って泣き崩れる少女。いや、仕草からして嘘っぽいのだが、問題は徐々に氷河期を迎えつつある隣の女性陣だ。
「…………センパイ」
「うわー、アサヒ君うわー」
やばい、これはやばい。最悪味方が消える。
俺は冷や汗を流しながら(VRなので実際に汗をかいている訳ではないが)必死に考える。
俺がイウを始めてから知り合った人はまだ少ない。ユキムラやリン、姫様を除くと、『エルフィニア』の人たちと鍛冶師のクレハ。あとは今日知り合った韋駄天たちくらいだ。
……想像以上に少ないので悲しくなったが、まだ始めてから一週間だからと自分に言い聞かせる。
この青髪の少女は『エルフィニア』にはいなかったので、そうなると該当する人物が消えることになる。
韋駄天のようにリアルで知り合いってこともあり得るが、この少女は俺のことを確信をもって「アサヒ」であると知っているようだが、リアルを仄めかすようなことは言っていない。そもそも俺は特に女子にイウをやると言った覚えはないし、この線も消える。
「…………」
いや、この少女は「あの時」仲良くした、と言った。ということは、もしかしたら顔を合わせたのは1回のみで、名前すら知らない可能性がある。
最近だったら覚えているはずなので、もっと前、始めた初期か?
と、ここで俺の頭に雷が落ちるかのようにある情景が思い起こされた。
「あ、トレーニングの……」
「おっ、せいか―――」
「いけ好かないスポパラ女!」
「ちょっと待って。わたしってそういう印象つけられてるの?」
そうだ、彼女は俺がゴブリンの大群に敗北してトレーニングを失敗した時に知り合い、自分はもう全てクリアしているとドヤ顔をして、悠々と去っていったスポパラ女だ。名前も教えあって無いからすっかり忘れていた。
だが、この少女は俺の名前を知らないはずだ。現に俺もこの少女の名前を知らないし。なのに、こいつは俺の名前を知っている。ということは、誰かに教えてもらったのだろう。
誰かというのは簡単だ。姫様だろう。ユキムラは態々俺のことを吹聴してまわるとは思えないし、リンは一番親しいであろう『エルフィニア』の人たちと俺は既に知り合いだ。
となると、お話し好きで過去にユキムラの本名をペロッと俺たちに漏らしたという犯歴のある姫様が話した確率が一番高い。いや、本人に悪意はないし、俺のことを話すのが悪いというわけではないのだが。
となると、この少女の正体は……。
「あんた、『星屑の船団』の人か」
「む、よく分かったね」
「まあこんなところに居るんだから相当強いだろうし、幹部級か」
「ふふん、そこは期待するといいよ!」
またしてもドヤ顔で胸を張る少女。
だが、その瞬間、風の刃が少女の立っている位置に叩きこまれ、爆発音とともに砂塵が舞った。
「ヒャヒャヒャーッッ!! また新しいのが来たみてェだなァ!!」
「グッ……」
「この、下郎めっ!!」
忍者たちのうち2人を吹き飛ばし、残りを置き去りにして、パンドラが俺たちを無視して砂塵の中の青髪の少女へと突貫する。
「ま、この程度でやられてちゃ助けに来た意味ないしね」
だが、砂塵の中から現れた無傷の少女が手にした銀色の厳つい拳銃によって大鎌の一撃は防がれ、もう片方の手にある二丁目の拳銃がパンドラの額に当てられる。
「うおっ!?」
バンッ! と銃声が鳴り響くが、凄まじい反射神経を見せたパンドラが首を逸らしたことで銃弾は外れる。
大きく後ろへ飛んで距離を取ったパンドラに対し、青髪の少女は追撃として何発も連続で叩き込んでいくが、地を滑るかのように疾駆するパンドラに当たることは無く、諦めたのか銃を下した。
「うーん、当たらないかぁ……ま、いいでしょう」
当たらなかったのが残念なようだが、パンドラの攻撃を防ぎ、対等にやりあったことでその技量の高さが自ずと分かる。
そうして再び場がこう着状態になったのだが、そんなことを無視して動き出したパンドラと『忍者戦隊』がぶつかるのを見つつ、俺は青髪の少女へと話しかける。
「で、あんた名前は?」
「ん? ああ、言ってなかったっけ? わたしの名前は―――」
そこで、少女は言葉を止め、面白いことを思いついたのかのような笑顔を浮かべる。
「ふふん。人に名前を聞くときはまず自分から、だよ!」
「あんた俺の名前知ってるだろ。どうせ姫様から聞いてんだろ?」
「ギクッ」
不自然なくらい分かり易いリアクションで、少女は固まった。しかも自分で「ギクッ」って言ってるし。
「あと、あんた俺がユキムラに頼んだ『援軍』だろ。ユキムラが態々あんたに頼むとは思えないし、自分で行こうとしていたあいつを引きとめて立候補したってところか」
「ギクギクッ」
またもや固まる少女。冗談めかしてはいるが、さっきとは違って本当にびっくりしている気配がある。まあ、そこは突っ込まないでやるか。
「で、あれから結構経ってるんだけど、今頃着いたってことは……もしかして、降りるところ間違えて迷ってた?」
「……えと、何で分かったの?」
驚いた表情でこちらを見る少女。大方遅くなった自覚はあったが、バレないとでも思ったのだろう。こちらとしては応援に来てくれただけでもありがたいのだが、まあそこは言わなくていいや。
「考察の結果だ……さて、俺の名前はアサヒ。しがない初心者さ。あんたの名前は?」
こちらの言葉に目を丸くする青髪の少女。あれ、思ってたのと反応が違う。
横から「うわー」と言いながら小突いてくるリンにお返しで脛を蹴飛ばしてやるうちに、少女は「ふふっ」と笑う。
「流石はアサヒ君。ヒメちゃんが認めただけはあるね」
「お、マジで? おいリン。俺、姫様に認められてるんだってよ」
「でも今は『ふっ、奴は我が四天王でも最弱』って状態ですけどね」
「それは言わなくていいんだよ」
悲しいことに真実なんだけどな。
軽く頭を叩くと「あいてっ」と言うリン。力は籠めてないし、そもそも痛覚に制限が掛かっているので痛くはないはずだが、よくよく考えると俺らはいつもこんなノリか。
「んんっ。さて、自己紹介だけど……」
と、そこで場の意識を自分に戻すためか、わざとらしく咳払いをする少女。
といっても、大体の素性は分かってるんだけどな。大方『星屑の船団』の幹部ってとこか。船団が強さによる序列なのかは知らないけど、人は見かけによらないとはこのことかな。
「わたしは『星屑の船団』のクランマスター、イリス。わたしが来たからには安心するといい、少年たちよ!」
「……………………は?」
その芝居がかった言葉に俺の脳は一瞬の硬直状態に陥り、口から洩れた気の抜けた声は虚空へと消えた。
なんと今回だけで新キャラ10人追加という暴挙。
うち1人は前からいたんですけどね。まあ名前出たのは初めてですので。




