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02

「おーっす」

<おいこら、遅ぇぞ>

<そうですよセンパイ。あたしゃもう待ちくたびれたさねー>

<こんばんは、アサヒ君>


 その日の夜、旧世代型のノートパソコンを起動させてボイスチャットソフト『talk show』を開き、登録してある部屋に繋ぐ。どうやら俺が一番遅かったらしい。


「姫様は今晩も麗しいようで。てか遅いったって定時には間に合ってるはずだぞ」

<昨日は全然話が終わらなかったから、少し早く始めて話そうって言ったろ、昨日。こいつらが早いのは偶然だが>

「あー、意識が朦朧(もうろう)としてたから覚えてないやー」

<……テメェ>

<てかなんであたしにツッコミないんですか! このボケ殺し!>

「だんだんボケが雑になって来てんだよ、ドアホ」

<え、ええと……みんな落ち着いて。話を始めようよ>


 画面に映った3つのスクリーンの中で、それぞれの顔が目まぐるしく動き回る。おそらく向こうでは俺の顔もそうなっているはずだ。

 リアルではなく、とあるゲームで知り合った俺らはすっかり意気投合し、週に何度かこうしてボイスチャットで話をしているのだ。


<で、昨日はどこまで話したんですか? あたしたちが落ちた後もまだ続けてたんですよね>

<ああ、性能の話の途中までだ。……性能はもう飛ばすか。ってわけでクローズβからだ>

<……全然進んでないじゃないですか。どんだけ寄り道してたんですか>

「いや、『結局剣と槍はどっちが強いか』で意見が対立して、ラグナで決着をつけることになんかなってないぞ。な?」

<なー>

<この……! じゃなくて、じゃああたしたちがイウのβ受けることからで良いんですよね?>


 俺たちが知り合ったVRのアクションゲーム『RAGNAROK』、通称『ラグナ』。神話をモチーフとしているこのゲームでは、プレイヤー自身が様々な武器を使って華麗に戦うことができ、起こるべくして起きた「どの武器が一番強いか」という論争は絶えることが無い。

 今回はバランスの良いの剣と、上手くやれば相手を完封して勝つことすら出来る槍とで争いが起こったのだ。ちなみに俺は今回は剣派だったが、基本的に何でも使う。

 とまぁ、個人的にはとても面白いゲームなのだが、実は驚くほど人気が無い。理由は「ハイスピードアクションバトル」が売りなのに相当やり込まないと全然そんな動きが出来ないからだ。あと、基本敵の攻撃は喰らったら負け確定。これだけ聞くととんでもない鬼畜ゲーだ。

 そういうこともあって、少しして発売された別のゲームに客を盗られてしまったのだ。

 ……ん? てかイウのβテスト?


「え? お前ら全員? β当たったのか!?」

<……ほんとに話してないんだ……>


 はぁ、と額に手を当てて項垂れるツインテールの少女。HN(ハンドルネーム)は『Rin(リン)』。本名はみんな教えあっていないので知らない。教えたくない理由は無いのだが、強いて言うなら「必要ないから」だろう。

 リンはラグナでは『双剣』という扱いの難しい武器を使っていたが、その強さは折り紙つき。この定例会の発案者でもあり、楽しいことが大好きなムードメーカーかつトラブルメーカーだ。ちなみに、こいつは俺の1つ年下で、あとの2人は1つ年上だ。正直みんな年の差なんて気にしてないが。

 こいつがいなかったらこのメンバーで様々なゲームを一緒にやったりはしていなかっただろう。まあ、そういう点ではこいつに感謝しても……いや、いいや。他の点でマイナスぶっちぎってるし。


<といっても抽選で当たったわけじゃないけどな。俺とヒメの親が働いてる会社が例の新作VRSの開発に協力してたらしくて、その関連で俺らにオハチが回って来たんだよ。いやー、お父様々だね>

<ゆきくんお父さんたちが引くほど喜んでたもんね>

「何したんだよ……」


 そう嬉しそうに言う男と、ほんわかした感じの少女。

 男の名前はユキムラ。最初は『Guilder(ギルダー)』という名前だったのだが、ネット慣れしてないお姫様によって定例会にて名前をバラされ、以降は『Yukimura(ユキムラ)』と名乗っている。哀れだ。

 で、そのお姫様。HNは『Himeko(ヒメコ)』。どうやら本名のようだ。ユキムラとは家が近所で親同士が同僚かつ昔からの親友であるため、生まれた時からの幼馴染らしい。なんというテンプレ。爆発しろ。

 ユキムラは槍使いで悔しいがとんでもない実力の持ち主で、姫様は主に銃や弓、魔法を使っている。

 この会は最初俺とリンとユキムラだけだったのだが、数か月前にユキムラに誘われて姫様が入ったのだ。


<で、あたしはパパが仕事の関係で手に入れてくれたってわけです。こういう枠が抽選とは別に用意されてたみたいですね>

「……えぇー、マジかよ。お前らだけズルくね? サラリーマン馬鹿にすんなし」

<えっと……ごめんね?>

<いや、意味わかんねぇよ。……まぁ正直アサヒには悪いと思ってるけどさ。定例会の時にでもどんなのか教えてやるよ>


 で、最後に俺ことHN『Asahi(アサヒ)』。本名である(あきら)という漢字の別の読み方である。思いつかなくて適当につけたのだが、意外と気に入ってる。

 つーか、こいつら全員イウの方に行くのか。俺も正式オープンしたらやるつもりだったけどさ。その頃には新作VRSも少しは安くなってるだろうし。

 ……それでも金足りるかな? いざとなったら小遣い前借りしないと……。

 閑話休題(それはともかく)


「別にいいし、お前らはイウやってれば。俺はその間にアルティメットミッションクリアしてやるから」

<おっ、ついに出したのか? すげーな>

<早くないですか?>

「お前らに言われたくないわ。とっくにクリアしてるくせに」

<あたしらはセンパイみたいに寄り道してませんから。それにSはまだですし>

<いや、Sは無理だろ。流石にキツいっつーの>

「でもクリア動画投稿してる人たちだっているぞ? 不可能ではないってことだろ」

<いや、そこら辺は次元が別だろ>

<……あのー、アルティメットミッションって何? 凄い難しいミッションってことは分かったんだけど>


 と、ここで姫様からの質問が入った。

 姫様はそこまでやり込んでるわけではないため詳しくは知らないのだろう。


<あー、アルティメットミッションってのは、期間限定とか以外の普通のミッション全部でSランクを取ると出てくるミッションのことだ>

<全部Sランク!? アサヒ君って凄いんだね……>

<最早人間じゃないですね>

「リン、馬鹿にしてるだろ」


 お前らはもうクリアしてるくせに。

 ちなみに、俺が2人より遅れてたのは所謂(いわゆる)『ネタ武器』というトリッキーな武器も含めて全ての武器を片っ端から極めようと頑張っていたからであって、2人に実力が劣ってるわけでは決してない。多分。

 勝率は5分5分には届かないが、こちらの手の内には相手にとって相性の悪い武器もあるため、それを選べば勝率は8割を超える。「ズルい!」と言われるが。手段の多さこそが俺の武器なのだ。

 さて、ラグナには『対戦モード』とは別に『ミッションモード』という襲いかかってくる大量の敵をなぎ倒すものがあり、ミッション終了時にはランクが付けられる。ちなみに協力プレイもできる。難易度やランク判定がよりシビアになるが。

 ランクは死亡回数、被ダメージ、クリアタイム、敵撃破数などの要素で決まってくるのだが、難しめのミッションだと攻撃を喰らうイコール即死だったため、Sを取るどころかクリアするのも大変だった。何千、何万と死んでやっと取れたのだ。

 まあ、伊達に2年近くもやり続けてるわけじゃないってことだ。それでもアルティメットはクリアできる気がしないのだが。それを思うと、リンとユキムラは相当上位のレベルであることが再認識される。すぐに追いついてやるが。

 その後しばらくラグナについて語り合っていたのだが、話がずれていることに気がついた。


「イウの話に戻さね? βはいつからなんだ?」

<あ、えっと、来週の土曜からだよ。でも、最初の方は1日3時間だけらしいんだ>

<最初は調整とかが入るんだろ>

「そういや、どれくらいの期間やるんだ?」

<たしか2ヶ月だったはずですよ>

<まあ、他のゲームを止める気はないし、また定時でってことで>


 そうユキムラがまとめるように言ったので、ふと壁にかかっている親から譲り受けた古き良き時計を見ると、もう短針は12を超えていた。


「もうこんな時間か」

<あ、ほんとだ。じゃあ次はどうする?>

<今日は昨日の話の続きだっただけだし、また金曜でいいんじゃないですか?>

「そうだな。んじゃ落ちるわ」

<ほいほい、俺も寝よっかねー>

<ゆきくんテスト勉強は良いの? 明々後日(しあさって)からだよ?>

<いいのいいのー>

<それで留年したら洒落になりませんよね>

「そしたら鼻で笑ってやるよ」

<するかアホ。じゃあな>

「へいへい」

<じゃあ私も>

<同じくー>


 ウィンドウを閉じ、シャットダウンを行う。

 その後、少々ノートを見てテスト対策をしたが、すぐにやる気が失せて寝ることにした。


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