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 先に動いたのは韋駄天だった。


「セイッ!」


 数メートルはあった距離を一息で詰め、その右手の短剣がエフェクトを纏う。

 距離を詰めてきた韋駄天に対して一歩後ろに下がるが、短剣が黄色い輝きを放ったと思った時には既にその短剣は鼻先を通過して振り下ろされていた。


「ちっ、速い!」

「スピード特化を舐めるな!」


 敏捷値は移動速度だけに関わるものではない。攻撃速度にだって関わるし、近距離武器では敏捷値によって威力に補正が掛かり、遠距離武器ではリロードの速度に関わる。

 なので、いくら筋力値は同じと予想できても、攻撃力にはやはり相当な差があるだろう。

 ただし、俺の持つ『弾き防御』は多少の筋力差は覆すし、その成否に敏捷値は関わらない。攻撃を弾くことが出来ればダメージを受けることは無いだろう。まあ、あんなに速い攻撃に的確に合わせられるかどうかは別問題だが。

 右に続けて繰り出された左の短剣を姿勢を崩しながらも何とか躱し、さらに続けて右の短剣が放たれる前に棍を韋駄天に叩きつけるように振り下ろす。

 振り下ろした瞬間に姿を消して韋駄天には躱されたが―――恐らくステップ系技能によるキャンセルだろう―――相手の攻撃は防いだ上に、相手のスキル構成も大体分かった。

 恐らく、『短剣術』、『蹴り技』、『ジャンプ』、『ダッシュ』、『ステップ』、『二刀流』だろう。本当に切り札なんかなく、強いて言うならブレードシューズくらいで、高機動戦闘にしか焦点を置いていない。リンみたいなタイプだな。


「というわけだが、どうだ?」

「……当たりだよ。よく分かるな」


 お前が単純だからだよ。

 さて、話しかけることで小休止を得て、その隙に考えをまとめる。

 相手は速さにしか興味のない奴だが、それでも他は俺と同等か俺以上のステータスで、速さに関しては月とすっぽん並みの差があると考えておいた方が良いだろう。

 奇策を使ってくるわけではないのでそれを封じるという手は使えない。移動を封じられたらいいんだが、そんな誰に対しても有効な技を俺が使えるわけない。


「……ふむ」


 やべ、もしかしなくても詰んでる?


「んじゃ、どうせバレてるし、出し惜しみなしで行くぜっ!!」

「いやー、それはちょっと遠慮したいなー……って、のわっ!?」


 こちらの言葉が終わる前に飛び込んできた韋駄天の短剣を棍で防ぐが、韋駄天は棍に防がれている短剣を起点に空中で倒立するかのように体勢を立て直す。


「ちっ、蹴りか!」


 すぐさま棍で押し返してバランスを崩し、その腹に蹴りを叩き込む。しかし、それは同じく蹴りを放った韋駄天によって相殺される。

 ガンッ!! という人の脚がぶつかり合ったとは思えないような音が響き、交差した脚を中心に白いライトエフェクトが飛び散った。


「うりゃ!」


 そうして両者ともに短いながらも硬直を喰らうが、やはりステータスで負けるためか、俺よりも一瞬早く硬直から復帰した韋駄天によって棒立ちの俺の腹部に蹴りが叩き込まれ、俺は凄まじい衝撃とともに大きく吹き飛んだ。

 数回バウンドした後、地に手をついて滑りながらも体勢を立て直すが、既に目の前に迫っていた韋駄天を見てすぐさま横に跳ぶ。

 ちっ、と舌打ちをひとつ打つ。駄目だなこの流れは。こいつは速さに任せた一撃離脱タイプで、そこで相手に隙が出来れば連続攻撃を畳み掛けるのだろう。耐久が低いって言ってたし妥当なところか。

 つまり、速さで圧倒的に負けてる俺はカウンターからの連続攻撃しか攻撃方法がほぼ無いのだが、相打ちだと硬直時間の差で負けて、攻撃が甘いと逃げられる。しかも相手の攻撃速度は目に見えないほどで、まともに防ぐのも難しい。

 本当に厳しいな、こりゃ。

 幸いなのはどうやらあのブレードシューズは遠心力か何かで小回りが利かなくなるようで、この柱の上で最も懸念すべき超高速移動による「どこから来るか分かっていても防げない背面強襲」が行われる心配が少ないことだ。ステップ系の技能もあるから油断は出来ないが。


「まだまだぁ!!」

「くっ……!」


 ステップで移動をキャンセルしたのか、再び襲いかかってくる韋駄天の攻撃を何とか弾く。物理エンジンが優秀なイウではダメージは発生しなくても、敵の体当たりを喰らって「よろける」という最悪のシステム外状態異常(デバフ)を喰らうこともあるので、真正面から棒立ちで受けるなんてことはせずに、後ろに跳びつつ、出来るだけ後方に運動エネルギーを逸らすように短剣を防ぐ。

 性能が優秀なのも本当に困りものだよ。何で現実の運動感覚で戦わなくちゃいけないのか……。

 運動能力が上がっているため普通の体当たりじゃびくともしないのだが、流石に時速数十キロくらいはありそうな突進を普通に受け止められる気はしない。

 棍を振り回して相手を下がらせ、その隙に俺はバックステップ(技能ではなく自前のもの)でボスやその他諸々の待つ上に進む。

 俺の取る戦略はズバリ「上まで行って誰かに助けてもらおう! それが無理でも誰かを乱入させて戦いを有耶無耶にしてしまおう!」である。自分で言うのもあれだが、非常に情けないな。

 だがまぁ、現状俺は勝ち負けにはあまり(こだわ)ってないし、別にプライドが傷ついたりもしない。

 これがもう少し太刀打ち出来そうだったら不利でも諦めずに勝ちに行くのだが、ここまで対処が難しいとなると助けてもらうまで生き残るだけでもう満足である。

 ユキムラに「ヘルプ」とだけメールを送り、じりじりと後ろに下がりながら相手を観察する。

 韋駄天は「む?」とだけ呟き俺を怪訝(けげん)そうに見る。どうやら俺の思惑に気が付いたようだ。

 でもまあ、流石にちょっとは抵抗するか。


「あ、逃げる気かっ!?」


 そう言って一歩でマックススピードにまで辿り着いて距離を縮めてくる、韋駄天の想定通りの(・・・・・)動き(・・)に、俺は奥の手を切って対抗する。

 右、左、上と棍をくるくると回し、最後にダンッ! と地面を踏みしめて棍を構える。

 そして発動するのは、弾き防御スキルの技能、『カウンターガード』である。

 身体から薄く青い(もや)のようなライトエフェクトが立ち上がった俺に気付き、警戒してステップで横から強襲してくるが、甘い。

 その最早視認出来ない速度の攻撃に俺の身体は「自動で」反応し、短剣をピンポイントで弾き、ジャストガードが発動する。


「んな……!?」


 驚愕したような韋駄天にニヤリと口角を上げ、そのままシステムアシストに任せて韋駄天の横っ面をホームランする。

 『カウンターガード』とは、現時点での数少ない弾き防御スキルの技能である。効果時間内に物理攻撃をされた場合、自動で攻撃を防ぎ、反撃するというバランスブレイカー並みの有能性を持つ楽しい技能だ。

 ただし、欠点も多い。まず発動するまでが隙だらけであり、次に効果時間は3秒と短く、最後に発動後も隙だらけである。ようするに、上手く決まらないと格好の的となってしまうのだ。

 だが、今回は上手く決まった。もしこの技能が広く知られてしまったら最早相手にとっては(えさ)でしかないので、これが使えるのはあと少しの間だろう。パッチがあてられるか、上位互換が出てくれるのを祈るばかりである。

 ともかく、今は絶好の反撃チャンスだ。

 体勢を立て直したところの韋駄天に力任せに棍を叩きつけ、短剣で防がれたところで機巧剣に換装。すかさず技能でブーストし、ギミックを叩き込む。


「うおっ!?」


 しかし、面倒くさいことに素晴らしい反応を見せた韋駄天は身体を(ひね)って剣身を躱し、そのまま一瞬で距離を取られる。

 そこで俺はあることを思い出し、恐らく今までで一番の速さでシステムウィンドウを開く。すぐに韋駄天はやって来るため、急いで、かつ正確にウィンドウを次々に開き、目的の物を見つける。


「やってくれたな!」


 まず回復薬を取り出してHPを回復し、続けて距離を詰めてきた韋駄天の短剣は何とか防ぐも蹴りはわざと受けることで、強制的に距離を取る。

 再びウィンドウを開き、何種類かの丸薬をまとめて実体化し、その全てを口に入れ、飲み込みつつもウィンドウの操作を続ける。

 そして、あるアイテムを実体化したところで操作は終了。両手棍に換装し、こちらに向かってくる韋駄天を予想して右、左、上と棍をくるくる回して、最後に足を地面に打ち付ける。

 さあ、仕込みは万全。あとは相手がどう来るかだな。


「その技は見切ったぞ!」


 そう叫び、ダッシュをステップでキャンセルして俺の直前で止まる韋駄天。俺がしばらくは動けないと予想したからか無防備に止まり、すぐさま後ろに距離を取ろうとする。

 だが、甘い。


「喰らえっ!」

「なっ!?」


 俺が技能を発動したなんて、誰が言ったさ。

 例え予備動作を行ったとしても、1分半と長い再行使制限(クールタイム)を持つ『カウンターガード』は不発となっており、普通に動ける俺は左手に隠し持っていた黄色い液体の入った試験管を韋駄天に投げつける。

 至近距離での不意打ちは例え韋駄天だとしても回避は不可能で、韋駄天は俺の投げた試験管―――『麻痺毒』を喰らってしまう。


「うわっ、麻痺か!」


 顔を引きつらせて驚く韋駄天に内心ガッツポーズをして、俺はすぐさま攻勢に入る。

麻痺の効果は3分の1の確率で行動のキャンセル。効果時間は30秒。プラスして、俺の飲んだ丸薬の効果は1分だが、まぁもう残り30秒くらいだろう。

 麻痺耐性などがついていたら危なかったのだが、以前姫様に状態異常の対処は現状魔法かアイテムしかないと聞いたことがあったので、上手くいくとは信じていた。

 また、技能が発生した時に立ち上るあの(もや)のようなエフェクトが無いことで気付かれる可能性もあったが、韋駄天はさっきのことでこの技能に苦手意識を持っている(はずだ)。あんだけ予備動作が派手なら、警戒して攻撃は避けるだろう。

 とにかく、こうして成功して麻痺ったからには韋駄天は回復しようとするはず。もしくは30秒耐え切ろうとするはずだ。その隙に出来る限りダメージを与え、倒せるようなら倒す。


「この30秒で決める!」


 無理だったらもう一回麻痺らせる!


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