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「……誰だ、お前」


 VR技術によってネットと社会の繋がりがより密接になった現代では、自分の公開していない情報が知られていることほど怖いことは無い。その情報の1つが知られているということは、他の重要な情報……例えば、銀行の口座番号が知られている可能性だって無くはないのだ。

 ただ、こんな時代だからこそ、ネットを利用した犯罪ってのは難しくなっている。詳しいことは分からないが、どんな小さな足跡(ログ)からでも、個人の演算タブレット(パソコン)を特定する技術も確立しているらしい。

 それでも裏をかく人間が存在するため、ネット警察は日夜頑張っているんだけどな。

 というわけで、普通に実は知り合いだったっていう可能性の方が高い。俺は髪と瞳と肌の色しか変えてないため、気付く人は気付くだろう。

 だが、俺の反応を見て正解だと分かったのか、笑みを浮かべた顔は非常にむかつくものだった。具体的に言うと、何か無性に殴りたくなった。


「い、いや、そう睨みつけながら聞かれたら怖いんだけど」

「誰だお前」

「いや、棍の素振りしながらでも怖ぇから!」

「…………」

「無言で素振りしろってことじゃねぇよ!?」


 さて、冗談はさておき、俺のことを「アキラ」と呼ぶ人はそう多くはない。家族とクラスの男子くらいだ。その中でイウをやりこんでいる奴となると……。


「ほら、俺だよ俺!」

「オレオレ詐欺はもう古いぞ」

「あーもう! 話の腰を折るなよ!」


 昔はよくあったらしいが、あれは現在では既に遺物(アーティファクト)と言っていい存在だ。主に検挙率の問題で。

 それほどまでにここ最近の科学技術の発展が(いちじる)しいということでもある。

 今流行っているのはRMT(リアルマネートレード)とかによるVRゲームでの詐欺だな。親世代からすると、VRゲームがここまで浸透した今だからこそ増えた犯罪らしいけど。

 まあ、どちらにせよ検挙率は高いけどな。


「ほら、去年同じクラスで、しかも席前後だっただろ?」

「えーわかんなーい」

「素振りは止めて!? ほら、飯田だよ! 飯田(いいだ)正樹(まさき)!」

「えーわかんなーい」

「なんでっ!?」


 面白いように騒ぎまくる飯田正樹こと韋駄天ことダテさんこと友人A(仮称)。今年の冬から合わせて計十数本もジュースを奢ってあげた彼である。

 こいつは自覚のない弄られキャラなので、こいつから何かされるとやり返さないと気が済まなくなってしまう。残念なことだが、これ自然の摂理。


「悲しいことに、あのころの俺は友達の名前なんて一人限定で覚えてなかったんだよ、飯田クン」

「それ覚えられてないの俺だけじゃん!?」


 まぁ冗談はこのくらいにして、ユキムラたちも待ってるだろうし、そろそろ話を進めるか。


「で、何なんだよ、韋駄天」

「いやまあ韋駄天なんだけど……なんだろうこの微妙な感じ」

「さっさと話せよ、韋駄天」

「あ、悪い。えっと……」

「どうせイイダ→イダ→イダテンなんだろ? んで、どうせならってことでスピードキャラなんだろ?」

「やめて! 俺の内心解説しないで!!」


 おっと、しまった。気付いたら弄ってしまうので話が進まないな。自重するか。


「いやさ、なんかどう見てもアキラっぽい人がいるなーって思ってさ。間違いだったら申し訳ないけど多分あってるだろうしってことで話しかけたんだよ。VRなら相手の顔色見ながら話せるからねー」

「そうじゃねぇよ、何でお前がそんな爽やかイケメンなんだよってことだよ」

「え、そこ!?」


 現実(リアル)でのこいつは犬みたいっていうか、良く言えば女顔の可愛い系であり、目の前の仮想体(アバター)みたいなすらっとした爽やかイケメンではない。相対した俺からすると普段のイメージとのギャップが物凄い。

 これが現実で知り合いの演技派(ナリキリ)ゲーマーのネット人格を見てしまった時の「うわー」という感覚だろうか。


「あ、もし聞き耳スキルを鍛えててもこの話を聞ける範囲には人いないから。安心していいよ」

「まあ、そうじゃなきゃ話しかけないだろうしな。索敵鍛えてんのか?」

「一応な。斥候やってるから」

「へー」


 ということはやっぱスピード系か。こりゃ逃げ切れそうにはないな。


「で、そっちの想定通りだった訳だけど、どうすんだよ」

「もちろん、出会ったからには戦うしかないっしょ!」

「そっちが一方的に向かって来たんだけどな」


 腰から2本の剣を抜き放ち、両手で構える韋駄天。その短剣は両方青白いオーラのようなエフェクトを纏っており、一目見るだけで業物だということが分かる。


「よし、行くぞ! アキラ!!」

「アサヒな」

「あ、ごめん。行くぞ、アサヒ!!」

「ちょい待ち」

「何だよ!」


 こちらに向かって来ようとする韋駄天の勢いを削ぐように制止を掛け、話しかける。

 さて、普通に戦ったら装備の性能差で負けて、上手く戦っても倒すには至らないだろう。というわけで、少しでもこちらに有利な状況を作らなくてはならない。

 運が良いことに、俺はこいつの性格その他諸々を知っている。つまり、俺の利になるような条件を付けるくらい楽勝だ。


「あのさ、お前が俺を見かけて話しかけたのは良いとしてもさ、行き成り本名(リアルネーム)を言ったのは良くないと思うんだ」

「うっ……そ、それは確かに、今となってみれば駄目だったかなぁ、とは思ってたけど」


 想定通り、狼狽(うろた)える韋駄天。

さて、ここからどうするかだな。こいつの性格上レアアイテムとかを差し出して来そうだけど、俺の場合はトッププレイヤーが知り合いに何人もいるんだから、材料さえあれば取引くらい余裕だ。それよりも、ここはこいつを排除してこの先に行くことの方が大事だろう。


「つまりさ、簡単に言うとだな、何か謝罪を示してもらってもいいんじゃないかってことだ」

「ま、まあ確かにそうかも……」


 うなずく韋駄天。楽勝である。


「じゃ、じゃあどうして欲しい? 何かアイテムやろうか? それともここは道を譲ろうか?」

「馬鹿言え。アイテムなんかいらないし、ここで戦わなくてもどうせ後で戦うことになるだろ」

「じゃあどうすればいいんだ?」

「なに、ただ単に俺の気が済まないってだけなんだ。そんな大層なことをしてもらうつもりはねぇよ」


 本当は別に何もしてもらわなくてもいいんだけどな。まぁ状況を利用するのも立派な戦略ってやつだ。


「一発殴らせろ」

「……マジか」


 嫌な予感がしたのか、顔が引きつる韋駄天。しかし、こいつの性格上断ることは無いだろう。まぁ条件くらい付けてくるかもしれないが。


「……まあ、俺の軽率な行動がいけなかったんだ。それくらい仕方ないか」


 よし、来い! と顔を差し出してその場に固まる韋駄天。

 ふむ、潔いな。その心意気やよし。こちらも全力で答えよう。


「……あの、アサヒさん。何で棍を構えてるの?」

「一発殴るため」

「棍で!? 俺死んじゃうよ!?」


 いやー、良い装備身に着けてるんだし大丈夫でしょー。

 死んだら死んだでまあいいか、なんて思ってないよ。ウン。


「じゃ、じゃあ技能は使うなよ! 流石に一発じゃ分かんないけど、耐久低いから最悪死ぬから!」

「分かった分かった」


 良いこと聞いた。これは俺でも勝てる可能性あるんじゃないか?


「行くぞー」

「来いっ!!」


 目を(つぶ)り、ショックに備える韋駄天。

 そんな韋駄天に俺は棍を振り下ろ―――さずに、システムアシストに従って下から(すく)い上げるように棍を振う。

 両手棍スキル単発打ち上げ技『天昇打突(テンショウダトツ)』。


「ぐはっ!!」


 狙いは違わず棍は韋駄天の顎にクリーンヒットし、その身体を打ち上げる。

 いやはや、便利だな、この技。


「ちょ、技能は使わないって―――」

「もんどうむよーう」


 宙に浮いた韋駄天に棍を突き刺し、続けてジャンプしてその胴体をくの字にするように蹴りを入れる。

 蹴り技スキル三連撃技『烈空脚(レックウキャク)』。空中で、しかも斜め前方の方向にしか使用できないが、流れるように3連撃を加える優秀な技能である。


「こ、この……!」


 硬直から立ち直ったらしい韋駄天が短剣を交差させて防御の構えを取るが、その上から止めとばかりにもう一撃叩き込み、柱の重力範囲外へと大きく吹き飛ばす。

 ガードされたため碌にダメージは入っていないだろうが、吹き飛ばす分には問題無い。


「この、卑怯者ーッ!!」

「はっはっは、何とでも言えー」


 そのまま遥か彼方へと落ちていく韋駄天。さてこれで邪魔者は消えたか。

 すると、そこにタイミング良く誰かからの音声通話が掛かってきた。目の前に現れたウィンドウを見ると、ユキムラからのようだ。


「おうユキムラか。どうした?」

<いやー、ちょいとミスっちまってな。取りあえず全員倒したがそっちに2人行ったろ。大丈夫か?>

「ああ、両方落とした」

<ああ、そうかい。流石はアサヒだ>


 どうやら向こうも片が付いたらしい。

 誰かと合流したのか、それともキキョウさんと2人でやったのか。どちらにせよ、流石はトッププレイヤーと言ったところか。


「今どこにいるんだ?」

<ボスの手前。ギリギリ索敵に引っかかんないラインを見つけたからな。こっちの攻撃も届かないけど>

「おっけ。じゃあ、俺も今からそっちに……ん?」

<どうした?>

「いや、詰めが甘かったみたいでな。お客さんだ」


 韋駄天が落ちていった方向を見ると、何やら猛スピードで駆けてくる物体が目に入る。

 十中八九韋駄天だろうが、それにしては戻ってくるのが早過ぎる。落ちている途中にどうにかして柱に復帰でもしたんだろうか。


<あー、そうか。じゃあ、まあ、頑張れよ>

「へいへい」


 そのまま通話を終了し、駆けてくる人物の方に向き直る。最初は米粒のように小さくしか見えていなかったが、近づいてきてはっきり見えてくると、やはりその正体は韋駄天で当たっているようだ。


「アァァぁぁサァァぁぁヒィィぃぃいいいい!!!」


 まるで地獄から舞い戻った鬼のような形相で韋駄天が物凄い勢いで走ってきて、そのまま両の短剣で斬りかかってくる。


「おいおい、せっかく爽やかイケメンになってるのに台無しだぞ?」

「誰が顔面詐欺だ! 俺だってこんな顔に生まれたかったよッ!!」

「そんなこと一言も言ってねぇよ」


 人は誰しもコンプレックスを抱えて生きている。

 いやまあ、そこまで大層なことでもないけど。


「それよりも! よくも嘘ついてくれたな!」

「馬鹿言え。俺は『分かった』とは言ったが、『その通りにする』とは言ってねぇぞ」

「酷すぎる! 予想通りだけど!!」


 敏捷値(スピード)には物凄い差があるのだろうが、その分筋力値(パワー)にはあまり差が無いようで、短剣と棍が火花を散らして拮抗した後、韋駄天は大きく後ろに飛んで距離を取る


「てかお前、どうやって戻ってきたんだ?」

「この柱は範囲内にあればどんなものにでも重力が加味されるからね。インベントリから使ってない服とか取り出して範囲内に突っ込んでやれば、それに掴まってりゃあとは自然と戻ってこれるのさ」


 要するに、少し吹っ飛ばす距離が足りなかったってことか。

 流石にあれ以上飛ばすのはなかなか難しいし、こうなりゃ本気で戦って倒すしかないかもなぁ。


「さて、さっきは不意打ちを喰らったが、今度はそうは行かねぇぞ!!」

「はーい、韋駄天さん。ハンデが欲しいでーす」

「嫌だよ! お前マジで殺しにかかってくるじゃん!」

「いやいや、韋駄天さんよ。こっちはまだ始めてから一週間くらいしかたってないんだぜ?」

「え、マジで? そんなもんなの!?」


 ふ、ちょろい。

 いかにも「驚いた」といった様子の韋駄天に、俺はさらに畳み掛ける。


「そこで、だ。一発殴らせろ的なことはいらないから、代わりにハンデつけろ」

「う、うーん……」

「お前もうこのゲームβも合わせて相当やってるんだろ? 戦闘スタイルの解説とかだったら、どうせ後で分かることだし良いじゃねぇか」

「う、ん……まあ、そうだな」


 ヤバい。ちょろ過ぎて心配になってくる。こいつ詐欺られたりしてないよな……?


「よし、じゃあ俺の切り札を先に教えてやろう!」

「おおー」

「といっても切り札らしい切り札はないんだけどな」


 そう言って、韋駄天は空を蹴るようにして勢いよく足を振る。

 すると、ジャキンッ! という音を発して、靴の裏からスケート靴のブレードのような物が姿を現した。


「これが俺の切り札『ブレードシューズ』だ」

「へぇ。移動速度アップ系か?」

「ああ。しかもイベントくじで当選しないと当らないレアアイテムだぜ!」


 韋駄天によると、この『ブレードシューズ』は装備するだけで「移動速度+40%」の効果を持つ超高性能装備らしい。その分紙装甲らしいが、それを補って余る性能だ。

 さらに、この靴を履いた状態で「蹴り技」系の攻撃を放つと、それは打撃系ではなく斬撃系の攻撃に変化するというユニークな性能もあるらしい。


「なるほどね、じゃあお前って」

「そう! 俺は短剣×2と両足のブレードによる四刀流使いだ!!」


 ドンッ!! という効果音でもついているかのような言葉回しで胸を張る韋駄天。

 普通にペラペラと情報を話してもらったが、これは意外と手強い相手だ。単純に手数の多い相手は厄介だし、スピード型なのもそれに拍車をかけている。


「さて、俺が話せるのはこれくらいだ。あとは戦ってるうちに自分で分析してくれ」

「おーけい、ありがとよ」


 取りあえず主な戦闘スタイルは分かったから心構えはできるが、はてさて、これは勝てるかな?


と言う訳で、ちょろ甘系誰得騙され男性キャラの韋駄天さんの登場です。

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