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「この、いい加減当たれッス!」

「やなこった!」


 前後左右とあらゆる方向から襲ってくる蛇腹剣を両手棍で必死に弾き続ける。

 悲しいことに装備の性能差があるため、一番重量が軽いはずの服装備であっても鎧系のアースプレイヤーたちに追いつかれそうになっていた俺は、ユキムラに手伝ってもらって少し離れたところに存在していた別の柱へと移動していた。

 地上付近なら遠すぎて届かなかっただろうが、エリアが球体型であるため、先に進んだことによって何とかユキムラに槍を使って弾き飛ばしてもらうことで辿り着くことが出来た。

 どうやらこの杭の重力が作用する限界は2、3メートル程度であるようで、杭から2、3メートル離れると地上に真っ逆さまなので相当な恐怖体験を味わうことになったのだが。

 それに加えて、杭に着地するときは重力は杭に向かって作用しているため、本来なら莫大な落下ダメージを喰らうことになるはずで、ユキムラに弾き飛ばされた後に「ああ、これは終わった」と絶望した。幸いなことに無重力(?)エリアの特徴なのか、落下ダメージは無効化されているようで助かったのだが。


「うりゃあ!!」

「おっと!」


 杭の下を通して死角から迫った蛇腹剣を音で察知して何とか躱す。

 想定外だったのは、アースプレイヤー側もこちらの杭に人を飛ばしてきたことだ。てっきり「人数減ったぜ、ラッキー!」となるもんだとばかり思っていたものだから、相当焦った。それが分かっていたのにこちら側に飛んだのは、ユキムラとキキョウさんを信じてのことだ。決して、我が身を惜しんでとか、まぁこいつらなら平気っしょ、とかではない。断じて。

 それはともかく、そんなこんなで俺は追ってきたカオル氏と相対しているのだが、今の俺がまともに戦って勝てる訳ないのだ。プレイヤースキルは負けてない(と思いたい)が、装備の性能差とスキルの熟練度の差は覆しようが無い。VRが導入されたことで全般的にゲームはアクション性が高まったとは言え、このゲームはMMORPGなのである。プレイ時間=戦闘力となるのは一種の運命とも言えるだろう。


「ま、状況によりけりだけどな!」


 しつこく追ってきた蛇腹剣を弾いた際に、運よくジャストガードが発動する。これは攻撃をタイミングよくガードした際に発動するもので、これが発動すると相手は数秒間『行動不能』の状態異常(デバフ)を喰らう。

 少し距離が離れているため、辿り着くまでに行動不能は解けてしまうだろうが、このチャンスを逃すわけにはいかない。

 このゲームのジャストガードはタイミングがシビアで、コンマ何秒の世界でガードを決めなくてはならない。正直どれだけやっても狙って出来るものではない。他のゲームでも似たようなものはあったが、これだけ条件が厳しいものは初めてだ。

 ともかく、そういう理由でジャストガードは当てにできない。だが、この戦いは「撤退戦」だ。相手を杭から落としてしまえばそれで勝ちなのだ。

 相手の隙をついて空に打ち上げ、戻ってこれないところにまで弾き飛ばす。それが俺の勝利条件だ。


「喰らえッ!」

「甘いッス! 『換装』!」


 俺が殴り掛かろうとした瞬間、『行動不能』が解けたカオルの伸びきっていた蛇腹剣が輝き、光となって虚空に消え、次の瞬間にはその手にはチェーンソーのような武器が姿を現す。

 機巧剣の一種、『鎖剣』だ。

 その外見は大剣と大差ないが、回転する刃が特徴で、要するにまんまチェーンソーである。

 鎖剣は他の武器に比べて相手装備の耐久値に与えるダメージが大きいという利点があり、武器破壊などがしやすいのが特徴だ。その分重量があるので取り回しは難しいのだが。


「マジか! まだ種類あんのかよ!」

「行くッスよ!」


 カオルが横に振った鎖剣を、両手棍では受けずに身を低くして躱す。

 戦って分かったことだが、このカオル氏は『換装』を利用した複数の武器を操る機巧剣使いだ。現時点で確認した限りでは、使用武器は『砲撃剣』、『蛇腹剣』、『鎖剣』の3種類。もしかしたらまだあるかもしれない。換装スキルは成長速度がかなり遅いと言うのに、凄まじいことだ。

 俺も『飛刃剣』を使うために機巧剣スキルを取っているから分かるのだが、この機巧剣というジャンルの武器は、非常に換装との相性が良い。いくつかの種類がある機巧剣だが、スキル的には全て纏められているため、いくつ武器を扱ってもホルダーを圧迫しないのだ。まあその分スキルは壊滅的なので、もしかしたら機巧剣という武器は換装と組むことを前提に設計されているのかもしれない。

 そう考えると、正直、最近飛刃剣の使い勝手が悪くて悩んでいたのだが、機巧剣を単体で使っているせいかもしれない。いっそ別の武器に手を出してもいいかもしれないなぁ。

 まあそれは置いといて、肝心のカオル攻略法だが、この「換装+機巧剣コンボ」には弱点があったりする。そこを突かせてもらうか。


「さあ、仕切り直しッス!」

「チャンス!」

「あ、待てこら!」


 カオルが重い鎖剣を持っているうちに背を向けて逃走する。恐らく砲撃剣の方が重量はあるだろうが、あれは1対1で使うような武器じゃない。

 この場合、相手はこのまま俺を追いかける、蛇腹剣に換装して攻撃しつつ追いかける、砲撃剣に換装して弾丸を放つ、という3つの選択肢がある。

 まず、順当に考えて砲撃剣はあり得ない。重い上に、先程実際にそうしたように弾かれる可能性があるからだ。さらに、砲撃中はどうしても足を止めることになる。この可能性は消えるだろう。

 次に、鎖剣と蛇腹剣を比べると、逃走中の相手に対してと考えると、どう考えても蛇腹剣の方が良いだろう。完全近距離用の鎖剣と違い、蛇腹剣は近~中距離用でその分攻撃範囲も広い。威力は少々アレだが、足を止めるには十分だ。


「く、この……!」


 カオルの手が輝き、鎖剣が姿を消す。換装だ。

 今の俺とカオルの距離は約10メートル程度だろうか。


「待てって言ってるッスよ!!」


 虚空から蛇腹剣を取り出し、俺に向かって伸ばすカオル。しかし、俺が狙っていたのはこの瞬間だ。


「引っかかったな!!」


 すぐさま反転し、擦れ違いざまに蛇腹剣を弾いて『ダッシュ』を使ってカオルへと迫る。

 技能を使えば10メートル程度、1秒もあれば駆け抜けられる。


「なっ……!」


 慌てて蛇腹剣を引き戻そうとするが、棍で弾かれたせいで乱れた蛇腹剣より俺が辿り着く方が速い。そして、カオルは今換装を・・・使う事は・・・・出来ない(・・・・)

 理由は簡単、『再行使制限(クールタイム)』だ。技能には例外なく『再行使制限』が設定されており、連続での使用は不可能だ。同じスキルを持つ俺だから分かることだが、換装の『再行使制限』は10秒。これは短いようで長く、現に今さっき使用したばかりのカオルではまだ使う事は出来ない。

 唯一の懸念としては蛇腹剣以外の第4の機巧剣で対処されることだったが、持っていないのか、それとも対処には向いていなかったのか。とにかく賭けは俺の勝ちだ。


「今度こそ喰らえッ!!」


 懐に潜り込んだ俺の脚が閃き、ライトエフェクトを伴った回し蹴りがカオルを襲う。そして、杭から離れたカオルを追って、すかさず俺も飛び上がり両手棍を振り絞った。

 両手棍スキル単発技『鐘鳴撃(ショウメイゲキ)』。正直初期の技能なのでダメージに期待は出来ないのだが、横薙ぎの一撃であるこの技能は相手を吹っ飛ばすにはちょうど良い。


「ま、マジッスかぁ!?」


 残念ながら、マジだ。

 棍の横薙ぎは狂いなくカオルの腹部に命中し、その身体を跳ね飛ばす。

 すると、途中で重力圏内から出たのか、突然地上に引っ張られて横向きに落ちていくカオル。杭が柱状であるため、横に飛んでも圏内から出てしまうのだ。

 さて、とばかりにカオルとさよならし、ボスの方向を向く。大分近づいたためか、何となく豆粒のように小さく人が動き回っているように見えなくもない。

 しかし、俺もボスの元に行こうとした瞬間、ガシャン! という音とともに足元に衝撃が走った。


「ふっふっふ、道連れじゃいッス!!」

「……おいおい、マジかよ」


 地面へと落ちていったと思っていたカオルが放った蛇腹剣が、俺の脚に絡みついていた。

 そのまま、カオルは蛇腹剣を力いっぱい引いたのか、ステータスで負ける俺は宙に飛ぶ。


「さあ! このまま一緒に落ちてもらうッス!」

「1人で落ちろ!」


 足に絡みついたままの蛇腹剣を掴む。ダメージを受けるが微々たるものなので無視し、そのまま力いっぱいカオルを引き寄せる。

 恐らく蛇腹剣を使って柱に戻ろうとしないのは、蛇腹剣にはそのような力が無いからだろう。俺の脚にそうしたように引っ掛けられるものがあれば話は別なのかもしれないが、表面には何もない上に、大きすぎて柱そのものに引っ掛けることもできないため、戻れないのだ。

 つまり、カオルを踏み台にして柱に戻り、蛇腹剣を弾いてしまえば、今度こそさよならできるのだ。


「その考えは読めてるッスよ!!」


 そう叫び、カオルは蛇腹剣から砲撃剣へと換装する。これで手綱が無くなってしまった上に、カオルはこちらに一方的に攻撃できる。まあ、今までを見るにどうせ弾数は3発だろうが。

 別にこちらも飛刃剣で対抗してもいいのだが、あれは敵を吹き飛ばす効果が若干あったりする。そうなると最早柱に戻る手段はなくなるだろう。

 こういう時にリンが持っているジャンプスキルの技能である『空中ジャンプ』が羨ましい。あれは確か熟練度が200を越えると出てくるはずなので、それに届いていない俺はまだ持っていない。


「さて、どうするかなーっと」


 砲撃剣を構えたカオルを眺めながら考えてみるが、なかなか良い案は浮かばない。ふむ、これもう落ちるしかないかもしれないなぁ。

 だが、俺のその考えは裏切られることとなった。突然、横合いから衝撃に襲われ、柱の方向に吹き飛んだのだ。具体的に言うと、突然流星の如く現れた謎の男にドロップキックをされ、その勢いで柱に衝突した。

 謎の男はそのまま「ダテさん!」と叫ぶカオルが換装し伸ばされた蛇腹剣を掴んで杭に降り立ち、そのまま蛇腹剣を離した。


「え、あれ? ちょっと! 何で離すんスか!?」

「ごめん、ちょいと確認したいことあるから下行ってて」

「うわっ、この人非人めぇぇぇえええ!!!」


 ぎゃぁぁああああ、という尾を引く絶叫を残して、カオルは地面に向かってシュートされた。

 そして、その隙に減ったHPを抜け目なく回復させていた俺は「ダテさん」と呼ばれた謎の男と対峙する。多分『紅蓮の騎士団(クリムゾンナイツ)』の一員なんだろうけど。さっき見た気もするし。


「さて、俺の名前は韋駄天(イダテン)だ。よろしく」

「あ、ああ。アサヒだ、よろしく」


 ポイッシュされたカオルを見送った後、男はこちらを向いて自己紹介をした。

 背は同じくらいだろうか。鈍い金髪に碧眼で、多少『弄って』いるのだろう。きれいな顔立ちをしていた。これで弄ってない天然の顔だったら俺の醜い嫉妬みたいになってしまうが、そこのところはご容赦いただきたいと思う。イケメンは爆発すればいいと思う。

 腰には短めの一対の鞘に収められた剣があり、双剣……いや、短剣系を『二刀流』で扱うのだろう。

 『二刀流』とは、その名の通り片手用装備を逆の手でもさらに装備できるようになる、制限解除スキルの一種だ。

 双剣とは違い専用の戦闘技能は存在しないが、戦略の幅が広がることから結構人気のスキルだったはず。

 ちなみにこのスキルのせいで「双剣」と「片手剣の二刀流」という同じようで違う戦闘スタイルが出来てしまいややこしいことになるのだが、それは置いておくとする。


「で、そのダテさんがどうしたんだ?」

「ダテさん言うな! 俺の名前は韋駄天だっ!」


 なるほど、こういう弄られしてるのか。

 そんなどうでもいいことはともかく、韋駄天と名乗った男の装備はかなり優れているようで、身に纏った軽鎧は一見ただの(レザー)装備だが、ユキムラたちにも負けず劣らずの物だと何となく推測できる。

 全てのアイテムはレアリティによって何となくだが輝き方が違うのだが、韋駄天の装備は全て現時点での最高ランクであるグレード4の輝きである気がした。ちなみに俺は武器は3、防具は2である。強化してあるためただの3、ただの2ではないのだが、それは相手にも言えることだろう。

 もしかしたらβテスターかもしれない。そうでなくても廃ゲーマーなのは確実だ。ユキムラですらあんな良い装備で全身固めるなんて真似出来てねぇよ。

 と、まあ俺が勝てない理由を探し終わったところで、韋駄天が再び話し出す。


「なあ、間違ってたら申し訳ないしあってても申し訳ないんだが……」

「じゃあ話すなよ」

「いやいいじゃん。だからカオルわざわざ落としたんだし」


 どうやら自分の好奇心>仲間のカオルらしい。まことに御愁傷様である。

 ごほん、咳払いをひとつして再び韋駄天が話し出す。そこで話されたのは、正直予想だにしていなかった事だった。


「お前さ、もしかして(あきら)じゃね?」

「なっ……!?」


 それは、ユキムラたちですら知らないはずの俺の本名(リアルネーム)だった。


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