23
特に問題なく暴れまわって機械人形を殲滅し、報酬なのか、殲滅後に出現したアイテムを手に入れて外に出た。
手に入れたのは『レイガン』という名の片手電磁銃。一体このゲームには何種類の武器が存在するのだろうか。
撃つと丸い電磁弾が射出され、当たった相手にダメージと硬直の状態異常を確率で与える。ダメージは片手銃と同程度で、弾が大きく、弾速はかなり遅い。サポート系の武器だろう。
誰も興味がなかったようなので換装持ちの俺が受け取ったのだが、肝心の換装の熟練度はまだ100に達していないため、未だに換装可能数は1のままである。よって、今の時点ではレイガンは使えないのでインベントリの肥やしとなった。
そんなことがありながらも着々と進んでいき、中ボスを若干苦労して倒したのちに厳重な扉へと辿り着いた。
ちなみに中ボスは多頭蛇型の機械人形で、今までの相手した中で最も強かった。まあ、こちらには最前線のトッププレイヤーが3人もいるのだから、特に問題なかったのだが。こいつらが倒せないなら誰が倒せるんだ、という話だ。
「さて、じゃあそろそろボスだろ」
「うん、みんな頑張ろう!」
「ですね! センパイ死なないで下さいよ?」
「善処するよ」
と言っても、現状この中で一番死ぬ確率が高いのは俺なんだよなぁ。
「状態強化かけるよー」
「頼む。じゃあ俺らがどう動くか決めるか」
「その場のノリでいいんじゃないか?」
「さんせー」
詠唱を始めた姫様の隣でリンが俺の言葉に手を挙げる。だが、ユキムラは「ちげーよ」と首を振る。
「多分この中は全勢力が入り混じったエリアでのバトロワだろ。ただラスボスに突っ込んで行ったら他から狙い撃ちにされる。誰か片づけるやつが必要だろ」
「ああ、そういうことか」
「なら私がちょちょいと数を減らしてセンパイが強いのの時間稼ぎで良くないですか?」
リンが実に簡単そうに言うが、そんなこと出来る気がしないのだが。いやまあ確かに俺は対人の方がやりやすいのだが。それでも他の勢力にだってユキムラやリン並み、それ以上のプレイヤーはいる。
……うん、無理だろ。
そこで、はたと気が付く。別に俺が相手にする必要はないじゃないか。
「なあ、他のオーシャンのプレイヤーはどうしてんだ? そいつらに任せればいいんじゃないか?」
「まあ、もうじき来るか、もう中にいるだろ。でも、考えることはみんな同じだと思うぜ」
「ああ、そうかい……」
俺が肩を落とすと同時に姫様による魔法が発動し、攻撃や防御、状態異常耐性など、様々な効果が付与される。
「さて、取りあえずLAでも取りに行くか。ま、臨機応変に行こうぜ」
「はーい」
「結局その場のノリだろ」
「それは言わない約束ってやつですよ」
そして、扉の脇のコンソールを操作し、ボス部屋へと突入した。
◆ ◆ ◆
中はまさしく戦場だった。
ボス部屋は巨大な球体の内側といったステージで、球体が直径数キロメートルはありそうなほど巨大であった。そのためか、床は緩やかに湾曲している程度で、足場にするのに問題はなかった。
また、今までのフィールドと同じように重力が弄られており、(俺から見たら)壁に立ちながら戦っているプレイヤーが遠くに見える。もっとも、本人たちは普通に立っており、向こうからしたら俺の方が壁に立っているように見えるんだろうが。
そして、その球体の中央に、少し小さめの黒い立方体が存在していた。小さいとはいっても部屋と比べてであって、百メートルはあるんじゃないかという大きさなのだが。
ルービックキューブのようなその物体は表面に文字のようなものを出現させながらも、その身体から機関銃やミサイルを出したり、機械の腕のようなものを伸ばしたり、果ては手下を身体から放出して攻撃している。
「あれが動力源かな?」
「多分ね。ボスも兼ねてるみたいだね」
部屋に入った瞬間、視界の下にボスのHPゲージが出現する。表示された名前は『アーマードコア・ランペイジ』。名前の通り暴走しているのだろう。
動力源自体が火器をぶっ放したりして良いのかとか思うが……まぁあれだ、自衛手段なんだろう。うん。
あと、コアの一面に穴が開いて中ボス級の機械人形(手下)が出現していることから、質量の法則は完全に無視、もしくは超越されているとみていいだろう。
部屋の中にはいくつか黒い箱のような巨大な装置が存在しており、怪しげな雰囲気を放っている。てか多くのプレイヤーが装置に向かって攻撃を仕掛けているため、あれらを壊せばいいのだろう。
「じゃ、お先ですっ!」
「あ、おいバカ! ……たく、俺らも行くぞ!」
一目散に近くの装置に向かって走り出したリンを追いかけて、ユキムラも走り出す。
「おいこら、とかじゃなくておいバカ、なんだね」
「それはリンが悪い。姫様もほら、置いてかれるぞ?」
「それは怖いね。走ろっか」
軽く首を竦めた姫様とともに、俺も同じ方向に向かって走り出す。
同時に全体を軽く見回すと、プレイヤーは大体2通りに分けられるようだった。即ち、互いに潰し合っているものと、装置を攻撃しているもの。あとは例外的にボスが手下を吐き出した時に手下を潰す奴らだろうか。
装置にもHPゲージがあるようなので、全ての装置が壊れて次の段階に進むのだろう。見たところ残っている装置は5つで、残りのうち4つはスピードの差はあれど着々とHPが減り続けているようだ。しかし、後のひとつは完全にプレイヤー同士の潰し合いの場と化している。要するに乱戦状態だ。
俺は近くに迫ったその様子を立ち止まって眺める。
「姫様、ここで見てようぜ。あいつらのHPが減ったら魔法かける感じで」
「え? う、うーん……あの2人なら大丈夫、かなぁ?」
「わざわざあそこに突っ込んで疲れても良いことないさ。ここからでも魔法届くんでしょ?」
「そうだけど……あれ?」
そこでふと姫様が疑問の声を上げた。姫様の視線を追ってみると、ボスである立方体『アーマードコア・ランペイジ』に注がれている。
よくよく見てみると、その表面から機関銃が飛び出していた。心なしかこちらに向いている気がしなくもない。
「姫様、あれ……」
「聖なる光よ、盾となりて我が身を守りたまえ―――『ウィスティウォール』!」
機関銃が火を噴くとともに、素早く詠唱した姫様の魔法が間に合い、その銃弾を遮るように光の壁が出現する。
「流石は姫様!」
「えへへ」
「……っと、お客さんか」
辺りを確認すると、何人かのプレイヤーがこっちに向かって来ている。頭上のアイコンは緑……パラディアのプレイヤーか。
彼らが俺らを素通りして装置の方に行ってくれるのならそれが一番良いのだが、他勢力のキルは問題ない仕様で無防備に突っ立っているのは危険だろう。そう考えると姫様も連れてこの場から離れたいのだが、基本的に今姫様が使ったような効果が持続する魔法を使っている間は、術者は動くことが出来ない。機関銃はまだ銃弾を無尽蔵に吐き続けているし、姫様に魔法をやめてもらうわけにはいかない。
「……はぁ」
「頑張ってねー」
「あいさー」
敵は6人。フルパーティである。恐らく今新しくこの部屋に入ってきたのだろう。結構速いこの段階でボス部屋に辿り着けたということは、上位層のプレイヤーであることは間違いない。
勝つことは不可能だし、長時間耐えることも不可能だろう。勝利条件は機関銃が止まるまで耐えること。長くてもあと1分程度だろうか。
「……よし」
覚悟を決めて、前を見据える。ただいつでも回復できるようにしておくのは忘れない。
取りあえずは素通りの可能性に賭けるかとも思ったが、火属性魔法である火の槍が撃ち込まれたことでその可能性は無くなってしまった。
火の槍を躱し、その間に迫ったパラディアのパーティと正面に対峙する。
「悪いな、対人戦の練習相手になってもらう」
「それならせめて同数にして戦えよ」
「前の大会じゃ後ろのゆるふわガールにボコボコにされたんでな、念のためだ」
一緒にいるってことはお前も強いんだろ? と好戦的な笑みを浮かべられ、俺は頬が引きつるのを感じた。否定しても信じてもらえないだろ、これ。
姫様を振り返ってみると、「あははー」とでも言うべき苦笑いを浮かべていた。肩ががっくりと落ちたが、気を取り直して前を向く。
さて、と今まで話に付き合ってくれていたリーダー風の男が腰だめに大剣を構える。
「泣けるぜ、まったく」
色んな意味でな。
◆ ◆ ◆
相手は大剣持ちのリーダーと双剣が1人、槍が1人、片手剣+盾が1人、術者が2人となっている。ちなみに全員男だ。どうでもいいかもしれないが、女性を蹴ったり殴ったりはあんまりしたくないのでほっとする。
……リン? ああ、何事にも例外ってあるよね。
まぁともかく、セオリーから行けば術者を先に潰すべきだが、その間に姫様に攻撃されても困る。もう姫様魔法解除して手伝ってくれないかなとも思うが、機関銃の威力が未知であるため、出来る限り安全に行きたいのだろう。
つまり最初は……。
「行くぞッ!!」
相手のリーダーが叫び、前衛4人が突っ込んでくる。
同時に俺も、姫様に目配せをしてから走り出す。
狙うは皮装備で一番重量が軽そうな双剣使いだ。
「セイッ!!」
リーダーの大剣を躱し、双剣使いの前に躍り出る。そして、ライトエフェクトを纏って放たれた一撃を両手棍で弾き、致命的な隙を作り出す。
本来、対人戦ではガードされることを危惧してもっと慎重に技能は使うべきなのだ。人数で圧倒的に勝っていることで油断したのか、それとも彼が対人戦に慣れていなかったのか。
「うりゃ!!」
そのまま襟を掴み、巴投げのようにして後ろ方向に思いっきり蹴り飛ばす。
同時に蹴り技スキル二連撃技『連脚』を発動。腹部を二度蹴りつけられたことで、双剣使いはその軽い重量もあって大きく吹き飛んだ。
「姫様!」
「うん!」
そして、後方―――姫様の方向に飛んだ双剣使いを見て、姫様はタイミングを見計らって魔法を消して走り出す。
「嘘だろ!?」
リーダーが何か言っているが気にしない。
結果、双剣使いは機関銃から吐き出される銃弾に貫かれ、姫様は彼を盾にして機関銃の嵐から脱出した。
少しは掠ったのか姫様のHPゲージが若干減少しているが、まあ問題はないだろう。
数秒もしないうちに機関銃の掃射を止まるが、硬直が発生したのか双剣使いはそのまま地面に落ちた。とはいっても流石に機関銃と俺の蹴りだけじゃ死なないのか、そのHPはまだ半分も減っていない。
「よし、行くか。姫様はどうする?」
「私は基本フォローで他の人に攻撃してもらうんだけど……」
「あー。俺の両手棍は若干威力が他と比べて低いからなぁ。熟練度も低いし」
「私も前出るよ。HP減ったら回復するから合流してほしいかな」
「そりゃ心強いね」
普段はフォロー役だとは言ったが、相手のリーダーを1対1でボコボコにする程度は強いのだ。前に出たとしても大丈夫だろう。
「ちっ、怯むな! 分断して各個撃破しろ!」
リーダーが叫び、前から3人が突っ込んでくる。それと同時に後ろの双剣使いに回復魔法が飛び、そのHPを全快させる。
こちらに向かってくるのは槍使い、あとは後ろから双剣使いだろうか。姫様の心配はあまりしないとして、どちらも幸運なことに俺は戦い慣れている。
「うおらぁ!」
気合を放って突っ込んでくる槍使いの一撃を棍で受け流し、槍の柄を掴んで動きを止める。そして、後ろから来た双剣使いに槍使いをぶつけるようにして振り回す。踏鞴を踏んで動きを止めた双剣使いにすかさず蹴りを入れて強制的に距離を取り、振り向きざまに換装した機巧剣を槍使いに押し当てて引き金を引く。
「悪いな」
ドンッ! という音を発して剣身が突き刺さり、槍使いは吹き飛んだ。まあ死んではいないだろうが、これで少しは時間稼ぎができるだろう。
回復魔法を使おうとしている術者に一発ギミックを撃ち込み、もう1人にもついでに撃ち込む。これで残弾はゼロだ。両手棍に換装し、双剣使いの方に向き直る。
走りながら振り下ろされた右の袈裟斬りを屈んで躱し、左手の剣を出される前に棍で弾き、胴を蹴り飛ばす。
姫様の方を一瞬確認すると、2人を相手に細剣と光魔法で翻弄しているのが見えた。視界の隅のゲージを確認するとほとんどHPは減ってはいなかった。
「じゃあこっちも手早く済ませますか!」
立ち上がろうとしている双剣使いの顔面に蹴り技スキル単発技『跳馬』を叩き込み、バウンドしたところで両手棍スキル二連撃技『崩撃』を発動。上から勢いよく振り下ろされる両手棍の一撃で、再び地面に叩きつけた。
双剣使いのHPがガクッと減少する。俺と同様で、防具にはそこまで金をかけていないのかもしれない。まあ、何にせよチャンスだ。
「く、くっそ!!」
「おっと」
起き上がった双剣使いが憎々しげな顔をしながらもライトエフェクトを放つ双剣を斜十字に構える。あれはリンが使っているのを見たことがある。確か2×2の4回斜めに斬り裂く技能だったはず。
「ツインクロスッ!」
「喰らうかよ!!」
対して俺は棍を腰に構え、システムアシストによって流れるような動作で後ろに下がりながらも、両手棍を上に振り上げる。
後ろに下がった俺に当たらず双剣はライトエフェクトを虚空に刻み、威力と手数では負けるが、双剣よりもリーチの長い両手棍が双剣使いの顎にクリーンヒットし、その身体を空中に打ち上げる。
両手棍スキル単発打ち上げ技『天昇打突』。両手棍の熟練度が200を越えて出てきた、打ち上げ系の戦闘技能である。特にダメージが大きいわけではないのだが、消費SPが少なく技能連携の起点となる汎用性と、再行使制限が短いという大きな利点がある。
しかも、この技能を起点とすると、空中コンボをそのまま決めてもいいし、落ちてきたところを攻めてもいいと、他と比べてかなり便利なのだ。まあ空中で体制を立て直される可能性はあるんだが。
しかし、今回は相手は技能発動中にカウンターを喰らったことになるので、硬直で動けないはずだ。
「崩撃!」
仰向けに落ちてきた相手に合わせて胴体に両手棍を叩き込み、バウンドしたところを『連脚』で上に打ち上げる。
そして、そのまま相手をさらに打ち上げるとともに自分も飛び上がる『翔破棍』を放ち、気弾のようなものを撃ち放つ『虎砲』で地面に叩き落とした。
「よっと」
地面に叩きつけられた双剣使いのHPが全損したのを確認し、俺は地面へと着地する。
今の技能連携は中々良かった気がするな。5連携も繋がったし、虎砲で落とす代わりに別のもので落として、終わりに虎砲という形にすれば6連携になるしな。
気を取り直して、全身を硝子片へと変えて四散する双剣使いを背に、俺はこちらに向かってくる槍使いと姫様が相手をしている連中を相手にすべく、地を蹴って駆け出した。




