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「さて、これでようやく一息つけたか」

「と言ってもいつ上に着くかわからないよ?」

「まあ、流石に多少は時間があるんじゃないか?」

「てか、着いたらいきなりボス戦ってこともあり得ますよね」


 エレベーターに飛び込むと、俺たちの身体はよくわからない力によって急スピードで上に飛び上がった。ウォータースライダーを思い浮かべるとイメージし易いだろうか。向きは下から上だし、直線で進んでいるが。

 そして、そのまま少し進むとコロニーの空―――天井部分を抜け、宇宙空間に飛び出した。その辺りからどちらが上でどちらが下かというような重力感覚が無くなり、無重力空間となった。


「へぇ、面白いねー」

「ヒメセンパイ。ほらほら!」

「わぁすごい! リンちゃんどうやってるの?」

「えっとですね、ここで足に少し力を入れて……」


 無重力空間に女性陣は興味津々のようで、今も上下左右にくるくると回っている。

 俺はといえば一応装備品のチェック中だ。イベント前にクレハに頼んで耐久値を回復させてきたため、問題は無いんだが。

 そういえば、こういうイベントでクレハたち生産者は何をしているんだろうか。採掘場所でも探したり、素材集めに勤しんでいるのだろうか。


「なぁアサヒ」

「ん? って何やってんだお前」


 目の前に、俺から見て胡坐をかいて上下逆さになったユキムラがやってきた。返事をすると、そのまま横に回転し始める。激しく目障りだが、面倒なので突っ込まない。


「速度アップ系何かないか? 使い切っちまってな」

「ああ、丸薬ならあるよ。ほれ」

「お、さんきゅ」


 アイテムの中には、一定時間一部のステータスを上昇させるものがある。最も一般的なものが今ユキムラに渡した『丸薬』系のアイテムだ。ステータスが基本装備依存のイウではかなり重宝するアイテムである。


「代わりに何かいるか?」

「別にいいよ、貸し1な」

「おいこら、誰がイウ手に入れるのに貢献したと思ってんだ」

「お前のお父上だろ」

「そりゃそうか」


 言葉を返し、システムウィンドウに目を戻す。装備の次はスキルを確認しとくか。何かあるかもしれないし。

 スキルには所謂(いわゆる)「上位スキル」と称されるものが存在しており、ある特定のスキルを育て続けることで出現させることができる。

 例えば、俺の『弾き防御(パリィ)』は『ガード』の熟練度を120以上にすれば出現する。この場合『弾き防御』を習得すると『ガード』は消滅してしまうが、上位スキルはその分性能が高い、もしくは特化しているのが特徴だ。

 中には複数の特定スキルを育てなければ出現しないスキルや、誰も見向きもしないようなマイナースキルが必要となるスキルもあるらしい。総スキル数は1000近くあるんじゃないかと言われており、今後もアップデートの度に増えていくと予想される。世のスキル収集家(マスター)は喜びと悲しみの涙を同時に流したらしい。

 残念ながら今確認してみたところ新しいスキルは出ていなかったが、いくつか未確認の技能があるため、ひとつひとつ確認していく。


「なんか新しいスキルでもあったか?」

「いいや。ただ、いくつか技能が増えたからさ、確認をね」

「ああ、ここら辺は俺らでも普通に伸びるからな。お前だったら伸びやばいだろ」

「ついに『両手棍』が200越えたよ」

「そりゃおめでとう」


 ユキムラたちは一番高いもので熟練度は300ちょいらしい。まだまだ差はあるが、最初よりは縮まっている。


「さて、じゃあそろそろ着きそうだ。一応準備はしておけよ」

「あいさー」


 上を見ると(既にどこが上かなんてわからなくなっているのだが)、もうコロニーの最深部は目と鼻の先となっていた。

 よし、とそれぞれの武器を握りしめ、俺たちは球体型の最深部に突入した。



 ◆ ◆ ◆



 エレベーター(と呼べるか既に微妙だが)から飛び出す、というか無造作に排出されると、俺たちは広い筒状の通路に降り立った。

 重力はあるにはあるのだが、地上に比べると非常に弱いものだった。といっても、普通に歩けるし、『ダッシュ』も使えるので、厳密に重力が弱いというわけではないのだろうが。

 まあ、重力が無い状態で戦うことになったら武器なんかまともに扱えないだろうし、これは「宇宙空間で戦っている」という印象を持たせるための演出みたいなものだろう。普段との違いはジャンプで跳べる距離が延びる程度だ。

 つまり、この時点でジャンプスキルが意味を成さなくなったのだが……まあ仕方がないか。神様(システム)には勝てないのはこの世界の定めだ。裏をかく事は出来るがな。


「さて、じゃあ進むか」


 ユキムラの言葉を受けて、俺たちは通路を進み始めた。通路は緩やかなカーブを描いており、時々ある窓から星が輝く外を見ることが出来る。この通路は外周部のようだ。

 で、この通路は丸い構造をしているのだが、どう重力を弄っているのかは知らないが、床、壁、天井といったことを無視して足場にすることが出来た。簡単に言うと、どこにでも立てるのだ。

 やはりここでも機械人形(オートマタ)や、多脚型や宙に浮いている形態をとる自律型兵器(オートウェポン)が出てくるのだが、リンなんかは360度自由に動き回って翻弄している。

 そうして、特に問題無く進んでいくと、通路の途中でSF系のアニメや映画でよく見る形の扉を発見した。


「おお、こういうの見ると宇宙船っぽくていいよな」

「あ、ユキムラもわかる? それなー」

「どこで感動してんですか」

「でもこれ、どうやって開けるの?」


 扉の前に立つが、ピクリとも反応しない扉を前にして、姫様が首を傾げる。


「あ、これじゃないですか?」


 そう言ってリンは扉の横に付いている、小さな黒い箱のようなものを示した。


「なんだろ、指紋認証的な何かかな?」

「それじゃ俺らじゃ開けられないだろ」

「じゃあカードキーとか?」

「それもあたしらじゃ無理ですよ?」

「あ」


 姫様の言葉ではたと地上の会議室のような場所で拾った物を思い出す。使い道が無いので忘れていたが、もしかしたら使えるかもしれない。


「どしたよアサヒ」

「いや、下にいた時こんなの拾ってさ」


 そういって、機械人形やらのドロップが大量に突っ込んであるインベントリからカードキーを苦労して探しだし、実体化させる。


「カードキー?」

「みたいですね」

「正式には身分証明書の一種みたいだけどな」


 カードキーを黒い部分に(かざ)すと、ピピッと音が鳴り、扉が音を立てて開いた。

 どうやら正解らしい。部屋の中は真っ暗で、中を見通す事は出来なかった。正直カードキーを拾わないとボスの元に行けないとは考えられないため、この部屋はアイテムとかしかないだろうが敵は居る可能性がある。注意しておくべきか。


「開いたね」

「ですね! さて、何があるかなっと」


 そう言ってリンが足を踏み入れた瞬間、ライトがついて部屋が明るく照らされる。通路とは違い、四角いちゃんとした部屋の形だ。

 部屋は意外と広かったが、真ん中に明らかに怪しげなボタンを備えた台があるだけで、他に何かがあるというわけではなかった。

 取りあえずボタンの近くに寄ってみる。


「……怪しいな」

「ああ。随分と自己主張の激しい奴だな」

「押したら何かが起きます、って言ってるようなものだよね」

「……押していいですか?」

「「おい」」

「じょ、冗談ですよ、冗談」


 あははー、とリンが笑うが、信用できる要素はひとつもなかった。むしろ喜んで押す光景がありありと想像できる。


「これやっぱ押したら敵だよね」

「ああ。取りあえずスルーだな。今は先を急ぎたいし」

「了解、じゃあ行くか」

「ええー」

「まあまあ、ボス倒したらまた来ればいいじゃない」


 不貞腐(ふてくさ)れるリンを残して、俺たちは部屋を出ようとする。

 だが、姫様の「あっ」と言う声と共に耳障りな警報音が響き始め、部屋の明かりが赤く点滅を始める。

 さらに、今まさに出ようとした扉が勢いよく閉まってしまった。


「……おいリン。お前……」

「ひゅ、ひゅー」


 ユキムラがリンに声を掛けるが、リンは口笛を吹くふりをして目を逸らす。


「ごめん、私が目を逸らしたばっかりに……」

「いや、明らかに姫様は悪くないでしょ」


 原因は明らかに今ユキムラに頭を(はた)かれたリンだろう。


「まあ、過ぎたことを言ってもしょうがない。多分、てか絶対にモンスターが来るだろうから、ちゃっちゃと倒してちゃっちゃと出るぞ」

「あいさー!」


 リンが元気よく返事をする。ユキムラがジト目でリンを見るが、リンはやはり目を逸らして「さぁて、何が出てくるのかなー!」と言いながらユキムラから距離を取る。

 その様子に溜息をつくが、まあ、所詮はゲームだ。本気になるのは良いことだが、せっかくのイベントだし楽しまないと損だろう。

 そう考えて前を向く。見ると、床が開いてボタンの台が引っ込んで行き、逆に周囲の壁に次々と穴が開き、機械人形(オートマタ)が大量に姿を現す。


「さて、行くぞ」


 姿を現した敵を見据えて、俺たちは思いっきり駆け出した。


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