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 崩落する空中道路を走り抜け、そのままワイヤー無しでビルへと窓ガラスを割って突入するというハリウッド並のスタントをやってのけ、その後もさらに強くなった機械人形(オートマタ)を相手にしながら先へと進んでいく。

 そのビルは今までのものよりも一際大きく、敵とのエンカウント率も非常に高かったが、リンという仲間を得た俺の敵ではなかった。そうして進んでいくうちについに稼働していたエレベーターを発見し、そのまま一階へと降りる。

 一階ロビーにいた大量のザコ(オートマタ)を(リンに頑張ってもらって)軽く一掃し、そのまま外へと出る。

 外は大通りのようになっていたが、左側はビルが建っており、袋小路のようになっている。この大通りのスタート地点は今俺たちが立っているこの場所のようだ。

また、向かって右に向けてまっすぐ続く道の両側には巨大なビル群がこれでもかというほど隙間なく建っている。

 そして、その大通りの遠くに巨大なドーム型の建造物が確認でき、そこから天に突き抜けるように超巨大なエレベーターが直立している。そこまで遠くはないな。1キロあるかないか、といったところだろうか。


「あれか」

「そうですね。他の2人はどこでしょうね」

「まあ、そのうち来るだろ。もしくは先に着いてるかだな」


 そうして、リンを伴って歩き出す。なぜかこの大通りには敵影は見えなかったので、一応索敵は(スキルを持っているリンが)するが、特に気を張らずに歩いていくことにした。

 だが、当然だがそんな簡単にいくはずがなかった。

 3歩も歩かぬうちに、背後頭上からパリンッ!! というガラスが割れる音が聞こえる。慌てて後ろのビルを振り返ると、何者かがビルのガラスを割って飛び出し、こちらに向かって落ちてきているようだ。しかも相当高い位置だ。普通なら落下死してしまうだろうが、モンスターには通用しない可能性も無くは無い。

 姿は逆光で見えないためシルエットだけだが、複数の人型のようにも見える。


「ちっ、機械人形(オートマタ)か!?」


 リンとともにその場から距離を取って武器を構えるが、その予想は大きく外れることとなった。

 空からの乱入者は自分を包むように魔方陣を発生させ、強く輝かせる。すると、あわや地面に墜落するギリギリのところでその背から純白の翼を生やし、大きく羽ばたいて着地した。


「ふぅ、危なかったねぇ」

「まったくだ。……っと、おお。リンとアサヒか。無事だったか」


 乱入者の正体は、翼を生やした姫様と、その姫様に抱えられているという情けない姿のユキムラだった。



 ◆ ◆ ◆



「ユキムラ……何やってんの。あと何であんな高いとこから飛び降りてきたのさ」

「いや、これには色々事情があってな……」

「ゆきくん、降ろすよー」

「おっと、わりわり」


 よっと、と地に足をつけるユキムラ。何とも格好悪い光景だ。


「ダサいことこの上なしですね」

「うっせ、ああするしかなかったんだよ」

「ヒメセンパイの翼は魔法ですか?」

「あ、うん。『ウィング』っていう魔法でね、翼が生えるだけで飛べるわけじゃないし被弾面積が増えるだけっていう悲しい魔法だけど、さっきみたいに高いところから降りるときは役に立つんだ」

「そりゃまた使いどころが超限定されてる魔法だな」


 嬉しそうに翼をパタパタさせる姫様と、そんな姫様に抱き着くリン。微笑ましいのか何なのか、という光景だが、やがて効果時間が過ぎたのか姫様の背から純白の翼は姿を消した。


「で、ユキムラ」

「ああ、そうだったな。実はさ……」


 飛び降りてきた理由を聞こうとした時、突如地響きと、遠くで何かが破砕される音が聞こえてくる。

 途端に、姫様は明らかに顔をしかめ、ユキムラはため息をついて「来やがったか」と呟いた。


「おい、これ……」

「すぐにわかる。取りあえず走れる用意はしておけ」

「え、嫌な予感しかしないんですけど」


 破砕音はどんどん大きくなっていき、その発信源と思しき突き当りのビルの方向を振り返る。地響きは酷くなっていき、ビルは軋んでいく。

 そして、窓ガラスや外壁が弾け飛び、巨大な機械の腕がビルを突き破って飛び出してきた。

 そのまま腕は真横に振られ、ビルの半分が積み木が崩れるかのように轟音を上げて破壊される。


「……マジですか」

「よし、逃げるぞ」

「随分とまあめんどくさいの連れてきたなぁ」

「私たちだって好きで連れてきたんじゃないよ」


 会話はしつつも、ビルから腕が出てきた瞬間には俺たちは走り出していた。エレベーターまで目測1キロ。イウでなら1分ちょいで走りきれる。


「よし、そろそろ攻撃が来るぞ!」

「パターンは!?」

「敵が一定距離離れてるなら、ミサイル乱射かロケットパンチか目からビームだ!」

「碌なのが無いッ!?」


 振り向くと、ビルは完全に崩壊しており、巨大ロボ―――『ギガントドールMk-Ⅱ』は肩のミサイルポットを開いた状態で姿を現していた。


「『Mk-Ⅱ』って何さ?」

「あれ2機目」

「へ?」

「だから、あれ2体目なんだよ!」


 ユキムラから衝撃の事実が語られた。あのロボは最初に見たものとは別物で、何でも、最初に見たときに戦っていた人たちが最初の一体を倒した瞬間に現れたらしい。島のどこかで鎮座していた二機目を誰かが引っ張ってきてしまったのだそうだ。想像しただけで心が折れそうだ。

 で、それまで戦っていた人たちは体勢を立て直すために一時撤退。そして、何の因果か一緒に戦っていたユキムラと姫様を追いかけてこっちに来てしまったのだ。


「ミサイル来るぞ!」

「どう躱すんですか!?」

「直撃は即爆発だけど、攻撃を加えると一瞬間を置いてから爆発するんだ!」

「んな無茶な」


 そして、本日2回目のミサイルが発射された。HPが一定値を切った時の特殊攻撃ではないためその数は少なめだが、それでも十数発はあった。


「ヒメ、出来るか?」

「うーん、あんまりSPに余裕ないよ」

「じゃあ各自対応ってことで」

「リンさんお願い」

「あいあいさー」


 リンの双剣から斬撃が飛ばされ、数発のミサイルを寸断して爆発した。だが、元々俺たちが走る速度よりもミサイルの方が圧倒的に速く、斬撃から外れたミサイルが殺到する。


「離れろッ!」


 そう叫び、ユキムラがライトエフェクトを纏った長槍で後ろに迫っていたミサイルを斬り払う。そのままユキムラはダッシュで離脱し、一瞬置いてミサイルは爆発した。


「なるほどね」

「じゃあセンパイ、死なないでくださいよ?」


 その光景を見て自分ならどうするかを考えつつも、自分の元に飛来してきたミサイルを見て、俺とリンはそれぞれ別の方向に走り出す。

 後ろから迫っていたミサイルの1つに跳び乗り、蹴り技とジャンプを併用させて空へ飛ぶ。追ってきたミサイルは棍で弾いたり足場にしてその空間を離脱するのに使い、その数を着々と減らしていく。スリリングなアクションだが、慣れているので問題ない。ここまで来て死ぬのだけは勘弁だがな。


「よっと」


 転がって衝撃を殺しながらも地面に着地し、そのまま走る。他が対処したのかミサイルはもう無いようだ。


「無事みたいだな」

「まあな。他は?」


 近くを走っていたユキムラが話しかけてきた。

 爆炎が酷く後ろはまともに見ることも不可能で、姫様やリンどころか、巨大ロボをする確認することもできなかった。


「まあ、あいつらなら平気だろ。ヒメはギガント・ドール(あれ)の対処もう慣れただろうし、リンはリンだし」


 リンの扱いが酷い気がする。同意だが。

 まあ、何か言われても信用してるってことで言い包めればいいだろう。


「まあ、その通りだな」

「あたしの扱い悪すぎじゃないですか!?」


 すると、突然煙の中からリンが現れた。姫様も一緒のようである。


「あちゃー、聞かれちったか。アサヒ、どうしよう?」


 手を額に当ててはいるが、ちっとも「あちゃー」とは思ってないような様子でユキムラが聞いてきたので、俺も先程思っていたことを口に出す。


「そうだな、『お前のことを信用してたからだよ』とか何とか言えば適当に言い包められるんじゃないか?」

「ふむ、なるほど」

「なるほど、じゃないですよ!! 全部聞こえてますから!!」


 見かけ神妙っぽい面持ちで頷くユキムラにリンが吠える。表情こそ真面目だが、ユキムラが内心笑いを(こら)えているのは間違いない。


「まあ待て、リン。これは全てお前のことを信用してたからであって……」

「え、本当ですか!? ……なんて言うわけないでしょうがッ!!」

「……おいアサヒ、どういうことだ」

「これはあれだ。リンも日々進化してるってことだ」

「なるほど。昨日のリンとは違うってことか」

「ああ、まるで……」


 茶番を無理やり続けていると、何やら形容しがたい音を立てて、すぐ近くの地面にビームが突き刺さった。

 その衝撃によってか一帯を覆っていた煙が吹き飛び、辺りが見渡せるようになった。


「……あの巨大ロボのように」

「見かけが変わったようには見えないが?」

「ほらよく見ろ。『Mk-Ⅱ』がついただろ?」

「なるほど。つまりリンも『リンMk-Ⅱ』に……」

「なってませんよ!!」


 ぜぇぜぇ、と荒く息を吐くリン。さて、冗談もこれくらいにして行きますか。

 巨大ロボは徐々に近づいてきている。さっきは思わず逃げ出したが、合理的に考えても相手にするよりはエレベーターに逃げ込んだ方が良いだろう。エレベーターが巨大ロボの攻撃に耐えられるかはわからんが。


「よし行くぞ」

「あいさー」

「あーもう! 後で覚えといてくださいよ!」

「ほらリンちゃん、今は走ろ?」


 俺たちに続いて姫様と、姫様につれられたリンがエレベーターを目指して駆ける。途中で再びミサイルやビームが放たれたが、互いが互いをフォローし合って何とか躱していく。

 そして、元々そう遠くないためか、妨害があったとはいえ数分もかからずにエレベーターを有する施設の入り口に到着する。

 施設の中は巨大なドーム状の広場となっていて、その中央にエレベーターが存在していた。しかし、施設の中には大小多数の機械人形(オートマタ)が存在しており、エレベーターへと進む者の行く手を阻んでいた。円柱型のエレベーターは入り口が開いているため入ってしまえば勝ちだが、それはなかなか難しいだろう。

 機械人形(オートマタ)の中には中ボスクラスの奴も普通に存在しており、正面突破は気が滅入るレベルだ。

 そして、施設の中には他に人は存在していないらしく、俺たちが足を踏み入れた瞬間、全ての機械人形がこちらを振り向く。


「やばいな、どうするよこれ」

「取りあえず左右に跳べ!」


 ユキムラに抱えられ(姫様)、もしくは蹴られ(俺とリン)、俺たちは扉の前から強制退去させられた。扱いの差がもろに出てるが、文句を言っている暇もなく事態は動く。

 次の瞬間、入り口から大量のミサイルが施設内に侵入し、周辺の機械人形(オートマタ)たちを無慈悲に薙ぎ払ったのだ。

 本当は俺たちを狙っていたのだろうが、急転換する前に大量にいた機械人形(オートマタ)のどれかに当たってしまい、ミサイルと機械人形は対消滅してしまう。

 結果、全滅とまではいかないが、周囲の機械人形(オートマタ)は邪魔にならない程度まで数を減らした。


「……うっわ」

「さて、行くか」

「何と言うか……凄惨たる有様だね」

「ヒメセンパイ、取りあえず行きましょ」


 まだHPゲージを減らしきってはいない機械人形(オートマタ)もいたが、ミサイルの攻撃で硬直している間に、俺たちはエレベーターに飛び込んだ。


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