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あの後、実は一回の爆発じゃ倒れない、という謎の頑張りを見せた戦車を四苦八苦して倒し(油断してた時に主砲を撃ち込まれた時は本当に焦った)、路地を抜けて再び大通りへと辿り着いた。どうやらこのビル街は賽の目状に構成されているらしく、入り組んだ路地にさえ注意すれば、迷わずエレベーターの方向に進むことができた。
ビル街を抜けると、その先は広大な面積を誇る自然公園となっていた。自然公園の中心部は巨大な湖が広がっており、そのさらに中心には施設群を有する島が存在した。そして、その島にあの巨大なエレベーターが建っているのである。
公園の手前には駅があり、島までモノレールのようなもので繋がっているようだった。
というわけで、現在ワラワラと湧いて出てきた機械人形を倒しながら、モノレールに向けて駅構内を進行中である。
コロニーも奥の方になってきたのか、ビル街に比べると敵が強くなった気がする。まだ問題無い程度だが、島の施設、そして最深部の球体部分と、敵がこれ以上に強くなっていくと予想されるので、気を引き締めていきたいところだ。また、ここにきてやっと機械人形のバリエーションが増えた。今現在確認できたのは、今までにも出てきた機関銃、突撃銃、新しく出てきた散弾銃、狙撃銃、そしてスタンロッドと手榴弾を持った突撃兵である。
狙撃手と突撃兵は厄介なのだが、少なくとも駅構内にはボス級の敵はいないようで、無事モノレールまで辿り着いた。モノレールはよくある吊り下げられてる形の「懸垂式」ではなく、空中のレールに跨って進む「跨座式」だった。
「なんかシップの時みたいに、何かしら起きそうで怖いんだけど」
「え、フラグですか?」
「おい馬鹿やめろ、頼むから」
リンに言い返してモノレールに乗り込む。モノレールは一面白い楕円形の形状をしており、窓は存在していない。また、何車両も連なっているのではなく、一両のみの構成になっていた。どうやら未来の人たちは流線型が好きなようで、形はシップに似通ったものを感じる。
車両の真ん中に扉が1つずつ、その両脇に長椅子が計4つ。どういう技術を使っているのか、床以外はガラスのように透明で、外を見ることができるようになっていた。マジックミラーの進化系だろうか。
モノレールの中は一両とは言ってもそこまで狭くはない。むしろ、例え敵が乗り込んで来ても戦えるくらいのスペースがあった。
「絶対なんか起きるだろ、これ」
「だろうな。取りあえず索敵はしとくか」
全員が乗り込んだからか、モノレールは自動で発車した。現実の電車と同じように吊り革は存在していたため、それに掴まりながらユキムラと話す。といっても、技術が進歩しているのか、振動は全く感じさせないのだが。
「2人とも! これ凄いふかふかだよ!」
「センパイたちも座ったらどうですか?」
興味津々に車内を散策していた姫様とリンが、長椅子の上に座りながら声を掛けてくる。その様子にユキムラと苦笑しながらも、2人に促されるままその対面に座った。
「さて、多分なんかあると思うんですけど……」
「ユキムラ、索敵は?」
「反応なし。つっても200程度じゃ精々十数メートルくらいしかカバーできないんだけどな。こんだけ見晴らしが良いんなら目視の方が分かりそうだ」
そうして敵を探しながらも外の景色を楽しむ時間が多少続き、湖の半分を過ぎたくらいだろうか。唐突に銃弾が撃ち込まれ、後ろの壁に亀裂が入った。
「敵襲か!?」
「あ、上見てください!」
リンの指差した先には特に何も存在せず、ただ光と闇の混じった空があるだけだった。……いや、その空の中に、不自然に空間が揺らいでいる箇所がある。
「光学迷彩か! 何でもありだなちくしょー!!」
「多分狙撃手がいるな。ヒメ、撃ち落とせるか?」
「わかった。やってみる」
姫様が魔法を放とうと、再び銃弾を撃ち込まれて割れてしまっている車両後部に近づく。
しかし、それよりも先に光学迷彩でもって透明化している輸送機と思われる飛行物体から、次々と機械人形が降下してくる。
同時に、その中の一体が降下中にRPG(対戦車擲弾)らしきもの——端的に言えばミサイルを撃ち込んできたため、轟音と共に車体が大きく揺れ、天井の半分近くが吹き飛ばされた。
「なんで近代兵器を持った軍隊にファンタジーな武器で挑まなきゃいけないんだよ!」
「残念、このゲームはSFです」
「うっせー! 知ってるよ!」
降下してきた機械人形を湖に突き落としながら、モノレールをこれ以上傷つけないように動き回る。
シップと同じようにモノレールにもHPが存在している。狙撃手に撃ち込まれてから視界の右端に情報が浮かぶようになったのだ。RPGで盛大に吹き飛ばされたせいか、既に半分ほどしかない。ゼロになったら碌なことにならないのは想像に容易い。敵の対処をしながら泳いで島まで行かなくてはいけないどころか、最悪高所落下でそのまま死ぬ可能性もある。
「ッ!!」
すぐ近くの車体に赤いポインターが現れたのを見て、考えるよりも早く、一か八かで両手棍スキル単発技『鐘鳴撃』を赤いポインターをなぞるような軌道で発動させる。
キンッ!! という硬質な音が響き、近くにいた機械人形の頭部が吹き飛んだ。跳ね返った銃弾が当たったのだろう。
上手くいく確証はなかったが、成功して何よりだ。てかもう成功する気はしない。視界の端に何かのアイコンが現れたが、今はひとまず無視する。
両手棍を捨て去るイメージで消し、機巧剣に『換装』する。本来はもっと時間が掛かるらしいのだが、低い熟練度にもかかわらず、トレーニングでの経験が活きているのか一瞬で成功する。
「喰らえッ!!」
空間の揺らぎに向かって剣を突き出し、引き金を引く。空を切って剣身が射出され、そのまま揺らぎに対して、パリンッ! というガラスか何かを破るような音を発した後、勢いよく突き刺さった。
すると、ノイズが走るかのように空間が大きく揺らぎ、輸送機が姿を現した。輸送機の下部には今しがた放った剣身が突き刺さっており、そこから煙が発生している。そして、輸送機はそのまま傾いていき、やがて、真っ直ぐに湖に墜落した。
「こうして、湖の水質汚染は拡大するのであった」
「変なナレーション入れんな、リン。てか、結構呆気なかったな」
「じゃあ、その調子でジャンジャンやっちゃってください」
リンに示された通りに後方を見やると、さっきの輸送機と同じような空間の揺らぎがいくつも追って来ていた。
「うぇー」
「てか、ヒメの魔法はどうなんだ?」
車内の機械人形の一掃が一通り終わり、ユキムラも会話に参加する。突き落とすだけなのですぐ終わったのだ。
「わかった。ライトボール」
姫様が答え、魔法を放つ。
無数の光球は散弾のように輸送機に飛んでいくが、当たる直前で何かに弾かれたかのように掻き消えてしまった。
「あれ? 消えちゃった」
「……魔法障壁、ってとこか。一定値に耐えるのか、それとも全消しか。物理には弱いのか……?」
「機巧剣には耐えきれなかったんだから、物理で外せるのは確定だろ。それが一定ダメージなのか、一発入れればいいだけなのかは分からんけど」
「一発でいいなら銃撃ちゃ終わりだろ。やっぱ一定値削ったらじゃないか?」
「あのー……何の話ですか?」
話がよく分からなかったのか、それとも聞こえなかったのか、リンが説明を求めてくる。ユキムラを見ると、こちらに視線を向けた後、無事だった壁に寄りかかってしまう。説明しとけってことか。
「あの輸送機を覆ってる物の話だよ。よくあるだろ、バリアとかオーラとか。あの輸送機のは魔法に強くて物理に弱い典型的なやつみたいだな」
「魔法は全く効かないんですかね?」
「さあな。姫様、もう一回魔法頼む。強めのやつで」
「あ、うん」
見ると、一番手前の輸送機はもうかなり近づいてきている。それに機巧剣を射出して沈め、再び少しの余裕を作る。
「聖なる光よ、十字でもって悪しきを滅し、我に仇成す者を撃ち滅ぼせ———クロスレイド」
詠唱を終えた姫様が左手を前に突き出した瞬間、少し離れたところにいる輸送機を十字の光の柱が貫いた。柱は天から降り注いでおり、その光景はまさに圧巻の一言だった。
柱の直撃を喰らった瞬間、パリンッ! という音が再び響き、空間が揺らいで無傷の輸送機が姿を現す。
「あれ、ダメかぁ。さっき出てきた新しい魔法だったんだけどなぁ」
「ちなみに熟練度いくつですか?」
「えっと……あ、300だよ」
高ッ!? 俺は両手棍の熟練度がようやく150になったばかりだっていうのに。その2倍かよ……。さっきの中ボスで破格の伸び方をしてそれなのに。もう追いつける気がしねぇわ。
あ、そういえばさっき何か出てたな。後で確認しておかないと。
「それはともかく、あの輸送機の障壁は魔法を一定ダメージ、もしくは物理で少しダメージを喰らうと消滅するみたいだな。姫様、ライトボールお願い」
「あ、うん。詠唱省略、ライトボール」
姫様の手から無数の光球が再び放たれ、輸送機に直撃する。輸送機自体はあまり耐久値が高くないのか、そのまま煙を上げて墜落して行った。
「と、まあ、こんな風に障壁さえ剥がせば普通に攻撃できるわけだ。俺が一機目を墜とせたのは、多分物理だとダメージを吸収できないから、とかだろ」
姫様の魔法『クロスレイド』によって障壁は剥がれたが、そこから現れたのは無傷の輸送機だった。ということは、魔法での障壁が無くなる際の余剰ダメージは、輸送機には通らず消滅してしまうのだろう。
しかし、俺が機巧剣の一撃で堕とせたことから、物理で攻撃した際の余剰ダメージはそのまま輸送機の方に通る、ということが分かる。まあ、全て推測でしかないんだがな。如何せん情報が足りないのだから仕方がない。
「じゃあ、機巧剣の熟練度稼ぎにさせてもらうよ」
そのまま、空間の揺らぎに向けて次々に機巧剣を放っていき、一発で沈めていく。この機巧剣のギミックはSPが要らない代わりに残弾が0になると5分という莫大なクールタイムが必要なのだが、輸送機は速度がモノレールと大して変わらない鈍足のため、5分程度なら問題なく稼げる。危なくなったら姫様に対処してもらえばいいし。
そうして、特に何も起きずに輸送機群を倒し切り、モノレールは湖の真ん中に位置する島へと辿り着いた。
◆ ◆ ◆
島に入ったらすぐに駅があるというわけではなくて、親切にも島の奥にまでレールは続いていた。正直中ボスルート一直線な気もしたのだが、その方が最深部にも近いだろ、ということで「為るように成る」というありがたい言葉に従うこととなった。
その後、途中で合流した別のレールでやってきたモノレールに機械人形が乗っており、2つの車両を飛び回りながら戦う、ということを何回か行うも、なんとかモノレールを全壊はさせずに進み続ける。正直もう虫の息だが。
島の内部はいくつもの巨大なビルと、その周りを立体的に複雑に走る道路という、何とも迷いそうな構造だった。
「そういえばさ、他の人たちはどうしてるのかな?」
敵との戦いも小休止の中、ふと姫様が呟いた。
「そうだなぁ、俺らも速い方だとは思うけど、もっと速いのがいてもおかしくないしな」
「ま、先に行けばわかるだろ」
「あのエレベーターの前にもう1つか2つくらいボスありそうですけどね」
「言わないどいて、そういうの」
そんな話をしている間に、モノレールは少し開けた空間に差し掛かった。ビルに囲まれた空間なのだが、ぽっかりと穴が開いたかのように広場になっているのだ。また、広場に面したビルのいくつかは背が低いため、背の低いビルよりも上に存在するモノレールから見ると、余計に大きなスペースがあるように見える。
「……ユキムラ。これどう思う?」
「絶望」
問題は、そのスペースに埋まるような形で、超巨大な機械人形が立っているのである。高さはビル5、6階建ての背の低いビルが肩に当たるくらいである。
外見は一応人型で、イメージで言うなら巨大ロボといったところだろうか。隠れて見えないが人と同じような手と足もあるようだ。また、両肩の部分にはミサイルポットと思しきものが存在している。あんなに巨大なんだから武装があれだけということはないだろう。もっと搭載しているはずだ。
「朝にやってる戦隊ヒーローの合体ロボットってこんな感じだったのかな?」
「こりゃ怪人側もビビるだろ」
「それよりも一般市民が戦々恐々してただろうな」
モノレールは背の高いビルの傍を、広場の外周に沿うように走っており、巨大ロボの圧倒的な大きさを望むことができた。
また、目を凝らすと、背の低いビルの屋上や、そこと同じくらいの高さに存在する高速道路で動く人影がある。プレイヤーが戦っているのだろうか。
すると、突如巨大ロボの右肩が爆発した。恐らく火属性の魔法だろう。
「戦ってんのか。すげぇな」
「圧巻ですねー」
リンと一緒に下を向いて観戦する。ロボの攻撃パターンは目からビームの薙ぎ払いと腕の振りおろしだけのようで、ビルの上で奮闘している人たちはそれらの攻撃を何とか躱しながらも攻撃を加えていっている。しかし、あまり効果があるようには見えない。
その後も何度か爆発が起こり、ロボのHPを削っていく。ちなみに、俺たちは既に巨大ロボにターゲッティングされているようで、視界の下の方にボスキャラクターである巨大ロボ———ギガントドールのHPが表示されている。今俺たちが攻撃に曝されていないのは、ただ単に高所にいる俺たちへの攻撃方法が無いからだろう。
で、そのHPゲージを見てみると、上の段にあと少しで無くなりそうな緑色のゲージが、下の段に3分の1ほどが暗くなっている、10個程度に細かく区切られたゲージがあった。これは、上の段のバーが下の段の細かいゲージの1つに相当し、今回のギガントドールの場合、簡単に言うと通常のHPゲージを10本削りきらないと倒せないのだ。
再び爆発が起こり、上のHPゲージが全て削れて消滅し、新しいものに置き換わった。すると、ギガントドールは動きを止め、機械音とともに両肩のミサイルポットを開け放った。
「やばいぞ……! ありゃ十中十全体攻撃だ! 今タゲに含まれてる俺らにも来るぞ!」
「姫様! 迎撃できる!?」
「分かんないけど……やってみる!」
蹴りで扉を無理やり破り、姫様が魔法を撃てる場所を作る。また、念のため遠距離攻撃を持つリンにも待機していてもらう。
そして、長いようで短い時は過ぎ、ついにその時はやってきた。
ドドドドドッ!! という音とともに、次々にミサイルが発射され、白い尾を残しながらも周囲の全ての敵影に向けて殺到する。俺らのところも例外ではなく、今のモノレールのことを考えると明らかにオーバーキルな量のミサイルが飛来する。
「ウィスティウォール!!」
姫様が魔法によって巨大な光の壁を空中に出現させる。しかし、やはり防げる数、もしくは威力には限りがあるようで、残ったいくつかのミサイルが勢いを止めずに飛んでくる。バラバラに飛んでくるのでリンを投入しても防ぎきれないだろう。
「ちっ、レールに飛び乗れ!」
ユキムラが叫び、皆一斉に動き出す。既に役目を果たせていないモノレールの壁を足場に前に飛び出し、人1人が立つ程度には幅のあるレールの上に着地する。
それと同時にミサイルがモノレールに着弾、爆発する。爆風によって、屈んでいたせいで少し遅れた姫様が吹き飛ばされてそうになるが、ユキムラがギリギリ手を掴んで事なきを得る。
「ユキムラ! 姫様!」
「ギリギリセーフ……って、うわわわわ」
しかし、ミサイルの直撃でレールが無事なわけがなく、モノレール諸共、俺たちの立つ少し後ろからは既に吹き飛ばされて存在しない。
そして、そのまま先端に乗った俺たちの重さに引っ張られるように徐々にレールは軋み始めた。未来技術によって固定されている箇所を基点に湾曲していき、このままビルにぶつかるか、それともポッキリと折れて宙に放りだされるか、どちらにせよ碌な未来はないだろう。
「ど、どうすんですかこれ!」
「いやー、もう為るようにしか成らんでしょ。よっと……大丈夫か、ヒメ」
「う、うん。あ、ありがとう」
「あー、こりゃ死んだかな」
「縁起でもないからそういうこと言わないでください!」
そして、俺たちはそのままレールごと隣のビルに突っ込んだ。




