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 途中でユキムラと姫様と合流し、先に進ませたリンを追って階段を走る。

 リンはどうやら頑張っているようで、巨大な螺旋を描いている階段を一周回ったあたりからは、敵は一体も現れていない。

 そうして、そのまま階段を昇っていき、何周かしたところで天井を抜け、次のフロアへと辿り着いた。

 最初のフロアと似た構造で、同じく吹き抜けになっているが、どうやら地上部分に出たらしく、少し離れたところに外へと繋がる自動ドアが見える。

 だが、ドアの前には3メートル近くはありそうな巨人型の機械人形(オートマタ)が陣取っており、それの相手をしているらしいリンが、金髪をたなびかせながら飛び回っている。


「遅いですよ! 早く手伝ってください!!」


 こちらに気付いたのか、機械人形から放たれる銃弾を回避しながらリンが叫んだ。


「だってさ」と俺。

「いいから行くぞ」とユキムラ。

「よし、頑張るよ!」と姫様。


 一瞬視線を合わせた後、俺たちはそれぞれ別の方向から接近すべく、散開して走り出した。

 巨人型機械人形は今までのスマートな外見とは違い、上から上から様々な部品を貼り付けているかのような外見をしていて、若干ゴリラのように見えなくもない。特筆すべきはその両腕で、右腕にはマシンガン、左腕はハンマーのようになっており、どちらも地に着くほど不自然に巨大なだった。


「こういう敵には普通動力源みたいな弱点があるはずだ!」

「首の裏側にそれっぽいのがありました! ただ斬撃に耐性があるのか、あたしじゃ上手くいきませんでした!」

「なら、俺の出番だろ!!」


 ユキムラとリンの言葉に答え、『ダッシュ』を使って機械人形の横手から接近する。

 しかし、機械人形の腕を肩をと飛び回っていたリンが弾き飛ばされ、こちら側に落ちてくる。無視しようとしたが、機械人形がその巨大な左腕を振り上げたのを見て考えを変える。


「うおらぁ!!」


 倒れているリンの前に飛び出し、振り下ろされた左腕に対して両手棍スキル単発技『鐘鳴撃(ショウメイゲキ)』をぶち当てる。この技能は『硬質』持ちにはダメージが増加するという特殊効果がある。斬撃に耐性があるということは硬質を持っているはずだ。

 加えて攻撃を防ぐ、弾くに効果がある『ガード』の恩恵もあったのか、機械人形の左腕は軌道を変えて地面に突き刺さった。両手に痺れに近い重い手応えを感じたが、攻撃を()らすことに成功したことに安堵する。


「ありがとうございます!」

「気にすんな!」


 礼を言うリンに叫び返し、振り下ろされたままの左腕を踏み台にして肩に跳び、言われた通り首の後ろ付け根辺りに両手棍スキル二連撃技『崩撃(ホウゲキ)』を叩きつける。

 ガィンッ! という硬質な音を放ち、赤い部品が露出した首の付け根に両手棍が衝突し、衝撃波によって追加ダメージが発生する。機械人形は大きく咆哮して両腕を振り回そうとしたが、それよりも早く跳んで距離を取り、再び接近できる隙を窺う。

 しかし、次の瞬間その必要はなくなってしまった。

 強烈な光と爆音を撒き散らし、姫様が反対側から無防備な弱点部分をレーザーのような魔法で狙い撃ったのだ。

 再び大きく咆哮し、今度は姫様の方を向く機械人形。そうしたら次はユキムラが膝の裏側を攻撃し、機械人形に膝を着かせる。


「アサヒ!」

「はいよ」


 ユキムラに(うなが)されるまま、俺は機械人形の首の付け根に再び両手棍をぶち込む。すると、ダウンしていた機械人形は立ち上がり、咆哮を上げて俺の方に向かってくる。

 だが、それだと姫様の魔法の餌食だ。弱点に魔法を撃ち込まれた機械人形はまたまた咆哮し、姫様の方向に向き直る。でもってその後、ユキムラが体勢を崩した後に俺が弱点に棍を叩きつける。

 要するに、ハメ技、しかも無限ループである。

 どうやらこの機械人形、弱点を攻撃されたら咆哮からの強制ターゲットをするようなのだが、この時再び別の人が弱点を攻撃すると、また咆哮→ターゲットの流れをやり直すようなのだ。

 なので、ターゲットが書き換わった後に攻撃することで隙を作り、完封することが出来るのだ。

 面白みがなくなるのでハメ技は普段好まないが、今回は一刻も早く最深部に行きたいのでスルー。

 結果、その後5分もしないうちに機械人形は崩れ落ち、ポリゴンへと姿を変えた。



 ◆ ◆ ◆



 外に出た俺たちを待っていたのは、無人のビル街と、そこを闊歩する機械人形だった。思ったほど廃墟ではないのだが、だからと言ってその何とも言えぬ不気味さが軽減されるわけではなかった。

 今出てきたビルは大通りに面しており、向かって右のほうに巨大なエレベーターのようなものが見える。目で追って上を見上げると、星が輝く宇宙空間を望むことができ、指輪型のコロニーの反対側とコロニーの最深部らしき球体を見ることができた。

 上を見上げると真っ暗な宇宙空間なのだが、不思議とコロニー内は昼のように明るく照らされていた。といっても、疑似的な太陽のようなものは存在していないようなので、どのように明るさを作り出しているかは不明なのだが。

 そのため、コロニー内は空は夜で、地上は昼という何とも不思議な光景を作り出している。


「広い道に出たな」

「どっちに向かえばいいのかな」

「とりあえずあのエレベーターに向かってだろ。あれがエレベーターだとは限らないけどさ」


 そう言って、ユキムラは遠くに見える文字通り空を突き抜けてそびえ立つ黒い柱に目をやった。シップからでも目視できたくらいだ。その大きさは測り知れない。


「走ってくんですか。えぇー」

「まあ、ここが市街地で必要な機能が全て揃ってるんなら、交通機関はあるんじゃない?」

「じゃあ、そのアサヒの言う交通機関を探しながら、走るか」

「結局走るんじゃないですか……」

「……ねぇ、なんか向こうから来るよ」


 方針が決まったところで、それまで会話に参加せずに余所を向いていた姫様が、注意の声を発した。確かに、遥かに遠くからだが土埃を上げながら何かがこっちに向かってきている。


「結構でかいか? いや、でもまさか……」

「流石に……なぁ?」

「中ボス2連なんてことは……」

「みんないつまで現実逃避してるの!」


 姫様が叫び、腰から細剣を抜き放つ。それに応じ、ようやく俺も土埃の方に視線を戻した。

 土埃から現れたのは、鈍く光る、巨大な戦車だった。大きさはここからじゃわからないが、少なくとも3、4メートルはあるだろう。車体の両脇にキャタピラが付いており、馬鹿でかい主砲といくつかの機関銃が備え付けられているのが確認できる。時折その主砲からエネルギー弾のようなものを打ち出しており、それが地面にあたって大きく土埃を撒き散らしているらしい。

 つまり、誰かが攻撃されていて、それを躱しながらこっちに逃げてきているってことか?


「面倒だな、逃げるぞ」

「賛成。どうする? ビルに入って屋上に行けるか試すか?」

「システムで進入不可の可能性もありますし、路地とかどうでしょう? 入ってくるかもしれないですけど、それよりもこっちがリンクに引っかからない可能性の方が高くないですか」

「じゃあ、ここにいても時間の無駄になっちゃうし、取りあえずあっちの方に行こうよ」


 そう言って姫様が指したのは、今出てきたビルとは道路を挟んで反対側にある脇道だった。道がつながっていれば、エレベーターの方向に行けるルートである。それほど狭くはないが、戦車とは距離もあるし大丈夫だろう。


「よし、こっち来る前に行くぞ。リンとアサヒが先行して、ヒメが真ん中、俺が殿(しんがり)をやるよ」

「はいよ。リン、索敵よろしく」

「了解です!」

「4人じゃ殿もなにもないけどね」

「そこはいいんだよ、雰囲気なんだからさ」


 その時、後ろのビルの壁をダダダッ、と銃弾が抉った。振り返ると、少し離れたところに機械人形が一体銃を構えて立っていた。

 「走れッ!!」というユキムラの声で全員駆け出し、同時に姫様が無詠唱魔法でもって機械人形を吹き飛ばした。


「ここのやつは全部銃なのかね!」

「わからんが、機械系は集団でいることが多いから面倒だ! こんな風にな!」


 今の一体に見つかり、戦闘をしてしまったことで、纏めてリンクした機械人形がぞろぞろとどこからか出現して攻撃を仕掛けてくる。

 機械人形を両手棍で退かして進みながらもユキムラと話していると、戦車の方向を指さしてリンが叫んだ。


「見てください、あれ!」


 戦車の方を見ると、若干遠いため見難いが、心なしか砲身がこちらを向いている気がする。そして、なんだか青白いエネルギーのようなものが溜められていってる気がする。


「嘘だろっ!? この距離でターゲットされたのかよ!」

「いいから走れ! あんなもん喰らいたくねぇぞ!」

「なんか今日ハードだよ!」

「それはわかってたことですよ!」


 装備の補正で俺たちの中で一番筋力値の高いユキムラが姫様を抱え、全員が『ダッシュ』を発動させて全力で路地に飛び込む。飛び込んだ瞬間にすぐ後ろにエネルギー弾が着弾、爆発し、その勢いで吹っ飛んだ俺たちは頭や背中から地面に落ちて、そのまま地面を転がる。


「……ゲホッゲホッ、いってー、痛くないけど。みんな大丈夫か?」

「こっちは平気だ」

「あたしも———」


 リンが返事をしようとした瞬間、その顔に赤いポイントが現れ、「へ?」と油断していたリンの顔が綺麗に撃ち抜かれた。

 頭部狙撃(ヘッドショット)。クリティカルである。

 路地を進んだところにいた機械人形に棍を投げつけ、同時に『ダッシュ』で近寄り頭部に回し蹴りをお見舞いする。壁に叩きつけられた機械人形に棍を拾って連打し、そのままスキルは使わずに通常攻撃のみで倒す。スキルを使うためのSPは、自然回復するとはいえ貴重だからだ。まだまだ余裕は全然あるが、こまめに回復させておいた方が安全である。余裕があるのは使っている技能がまだ初期の物であるため、消費が少ないということもあるが。


「大丈夫か、リン」

「うぅ……HP一割減りました」


 回復アイテムを使いながらリンが言う。


「行くぞ、これで追いつかれたら元も子もない」

「だとよ、立てるか?」

「今日、ハードですね……」

「それはわかってたことだよ、リンちゃん」


 座り込んでいたリンに手を貸してやり、引っ張って立たせる。話をして少しリラックスしたところに、ギャリギャリギャリギャリ、という甲高い音が聞こえてくる。

 ギギギギ、という音でも出てるかのような動作で、リンが恐る恐る路地の入口の方を振り返る。

 考えるまでもなくあの戦車の音である。砲撃音が聞こえないということは、追われていたプレイヤーは(キル)されたのだろう。

 どうやらあの戦車、攻撃範囲が広いくせに多重リンクらしい。しかも、恐らく戦車から一定距離内の機械人形を引っかけると、戦車までもが付いてくるオマケ付きだ。


「これってまさか……」

「作戦タイム、良くある戦車の攻略法は?」


 逃げることを諦めたのか、ユキムラが話を振る。


「穴に縦に落とす」

「ふたを開けて手榴弾を投げ入れる」


 リンと俺が間を開けずに答える。

 ただ、勢いで言ったはいいが、これが通用するのか、と言われると甚だ疑問である。


「それもいいんだが、穴掘る時間はないし、あれは多分無人機だ。ふたがあるとも限らん。普通なら整備のためとかでありそうだが、ここでの戦車(あれ)はモンスターの一種だからな」


 最早「モンスター」という括りでは不適合な気がするがな、とユキムラは言う。


「やっぱ弱点探す?」

「それしかないかな……」

「じゃあ、アニメとかでよくある主砲に攻撃して爆発させるのは?」

「それいただき」


 姫様の意見に、ユキムラが答える。


「そうなるとやっぱ、砲撃の時にカウンターみたいにするのがいいよな」

「魔法で行けるかな?」

「どうだろな。ユキムラ店売りの槍持ってねぇの? それ突っ込めよ」

「あ、そうだな。それで行くか」

「じゃあ私魔法で足止めるよ」

「なら俺とリンで機関銃退かすわ」

「はーい」

「よし、こんなところか」


 素早く打ち合わせを行い、戦車を待ち構える。

 そして、1分もかからずに作戦決行の時はやってきた。


「来たッ!!」

「———『ライトボール』!!」


 戦車が姿を現した瞬間、その足元に姫様の放った無数の光球が炸裂し、戦車の動きを止める。


「サクサク行くぞ!」

「ガッテンです!」


 次に、路地の入口付近に潜んでいた俺とリンが飛び出し、両手棍と双剣でもって機関銃を次々に使用不能にしていく。

 戦車に飛び乗って3つか4つの機関銃をひしゃげさせたところで、主砲が不自然に震えているのに気づく。

 恐らく、攻撃の予兆だ。


「センパイッ!!」

「分かってる! 跳べ!!」


 俺とリンが路地の方向に跳んだところで、戦車は勢い良く主砲を一回転させた。あのまま乗ったままでいたら、直撃していたであろうことは容易く想像できる。

 そして、一回転させた主砲をこちらに向け、青白いエネルギーを溜める。


「思ったより早い!?」

「ユキムラ!!」


 俺とリンが着地した時には既にエネルギーは収束し始めており、今にも撃ち出されそうになっている。

 しかし、それよりも先に槍を構えていたユキムラが動き出し、すれ違い様に砲身に槍を差し込む。


「離れろ!!」


 ユキムラが着地して戻ると同時に、エネルギーの収束が終わる。狭い路地でこれほど距離を詰められていたのなら、本来は躱す手段など限られてしまうのだが、ユキムラの差し込んだ槍によってエネルギー弾が発射することはない。逆に、それは戦車自身を傷つけるこちらの武器となるのだ。

 数瞬を置いて、行き場の失ったエネルギーが暴走したのか、戦車は大爆発を起こした。

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