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「リン!」


 両手棍を引き抜き、頭上にいるリンに伸ばす。すぐに意図を察して体勢を変えて両手棍を(つか)んだリンを、そのまま下から迫りつつあるエレベーターに向けて吹き飛ばす。


「アサヒ!」

「了解!」


 若干下にいるユキムラの方を見ると、落ちた時の場所が悪かったためか、姫様が少し離れたところにいるのが確認できた。身体を逆にして足をこちらに向けたユキムラに足を合わせ、同時に力を込めることで俺は近くの壁に、ユキムラは姫様を掠め取れるようなルートでエレベーターの方向に跳ぶ。


「エスティアードセイバーッ!!」


 壁に跳んだ俺のすぐ下を通る形でリンの斬撃が空中を(はし)る。斬撃は壁を斬り裂き、傷痕を刻む。

 壁に跳んだ俺は、リンの作った壁の痕に足を引っ掛け、上を目指して跳んだ。

 イウでは多くの物理法則が現実に(そく)したものとなっている。よって、スキル無しでは壁走りなど出来ないのだが、このように取っ掛かりさえ作ってしまえば、現実とは違う凄まじい運動能力でもって、ある程度スキルを再現することだって出来るのだ。と言ってもこの方法ではそんな何度も上に跳べるわけではないのだが。


「エアチャージ!!」


 ユキムラが空中の姫様を抱き寄せ、長槍スキル単発突撃技『エアチャージ』を発動させる。この技能はその名の通り、相手に突撃する『チャージ』という技能の空中版なのだが、どのような場所であっても、「空中である」ことと「スキルを発動できる状態にある」ことさえ満たしてさえいれば発動でき、また、「ある程度任意に目標を設定できる」という特性も相まって、このように緊急回避や移動にもよく使われる。

 これで3人。後は俺だけなのだが、如何せん距離が少々離れているうえに、高さもかなり詰められている。流石に生身じゃ高速で移動するエレベーターには勝てない。


「ヒメ! あれを撃て!」

「うん! 行くよ……詠唱省略、ライトボール!!」


 『エアチャージ』でエレベーターに向かって落下しているユキムラが、真上にある半分になったシップを示して姫様に指示を出す。それに答えた姫様が左手を上に突き出した瞬間、周囲に無数の光の球が生まれ、尾を引きつつシップに衝突し、破壊しながらもこちら側に弾き飛ばす。


「ナイスだ2人とも!」


 壁を蹴って大きく跳び、シップの残骸に飛び移り、そのまま不安定なシップの上を駆け抜ける。エレベーターの位置を確認すると、接近する速度を考えると既にあまり猶予のない位置まで来ていた。恐怖心を殺しながらも急いでエレベーターに向かって跳ぶ。


「オーライ!」

「センパイッ!」


 ギリギリだったが、懸命に手を伸ばし、何とか伸ばされた手を掴む。ユキムラとリンに引かれてなんとかエレベーターの上に降り立つと、疲れが出たのか足から力が抜けて座り込んでしまった。一気に寿命が縮んだ気分だ。


「……いや、これはキツイ。超疲れた」

「流石にな。そのまま投げ出されるとは思わんかった」

「大変だったね」


 あはは、とお気楽に姫様が笑う。といっても嫌味な笑いではない。疲れていたこともあって首を振って肯定するに留めて上を見た。

 薄暗いとはいえあたりの判別がつく程度は明るい昇降路(シャフト)内である。天井までは(しば)しの時間がかかりそうだった。


「そういえばさ、姫様は何で魔法が使えるんだ? いや、魔法が使えるのは知ってたんだけどさ」


 そう言って、同じく座り込んでいた姫様の方を見る。今の姫様は青と白を基調にした軽鎧にスカートという装備で、腰には細剣(・・)を装備している。

 そう、姫様は魔杖系の武器の装備していないのだ。


「ああ、それはね……」


 ほら、と言って左手を見せてくる。見ると人差し指を中指に指輪が装備されていた。


「この中指の、実は左手装備扱いでね。一応魔杖なんだよ」

「マジで!? これが魔杖なのか……」

「さらに言うとアクセサリ欄も1つ潰すからね、これ。普通の魔法職の人には一利もないんだけどね」

「ヒメは絶賛不人気中の『魔法剣士』だからな」


 『魔法剣士』とは、魔法と剣術を使いこなすオールラウンダーな戦い方のことで、誰もが一度は憧れたことがある夢の職業だ。イウでは『魔法剣士』というスキルは存在しない、もしくはまだ発見されていないため、ここではプレイスタイルのことを意味している。つまり、単純に片手剣と片手用の魔杖を1つずつ装備するのだ。

 だが、やはりというかあまり人気はない。理由の1つとしては取り回しの悪さが挙げられる。前にも述べたが魔杖は敵の攻撃をガードできないし、魔法、つまりスキルを使うには詠唱が必要なのだが、敵と剣で戦いながらの詠唱というのは難しいらしく、失敗(ファンブル)しやすいのだ。

 もう1つの理由は『換装』の人気が無いのと同じで、いくつもの戦闘系スキルを同時に育てるのは効率が悪いからだ。


「えー、面白いのに」

「ヒメはな。アクションが苦手じゃないから細剣1本で上手く立ち回れるし、短縮形のスキル取ってるから魔法も使えるし。何より魔杖っていう邪魔な物が無い」

「そっか、指輪型ってことは重量がないんだ」

「その通り」


 独り言のようなリンの呟きに、ユキムラはよっと、と立ち上がりながら答えた。


「一応レア物だからな、指輪(それ)。……さて、そろそろ終点だろ。このままじゃ天井にぶつかるぞ」

「まあ、それはわかってたけど。どうしようか?」

「どうしようって、そりゃ決まってんだろ」

「どうするんですか?」


 首を(かし)げたリンに、ユキムラは下———エレベーターの天井を指さして言った。


「ぶち抜くぞ」



 ◆ ◆ ◆



 普通だったら不備なんて言葉じゃ足りない状況なのだが(何しろ天井がないのだ)、無事エレベーターは終着点までたどり着いてくれた。エレベーターの扉を抜けた先は白い通路で、敵はいなかった。一本道で、奥に扉があるのがわかる。


「怪しいですね」


 リンが言った。


「ああ、怪しいな」


 続いて俺もそう言った。


「だがまぁ、行くしかないだろ。索敵にも反応ないし、敵がいないことを願うか」


 歩きながら、ユキムラが言った。


「敵、いないといいね」


 その後ろを歩く姫様が呟いた。


「けどまあ、考えてみろよ。俺らこのイベント始まってから結局一回も戦ってないぞ?」

「じゃあ、敵いっぱいいるといいですね」

「そうは言ってねぇけど」

「この先は広場で、埋め尽くすように敵がいたりして」

「じゃあ、そん時はお前斬り込めよ」

「いいでしょう! あたしがバッタバッタと無双してやりますよ!」


 そう言って、リンが扉に手をかけ、開いた。

 そこにあった光景は、やはりと言うか何て言うか。


 敵だらけだった。


「あーもう! フラグでしたか!」

「ほら、飛び込め」

「ぎゃあああ! ってセンパイ! 押さないで下さいよ!」

「無双するんだろ? ほれほれ」

「謝りますっ! 謝りますからっ!」

「お前ら! 来るぞッ!」


 扉を抜けた先はビルのロビーのような場所で、政務機関のように吹き抜けになっている。ただ、構造は全く違い、壁に沿うように螺旋型の階段が上に伸びている。もしかしたらここはまだ地下なのかもしれない。上を見ると天井を超えた先に階段は伸びているため、その先に外への出口があるのだろう。

 そして、この広場になっている場所には、先程も見た(というか()いた)人型の機械人形(オートマタ)が十数体存在しており、皆こちらを手に持つ機銃でもって狙っている。


「駆け抜けるぞ!」


 ユキムラのその言葉を合図に、俺たちは走り出した。リンは既に近くの敵に斬りかかっており、その双剣捌きでもって敵を無数のポリゴンに変える。

 ユキムラや姫様も戦っているだろうし、俺も負けていられない。横目で階段の位置を確認し、道を塞ぐ機械人形を両手棍で殴り飛ばす。体勢を崩した機械人形を棍でもって地面に叩き付け、さらに一発と追撃を仕掛ける。

 すると、機械人形はポリゴンへと体を変化させて消滅した。ここの敵はまだステータスが低いのだろう。

 再び前に走り出そうとしたところで、俺の身体にいくつものレーザーポイントのようなものが現れた。少し離れたところに機械人形がいるのを一瞬で確認し、すぐさまスキル『ダッシュ』でもってその場から離脱する。と同時に俺のいた場所に無数の銃弾が突き刺さった。

 イウでは銃というチート武器に、他の武器とのバランスを保つためにいくらかの調整を施している。その1つが今の『弾道予測線』で、簡単に言うと銃弾が当たる場所を赤いポインターが教えてくれるのだ。また、設定を変えれば視界の隅にアイコンが現れるようにもできる。弾速も遅くなっており、体感で言うならば予測線が出てから1秒のうちにその場から移動したら銃弾を躱すことができるのだ。イウでの運動能力なら何とかならなくもない

 そのまま階段を目指して敵を倒しながら駆け抜けるが、階段の途中にも敵がいたら厄介だということに気が付いた。

 何しろこちらには盾がないのだ。両手棍で防いだら『ガード』のお陰と、そもそも銃系武器は1発のダメージが低いこともあって防いだものに関してはダメージはなかったのだが、その分弾数が多く、着弾点にもバラつきがあったため結局ダメージを喰らってしまった。

 柱の陰に隠れるようにして銃弾の嵐を避けながら階段に近づいたところで、不規則な機動でアクロバティックに銃弾を回避しているリンに気が付き、良いことを思いついた。先に敵を駆除してもらえばいいのである。


「リンッ!」

「ッ! 了解ですッ!」


 リンに声をかけ、両手棍を下に構える。それで察したのか、ダッシュでもってこちらに走ってくるリン。

 その勢いのまま跳んだリンの足に棍を合わせ、大きく上に跳ね上げる。

 外周を一周まわった上の階段には若干届かないかと思われたが、リンはジャンプスキルの技能であると推測されるものを使い、空中で再びジャンプを行い、無事上の階段に辿り着いた。

 途中で、「あっ、一人で先進んでも損なだけじゃないですか! 騙したな!!」という声が聞こえたが、俺は声をかけて棍を下に構えただけである。騙したなんて、そんな人聞きの悪い。

 だが、カウンター気味な両手棍の俺よりも、押せ押せな双剣のリンの方が銃相手には有利であることには間違いない。銃を相手にするときは、魔法や弓もそうだが、「いかに攻撃させないか」が重要になるからだ。


「さて、行くか」


 上で孤軍奮闘しているリンの声を聞きながら、まだ敵の残っているだろう階段へと駆け出した。

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