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「……ここは?」

「多分あのお爺さんが言ってた格納庫じゃない?」

「だろうな。さて、いくつかあるみたいだが何を使おうか」


 光に包まれ、一瞬の浮遊感の後に目を開くと、周囲の風景は一変していた。イメージで言うならばホテルとかによくある地下駐車場だろうか。両側の壁沿いに1つ1つ仕切られてシップが並んでおり、真ん中は通路となっている。シップは10ずつくらいの数があり、その全てが等しく流曲線を描いている。といっても形に差異は多々あり、ラグビーボールをさらにシャープにしたようなものや、円錐型のものまで様々だ。


「さて、どれにする?」

「センパイ! これは?」


 リンの方を向くと、昔のSF映画で見たような半円型の小型宇宙船があった。

 結構俺の好みである。


「お、良いんじゃね? でもこれ4人も乗れるか?」

「わかんないですけど、頑張れば乗れんじゃないですか……って、うわっ!」


 シップにリンが手をついた瞬間、いきなりいくつかのウィンドウが現れた。それはシップの立体ホログラムであったり、スピードや耐久値といった性能が書かれているものだった。


「なるほど、こうやって性能を見るんですね」

「そうだな……ん? おいリン。これ3人乗りだってよ」

「えぇー、マジですかー」


 リンが非難するような目で見て来るが、そんなこと俺に言われたってどうしようもない。落胆するリンの肩を叩き、名残惜しいが諦めて他の機体を見て回ろうと思った時に、ユキムラからの招集がかかった。


「お前ら! 時間もないしこれで行くぞ!」


 ユキムラが指差していたのは最初に見たラグビーボール型のものだ。ウィンドウを開いていることから、ユキムラは今まで性能の比較をやっていたのかもしれない。御苦労なことだ。


「何でそれなの?」


 ユキムラの傍にいた姫様が疑問を口にした。さっきの半円型のシップが忘れられないのか、それとも純粋にかリンもうんうん、と頷く。


「もちろん、4人乗れる中で一番早いからだ」

「……耐久性は?」


 嫌な予感がして聞いてみたが、その問いにユキムラは答えず俺から目を()らした。


「おい、耐久性は———」

「さあ、行くぞ!」

「おいこのバカ! 耐久値めちゃくちゃ低いんだろこれ!」


 俺の文句なんてどこ吹く風。詰め寄ろうとするもユキムラが老人からもらった鍵を機体に触れさせて「搭乗!」と言う方が圧倒的に早かった。

 次の瞬間、パーティを組んでいるのだから当たり前なのだが、ユキムラに巻き込まれて先ほどと同じように光に包まれ、コクピット内に移動した。


「と、こりゃまたすげぇな」


 ユキムラの声でコクピット内を観察する。白い壁やイスに計器やレバーなどの操縦のために必要なものがついていた。また、レーダー等はホログラムとなっており、使いこなすのは難しそうだ。

 てか、作り込み過ぎだろ。何ゲーだよ。

 と、その時、突然ガコンッ、と音がして、シップが軽い振動を(ともな)って動き出した。


「……おいリンさんや、動かすときくらい先に言ってくれない?」

「わたしじゃないですよ。多分乗り込んだら勝手に動き出すんですよ」


 操縦席に真っ先に座ったリンに文句を言ったが、どうやら今回はリンのせいじゃなかったらしい。

 シップは下降をしており、おそらくアニメであるような滑走路か射出口のような場所に行くのだろう、と予想できた。

 操縦席の傍にまで行って外や計器を見ていたが、立ってるままじゃ危ないな、と席に着こうとする。しかし、今までで一際大きな振動があり、思わずよろけてしまう。終着地点に着いたのだろう。


「さて、じゃあ行きますよ!」

「ちょい待てリン。俺まだ座ってな———」

「行きます!」

「だから何で無視すんだテメェ!!」

「2番煎じか。まだまだだな、リン」

「そういう問題じゃないと思うけど……」


 ドンッ!! と一気にフルスピードにまで加速したシップは、結局勝手に発進させたリンへの恨み言を伴って宇宙へと飛び出した。



 ◆ ◆ ◆



 格納庫から発進して約1分。速度が安定した後、「ワープ」という何とも便利な機能が発動し、3分クッキングもかくやという早さでコロニーの近くにまで辿り着いた。ワープを使えば入力した座標の近くに移動することができるようで、今回は座標がコロニーに固定されていた。ちなみに、後ろの壁に叩きつけられた恨みは両手棍を脳天に一発振り下ろすことで解消した。


「あれが、コロニーですね」

「そうみたいだな」


 遠くに見えるのは、指輪のような形をした超巨大建造物だ。指輪の内側はガラスのようなもので覆われており、その中は緑や豆粒のようにだが建造物が確認できる。重力やその他諸々を弄り、生活できるようになっているのだろう。また、指輪の中心には丸い球体が存在しており、そこからエレベーターのようなものが何本も放射状に地上に降りている。おそらくあれが最深部なのだろう。


「予想よりもデカいな、ありゃ」

「だからあの最深部っぽい場所に行くための道がいくつもあるんだろうな」

「なんで最深部が剥き出しなんでしょうね。あれじゃ弱点丸出しじゃないですか」

「知らねぇよ、んなこと」

「他のシップも来てるみたいだよ」


 ほら、と姫様はそう言って前方右上の方向を指差した。確かに、何機かのシップが真っ直ぐ移動しているのが確認できた。


「どうせ最初っから最深部に行けるなんて簡単に行くわけがない。リン、下から回って外周部を目指せ」

「えー、一番端っこですか?」

「じゃあ行けそうならエレベーターっぽいのの近くを目指せ」

「らじゃー」


 そう言って、リンはシップを加速させて大きく円を描くようにコロニーを目指す。その操縦テクニックは初めてにしては上手い方なのだろうか。特に問題もなく進んでいく。


「リンちゃん上手いね。どこかでやったことあるの?」

「いやぁ、ちょっと前に友達に誘われて爆走なんちゃらってゲームをやりまして。障害物を避けまくる系だったんで、それで慣らしたんですよ」

「ほんと何でも手を出すよな、お前」

「無節操言わないでくださいよ」


 恐らくこの4人の中で一番のゲーマーであるリンは、無料だったらほぼ全てに手を出しているんじゃないか、というほどにあらゆるゲームにジャンルを問わず手を出している。それでいて現実(リアル)の方でもきちんと人間関係を築いているんだから、その点に関しては称賛に値するだろう。

 そんなことを考えながら上を見ていると、何か光るものがあることに気が付いた。


「なあ、リン」

「センパイ、何ですか?」

「その爆走なんちゃらってのは、障害物を避けるやつなんだろ?」

「そうですけど……」


 不可解、といった顔をするリンに上を指差してやる。


「喜べ、お客さんだ」


 指差した先にあったのは、燃え盛りながらこちらへと向かってくる、撃墜された誰かのシップだった。

 宇宙空間は酸素が無いため燃えるということは起きないはずなのだが、そこはまぁゲームだから、ということか。


「マジですか!」

「リン! 前っ!!」


 シップを回転させて障害物を回避したリンに、ユキムラが鋭く叫んだ。前を見ると、コロニーの中心部分で、光が収束していた。


「レーザー!?」

「だろうな!」

「上等ですっ!」


 前方で光が弾けるのとほぼ同時に、リンは足元のペダルを思いっきり蹴りつけ、同時に左のレバーを押し倒す。すると、ガクンッ、と機体が一段落ち、ギリギリのところで凶悪な光の奔流を回避する。


「うっわ、近づけるのかなこれ」

「大丈夫ですヒメセンパイ! あたしにお任せあれ!」

「これで撃墜されたら間抜けだよな」

「自分でハードル上げちゃって、あーあ」

「うるさいですよ、そこ!」


 いいでしょう、燃えてきました! と気合を入れたリンは、宣言通りに凄まじい操縦テクニックを披露した。

 縦横無尽にレーザーを回避し、ぶつかりそうになった他の機体も回避し、撃墜されたシップやデブリ群も回避する。本人がやったというレースゲームとは操縦方法も違うだろうに、その全てを回避するとは、本当に驚くべき反射神経と適応能力である。


「見たかこの腕前! はっはっは!!」

「トリップしてねぇで周り見ろ! 右来てるぞ!」


 ガタン、と音を鳴らし、右下に急降下することで向かって来ていたレーザーを躱す。

流石に最初からゲームオーバー続出になるほど鬼畜仕様ではないのか、リンの腕前もありコロニーの外周部にかなり近づくことができた。

 機体を横滑りさせながら外周部へとさらに接近し、侵入できるところを探すと、開閉するゲートのようなものを発見する。

 ゲートは大型のシップも通れるように造られているのかかなりの大きさを誇り、廃棄されている故か、中は薄暗い。

 

「行きますよ!」

「ちょっとリンちゃん、無茶は……」

「こういう時って普通減速するんじゃねぇの!? 何で加速してんだよ!!」


 ゲートを確認したリンは、ペダルを踏み込みシップを加速させ、ゲートの中へと突入させる。

 ゲートの中をしばらく進み、開閉する巨大な門のようなものをいくつか超えると、これまた巨大な発着場のようなものが見えてきた。奥の壁から船着き場のようなものが()り出している、といった感じだ。

 奥の壁になっている部分には次のエリアへと進める道が口を開けていて、そこに至るまでの道程には人型の機械人形(オートマタ)が何体も(うごめ)いていた。


「今回の敵は機械人形(オートマタ)で決定っぽいな」

「で、どうすんだよ。降りて戦うか?」

「ふっふっふ、あたしに良い考えがありますよ」

「「却下」」

「早くないですか!?」


 不敵に笑うリンに、提案を聞く前に判決を下す。姫様が苦笑いしているが、それも含めていつものことだ。


「なんか段々あたしの扱いが雑さを増してる気がするんですけど……」

「気のせいだろ」

「気のせいだな」

「ま、まあまあ、リンちゃん。それで、何を思いついたの?」

「……ひめしぇんぱい!」


 女神の如き優しさを見せる姫様にリンが飛びつく。

 だが、操縦席にいるリンがそんなことをすると、結果がどうなるかなんて目に見えている。

 つまり。


「馬鹿リン! 墜落するぞ!」

「うわっと! ここまで来てそれは嫌です、よ!!」


 急降下を始めたシップに慌てて操縦席に戻ったリンがレバーを力いっぱい引き上げる。

スピードが落ちていたのが功を奏したのか、シップは地面すれすれのところで立て直し、そのまま真っ直ぐ飛ぶ。


「おいリン、何やってんだ!」

「いやぁ、別に戦わなくてもこのまま行っちゃえばいいかなぁ、なんて思って」

「そんな簡単に行くか?」

「撃ってきたよ!」


 席に取り付けられたモニターを操作して外の光景を見ていた姫様が、機械人形(マーシナリ)たちが銃撃を開始したことを伝える。


「おいおい、この船耐久値低いんだろ!?」

「なら壊れる前にエスケープですッ!」


 そう言ってリンはペダルを再び踏み込んだ。シップは急加速し、奥の通路へと飛び込む。

 道幅がギリギリのため機械人形(マーシナリ)たちを()きながらも爆走するシップは、(はた)から見たらどう考えてもアウトだろう。

 ふと、機体の右上についている大型のモニターを見ると、機械人形(マーシナリ)を轢くたびに耐久値がガスガス削れていってることが分かった。


「なぁ、シップって攻撃手段とかねぇの?」

「いや、どうなんだろうな。リン、あるか?」

「うーんと、それらしいものはないですね」


 見ると、耐久値は既に半分を下回っている。


「って、リンちゃん! 前っ!」

「やば見てなかった! 捕まっててください!!」


 リンが叫び、慌ててモニターに向けていた視線を前に戻すと、目の前は硬質な扉で閉ざされた行き止まりだった。

 扉の横にはボタンらしきものがあり、上にはメーターのようなものがついている。ってことはまさか……。


「リン! これ多分エレベーターだ! 扉突き破れたらすぐに上昇!」

「了解ですっ!」


 ドガンッ!! という轟音と衝撃とともに、耐久値を3割ほど減らしながらも扉を突き破る。

 そして、多少ぶつけながらもなんとか方向転換に成功して、地上――宇宙から見た指輪の内側部分――を目指して進む。

 扉を突き破った先の昇降路(シャフト)はいくつものエレベーターが通れるようになっており、シップを壁にぶつけないで進めるほどの横幅があった。奥行きはそこまでないから突き破るときにはぶつけたんだが。

 不安になってモニターを確認すると、シップの耐久値はもう1割も残っていない。


「ギリギリすぎるだろ……」

「さっきから精神の消耗具合がヤバいんですけど。心労辛いんですけど」

「まだだぜ、ほら。リン、上からエレベーターだ」

「あーもう!」


 右のレバーを左側に倒すことで機体をX軸方向にローリングさせ、急降下していくエレベーターを何とか躱す。


「凄いねリンちゃん!」

「声援は嬉しいんですけど、流石にもう疲れました……」

「てかさ、このままじゃ出るとき壁突き破れないでシップ爆発すんじゃない?」

「……デスヨネー」


 誰も言わないので言うと、リンが固い声で答えた。扉を突き破るのに使う耐久値は3割程度。現在の耐久値はもう1割弱。正直なところこのままじゃデッドエンドまっしぐらだ。


「これ積んだんじゃね?」

「えと、パラシュートみたいなのないの!?」

「宇宙を進む船にパラシュートなんかないだろ」

「じゃあ緊急脱出装置みたいなのは?」

「あ、それっぽいのあります!」

「でかした!」

「いや待てっ! まだ押すな!」


 すぐさま押そうとしたリンに、ユキムラが鋭い声で静止をかける。


「何でですか! もういつ着いてもおかしくないですよ!」

「今放り出されても死ぬだけだろ。登ってるエレベーターはないか? そこの上で押すんだ」

「2つ右の方! 後ろに上ってきてるのあるよ!」


 ユキムラの意図をすぐさま理解した姫様が、目的のエレベーターを探し当てた。

 リンも右のレバーを操ってシップをエレベーターの上につける。


「じゃあ、行きますよ!」


 そう言ってリンがボタンを押した瞬間、機体の後方が突如切り離され、俺たちは重力と気圧とその他諸々によって虚空に投げ出された。


「ちょっと待て、パラシュートどころか何もねぇのかよ!」

「いやー、これは予想外だわ。ははは」

「全然笑えねぇよ!!」

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