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「で、スキルはどうするんだ?」
「うーん……」
現在のホルダーは両手棍、機巧剣の武器2つ、索敵、ステップのスキル2つ、そして空きが2つとなっている。ただ、まだ出していない『両手棍』と『機巧剣』のスキルを加えると空きが無くなってしまう。
『蹴り技』は必要だし、ガード系のスキルも欲しいんだよなぁ。索敵かステップのどっちか外そうかな。
「そういやユキムラはどんなスキル持ってんだ?」
「ん、俺か? まぁアサヒだしいっか。ほれ」
そういってユキムラはシステムウィンドウを可視化し、こちらに見せてくる。
そこにあったのは、『長槍』、『ダッシュ』、『ジャンプ』、『索敵』、『気迫』、『剛力』という200前後の熟練度を持つスキル群だった。ちなみに熟練度は最大1000である。
βのデータは一旦リセットされたらしいので、ゲームが始まって1ヶ月経っていないことを考えると、とんでもない数値であることが分かるだろう。流石に今後もこのペースで伸びていくとは考えにくいが。後半になって必要になる経験値が膨大なものになるのはよくある話だ。
「あれ、お前ガードとか持ってないの?」
「ラグナじゃ長物は足止めたら即ゲームオーバーだったからな。俺の戦い方はヒット&アウェイだよ」
「だから重装じゃないのか」
ユキムラの装備は高価そうで強そうではあるのだが、どう見ても鎧系の装備ではなかった。ちなみにイウの世界観は科学技術の発展した世界と魔法が存在する中世の混じったものであるので、鎧は明らかにゴツいのもあれば、軽装っぽいものの要所要所に機械が付属している物もある。
ただ、重装は共通して重量が重いため、ステータスのスピードにマイナスが入る。
「それにガードはあんま人気ないしな」
「あれ、そうなの?」
「ああ。技能もあるし盾戦士とかなら必須かもしんないが、ガードの基本的な効果はノックバック率の減少とガード時のダメージの減少だ。といってもガード時のダメージなんてたかが知れてるし、だったら攻撃上げるなり機動力上げるなりした方が良いって考えだな」
技能とはスキルの熟練度を上げることによって習得できる能力のことで、ユキムラの長槍スキル『シューティングストライク』や、リンの双剣スキル『エスティアードセイバー』がそれに当る。
ちなみに現在俺が習得している技能は『ステップ』と『周辺探知』のみである。両方スキルを買えば初期から使えるものだ。
「ただ、ガードを育てていくと『弾き防御』が出るから、お前なら買ってもいいんじゃないか?」
「パリィか。確かに両手棍との相性はよさそうだな」
『弾き防御』というのは、読んで字の如く相手の攻撃を弾く行動のことである。ユキムラが言うには、行動系のスキルはスキルが無くてもある程度実現可能なので、スキルとしての人気はあまり無いらしいが。
ただ、俺の両手棍はカウンター気味な戦法との相性が良い。そう考えるとガードを取っておくのも悪くないだろう。
「まあ、なんにせよユキムラが普通と違うのは確かだな」
「槍は重い方だからな。普通はヘイト任せてダメージディーラーだったり、盾持ってヘイト稼いだりするからな」
「どっちにしろパーティでだな。走り回ってヒット&アウェイって随分とまあソロ向きだな」
「パーティも組むぞ。みんな好き勝手に動くやつじゃないとカオスになるけど」
「その時点で十分カオスだよ」
なんだよパーティ組んでて全員がソロプレイって。
「で、どうすんだ? 早くしないとヒメとリンが帰ってくるぞ」
「そうだなぁ、やっぱ『蹴り技』かなぁ」
姫様とリンは現在アクセサリーを見ている。現実では手の出せない貴金属だってイウでは自由に手に取ったり買うことだって出来るだから、やっぱり女の子には楽しいのかもしれない。
「いや、『索敵』はみんな持ってるんだから、防御系……やっぱダッシュ買うか。置いて行かれそうだし」
「別において行かねえけど。ヒメだってダッシュ持ってないし」
「まあいいさ、速いに越したことはない」
「それには同意するけど索敵無しってソロの時どうするんだ?」
「頑張る」
「……まあ、それでいいならいいんじゃないか」
ユキムラはなんか言っているが、索敵が無くたって大丈夫なはず。よってこの選択は正しいはずだ。多分。
「じゃあ、買いに行くか」
「おう」
◆ ◆ ◆
『蹴り技』を買い、ダッシュを探しているときだった。
「『換装』だと……?」
「何慄いてんだよ。最近のじゃ良くあるだろ」
「いやだってこれあれば俺のホルダーのカオス臭が全部解決するから」
『換装』の効果はそのまま「一瞬で装備を変更できる」となっていた。熟練度が上がることでストックしておける装備が増えるらしい。お値段は5000Gと少々値が張るが、それに見合うものがあるだろう。
「ただこのゲーム武器スキルも装備制だし、スキル無しの攻撃なんてよっぽど性能に差がない限り効かないんだから、結局は1つに絞った方が効率が……」
「買った!!」
「まいどありー」
「……あーあ。ま、いいけど」
NPCの店主に金を払って『換装』を手に入れる。スナップしてシステムウィンドウを開き、カードホルダーから両手棍と機巧剣を取り出し、代わりに『換装』を加える。続けて『換装』の欄に機巧剣をセットし、通常の装備欄で両手棍を装備して完了だ。
両手棍を装備した瞬間、背中にずっしりをとした感覚が現れる。背中に吊るされる形で両手棍が装備されたのだ。
「うん、これで俺もかなりレベルアップしたな」
「むしろホルダーって武器入れられたんだな」
無意味過ぎて試す気にもならなかった、と言うユキムラ。失敬な。
「じゃあ、後はどうするんだ?」
「そうだなぁ」
続けて『ダッシュ』も買い、残る枠はあと1つ。やっぱガード系かな。
その後、正直石像戦で正直あまり出番のなかった『ステップ』と『ガード』を交換して、スキルの購入は終了。次は機巧剣そのものだな。さすがに初期装備レベルの性能じゃ通用しないだろう。
◆ ◆ ◆
「ヒメ! リン!」
「あ、終わったんですか?」
「ああ、これで俺もイベント何とかなる気がするぜ」
「その割に防具変わってないみたいだけど……」
「金足りなかったからな」
「……え、まさかの紙装甲ですか?」
「やっぱアホだよな、こいつ」
ボロクソ言われてるが問題ない。あと4日……4日目はイベント当日なので、正確には3日間で防具を調達すればいいのだ。
広場近くの橋の上で合流し、買い物の成果やこれからのことを話し合う。
俺はスキルをほとんど新しく買い入れ、両手棍と同レベルの機巧剣を手に入れた。この機巧剣のせいで金が無くなったのだが。
「そっちはどうだったんだ? 何か買ったのか?」
「めちゃくちゃ声掛けられたんで途中で逃げちゃいました。有名人も大変ですからねー」
「それは……」
何というか、お疲れ様だな。
俺らの方でも何度かユキムラが声を掛けられていたくらいなのだ。元々女性というだけで目立つ上に、トッププレイヤーである彼女たちが声を掛けられないわけがないのだろう。
「まあ、特に欲しいものがあったわけじゃないし、リンちゃんとお店回れて楽しかったよ」
「あたしもです! さすがヒメセンパイ良いこと言う!」
「そうかな? えへへ」
「……ま、楽しかったんならいいさ」
で、これからの方針だが、とユキムラが今までの会話を切り上げ、これからについて話し出した。俺ら4人の中じゃよくあることだ。リンがふざけて、俺が突っ込み、姫様がフォローして、ユキムラが軌道修正する。もちろんユキムラだって軌道修正するまではふざけたり突っ込んだりしてるのだが。
「やっぱ参加するからには上目指すよな?」
そう人差し指を上に向けて聞いてくるユキムラに、俺たちの答えは当たり前のように1つだった。
「「「当然!」」」
「よし、ならこれから3日間はアサヒはスキルの熟練度上げと金稼ぎ、まぁ死ぬ気でやれば150……はさすがに無理か。最初は伸びやすいし、1個くらいは100行けんだろ。せめて技能は何個か出しとけよ」
「あいさー」
「ヒメとリンに関しては特になし。今までと同じように、って感じだな。こん中で『索敵』一番育ってるやつ誰だ?」
「俺は外した」
「私も持ってない」
真っ先に候補から外れる俺と姫様。すると、ふっふっふ、とリンが不敵な……言い換えれば嫌な予感のする笑みを浮かべる。
「あたしはちょっと前に200になりました!」
「なら220越えてる俺が一番か。と言っても200から新しい技能はないからあんま変わんねえか」
「がーん」
効果音を口から出して崩れ落ちるリン。哀れですらある。
「『索敵』持ってない2人のためにも、敵がいたら俺らが知らせるってことで」
「……了解であります、サー」
しゃがみこみながらも暗い声で返事をするリン。意外とダメージが大きかったようだ。
「よし、まあ話し合うことなんて他にないだろ。終点まで走り抜けようぜ」
「おう」
「もちろんです!」
「楽しみだねー」
「緊張感の欠片もねぇ……ま、ゲームなんだから楽しんだもん勝ちか」
さて、と座っていた橋の欄干から、伸びをしながら飛び降りて橋に着地する。
「まだ夜まで時間も若干あるし、みんなでどっか行きますか」
「あ、良いね。行こうよ」
「と言ってもアサヒボス倒してないから、最初の惑星しか行けないけどな」
「悪かったな初心者で」
「まあ、良いから行きましょう! 時間は有限ですよ!」
「へいへい」
リンに引っ張られながらも俺たちは移動を始めた。何だかんだ言いながらも次のイベント、俺はこの4人なら負ける気は全然しなかった。
さて、足を引っ張らないためにも頑張って戦いますか。




