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 有力クランの1つ、『エルフィニア』は少人数かつ女性だけで構成されているクランである。別に男子禁制と言うわけではないらしいが、元々が他のゲームからの知り合いであった彼女たちの中に、他の人は入り難かったのかもしれない。

 だが、人数が少ないと言ってもその強さは目を見張るものがあり、1人1人のプレイヤースキルが高い上にチームワークがいいこともあって、人数で勝っている『星屑の船団』や『ナイトメア』といった有力クランにも引けを取らない実力を持っている。

 また、全6人の構成員はどれも美女、美少女ぞろいで(もちろん仮想体(アバター)ではあるのだが)、VR技術の普及によって緩和されつつあるとはいえ、必然的に男女比が偏っているこの世界ではアイドルの如き扱いをされている。もちろん本人たちの意思には関わらず、だ。

 まぁともかく、そんな有力クランの中でも注目度ナンバー1を誇る『エルフィニア』のトップであるクランマスターは今———


「申し訳、ありませんでした……」


 ———地に頭をこすり付けて土下座をしていた。

 もちろん、この土下座の対象である俺がそういう性癖やらを持っているというわけではなく、彼女の後ろで頭を下げている眼鏡をかけたクールビューティが原因である。……いや、正確には眼鏡の彼女が怒る原因を作ったそこの土下座少女が悪いのだが。


「いや、別に何か失ったわけとかでもないですし、もういいですよ。……振り回されるのは慣れてますし」


 主に後ろで殊勝な顔を頑張って作っている金髪にな。

 そう言った瞬間、リンがビクッ、と反応するが、眼鏡の女性には見えていなかったのか、それとも彼女の標的は土下座の体勢から彼女を恐る恐る窺っている少女1人なのか、お咎めは無しのようだ。

 まあ、今回リンは特に何かしたわけじゃないんだけどな。一応決闘は同意のもと行われたし。過程はどうあれ。


「そうですか。ありがとうございます。ほら、サクラ」

「は、はい! すみませんでした! ありがとうございます!」


 場所はクラン『エルフィニア』のホームである。『エルフィニア』のホームはそこまでの広さはないのだが、ソファやテーブルなど、過ごしやすいような設計となっていた。クランホームの話を聞いたときはパーティ会場のようなものを想像していたのだが、このホームはカントリー風の一軒家のようなものであった。

 今この場にいるのは俺とリン、眼鏡の女性、そして「サクラ」と呼ばれた土下座少女だけである。他のメンバーは今はインしていないようだ。


「さて、では……っと失礼、来客ですね」


 再び話し始めた眼鏡の女性であったが、途中で何やらシステムウィンドウを出し、操作し始める。といってもシステムウィンドウは基本的に他の人では見ることができないので、傍から見れば空中で指を動かしているだけにしか見えないのだが。

 少々失礼します、と玄関の方へ向かったその姿が見えなくなると同時に、ふわぁ、と緊張から解放されたように、土下座をしていた少女が伸びをしながら立ち上がった。


「いやー、参っちゃったねぇ。あんな怒るんだもん」

「リーダーが勝手に暴走するからでしょ」

「だって帰ってきたら面白そうなことやってて、見てみたらリンちゃんだし、何か気分がアゲアゲ? って感じになってさー」

「めったに使わないよ、そんな言葉。しかも疑問形だし」


 珍しいことにリンがツッコミ役に回り、会話がポンポンと進んでいく。


「で、キミはリンのお友達?」

「ん? ああ、そうだけど。で、あんたは———」

「ああ、やっぱり! リンに友達がいるなんて! お姉ちゃんうれしいよ!」

「誰がお姉ちゃんよ。あと友達くらい普通にいるから!」

「ええー、そんな強く言わなくてもいいのにー。で、名前は?」

「……アサヒだけど。それであんた———」

「へーアサヒ君か。良い名前だね! 『天晴桜之君』(アマハレサクラノキミ)の次に良い名前だよ!」

「言い難いだけじゃない」

「なにおう! リンみたいに2文字じゃ面白みがないじゃん! ベータテストやってたからその名前に出来たけど、遅くに始めてたら絶対被ってたね! 絶対!」

「被んないのが良い名前だとは言わないでしょ! それリーダーの基準じゃん!」

「そんなことないね!」

「そんなことあるよ!」

「ぬぬぬ……!」

「むむむ……!」

「…………」


 ちょっとそこ、俺無視して言い合いするの止めてくれませんかね? あと、あんたそんな名前だったのか。

 俺がそんな混沌としてきた場に嫌気がさしてきたころ、眼鏡の女性が消えて行った方向、つまり玄関からカランカラン、という音が聞こえた。


「おじゃましまーす」

「おーい、アサヒー。生きてるかー?」


 リビングにあたるこの部屋の扉が開き、現れたのはユキムラと姫様だった。

 その後ろに眼鏡の女性の姿があるのを見ると、言い合いをしていた2人はすぐさま全ての行動をキャンセルし、少々離れてソファに座った。喧嘩禁止、というよりも同じようなことで言い争いをして叱られたことがあるのかもしれない。


「おお、来たのか」

「俺らと『エルフィニア』は仲が悪いわけじゃないしな。普段はリンが船団のホームに来るからこっちに来るのは珍しいが、来たことがないわけじゃないからな」

「私たちのホームも悪くないけど、ここの雰囲気は好きだなぁ、私」

「それは光栄なことですね」


 姫様の言葉に眼鏡の女性がふっ、と微笑む。

 そして、すぐさまソファに身を預けてどこからか出したジュースを飲んでリラックスしている元土下座少女———サクラに目をやり、その顔を無表情に戻す。


「で、サクラ」

「ッ!? は、ハイ!!」


 何故そう思ったのかは分からないが、自分が呼ばれることはないと思っていたのだろう。サクラは驚いて跳ね起き、気を付けの姿勢を取った。


「まあ、いいでしょう。無理だとは思いますが、これからはよく考えてから行動してください」

「……はへぇ」


 気が抜けたのか変な声を出してソファに沈むサクラ。その様子に苦笑してからこちらに顔を向けた。


「そういえばまだ自己紹介をしてませんでしたね。私はキキョウと申します。よろしくお願いしますね、アサヒさん」

「あ、はい。よろしくお願いします」

「さて、アサヒも災難だったな。まあ『エルフィニア』のホームに入れたからチャラか。ここの人たちはファンクラブもあるくらい人気なんだぜ?」

「楽しんでるだろ、ユキムラ」


 ひひっ、と笑うユキムラにため息交じりにそう返す。友好の輪が広がるのは良いことだと思うが、それで余計なゴタゴタに巻き込まれるのは極力避けたいところだ。今ではVRMMOから現実でのストーカーやらの犯罪に発展するケースだって無くはないのだ。過激なファンの怨恨からの嫌がらせ(アプローチ)は勘弁したい。


「さて、キキョウさんよ。『エルフィニア』は次のイベントどうするんだ? 出来ればリンを借りたいんだが」

「個人の自由とは言え、それは若干困るのですが……。理由を聞いてもよろしいですか?」

「あ、あのねキキョウさん! 次のイベントはクランで参加が条件ってわけじゃないでしょ? だから1回はこの4人でアサヒセンパイの歓迎会したいなーって思って!」


 そう言ってリンは俺、ユキムラ、姫様と自分を含むように手で大きく円を描いた。

っておいおい。初耳なんですけど。

 リンはキキョウさんに説明が忙しいようだったので、ユキムラの方を向き話しかけた。


「ユキムラ?」

「そう言うな。俺だって初耳だ。俺はただちょい前にリンに『次のイベントは4人で行けたらいいなー』って言っただけで、今思いついて言ったんだ」

「じゃあ俺の歓迎会だどうのってのは?」

「リンの思い付きだろ」


 ほれ、と言われ示された方を見ると、姫様がなんかアワアワしながらリンの話を聞いていた。時々こちらに視線をちらちらと向けている。


「その証拠にヒメだって完全に初耳だ。見ろよあの慌てっぷり」

「助けてやれよ幼馴染」


 俺らはもうリンが突発的に物事を決定することに慣れてしまったため驚くのも面倒だという態度だが、心優しい姫様はそんなことはなくリンなんかの言葉にも必死に耳を傾けているのだ。どうせ次の日には内容が変わっているというのに。

 まあ、今回の提案は比較的良い方だし、内情はどうあれ俺の歓迎会をしてくれるというのだ。感謝の気持ちは心の片隅にそれとなく置いておこう。


「———というわけなんです! どうでしょうか!?」

「その心は?」

「前回のイベントではユキムラセンパイに煮え湯を飲まされたので、今回は一緒のパーティ組んで背後から不意打ちしかけようと……はっ、しまった!!」

「おいこら」

「いてっ」


 ペラペラとアホなことを言うリンにユキムラがその頭を軽く叩く。どうせ冗談だろうが、その考えはかなり(こす)いぞ、リンよ。


「まあ、いいでしょう。バランスは少々崩れますが、リンがいないと戦えないというわけでもありませんし。それに、アサヒ君にはうちのサクラが迷惑かけましたしね」

「死ねって言われた……」

「……言ってませんよ。小学生ですか、あなたは」


 どうやらサクラ(言動が年上には思えないので呼び捨て)はかなりアレな子のようだ。リンといいサクラといい、キキョウさんや他のメンバーの苦労が(うかが)い知れる。

 はあ、とため息をつくキキョウさんに心の中で手を合わせておく。お疲れ様です。


「あの、イベントっていつからなの?」

「あ、それ俺も知りたい。あとさ、何やるんだ?」


 姫様が多大なる決意を持って発言したことに軽い気持ちで便乗する。とたんにその気持ち申し訳なさそうな表情をしていた顔が和らいだ。自分だけがイベントの情報を持ってないと思っていたのだろう。


「次のイベントは探索系でな。1日限定で出現する全勢力共有ダンジョンの最深部を目指す形だな。もちろんバトロワだ」

「で、参加はパーティごとなんですよ。あと、他勢力にはPK解禁みたいですね。まだ各勢力が入り混じるフィールドって無いんですけど、実装されたらやっぱり他勢力にはPKオーケーってなりそうですね」

「イベントは今週の日曜です。あと4日ですね」


 ユキムラ、リン、キキョウさんが次々と情報を開示してくれる。

 これってつまり勢力対抗ってことか?


「そうだな。前回の武闘大会は勢力関係なかったから、今回は、ってことなんじゃないか? ただまあ、同じ勢力内でも順位付けとかはあるんだがな」

「センパイ装備しっかりしとかないと置いていきますよ?」

「無茶言うなよ……」


 マジで置いていきそうだから怖いんだよな。イベントまではちょっと本気でスキルとか育てないと。


「じゃあ、取りあえず枠余ってるからスキル買いに行くよ」

「なら俺らもそろそろお暇しますかね。ヒメ、行こうぜ」

「あ、うん。キキョウちゃん、サクラちゃん、お邪魔しました」

「はい。次のイベントではライバルでもありますが味方同士です。お互い頑張りましょう」

「じゃあねーのしのしー」

「言葉にしてどうすんの……。あ、待ってあたしも行く!」


 キキョウさんとサクラに見送られ、俺たちは『エルフィニア』のホームを後にした。

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