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「セイヤァ!!」


 数メートルを一瞬で詰めてきたリンが最初から手加減なしに斬撃を放ってくる。普通に喰らったら一撃でお陀仏だが、「スタート直後の先制攻撃」はリンの得意とするところであり、今までに何度もやられている俺にとっては予想通りの行動だ。

 右の剣を半身で躱し、左の突きは棍で弾く。そしてそのまま胴体に蹴りを入れるが、既に手元に戻っている双剣によってガードされ、その勢いに乗ってリンは宙を飛んで距離を取った。

 ギリギリで躱した時に(かす)ったのか、装備の莫大な性能差が割に合わないダメージを叩き出した。それに比べてこちらの蹴りはガードされてるし、そもそも『蹴り技』系のスキルを持っていないためダメージを与えることは不可能だ。今度買おう。


「ハァ!!」


 再びリンが突っ込んでくる。手数の多い双剣との対戦では、どうしてもカウンターを狙わないと手痛い反撃を喰らってしまう。同じレベルの装備の性能ならこっちから突っ込んでも良いのだが、現時点では愚の骨頂だ。恐らく片手で弾かれ、もう片方の剣で貫かれるだろう。

 ラグナロクで慣らした手捌きで以て、ほぼ反射神経だけでリンの攻撃を弾く。一応はこちらのことを考えてくれているのか、スキルを使わないでくれているため何とかなっているが、本来ならとっくに俺のHPは全壊しているだろう。

 楽しくなってきたのか剣を振うスピードを上げるリンに、まだ上がるのかと辟易(へきえき)しながらも隙を(うかが)

 そして。


「ここだぁ!!」

「んなっ!?」


 ガードを崩そうと攻撃が大振りになった瞬間、見逃さずに左の剣を棍の上で滑らしながら後ろに引かれた右手を叩く。

 体勢を崩しつつも後ろに跳ぼうとするリンを逃すまいと、リンの左足を俺の左足で絡めるようにして外側から大きく払い、リーチの長い棍で以て一歩引いた位置から打撃を繰り出し、地面に叩きつける。

 結構良い当たりのはずが、ほんの少し剣に掠っただけの俺と同程度のダメージしか入らないのは本当に遠い目になる限りだが、ガードしてても多少は喰らっていたため残り半分もHPが残っていない俺にとっては、このチャンスは絶対に逃すわけにはいけない。すかさず追撃に入る。

 跳ね起きようとしていたリンの腹部に、まだリンが空中にいる僅かな隙を狙って棍をフルスイングして、吹っ飛んだリンをダッシュで追いかけそのまま棍による連打を行う。先ほどとは攻守が逆になった状態だ。

 だが、いい気になって2回のクリーンヒットを許したリンだが、こうなってくると手強いことこの上ない。双剣による的確なガードはダメージをなかなか許してはくれない。

 右の剣に弾かれた棍をくるりと回し、上から下からとリンに揺さぶりをかける。隙を見ては棍を突き出し、そこから払い、振りおろし、蹴りを挟んでの突き上げ、とコンビネーションを決めようとするも、全て防がれてしまう。如何せん現実はそう上手くいかない物だ。


「あー、もう!」


 気合一閃。

 イラついたのか全力で棍を真上に弾き飛ばし、必殺の斬撃を放ってくる。こちらとしてはその斬撃は受けたら即死であるため、すぐさま棍を引き戻して地面に突き立てることで剣を遮る。ガンッ! という金属音と強い衝撃を感じながらも、片手で端を掴んだまま棍を全力で蹴り、リンの脇腹にぶち当てる。

 吹っ飛んで行くリンだが、身体の横には逆手に待たれた剣があった。惜しくも防がれたらしい。


「……なかなか隙を見せてくれませんね」

「今まで散々ボコられて来たからな」


 会話を挟みながらも、身体は攻撃して防いでと大忙しだ。


「じゃあ、一段階上げますよっ!」

「は?」


 その瞬間、突如リンの姿がぶれたかと思うと、目の前から姿を消した。嫌な予感を感じるよりも早く前に身を投げ出すと、いつの間にか後ろに現れていたリンが剣を振り終えた状態で「惜しいっ」と嬉しそうな顔をしながら言った。

 全く見えない、速過ぎる。

 その後も消えたり現れたりと忙しいリンを、もはや勘だけを頼りに迎撃していく。恐らくは手加減されているから防げているのだろうが、こちらとしてはもういっぱいいっぱいだ。


「じゃあ最後! 行きますっ!」

「まだあんのかよっ!」


 棍で真上に弾いたことで宙を舞うリンの言葉に、驚きや恐怖を通り越して呆れてくる。どこまで徹底的にやるんだ、こいつは。

 空中でさらにジャンプをして飛翔するリンの双剣が光り輝き、聞き覚えのあるキィィィン、という管楽器のような音が聞こえる。

 どう考えてもこれは詰んだ。残りのHPはもうレッドに入っている。ガードしたって明らかにオーバーキルだ。


「エスティアードセイバァァァアアア!!!」


 空中から飛来する輝く斬撃を見て全てを悟った俺の身体は、次の瞬間無数のポリゴンへと姿を変えて霧散した。



 ◆ ◆ ◆



「いやー、楽しかった!」

「……ものすごく疲れた」


 『WINNER Rin!!!』という大きなウィンドウが現れ、それと同時に円柱状のフィールドが波打つように消えていく。上から下に消えていく半透明の壁と同じ速度で、霧散していた俺の身体も再生された。ずいぶんとまあ凝ってるな。

 既に疲労困憊、といった態度をしている俺と違い、リンは元気溌剌といった様子だ。羨ましい限りである。

 ユキムラと姫様の元へ行こうかと辺りを見回すと、「うおー!!!」という歓声や盛大な拍手とともに、もはや壁と言っていいほどまでに人が集まっていることにようやく気が付いた。なぜ気づかなかったのかというレベルだが、それほどまでに決闘中は余裕がなかったのである。


『……どうしましょう』

『お前行けよ』

『え、こんなか弱い乙女に放り投げるんですか!』

『か弱い乙女は剣振り回さねぇよ』


 近くに来ていたリンとアイコンタクトで会話(?)をして、問題の擦り付け合いをしていると、人の壁を文字通り飛び越えて救世主が現れた。


「はーい! 終わりだよー!! 散った散った!!」


 立ち上がり声を張り上げたのは一人の女性だった。紺と橙の着物を着流しのようにしていて、凛とした雰囲気が溢れている。彼女が現れたことで周りはより一層ざわめきたった。中には「キター!!」とか「天晴(あっぱ)れ先輩まで出てきた!」とか叫んでいる奴もいて、さっきよりもうるさくなった気がしないでもない。


「リーダー……リーダーが出てきたら余計うるさくなるでしょ……」

「……むぅ、それは考えてなかったよ」


 ふむ、と考え始める着物の少女。黒いポニーテールがゆらゆらと揺れた。さっきまでの凛とした雰囲気は若干鳴りを潜め、その様子は凛々しいと言うよりも可愛らしい。

 リンが「リーダー」と呼んだことから、彼女がリンの所属しているクランの長なのだろう。

 その彼女が、今までの考え込んでいた格好を解き、よし! と顔を上げた。


「逃げるよっ!」

「なんで!?」

「ほらキミも!」

「俺もかよっ! ってうわっ!?」


 俺とリンの腕をつかんで駆け出す少女。

 普通だったら引きずられるのだろうが、これまた莫大な装備の性能差(ゆえ)か、空中を飛ぶように引っ張られていく。ジェットコースターに座席に座らず背もたれに掴まって振り回されてる感覚だ。分かり難いか。

 そのまま「とうっ!」と人混みを飛び越え、着地と同時に走り出す。着地の時に思いっきり地面に叩きつけられたのだが、そこら辺は無視らしい。街中では決闘を除いてダメージは入らないため、痛くはないんだけどさ。

 横を向くとリンは何か悟ったような顔をしていた。ああ、そうですか。

 取りあえずミスりながらもなんとかユキムラと姫様にショートメールを送り、後は身を任せることにした。

 救世主は全然救世主じゃなかった。


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