表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/43

09

 ドォン!! と地響きを残すほどの衝撃とともに、石像は文字通り崩れ落ちた。

 それと同時に、部屋を覆っていた青く波のように揺らめいていた光も消え、何も見えないほどではないが薄暗い広間へと変貌を遂げる。

 いやぁ、何度死ぬかと思ったね。主にふざけ過ぎたせいで。ラグナとは身体の動かし方は同じでも、やっぱり感覚的に動いてるとズレがあるから、華麗に離脱しようとしても身体が追い付かなくて被弾、というパターンが結構多かったのだ。

 このズレの原因は、恐らく平衡感覚を始めとするいくつかの感覚コードの違いだろう。そもそも、ラグナロクなどの旧VRSゲームでは身体の平衡感覚を司るシステムは現実のそれとは違い、身体を動かすと状況に応じた環境情報をVRSが受け取り、そこから逆算して脳に信号を発信する、というものだった。つまり、ダイレクトに情報を受け取れる現実と違ってVRSを間に挟むため、どうしてもラグが発生してしまうのだ。よって、今までのVRゲームでは平衡感覚系のコードは甘く設定されていた。だからこそ現実では出来ないような動きが楽しめるアクション系のゲームが流行ったのだが。

 だが、演算性能が上がり寸分のラグも無く現実の感覚を再現できるようになった今のVRSでは、現実に近づいたことによって逆に出鱈目なアクションはやり辛くなってしまったのだ。正確に言えば、無意識に現実と同じ感覚で身体を動かそうとしてしまうため、自然とセーブがかかってしまうのだ。これは意識したからと言ってどうなるものではない。激しいアクションをするためには、向き不向きと、そういうアクションに慣れているかどうかが重要になる。

 今の俺の場合はラグナロクで無茶苦茶してたから、視点移動などの点については全く問題ないのだが、高所からのジャンプなどでは他の人ほどではないにしろ恐怖やためらいの感情が生まれてしまい、結果身体に指示を出すのが遅れて行動に失敗する、といった形だ。全ての人に言えるのだが、解決するには慣れるしかないのだ。もしくは、この世界がどれだけ現実に近くてもゲームであるということを意識して、出来るだけ現実とは分けて考えて身体を動かすのもいいかもしれない。


「……さて」


 そんなこんなで石像を倒したわけだが、これでクエストクリアになるのか?

 すると、崩れ落ちた石像が青い光に姿を変えていく中、その中からまばゆい輝きを放つ光がふらふらとこちらに向かってくる。

 光は俺の前まで来ると直視できないほどの光を一瞬放ち、2枚のカードへと姿を変えた。

 『蒼海の宝珠』と『ゲートキー』である。

 なぜ鍵がこいつから手に入るのか、とかこの宝珠これで7個目なんだけど、とかは置いといて、これで俺もようやく宇宙へ飛び立てるようになったのだ。


「……お前、スキル構成どうなってんだ?」

「ん?」


気が付くとユキムラが近くにやってきていた。


「何って、ステップと索敵と武器2個」

「……訳分からん。が、まあいいや、取りあえず戻るか」


 よく分からんが、どうやら納得してくれたらしい。

 ちなみに『索敵』というのは、敵の位置が分かったり隠蔽(ハイディング)を見破ったりできるスキルのことだ。

 ホルダーに空きはまだあるし、宝珠を売って新しいスキルでも買おうかな。

 そうして、これからのスキル構成について考えつつも、オーシャンに帰還するのであった。



 ◆ ◆ ◆



「ずるいずるいずるいずるい!! あたしもセンパイと行きたかった!! んでもって敵全部あたしが倒して『俺何しにここに来たんだっけ……』とか言わせたかった!!」

「可愛さが欠片もねぇな」

「てか悪意しかないだろ」


 転送ポートで政務機関に戻ると、そこで待機していたリンと用事で不参加のはずの姫様に捕まった。

 てか何で約束無視したリンが逆ギレしてるんだろう。


「まあまあリンちゃん、これからみんなで行けばいいじゃない」

「そんなんじゃこのイライラは解消されません! こう……センパイを失意の底に沈めるようなことがしたいんです!」

「悪魔か」


 うがーっ! と両手を突き上げて叫ぶリン。いつものやり取りだし、冗談だとは分かるのだがあしらうのが面倒になってくる。

 あーあ、こいつどうしよう「てか何でヒメがいんの? 用事は?」「早めに済んだから来てみたら、入った瞬間にリンちゃんから連絡が来てね?」「……呼び出されたのか」ってそこ、話してないで手伝ってくれない?

 ユキムラと姫様は2人で話してるし、俺は明らかにめんどくさそうな顔をしていたからか、ついに「あーもう!」としびれを切らして声を上げる


「センパイ! 決闘を申し込みますっ!」

「えー」


 決闘ってのは知らないけど、恐らく1対1で戦うシステムのことだろう。

 決闘はいいけど今の時点で俺がリンに勝てるわけないだろ。どんだけ装備に差があると思ってんだよ。

 それとなくリンの装備を確認してみると、上は紺の模様の入った袖無しの赤い着物モドキ、下は膝丈の藍色のズボンで覆っている。肩は露出しており、そこから巫女服の袖みたいなものに続いている。どう見ても日本独自の(オタク)文化でカスタムされたようなふざけた装備だが、少なくともただのパーカー装備である俺よりは格段に凝った意匠の装備である。

 勝機があるとすれば、相変わらず双剣を使っているリンの攻撃を完璧に読み切り、全て躱すしかない。随分と無茶なことだ。


「えー、センパイー。決闘しましょうよー」

「ったく、しょうがねぇな」


 そう言った瞬間、リンは顔をバッと勢いよく上げ、「言いましたね!? 言いましたね!? よーし……」と空中で何やら指を彷徨わせる。

 すると、10秒も掛からずに目の前に『Rinさんから決闘を申し込まれました』というシステムウィンドウが現れる。

 ボコボコにはされたくないなぁ、と後ろ向きに考えながらも『Yes』を選択すると、ウィンドウが消え、俺とリンを囲う様に半透明のパネルのようなものが次々と現れ、正六角形(ヘキサゴン)のパネルは互いに組み合わさって垂直に伸びてゆく。円柱状で、広さは直径10メートルくらいだろうか。

 程なくして、『Set up!!』という表示が紫電とともに2人のちょうど中心くらいに表示される。「準備をしろ」ってことか。

 特に問題ないのでそのまま突っ立っていたが、ふと聞いていないことがあったのを思い出して、フィールドの外にいるユキムラに声をかける。


「なあ、これって負けたらどうなるんだ?」

「どうもなんねぇよ。決闘で使うのは仮のHPみたいなもんで、無くなったからって死ぬわけじゃないんだ」


 だから安心して死んで来い、とカラカラ笑うユキムラ。

 若干選択をミスった気がしてならないが、こうなった以上はやるしかない。それに、トッププレイヤーに今の時点でどこまで対応できるか楽しみな自分もいる。どうやら俺は根っからのゲーマーらしい。

 ただ、流石に勝つのは不可能なので、奥の手たる『機巧剣』は今回は使わないことにする。もう少し性能の良いものを手に入れてからだな、うん。次の機会に不意打ちで確実に仕留めるのだ。

 広いとはいえ流石に政務機関の中だからか、結構なギャラリーが集まってきている。流されるままに決闘を始めようとしているが、邪魔に思われているのかと辺りを見回してみると「『流星』の決闘だってさ!」「相手はその知り合いらしいよ」「ってか『星屑の旅団』の幹部が2人もいるじゃん! 何だここ!」などなど、俺の周囲には有名な奴しかいないらしい。


「てか『流星』ってなに?」

「いやー、『エンヴィア』のボスが流星降らせてくるんですけどね、それを双剣でぶった斬ってそのまま倒したんですよ。そしたら『まるで夜空に瞬く流星のようにどうのこうの』ってことで、そう呼ばれるように……」


 随分とまあ目茶苦茶やってるようで。


「さて、センパイ! 行きますよっ!」

「おっと……あいよ」


 見れば、いつの間にか始まっていたカウントダウンが終わりを告げていて、『Ready?』の文字が現れていた。

 鞘からシャランッ、と双剣を抜き放ち構えたリンに対して、俺も肩に乗せていた両手棍をくるくると手元で遊ばせつつも身体の前に持ってくる。

 そして。

 張り詰めるほど緊迫した数瞬を経て、『GO!!!』の文字が現れるとともに、俺たちは同時に前へと飛び出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ