04 夢(壱)
誰だろう? ベッドで寝ている俺を取り囲んでいる彼女らは。何だか急に目が覚めたけど、誰かが起こしてくれた訳ではなさそうだし、携帯のアラームも鳴っていない。そうだ、今何時? 携帯を探して枕の周りを探ってみた。普段はアラームで起きるため、携帯さんには寝ている間、枕元に常駐してもらっている。探している内に俺は自分の手を見て驚きの声を上げてしまった。『さき』の身体ではない。てかこれ、俺の身体だ。『さき』はこんなに手がでかくないし、毛深くないし……いや、俺もそこまで毛深くはないけど、ほら、『さき』の腕はツルッツルだったから。
結局携帯は見つけることが出来なかった。というより、探す必要がなくなった。暗い、否、真っ黒?な部屋に俺はいたから。この部屋に見覚えは無い。てゆーか、何も見えない。なのに自分の身体は明かり無しでも見えるし、周囲の女の子達も暗闇の中で可視領域にいる。こんなの、夢じゃないわけがない。俺は純の部屋のベッドで寝ていた筈だし、もし昨日の出来事が全て夢だったとしたなら、自分のベッドで寝ていないのはおかしいじゃないか。家にある俺のベッドは二段ベッドで何もかも木製だから、こんなにふかふかしてない。このまま目を瞑ってしまいたい気持ちもあったが、そういう状況でもないのかな、これは。
俺を取り囲んでいる女の子達は皆一様に俺を見つめ、ただただ静かに佇んでいる。幼稚園児くらいの髪の長い双子の幼女。中学生っぽいセーラー服の女の子(見たことある制服だな)。見た目は小学生並みに小さいが、その佇まいから俺と同世代かそれ以上と思われる女性。二人は無表情、双子の片方がウズウズ?な感じでこちらを見ている。もう片方の幼女はブスッとして機嫌悪そうだな。
……もう完全に意味不明だけど、どうしましょう?
双子の片方は最早抑えきれない様子で、突然ベッドに横になったままの俺に飛びついて来た。勢いで頭が俺の顎にぶつかり、でも衝撃はあったけどそんなには痛くなかった。幼女の方は中々に痛かったようで、おでこを押さえて少し涙目だが無理矢理笑顔を見せた。そして俺のお腹の辺りにガシッと力強く抱き着き、とても幸せそうな表情でそのまま寝息をたて始めてしまった。その様子を見てさらに機嫌を悪くするもう片方の幼女。……なんなんだ?
全くついていけてないまま、眠っている幼女の頭をなんとなく撫でている俺の様子に、小さい方の女性が苦笑しながら話しかけて来た。
ちびっ娘
「その子、ずっと貴方が来るのを待っていたのよ」
そんなことを言うちびっ娘。声からしてもやっぱり同世代っぽい。こういう人ほど『小さい』とかそういう言葉に反応すると思うからなー。俺ってうっかり口滑らせる性格してるっぽいし。いや、違うな、空気を読めてないってのが正解かな? しかし、俺を待ってたってのはまた意味がわからん。首を傾げるしかすることがねえや。
ちびっ娘
「その内解るから。今日はもうお仕舞い」
肩に掛かった髪を後ろに払いながら控えめに笑う。婉美な仕草とその上品な笑顔、そしてコンパクトな可愛らしい体格にノックアウト寸前だった俺は、言われた言葉の意味を図りかね、俺の腹に抱き付いて眠る幼女を見ると急に眠気に襲われた。……まぁいいや。どうせ夢だろうし。考えるのもめんどくさい。
さて、朝起きたらこの身体は男と女の、どちらであるだろう? ぶっちゃけどっちでもいい。男なら起きて風呂に入って飯食ってそのままバイトに行くだけだ。何もおかしいところはない、普遍的なストレスまみれの日常。女なら……常に不安感つきまとう非日常。しかし、それは新たな世界の始まりであり、実は希望に満ち満ちた素晴らしい世界への扉なのかもしれない。一々悲観的ではいけない。なってしまったものはしょうがないと早めに割り切ってしまい、その状況を楽しんでしまえば何処にも問題など発生し得ないのだから。