【習 作】 衣の重さ
・テーマ/静寂
・禁則事項/一人称と三人称の使用禁止
ここはアナタの罪を計る場所です。
アナタがどの様な罪を犯したかを克明に調べる場所です。
アナタの纏う衣服をこの木に掛けて、アナタの罪や業を計ります。
今しがた渡ってきたばかりの川は荒れに荒れて波を幾度と被り、水に濡れて重くなった衣服で罪を計るとは理不尽だとアナタは訴えました。
では濡れた服のかわりにアナタの生皮を剥いで計りましょうと言われ、その恐ろしさに結局は濡れた衣服で罪を計る事にアナタは承服せざるを得ない。
濡れた服を一枚、そしてまた一枚と掛けられる様子を、アナタは戦々恐々としながら見ている。
なぜなら、衣服を掛けられた枝の垂れ下がった度合いで、これからアナタが向かう場所を決められてしまうから。
濡れた一枚の衣服で垂れ下がった枝は、生き物の命を奪ったとアナタを糾弾しますが、アナタは殺した虫は害虫であり止むを得なかったのだと訴えます。
しかし、止むを得ずの殺生でも懺悔は疎か、嬉々として殺生した事もあると枝に告げられ、心当たりのあるアナタは黙ってしまう。
幼き頃、好奇心ゆえの残酷さで虫を殺していたのは確かであったから。
二枚目に掛けられた衣服で更に垂れ下がった枝は、脅えるアナタに盗みを繰り返したと罪を露にします。
仕事にもありつけず食うに困っていたからとアナタは必死に弁明しますが、食うに困っていなくとも悪戯に万引きを繰り返していたと告げられ、再びアナタは黙ってしまう。
三枚目の衣服を掛けられ更に下がった枝はアナタがいかに淫らな行いを繰り返し楽しんでいたのかを知らしめます。
みんながしていた事だからとアナタは言い返しますが、四枚目の衣服を掛けられ垂れ下がった枝は、酒に毒を混ぜて悪戯に人を惑わせた事を暴いてしまう。
そして、最後の衣服を掛けられましたが、アナタは項垂れてその様子を見る事ができません。
どう言い訳しようともその弁解が通らないから。
訴える情状が薄っぺらな事をアナタは理解しているから。
だから、もう垂れ下がる枝を見る事が出来なくなってしまった。
枝はアナタの悪意ある嘘で争いが起きた事、アナタの悪意ある嘘で死を選んだ人がいる事を曝け出しますが、アナタはその事実を得意な嘘を以て否定する事はできませんでした。
なぜなら。
今アナタがこの場所にいるのは、アナタのついた嘘によって傷ついた人が、恨んで復讐を果たすべくアナタを殺したから。
アナタの罪は計られた。
アナタがこれから向かう場所は、大叫喚という場所。
熱湯滾る大釜や猛火の鉄室に入れられて、叫び喚きながら852兆6400億年という時間をアナタはこの場所で過ごす事になる。