腕相撲
アームレスリングを知っているだろうか。そう、腕相撲である。
ボクはガリガリなので、ガリと呼ばれるほどに貧弱だ。
何が切っ掛けだったのか、ボクのクラスは今アームレスリングが流行っている。
男子最弱の冠はボクから退く気配を見せない。ゆいつ勝てたのは女子最弱と言われる女の子ただ一人。
そして、クラスの勝者は男子ではなく女子だ。
常に勝者である彼女は武道を習っているようだが、太っているわけでもないし、筋肉質なわけでもない。服の下までは分からないけれど、他のクラスメートと変わらない普通の女子に見える。
だけど、腕相撲が強い。
負けず嫌いな男子が昼休みに挑んでは、ちょっとだけ挑発的で楽しげな笑顔を見せる。
その笑顔を見るたびに、ボクはなんとなく心臓の奥がくすぐったい気分になるのだ。
今日も今日とて昼休みには彼女の前に男女問わず列ができ、腕相撲に挑戦している。もちろん、勝てるとは思っていないがボクも並び、そして今日も負けてしまう。
いったい、どんなコツがあって彼女はいつも勝っているんだろうか。
そして、思う。
ガリのボクが一回だけでも良いから彼女に勝ってみたい。もしボクが勝ったら、ボクを見る彼女の眼差しが少し変わるかもしれない。――なんて、期待と不安な気持ちでいるからいつも勝てるチャンスさえ無いのかも。
勝負の前まで彼女は朗らかに笑っているけれど、いざ勝負になれば真剣な眼差しで見つめてくる。
その集中力がいつも凄いなって、感心した途端に負けているわけだけど。
そんなある日、雨の降る放課後で教室に残っていた彼女と出くわした。
通り雨のようだったけど勢いは激しく、今帰れば下着までびしょ濡れになること間違いないと思う雨だった。
傘を忘れた彼女は雨の様子を見ながら雨宿りをしていたらしい。
ならばと、ボク達は雨が止むまで腕相撲で時間を潰した。どうすれば勝てるのか、コツは何なのか、先生の話、クラスメートの話、家族の話、趣味の話。そんな話を交えながら腕相撲を繰り返す。
やがて雨が止み、ボクらは普段通りにただのクラスメートとしてさよならを交わし帰宅した。
それ以降、ときおり人気の少ない放課後に顔を合わすと腕相撲をする機会が増えた。
冷やかされないように、ちょっとだけクラスメートの目を意識したりして、教室に人が残っていれば晴れの日は校庭にある水飲み場であったり、雨の日には図書室であったりと。
やはりボクは相変らず負け続けで、のんびりな性格だと言われるボクでもさすがに悔しい気分になってくる。
一回くらい。一回だけで良い。彼女に勝ってみたい。
彼女の、その集中力を乱してみたい。
ちょっとした負けん気と悪戯心。
腕相撲のお陰でボクらのクラスは誰かしらと手を握っている。手を握ったことのないクラスメートなどいない。
今が二人っきりなのだとしても、彼女はボクを意識することもためらいもなく掌を触れ合わせてくる。
だからボクは、重ねた掌をずらして彼女の指と組み合わせた。彼女の片手を借りて祈るように。
「え?」
彼女の戸惑った、驚いた表情って珍しい。
「これって恋人繋ぎ――だよね」
「えっ?!」
目を見開きほんのりと頬が赤らむ彼女に、卑怯なボクはその日初めて勝ったわけである。
その後、彼女には詰られ怒られ剥れられと散々だったりもしたけれど、今では指を絡ませながら一緒に帰宅しているから結果オーライかなって思っている。
Twitter診断メーカーより
3つの恋のお題:
重ねた手のひら/晴れの日も雨の日も/これって恋人繋ぎってやつ?