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第8話 忠

(ここは?)

 気が付くと、見た事もない場所に立っていた。全面石でできた小さな部屋。そこには手錠や鎖などの拘束具や、斧や鞭などが置いてあった。

「貴様! よくも!」

 と、男の声が響いてきた。ノワエは声の聞こえるほう――後ろへと振り返る。白銀の甲冑の男が斬首台に捕らえられたまま叫んでいたのだ。

 数人の兵士と見られる人達は黙ってそれを見ているだけであった。

(僕の姿は見えていないようですね)

「大臣! この部屋で女性を誘拐し、暴行を加え――そして残虐に殺した!」

 大臣と呼ばれた男はそこで動きを止め、甲冑の男へと振り返る。今まで誰かををめった刺しにしていたのだ。服装からして王様だと考えられる。

(ど、どういうことですかこれはっ!?)

 ノワエは慌てて周りを見渡した。首を切られそうな甲冑の男、めった刺しにされた王様。棘だらけの像から体を半分出している血まみれの女王。柱に縛られた美女。それを取り囲む男達。そして、明らかに目の焦点があっていない中年の男――それを見てようやくこの異常な雰囲気を理解した。ここは拷問部屋だ。壁や、鎖、斧などに血の跡が赤黒く生々しく残っている。


「それがなんだよ。悪い事か? そうだとしても、もう王もいない。この国は俺のものだ。誰も俺を咎めるものはいなくなる」

 大臣はカラカラと乾いた笑いを浮かべる。

「俺に忠誠を誓えば命だけは助けてやってもいいぜ」

「ふざけるな! 俺は王だけに忠誠を誓った!」

「違うだろ? 姫にだろ」

 そう言うと、大臣は柱に縛られた美女へと近づく。

「姫に触れるな!」

 甲冑の男は今まで以上に大きな声で叫ぶ。

「やっぱりできていたか。だが、お前らは決して結ばれぬ運命。安心しろ、姫は俺の妃になるんだ。俺がお前の代わりに幸せにしてやる」

 そしていやらしい手つきで姫の体に触れる。

「あなたの妃なんかなるものですかっ!」

 姫はキッと大臣を睨んだ。

「おぉ怖い怖い。だがいつまでこうしていられるかな。」

「きゃああっ!?」

 大臣はそう言うと姫の服を乱暴に破きはじめた。


「やめろおおおおっ!」

「冥土の土産だ、よく見てろよ」

 甲冑の男は唇を噛んだ。そして唇から血が溢れる。触れたかったあの白い肌が、今汚されようとしているのだ。狂った男によって。

(力を、誰か!)

 男は祈るしかできなかった。


(さよなら)

 姫の唇がそう動いた瞬間。彼女の体から力が抜け、口から血が流れた。

「お、おい! この女! 自分の舌を噛み千切りやがった!」

 大臣はそう叫ぶと持っていた剣で彼女を切り始めた。

「ふざけるな! 勝手に死にやがって! ふざけるなああああっ!」

 男はまるでおもちゃを奪われた子供のように暴れはじめた。そして、ひとしきり暴れ終わると静かに言った。

「もういい。お前は死ね」

(どうか! 姫の無念を晴らすだけの力を! 地獄に落ちても、悪魔になっても構わない!)

 男が願うと同時に、刃が落ちた。


(うっ)

 ノワエは思わず顔を背ける。男の首はあっさりと胴から切り離されてしまった。

「さぁて。お前達、こうなりたくなかったら――分かってるんだろうな」

 そして甲冑の男へ背を向け、兵士達を睨み付けた。


『う、うわあああっ!?』

 兵士達は突然、真っ青な顔をして声をあげた。

「なんだよ。俺にビビっちゃったの? ん?」

 背後からきしむ音が聞こえ、大臣は振り返る。

「うわああああああっ!?」

 そして大声をあげた。首のない甲冑が動き出したからだ。白銀の甲冑はみるみるうちに黒く染まっていく。そして落ちていた剣を拾う。拾った剣までもが黒く染まっていった。

「た、たしゅけ――」

 大臣の声を最後まで聞くことなく剣は彼の頭上から振り下ろされた。

『あああああああああああああ!!!』

 そして、漆黒の甲冑は次々と兵士たちに切りかかった。


(なるほど。これが真実ってワケですか)

 パニックになる拷問部屋の中、ノワエは切り落とされた頭に声をかけた。

「力が欲しかった。だが、もう人は殺したくない……でも楽しい。人を斬るのは楽しい……」

 頭はそう呟きながら涙を流したり笑ったりを繰り返し、ようやく力尽きた。


(人を殺すことに快楽を覚えた魔物が僕を殺さないのはおかしいと思ったんですが。どうやら葛藤があったんですね。しかし我慢は限界を超えた。ここは僕を殺すにはうってつけの場所というわけですね。ここなら師匠も手は出せませんし)

 気が付くと騒ぎは収まっていた。血の海に浮かぶ死体。そして漆黒の甲冑はノワエを見つめていた。そしてゆっくりとこちらへ歩いてくる。


「誤解していたようですね。誇り高き騎士よ」

 ノワエも刀を抜く。

「完全に魔に落ちたわけでもない。ならばっ!」

 そして二人は駆けだす。


「思い出せ! 忠誠心を! 本当に守るべきものを!」

 刃が激しくぶつかった――




「師匠! ノワエはっ!?」

「ぐううっ」

 炎に遮られ、ジャッキーはもちろん生徒達も慌てていた。

「見て! 炎が!」

 一人の生徒が指差す。炎が収まっていくのがはっきりと分かった。

「あっ!」

 炎が収まると、ノワエの姿が見えた。彼の前には漆黒の騎士が跪いている。


「あなたが仕えるほどの器ではないときは僕の魂を煮るなり焼くなり好きにどうぞ。」

 ノワエは1枚の紙を騎士へ差し出す。騎士はその紙の中へ吸い込まれるように消えていった。紙には魔方陣のようなものが刻まれていた。


「あぁ、皆さん。ご心配をおかけし――」

「ノワエっ!」

 ジャッキー達の方へ歩き出したノワエが突然倒れた。慌てて皆は駆け寄る。


「ノワエー!」

「うわ~んノワエ~死んじゃいやだ~!」

「馬鹿な事言うなよ!」

「おいノワエ起きろ!」

 生徒達は次々と大声で叫ぶ。


「おい、耳澄ましてみろ」

「え?」

 一人の生徒の声にみんなが静かになる。



「寝てる…………」

 ノワエは満足そうな表情を浮かべ、眠っていた。




「――と、事があったんですよ」

 歩き続けながら、ノワエはそう言った。

「へぇ。でも意外です。ノワエ先生が苦労しただなんて」

「そうですか?」

「だって、先生なんでもできちゃうじゃないですか。自信たっぷりで」

「そんなことないですよ。実は影で色々やってるんです」

 ノワエは小さな声で答える。

「本当ですか?」

「そうですよ。最初の頃はおちこぼれだったんですから」

「えぇっ!?」

 ルーメは驚きの声をあげた。

「自信たっぷりに見えるものそう見せてるだけです。自分はできる。そう思い込むだけで力が出せるんです」

「みんなが知ったら驚くと思いますよ」

「あんまり頑張ってるのは見せたくないんです。これも内密に」

「はいっ」

「あ、見えてきましたよ」


 ようやく『心』の本部の館へ到着した。

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