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第7話 召

「暴れるなら冥界でお願いしますよ。まったく」

 動き回ったノワエは息一つ乱さずそう言うと、刀を収めた。

「せ、先生っ」

「ルーメちゃん大丈夫ですか?」

「えぇ。でも先生、どうして『然』の力を?」

「いろいろありましてね。あっ僕の力の事は内密に。その、僕をこの国から追い出したいのでしたら別に――」

「ま、まさか! 言いません! 私絶対誰にも言いません!」

 ルーメはノワエの言葉を遮るように強くそう言った。

「いいんですか? 国王の力になりたいんじゃ?」

「それとこれとは別です。先生と私、二人だけの秘密ですね」

 ノワエに憧れるルーメはそれだけでノワエに少し近づけたような気がしてなんだか嬉しかったのだ。

「そうしていただけるとありがたいです」


「それにしてもすごいですね。これが魔物の召喚――」

 ルーメはこちらに寄ってきた黒い馬に手を伸ばそうとした。

「怖くないんですか?」

「え? えぇ、最初はびっくりしましたけど。でも、悪い感じというか嫌な感じはぜんぜんしないんです。ほら」

 そう言ってルーメは馬の首をなでる。炎の鬣は全く熱くなく、むしろ暖かさを感じる気がした。


「っ!? こ、これ……は?」

「ルーメちゃん!?」

 ルーメは突然涙を流しはじめる。

「そう、そうだったのね」

 彼女はそう呟くと馬から手を離し、漆黒の甲冑に触れた。すると漆黒の馬と漆黒の甲冑は突如地中に現れた魔法陣へと消えて行った。


「すごいですねルーメちゃん」

「え?」

「彼の全てが見えたんですね。生前、そして死を迎える直前に何があったのか。どうして冥界の魔物へとなってしまったのか」

「はいっ」

「それじゃあ少しお話しましょうかねぇ。心に着くまでにはまだ距離がありますし。」

「お話ですか?」

「えぇ。漆黒の騎士――彼は、僕が師匠の書斎で見つけた資料に書いてあった魔物なんです。『陰』では召喚魔と呼ばれる魔物と戦い、仲間にして卒業が決定するんですが――――」

 ノワエは少し懐かしさを思い出しながら語り始めた。



「師匠! 卒業試験の召喚魔が決まりました!」

 テストの採点をしていたジャッキーの元にノワエがやってきた。

「ほほぅ。お前ほどの力の持ち主ならある程度の魔物は簡単に力になってくれると思うが」

「これです!」

 ノワエはとある本を指差しながら続ける。

「漆黒の騎士――ただただ人を殺すことだけに快楽を求めていた人間が堕ちた魔物、これにします」

「そうかそ――ん!? 漆黒の騎士だと!?」

 ジャッキーは思わず声を上げた。

「はい」

 ノワエは至って冷静に答える。

「駄目だ。いくらお前でも危険すぎる!」

「師匠、僕には力が必要なんです」

「それは分かっておる。だがここで命を落としては――」

「何で僕が死ぬ前提なんですか。」

「す、すまぬ。だがそれほどまでにこの魔物は危なすぎるということだ。」

「この程度何とかできなければ意味がありません」

「――――わかった」

 ノワエの強い決意にジャッキーは折れたようだ。

「だが、心してかかれよ」

「言われなくても。では明日」



「全ての恨み、悲しみ、苦しみ――貴殿の思い、この現世に再び蘇れ!」

 ジャッキーや生徒達が見守る中、ノワエの声と共に魔方陣から漆黒の馬に乗った漆黒の騎士が現れた。

「さぁ。僕の召喚魔になってもらいますよ」

 ノワエがそう言うと刀を持った武士の形をした式神が3体前に出る。

「いけっ!」

 そして式神がノワエの声に答えるように漆黒の騎士へと向かう。すると、漆黒の騎士の甲冑がきしむような音を立てはじめる。そして、漆黒の剣をなぎ払うように振るうと――

「うわあああっ!?」

 衝撃波が走り、式神は一瞬にして消え去る。そして威力は全く衰えることなくノワエまでも飲み込んだ。


「…………はっ!?」 

 ノワエは飛び起き辺りを見回す。

「目覚めたか」

 ジャッキーが声をかけてきた。どうやら彼がノワエをここに運んだようだ。

「僕は一体?」

 体中が痛み、軽いめまいに襲われる。そんな中、記憶を手繰り寄せた。衝撃波に備え、結界を張ったはずだった。しかしそこからの記憶がない。

「結界はあっさり壊れ、お前は衝撃波に飲まれ気を失った。そして甲冑の騎士は魔法陣へと消えていったんだ」

 ノワエの考えを読んだのか、ジャッキーがそう言った。

「あっさり負けちゃったんですね僕」

 そう呟くと、ノワエは再び布団に寝転がる。

「結界が間に合わなければ体の一部は吹き飛んでいた。これぐらいの怪我ですんだのが奇跡だ」

「しばらく戦いは無理そうですね」

「まさかお前」

「えぇ。リベンジですよ」

 嫌な予感が当たり、ジャッキーは呆れた顔をした。

「よせ。あれほどの召喚魔でなくても強いのはまだたくさんいる」

「でも僕は――」

「わかったわかった。お前はこうなると手が付けられん! とにかくしばらくは安静だ」

 ジャッキーはそう言うと部屋を後にした。


 そして3ヶ月ほど、2週間に1度は戦いあっさり返り討ちにあう。という日々が続いた。


「そろそろ諦めたらどうだ」

「嫌です」

「お前は本当に負けず嫌いだな。だったらもう少し休んだらどうだ。2週間ごとでなくてもよかろう。お前はまだ卒業期限まで時間がありすぎる。その間に修行を積んでだな――」

「僕には時間がないんです」

「だが、今の状況はどうだ? 3ヶ月、何も変わっておらん」

「…………」

 ジャッキーの言葉にノワエは考え込んだ。


「分かりました。1ヶ月後、これを最後にします。これでダメでしたら別の召喚魔を考えます」

「そうかそうか。」

 嬉しそうにジャッキーは頷く。

「諦めてるわけじゃありません。勝てる確信があるからそう言ってるんですよ、師匠」

 ノワエは何処からその自信が沸いてくるのか、そう言い切った。



――そして1ヶ月後。



 再び召喚される漆黒の騎士。

「いつもすみませんね。でも今日で最後です」

 漆黒の騎士は奇妙な音を立て動き出す。

「ん?」

 いつもと違う様子にノワエは戸惑う。甲冑のギシギシときしむ音がどんどん大きくなり、そして甲冑はこちらへと手をかざす。

「!!!」

 漆黒の騎士からノワエの足元へとものすごい速さで影が伸びた。ノワエは身動き一つ取れず、影に捕まってしまう。

「なんだ? うわっ!?」

 突然足元がぬかるみ、体が沈みはじめた。

「ノワエ!」

 ジャッキーは慌てて駆けだしたが、突然炎が地面から吹きだし、行く手を遮られてしまった。炎はノワエと漆黒の騎士を囲むようにして吹き上がっているようだ。


「師匠!? うぐぐぅ」

 あっという間にノワエは地面へと沈んでいった。

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