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第5話 昔

「――い!」

「ん?」

「待ってください!」

 ルーメが振り向くと――

「はぁ。追いついた」

 ノワエが息を切らせ走ってきた。


「ノ、ノワエ先生?」

「『心』に行くんでしょう? 僕も用があるのでご一緒しましょう。最近は魔物がうろついていて危険ですし」

「でもっ」

「親切は素直に受け取ったほうがいいですよ。さて行きましょう」

「は、はいっ」

 ルーメはすっかりノワエのペースに巻き込まれてしまった。


「いいんですか? 明日は王様を送る大事な日じゃ」

「そうでしたねぇ」

「準備とかあるんじゃないですか?」

「いいんですよ、若い者達に任せておけば。あ、そうだソムニーにちょっと帰りが遅くなるって伝えてもらえませんか? 使えるんですよね。双子特有の能力、テレパス」

「え、えぇ。分かりました」

 そういうとルーメは足を止め、目を閉じ意識を集中し始める。


(お兄ちゃん? 聞こえる?)

(なんだよルーメ! 今忙しいんだよ! あ、待てその荷物はそっちじゃない!)

 妹の心の声が通じソムニーの声が聞こえてきた。

 もともとあまりテレパスが得意ではないソムニー。忙しいせいもあって余計に混乱している様子だ。

(ノワエ先生と『心』に行くことになったの。だから先生、帰りが遅くなるって)

(あ~! そこぶつかる! 分かったから切るぞ!)

「あっもう」

 突然通信を切られ呆れたルーメが目を開く。


「で、どうでした?」

「すっごい忙しいみたいです」

「でしょうねぇ。じゃあさっさと用事を済ませましょう」

 そう言うと二人は再び歩き始めた。


「ルーメちゃんは今、第11年生でしたっけ」

「はい」

「勉強は順調ですか?」

「ついていくので精一杯です」

「ルーメちゃんはもっと自信を持ってください。そうすればあっという間に卒業できますよ」

「でも私、いつもマグヌス先生に怒られてばかりで……あと1年半でちゃんと全て学びきれるかどうか」


 6歳になった子供達は厳しい試験を受け、合格した者だけがマナの祝福になることができる。そして12年という長い月日をかけ卒業するのだ。もちろん飛び級や留年もある。入学して12年で卒業試験に受からなければ退学となってしまう。


「卒業後はどうするんですか?」

「お世話になった王様にお仕えするつもりでした。でも王様が亡くなられて――王様は何故お亡くなりになったんでしょう?」

 ルーメは突然声のトーンを下げるとそう呟いた。

「さぁ? 急死だったらしいですけど。どっか悪かったんですかねぇ? それとも行方不明の王子が帰ってきて安心したんでしょうか」

 今日のニュースの内容を思い出しながらノワエは適当な返答をした。


「きっと――王子が殺したんですよ」

「へ?」

 ルーメの言葉にノワエは思わず声を上げる。


「だって、私の両親を殺したのも――私達家族をめちゃくちゃにしたのはあの王子だから! ……あっ」

 そう言ってから自分の声の大きさにルーメははっとしたようだ。


「王子が?」

「先生は知らないですよね。私達の家族の事」

「ざっくりとなら師匠とソムニーから聞いています。確か今から12年ほど前ですか? 君達が5歳になったある日ですよね」

「そうです――」

 そう言うとルーメはポツリポツリと語り始めた。




 平凡な何でも屋の『陰』使い大輔=緤係せつけいと優秀な『然』の風使い、ナチュラ=アウラ。二人は大恋愛の末結婚したが、なかなか子供に恵まれなかった。しかし数年後、ようやく子供を授かったのだが――


「な、なんてことだ……。」

 子供を取り上げた医者は驚いた。男と女の双子だったからだ。

「女児は殺さなければ!」

「お願いします、殺さないで……」

 動揺する医者に出産まもないナチュラは震える声で言う。

「ですが……」

「俺からもお願いします! やっと俺達のところに来た子供なんです!」

「…………」

 大輔の熱意におされ女児を手にしたまま惑う医者。

「もしこの娘が悪魔になってしまったらその時は――その時は私がこの娘を殺します。ですから!」

「おい! 早く湯に!」

 ナチュラの強い言葉に医者は覚悟を決めたようだ。

「は、はい!」

 助産師は女児を受け取り産湯へと浸からせた。


「せ、先生……」

「私もね。馬鹿馬鹿しいと思っていたんですよ。長年、何度も何度も子供を取り上げてきました。男女の双子を取り上げた事はそりゃ何度かありますよ。その度に私や、取り乱した父や母が女児をその手でなんて事もありました。子供ができると言うことは奇跡なんです。マナの力でもなんでもない。それにこんなに可愛い子供が一体どうして悪魔になんてなるのでしょう」

 医者は手を洗いながらそう呟いた。


「大輔! 生まれたのか!」

「あんれまぁ!」

「おい! どういうつもりだ!」

 赤ちゃんの産声を聞いて近所の人たちが集まりにわかに騒がしくなる。

「みんな静かにしてくれ! そして許してくれ。もちろん国に逆らう事だってわかってる! でも――でも二人とも俺達にとってもうかけがえのない存在なんだ」

「けど! この娘はやがて……」

「悪魔になんかするもんか! 絶対にするもんか!」

「…………」

 大輔の声に集まった人たちは思わず黙り込む。

「もしものときは俺がこの娘を殺す。それでもと言うなら俺はすぐにこの国を出る」

「だ、大輔、本気なのか?」

「あぁ、ナチュラもそのつもりだ」

「この国から出るなんて自殺行為だ。お、俺は何も見てねぇ。な!」

「お、おう! 可愛い子だ! ナチュラさんにそっくりじゃねぇか! なぁ!」

「大輔、本当にお前さんの子供なのかよ。可愛すぎるだろ」

「そうじゃ、もう国に振り回されるのはごめんじゃ」

「みんな……」

 大輔は思わず涙ぐんだ。



「――――私たちは皆に見守られて大きくなりました。でも嘘をつくには限界があった。だから私たちが5歳になった頃、国を出る事にしたんです。」

「ですが、国を出るのは」

「そう。無理でした。やっぱり」

 ルーメは苦笑いをした。

「すぐに兵に見つかって、王様の前に私達は連れて行かれました。みんなの話を聞いて、私の中に悪魔がいる。私は殺されるってなんとなく分かったんです。そしたら怖くて怖くて。怖さのあまり何も聞こえなくなって……。震えていたら血まみれのお父さんが私の手を握ったんです。その時、はっと我に返ったんです。お父さんは『ルーメは悪魔なんかじゃない。俺はお前がいて本当に幸せだった』そう言って倒れました。その向こうに王子がいて――血の付いた剣を持って――――」

 そこでノワエは彼女の頭をなでた。

「いいんです、これ以上は」

「ごめんなさい」

 ルーメは涙が出そうな目をこすりながら言った。


「なるほど、それが君の知る真実ですか」

「それから私たち家族は王様のお世話になりました。でもよく覚えていないんです。でも1年もしないうちにお城で大きな爆発があって、その混乱に乗じて王子はお母さんを殺して逃げちゃったんです」

「何で王子は君の母親を?」

「わかりません。自分の身の回りの世話をさせていたみたいですけど」

「まぁ話を聞く限り王子はヤバい奴って事ですかねぇ。そんな王子が戻ってきた。とたんに王が死んだ。そりゃ考えてみればそうなりますね。」

「先生は私の話、信じてくれるんですか?」

「僕は王子の事はよく知りませんからね。僕が来たときすでにいませんでしたし。噂しか聞いたことありませんが、基本的には――」

 そこで突然、ノワエは足を止める。


「先生?」

「下がって」

「え?」

 険しい表情を浮かべるノワエ。彼はある一点を見つめていた。何の変哲もない草むらを。


「言葉が通じるとは思っていませんが、出てきたらどうです」

『グルルルル』

 ノワエの言葉に草むらから大人ほどの大きさはある獣のような生き物が姿を現した。


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