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第15話 偽

「遅かったか……」

 ノワエは思わず呟いた。倒れている生徒が数名、そして割れた壷の破片を見て、すべてを把握した。

「大丈夫ですか?」

 近くにいた生徒に声をかけるが返事がない。肩を揺すってみるが反応もない。なにやら悪夢にうなされているようだ。生徒達から事情を聞くのをあきらめたノワエは回りの様子を観察し始めた。

(なるほど、水・雷・火・風・土。すべての力で封印していたんですね。これなら相当な能力者を数人集めなければ不可能ですね。封印を解いたのは生徒達? しかし彼らに力があるとは――)

 と、ノワエは足を止めた。見覚えのある生徒がいたからだ。

(彼女はフィービー? 確か合同授業のときソムニーがよくちょっかい出してましたっけ。彼女の力は相当でしたね。雷を専攻していて主席だったとか。でも封印を解くまでは――いや)

 ノワエの頭に嫌な想像が膨らんでいく。否定してもそれはどんどんはっきりと形を表す。


「『心』の力。能力を極限まで引き出すことが出来る力。相手の心を読み、操ることさえ出来てしまう恐ろしい力。『心』は使い方一つで相手を生かすことも殺すこともできる恐ろしい力なのじゃ」


 グランド・マザーの言葉が脳裏をよぎった。

(つまり生徒たちは操られていたのか。マグヌス氏と同じように。そして優秀な生徒達の力を極限、いや、限界を超えるまで引き出し封印を解いた――)

 ノワエは頭を抱える。

(500年前の悪夢が完全によみがえった。しかし、封印を解いてもすぐに動き出さないのは何故だ? ヤツは今何処に――)

 そこで彼は頭を上げる。脳裏によぎったのは王子と黒ずくめの男。

(やはり早いうちにニセ王子に手を打っておくべきでしたね)

 ノワエは唇を噛むが、後悔してももう遅い。次の手をすぐに考える。

(ヤツは恐らく明日の王就任式でやらかすつもりでしょう。そこでこの国の支配と破壊を宣言する。ヤツが本性を現す前に手を打たねば)

 意を決するとノワエは他の『然』の教師を呼んだ。倒れている生徒の手当てを頼むとすぐに『陰』へと戻った。



「師匠!」

「ソムニー、ルーメちゃんは?」

「寝てるよ」

「服は同じようなサイズのを適当に着せておきました」

 奥からヘレナが現れた。

「ヘレナ、起きていたんですか?」

「みんな起きています。二人が血相変えて出ていっちゃったんで心配で」

「そうですか。すみませんね。皆さんそろっているなら少し話をしましょう。大事な話です。生徒を本堂に集めてもらえますか?」

「はい」

 ヘレナは返事をすると奥へと消えていった。

「先生、俺――」

「ソムニー、一つ聞きたいんですが封印の壷を壊したのはいつですか?」

「え? えっと――確か結構前だったよな」

「もしかして、王子が帰ってくる前の日とかでは?」

「あ、そうだ。確か王子が戻ってくる2~3日前だったはず」

「そうですか。僕の仮定はどうやら決定のようですね」

「え?」

「とりあえず君も本堂へ」

「あ、はい」


 全員が本堂へと集まった。ノワエは深呼吸をするとゆっくり口を開く。

「『心』の封印が解かれたのは知ってますね。実は『陰』『然』二つの封印も解かれてしまいました」

『ええええええ!?』

 生徒たちが大声を上げる。

「なんで、一体どうして?」

「俺たちどうなっちゃうんだ」

「もうおしまいだ……」

「静かに。動揺するのもわかりますが」

 ノワエが生徒たちを静める。

「ですが、その悪夢はいまだに行動を起こしてきていません。おそらくある時に向けて、この国で同じように生活しているはずです」

「あ、ある時?」

「えぇ。明日の王就任式に何かしらがあると思われます」

「ど、どうして」

「それは、悪夢は王子だからですよ」

『えええ!?』

「『陰』の封印が解かれた後、王子と名乗る男が現れました。そして王が急死した。おそらく彼に殺されたんでしょう。王となり、この国を壊す算段が取れた。後は力を取り戻すだけ。そしてグランド・マザー様に封印を解かせ殺した」

「そ、そんなに前にここの封印が解かれていたんですか?」

「一体誰が!」

「それはっ――」

「その話は後でゆっくりしましょう。今は時間がありません」

 ソムニーを遮るようにノワエがそう言った。

「そして先ほど、マグヌス氏に会いました。どうやら王子がやってきてなにやら事を起こしたようです。どうやら『然』の生徒たちを巻き込んで封印を解いたようです」

「そんな……」

「でもなんか王子が悪夢だって聞いて納得している自分がいます」

 ヘレナがぽつりと呟く。

「あ、俺も」

「やっぱり? なんか違和感あったんだよね」

 他の生徒も口を開いた。

「どういうことですか?」

「先生は王子を知らないんですよね。王子は王と違ってこの国のあちらこちらに顔を出して、私たちに声をかけてくれていたそうです。一緒に遊んだりも。母がよく思い出したように話してくれていました」

「俺たちのばーちゃんもよく言ってたよ。王子はこの国を良くするために出歩き、民衆の声を聞いては一緒に苦悩したり喜んだりしてくれたって」

「めちゃくちゃになったこの国の希望だって言ってました」

 王子の働き振りを実際にみたことのない生徒達も親たちからよく話を聞いていたようだ。

「この前王のお見送りで王子にお会いしましたけど、なんかよそよそしいって言うか。あの王子だったら急にいなくなって戻ってきたらみんなに顔を出して説明してくれると思うんです。でも極力人に会わないようにしているみたいで」

「あの黒づくめがいて近寄りがたいっていうのもあるけどね」

「なるほど。みなさんもあの王子は怪しいと」

「えぇ。しつれない話ですけど」

「いや、王子はずいぶん慕われていたようですね。これはちょっと頑張らなきゃいけませんねぇ。あのニセ王子を何とかしないと」

「どうするんですか?」

「今から王子の寝室に入るなんて無茶です。やはり明日の就任式でしょう。一応我々も招かれていますしね。この状況じゃ、『然』と『心』の生徒たちは参加できないでしょう」

「自分たちでどうにかしないとって事ですね」

「えぇ。これから作戦を考えましょう」

「あ、あの盛り上がってるとこ悪いんだけど」

「どうしました? オレン」

「もし、あの王子が本物だったらどうすんの?」

「そうですね。困ったことに僕は偉い方からずいぶん嫌われていますからね。まぁ僕がこの国から出て行くだけですよ」

「そ、そんな!」

「大丈夫です。僕を信じてください。もしものときはなんとかしますから」

「はぁ」

「そうだ、ソムニー。ルーメちゃんの様子を見てきてください」

「はいっ!」

 ソムニーは返事をすると奥へと消えていった。

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