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第10話 送

(500年前の星が再び――ですか)


 ルーメを『然』に送り届け、マグヌスにどやされながらも手紙を渡し『陰』に戻ってきたノワエ。まだまだ終わっていなかったお見送りの準備をようやく終え、今日の出来事を日誌に書き留めていた。


(500年前。全ての力を使う男がマナを奪い、人々を殺戮したようにまたあの悲劇が繰り返されると? それとも別の何かが?)

「師匠っ」

 ノワエが考えを巡らせているとノックと共に声が聞こえた。

「その声はソムニーですか?」

「はい。失礼します」

 なにやら神妙な面持ちでソムニーが部屋へ入ってきた。

「どうしたんですか? ルーメちゃんでしたら元気そうでしたが?」

「師匠、明日のお見送り。俺出ないとダメっすか?」

「どうしてですか?」

「王は俺たち家族をめちゃくちゃにした張本人だ。いくら王とはいえ俺……」

「王がソムニーの家族をめちゃくちゃにした? ルーメちゃんの話とは違いますね」

「あ、そのっそれは――――と、とにかく俺は王をちゃんと見送る自信がないんだ」

 ソムニーは何やら慌てた様子を見せる。それをごまかすように早口で捲くし立てた。

「――――まぁ、師匠の僕だけがサボるわけにもいきませんからねぇ」

「え?」

「君には寺院周辺の警備をお願いしましょう。最近魔物が出歩いてますしね。君と式神がいれば何かあってもすぐに対応できますし」

「はいっ! あ、ありがとうございます!」

 ノワエの言葉に引っかかるものがあったが、ソムニーはそう言うと深く頭を下げた。

「じゃあもう今日は休みなさい。一日中式神を使って疲れたでしょう。明日も式神を使うんですから」

「ではおやすみなさい」

 ソムニーが出ていくとノワエはふぅと息をつく。

「本当に彼には驚かされますよ。丸一日、自分も重労働をしながら式神を使ってまだまだ元気だなんて。それとも若さですかね。本人がその力に気づいていればもっといいんですが」

 ため息混じりに彼は呟いた。



 ――翌日。



 普段、人気ひとけのない『陰』の寺院は王族や貴族でごった返していた。本堂には綺麗に飾られた王の遺体。その側に一心不乱に経をあげる生徒達。そしてノワエは一番後ろでその様子を静かに見つめていた。

 粛々とお見送りは進んでいく――と。その時。なにやら音がした。

「ん?」

「今の音は?」

「君たちは経を読み続けてください。いいですか」

 戸惑う生徒達にノワエが言った。その言葉に生徒達は再び経を読み続ける。

「絶対に経をやめては駄目ですよ。死者が迷ってしまいますからね。何があっても続けてください」

「おい! 一体何が起きている!」

「そうだ! 音が大きくなってるじゃないか!」

 怒鳴りだす王の側近。その声を掻き消すように音が大きくなる。その音は王の遺体が収められている棺からしていた。

「お、王!?」

「――――ヤ――ゼ――」

 うめき声のような声が響く。

「――ン――ヤラン――」

「一体何が!?」

「どいてください!」

 ノワエが懐に手を入れかけだすと同時に、棺から何かが飛び出してきた。

「わああああああっ!?」

「お、王!?」

 棺から飛び出した王の姿をした黒い霧はすごい速さで飛んでいく。ノワエは懐から紙を取り出すと、飛びかかってきた霧の目の前に付き出した。

「イサン ハ ヤラン ゼッタイ ニ」

 霧は紙に動きを封じられ、苦しそうにうめく。

「いりませんよ! 人々から巻きあげたあぶく銭なんて!」

 ノワエは叫ぶ。そして力を込める。

「アンタはもう死んだんだ。金なんて必要ない! さぁ! 帰れ!」

「グアアアアアアアアアアアアアッ!」

 断末魔の悲鳴をあげ、霧は四散していった。


「お騒がせしましたね。ほら、経をやめては駄目だといったでしょう?」

「はっ、すみません師匠」

 あまりの事に生徒達は呆気にとられていたようだ。我に返った生徒達は経を読みはじめる。

「おい! 待て!」

 さっきまで立っていた場所に戻ろうとするノワエに一人が声をかけた。

「今のは何だ!」

「王の執着心が具現化したものです。相当お金に執着があったんですね」

「こんなの初めて見たぞ!?」

「そもそも何で師匠のお前が経をあげない!」

「そうだ!」

「よそ者の癖に!」

 次々に怒号が飛び交う。

「えぇ。ですからよそ者の僕が経を上げるより、未来を担う生徒達に経を呼んだほうがいいかと思いまして。僕がいると色々迷惑のようですね。失礼します。あ、経が終わったら塩で清めるのを忘れないで下さいよ」

「お、おい! 待て!」

 ノワエはそう言うと引き止める声を無視してさっさと外へ出ていってしまった。


「あ~あ。やっぱり一騒動起きちゃいましたね。王の執着は僕の想像以上だったと言うことですか」

 そう独りごちたノワエは本堂の入り口に貼っておいた札を乱暴に剥がす。前もってこうなる事を予測していたのだがあまり効果はなかったようだ。

 とりあえず、寺の周りに異常がないか確認する為に歩き出す。しばらく歩くと前から王子がやってきた。そういえば彼の姿を見ていなかったなとノワエは思った。

「こんにちは」

「どうも」

 笑顔で挨拶してきた王子。写真で見た姿がそのまま大きくなったようだった。ノワエは通り過ぎようとする彼に声をかけた。

「お父上のお見送りはいいんですか?」

「僕は送る資格はありません。勝手に外へ出て父上に迷惑をかけましたからね」

「何故急に外へ?」

「テロがあったのは知ってますね。怖くなったんですよ。死ぬのが。王族であるという理由で理不尽に殺されるのが嫌だったんです」

「では何で今頃戻ってきたんです?」

「僕はただ逃げただけじゃありません。旅をして力をつけました。そして心許せる側近もできました」

「側近? 彼のことですね」

 少し離れた場所にいる黒尽くめの男にノワエは視線を移した。テレビで見たときから怪しいと思っていた男。すでに滅んだといわれるしのびのような服装。露出している肌は目の部分だけ。見るからに怪しい男が城にいるのは何だか不自然だったのだ。

「そうです。旅の途中で彼に会いました。見た感じはあぁですがすごく頼りになる男です」

「よく城のものが彼を側近にすることを許可しましたね」

「最初は反対されました。でも彼のことをちゃんと説明したらみなさんわかってくれましたよ」

「そうですかっ!」

 ノワエは突然王子めがけて斬りかかった。キィンと刃と刃がぶつかる音が響く。側近の男が素早く動き、小太刀でノワエの刀を受け止めたのだ。

「なっ何を!?」

「側近の方の実力を見せていただきたかったんです。すみませんねぇ。ちゃんと寸止めするつもりでしたよ」

「それで私は側近として認められたのかな」

「まぁ、申し分ありませんよ」

 ノワエはそう言うと刀を納め、またどこかへと歩きだした。



(突然帰ってきた王子に黒尽くめの男。二人とも怪しいですね。一体何をするつもりなんだか)

 ふぅとノワエがため息をつくと、本堂からぞろぞろと人が出てきた。どうやら経が終わったらしい。彼を探してる王族や貴族がいたのですぐそばの部屋に音を立てず逃げ込んだ。




 こうして次の日はスブリミスの人間が、そしてマナの祝福として修行する生徒達、ヒューミリスの人間とやってきた。そしてルーメが最後にやってきた。こうして1週間ほどつづいた王のお見送りはようやく終わったのであった。


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